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INFORMATIONOct. 31, 2025日本 CDR 協議会設立総会及び記念イベント 開催報告

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開催概要

2025年9月11日(木)、三菱商事パークビルディングにて「日本CDR協議会設立総会及び記念イベント」を開催した。
本協議会は、CDR(Carbon Dioxide Removal:二酸化炭素除去)の取り組みを早期に加速させることを目的に、CDRに関わる幅広い関係者の連携と共創活動のためのプラットフォームとして正式に発足したものである。
設立総会時点の会員企業は61社であり、そのうち推進会員が6社、一般会員が55社である。
当日は、対面で総勢約130名、オンラインで約80名が参加し、盛会となった。

以下で各プログラムの内容を紹介する。

推進委員長挨拶

三菱商事株式会社 地球環境エネルギーグループ次世代エネルギー本部カーボンマネジメント部 澤村正部長

三菱商事株式会社澤村部長より、推進委員長としてCDRの社会実装に向けた展望と協議会への期待を込めた挨拶があった。

<サマリー>

会場およびオンラインで多数の方々に参加いただいたことに対し、感謝申し上げたい。

日本CDR協議会設立の目的は、世界的に進行する脱炭素の流れの中で、排出削減が困難な“hard-to-abate”領域における残存排出を解決する手段として、CDRの重要性を共有することにある。
日本においては、CDR市場はまだ初期段階にあり、今後の需要拡大に向けて市場の整備が急務であり、そのためには業界の垣根を越えた企業間の連携が不可欠である。
こうした背景を踏まえ、日本CDR協議会を通じて、会員企業の皆様と力を合わせてCDRの普及と加速を図り、最終的には脱炭素社会の実現に貢献していきたい。

(三菱商事株式会社地球環境エネルギーグループ次世代エネルギー本部カーボンマネジメント部 澤村正部長)

来賓挨拶

経済産業省イノベーション・環境局GXグループ脱炭素成長型経済構造移行投資促進課 清水淳太郎課長
環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室 加藤聖室長

来賓として出席した経済産業省清水課長および環境省加藤室長からご挨拶 を頂いた。

<サマリー>
経済産業省清水課長

日本としてはエネルギー安全保障を確保しつつ、国内投資と脱炭素の両立を図るGXの推進が必要である。また、企業レベルでは国際的にサプライチェーン全体での脱炭素化が進められている中で、日本においても同様の取り組みが求められている。CDR技術については、技術の進展により現実味を帯びてきており、今後はCO₂の「価値」をどのように見せていくかというストーリーの構築が重要である。日本は地理的な制約がある一方で、工学的な技術力を活かして国際競争に挑む強みがあり、官民および業界全体で連携しながら、サプライチェーンの構築とビジネスの創出を進めていく必要がある。

(経済産業省イノベーション・環境局GXグループ脱炭素成長型経済構造移行投資促進課 清水淳太郎課長)

<サマリー>
環境省加藤室長

国際的な動向としては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第7次評価報告書(AR7)が2029年末を目途に発表される予定であり、1.5℃目標の堅持に向けて、CDRの重要性および受容性が今後さらに高まっていくだろう。先進的な企業では、2040年のカーボンニュートラル、2050年のカーボンネガティブ・クライメイトポジティブを目指す動きも出てきており、これら企業を中心にCDRの需要は年々増加していくのではないかと考えている。IPCCではAR7発表の前に「二酸化炭素除去(CDR)技術・炭素回収利用及び貯留(CCUS)に関する方法論報告書」が発表される予定であり、環境省ではAR7や同報告書の内容も踏まえて、国連への温室効果ガス排出・吸収の報告(GHGインベントリ)に関する方法論を段階的に整備していく予定である。その際には、多くの民間企業が参画している日本CDR協議会からのご意見も伺い、より良いものにしていきたい。その後、他省庁とも連携しながらJ-クレジット・JCMの仕組みづくりも着実に進めていきたい。

(環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室 加藤聖室長)

話題提供
「CDRクレジットに関する潮流」

株式会社三菱総合研究所 政策・経済センター 
政策研究グループ研究提言チーフ(エネルギー・環境) 野本 哲也

三菱総合研究所 政策・経済センターの野本研究提言チーフ(エネルギー・環境)より「CDRクレジットに関する潮流」として、CDRに関する基本的な情報から技術・政策のトレンドについて話題提供を行った。

<サマリー>

最近ではコンプライアンス目的でのカーボン・クレジットの利用が増えており、2024年には全体の約4分の1を占めるようになっている。その中でCDRクレジットは“hard-to-abate”と呼ばれる電化が難しい部門への適用が期待されており、先行的に調達する企業の一社としてMicrosoftが存在する。
CDRには様々な手法が存在しているが、質の高いクレジットが健全な市場発展に直結すると考えられており、そのためにはICVCMのクレジット品質基準の存在や、それら基準を企業が実際に活用していくことが重要な要素となる。
特にテック系のCDRは技術が未成熟であり、プロジェクトが長期的かつ不確実性が高いことから、AMC(Advance Market Commitment)や、各種リスクを低減する方法として相対取引ではなくバイヤーズクラブやファンドのような購買アプローチも存在する。
CDRの市場形成においては、政策、投資、協働が重要な要素であり、政策・制度設計による長期的な需要見通しの確保、民間企業による調達の後押しにより、結果として長期にわたるCDRスタートアップの支援につなげていくことが重要である。またこれらの基盤的な活動として関係団体との連携や、国内外の情報発信の場として日本CDR協議会が機能していくことが期待される。

(株式会社三菱総合研究所 政策・経済センター政策研究グループ 野本哲也研究提言チーフ(エネルギー・環境))

対談セッション
「サステナビリティ戦略におけるCDRの役割:オフテイカーの視点から」

Spencer Low, Head of Regional Sustainability, APAC, Google
Genevieve Ding, Executive Director, Head of APAC Sustainability, JPMorgan Chase

「サステナビリティ戦略におけるCDRの役割」をテーマに、CDRクレジットのオフテイクに関する議論が行われた。グローバルにおいて調達・購買をリードするGoogleのSpencer氏およびJP Morgan ChaseのGenevieve氏を招き、各社におけるCDRの位置づけや戦略、これまでの調達・購買活動を通じて得られた知見や学びについて話を伺った。

<サマリー>
Spencer Low, Google

私たちは2030年にScope1~3の排出量を2019年比で50%削減することを目指しており、その一環で様々なCDRプロジェクトに出資している。調達のアプローチとしては事前購買契約(AMC:Advance Market Commitment)で、バイヤーズ連合を通じて行っている。2022年にはテック系CDRのバイヤーズ連合としてFrontier CoalitionをShopifyやStripeと共に設立し、2024年にはネイチャー系CDRのバイヤーズ連合としてSymbiosis CoalitionをMicrosoftやMetaと共に設立している。
バイヤーズ連合の設立は市場に需要シグナルを打ち出すことにもつながり、CDR供給側のスタートアップの技術革新やコスト低減に貢献できるものと考えている。また、複数のオフテイカーが集まることで、需要家にとってのレピュテーションリスクやデリバリーリスクの緩和にも繋がると考えている。最近ではバイヤーズ連合に政府が加わるパターンも英国やシンガポール、ケニアで出てきていることも特徴である。また、実際の調達を通じてCDRクレジットの調達において重要なのはポートフォリオとコベネフィット、そしてPermanency(永続性)の観点であると考える。日本CDR協議会には質の高いCDRクレジットの普及に貢献していただきたい。

(Spencer Low, Head of Regional Sustainability, APAC, Google )

<サマリー>
Genevieve Ding, JPMorgan Chase

私たちは2030年までに80万トンの二酸化炭素を大気中から除去することをコミットメントとして発表しており、ネイチャー系からテック系まで幅広い調達ポートフォリオを有している。
また、単に調達・購買するのみならず、複数年にわたりデリバーされるプロジェクトの中では、定期的なMTGでの進捗確認とともに、グローバルな市場動向・技術動向・政策動向等からきめ細やかにリスク管理・評価をしていくことが重要である。
バイヤーズ連合の設置等、バイヤーのコミットメントの表明が重要であるとともに、政府が絡むスキーム・枠組みも重要なポイントとなる。日本CDR協議会はこのような官民連携の橋渡しの役割を果たせるのではないかと考えている。

(Genevieve Ding, Executive Director, Head of APAC Sustainability, JPMorgan Chase)

パネルディスカッション
「CDRの取り組みの加速化に向けて」

パネリスト

商船三井 エネルギー事業本部 カーボンソリューション事業群 カーボンソリューション事業開発ユニット 藤橋大輔 ユニット長
住友商事 CCUS地下エネルギー事業ユニット米州チーム兼CDR統括チーム 高橋淳也 チーム長
東京海上日動火災保険 マーケット戦略部GX室 柴田智文 ユニットリーダー
日本郵船 脱炭素グループ 脱炭素推進チーム 茂住洋平 課長代理
三菱総合研究所 エネルギー・サステナビリティ事業本部 海外事業推進グループ 山口建一郎 参与

ファシリテーター

三菱総合研究所 小島浩司 客員研究員

パネルディスカッションでは、「CDRの取り組みの加速化に向けて」をテーマに、CDRに取り組むことの重要性・役割・意義、市場形成に向けた課題認識、日本CDR協議会への期待について議論が行われた。

<CDRに取り組む重要性・役割・意義について>

商船三井 藤橋ユニット長:ネットゼロ目標年としている2050年時点でも一定の残存排出が見込まれることから、CDRを活用してネットゼロ達成したいと考えている。またCDRを単なるネットゼロ達成のための購買活動にとどめず、新規事業創出や海運事業の競争力強化に資する企業価値向上のための投資と位置付け、クレジット創出する様々な事業に関与している。

日本郵船 茂住課長代理:残余排出への対策として、現状はCDRしか選択肢がないと考えており、今からCDRの技術を使って中和する準備をしている。また、国際海運では削減に向けてのルールが導入されようとしている中で、その先の残余排出をどうするかの議論は始まっていない。そのため、ネットゼロを達成するための規制に向けたモメンタムづくり・仲間づくりをしていく、それが市場形成につながると考えている。

住友商事 高橋チーム長:昨今様々なアプローチで排出削減の活動がなされているが、必ずしも計画通りに実行できてはおらず、脱炭素の大きなトレンドが変わらない前提で考えれば、残余排出のための炭素除去は今後益々注目されるべきである。この段階から事業に積極的に入ることにより、競争力と永続性のあるCDRクレジットをつくることが市場の形成につながる。

東京海上日動火災保険 柴田ユニットリーダー:CDRは日本の企業の強みが生かせる分野であることに期待している。ルールメイクと時間が大きな課題と認識。魅力ある分野であるがゆえに、国際的にルールメイクに関与する動きがし烈になりつつあり、国内需要を背景にした国際的なプレゼンス強化が重要となる。その際に、最も重要な戦略的な資源は時間である。残されている時間は多くはないため、取り組みを早めていく必要がある。

三菱総合研究所 山口参与:CDRは気候科学の要請に基づく対策であり、CDRなくして現在提唱されている気候目標は達成できない。CDRのプロジェクトはリードタイムが長いこと、コストがかかること、意見対立もあり算定方法がなかなか進まないことが課題であり、民間としてその解決策をアピールすることが重要である。

<日本CDR協議会への期待についてのコメント>

商船三井 藤橋ユニット長:CDRを盛り上げる企業連合体として日本の政策・制度を動かしていくこと、国際的な制度づくりにおいて影響力をもつことに期待したい。また、将来的にはバイヤーズクラブのような形で、CDRの市場形成を推進することにも期待。

日本郵船 茂住課長代理:日本国内でのCDRクレジットに関する認知度・知識の底上げを行う。また、本協議会を通してDurableなCDRクレジットのスタンダードをつくること、そのスタンダードを国の政策に働きかけ、世界に訴えかけていきたい。

住友商事 高橋チーム長:日本での脱炭素のための市場をつくることが一番の目的であり、そのための役割として、海外との橋渡し、企業の有する技術・知見を実際の事業に生かしていく橋渡し、政府との橋渡しを果たしていきたい。CDRの市場が健全に育つためには予見性が重要であり、協議会を通じロードマップを政府関係者と議論していきたい。

東京海上日動火災保険 柴田ユニットリーダー:予見可能性がビジネスの基礎であり、そのための需要創出に向けた提言に期待している。黎明期のビジネスにおいて、課題を見える化していく意見交換の場は貴重。その中で、関係者が自らでマネージできるリスク、ファイナンシャルにヘッジできるリスクを見極めていき、その上で、民間が取り切れないリスクについて制度的なケアも含めた提言がなされていくことを期待したい。

三菱総合研究所 山口参与:CDR協議会の「CDR」について、パリ協定の長期目標でもCDRの推進が必要なことは認識されており、先般の第6条4項での算定手法に関するパブリックコメントに対しても多くの意見が寄せられ、高い関心がうかがえる。「協議会」については、国際的な議論において、日本からの意見を出す際に役割を担うため、また日本企業の持つ有効なソリューション(革新的な技術のみならず、保険などのソフト的なものを含め)を見出すためにも関心と知見を持つ多方面のステークホルダーの参加が望ましい。そのための今求められている組織と認識している。

最後に、ファシリテーターを務めた三菱総合研究所の小島客員研究員よりラップアップがあった。小島氏は、日本CDR協議会が、CDRの需要・供給・流通・関連サービスに関わる多様な企業が一堂に会する、極めてユニークかつ意義深い組織であることを強調した。
また、推進会員と一般会員が一体となり、日本からCDRの取り組みを加速させていきたいという強い意志が示された。本日はそのキックオフの場であり、今後は参加企業からの意見や要望を丁寧に伺いながら、協議会としての活動をさらに広げ、深化させていきたいと締めくくった。

イベント終了後には、会場参加者による交流の時間が設けられた。参加者同士が名刺を交換しながら、それぞれの取り組みや課題について意見を交わす様子が見られた。業種を超えた対話が生まれ、今後の連携に向けた有意義な機会となった。

(商船三井 エネルギー事業本部 カーボンソリューション事業群 カーボンソリューション事業開発ユニット 藤橋大輔 ユニット長)
(日本郵船 脱炭素グループ 脱炭素推進チーム 茂住洋平 課長代理)
(住友商事 CCUS地下エネルギー事業ユニット米州チーム兼CDR統括チーム 高橋淳也 チーム長)
(東京海上日動火災保険 マーケット戦略部GX室 柴田智文 ユニットリーダー)
(三菱総合研究所 エネルギー・サステナビリティ事業本部 海外事業推進グループ 山口建一郎 参与)
(ファシリテーター:三菱総合研究所 小島浩司 客員研究員)


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