株式会社三菱総合研究所

未来共創プロジェクトAugust 04, 2022第4回プラチナキャリア・アワード 記念シンポジウム 報告

人生100年時代、働く期間が長くなる中で、年齢によらず自律的な学び・経験を通じてスキルを磨き、そこで得られたスキルを存分に活かして所属する企業や社会に貢献していく生涯のイメージを”プラチナキャリア”と呼んでいます。今回で4回目となったプラチナキャリア・アワードは、こうしたキャリア構築を支援する企業を選定・表彰するものです。(企画:ICF、三菱UFJ信託銀行 協力:東洋経済新報社)
今回は最優秀賞1社、優秀賞6社を選出し表彰するとともに、これを記念してシンポジウムを開催しました。シンポジウムでは、急速に進む多様な働き方をどのように捉えるべきか、企業側・働く側の両面から考えてみました。企業側は、多様な働き方につながる環境整備や制度改定を進めるとともに、いかに組織の活力や成果に結びつけていけばよいのか? 一方、働く側(働き手)は、新たなスタイルの働き方を通じて、継続的な学びやキャリア形成をどうやって実現していくべきなのか? こうした動きは、まだ緒に就いたばかりですが、次のステップにつながる多くのご意見、ご示唆を頂くことができました。
以下本稿では、記念シンポジウムの概要をご報告いたします。
なお、プラチナキャリア・アワードの詳細は下記サイトをご参照ください。
https://platinumcareer.mri.co.jp/

1.開催概要

▼日程
2022年6月17日(金)15時00分~17時15分

プログラム

15:00開会挨拶
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ(ICF)事務局長 須崎 彩斗
後援者挨拶
厚生労働省 キャリア形成支援室 室長 國分 一行 氏
株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員 小沼 泰之 氏
15:05基調講演:日本をプラチナ社会に
プラチナキャリア・アワード審査員長
三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏
15:25アワード結果発表
プラチナキャリア・アワード事務局
15:40最優秀賞受賞企業講演:『2030年「事業と人材を創造し続ける総合商社」』を目指す双日の人づくりについて
双日株式会社 人事部 部長 岡田 勝紀 氏
15:55休憩
16:00記念講演:これからのキャリア形成
東京大学大学院経済学研究科教授  柳川 範之 氏
16:20関連取り組み報告:プラチナキャリア・インデックスのご紹介
三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部インデックス戦略運用室 小西 健史 氏
16:30パネルディスカッション:「人への投資」をどう行うか
〈パネリスト〉
・株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 佐々木 かをり 氏
・デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐 佐藤 昌宏 氏
・オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表
 社会保険労務士・キャリアコンサルタント 諸星 裕美 氏
・三菱UFJ信託銀行株式会社 経営企画部 星 治 氏
17:15閉会

2.シンポジウムの内容

▼主催者挨拶

開会に先立ち、主催者を代表して三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ(ICF)事務局長 須崎彩斗より「昨今、人的資本経営の必要性や国の骨太方針、新しい資本主義の議論のなかでも人への投資の必要性について盛んに言及されている。これは、今後、日本が新しい価値を生み出していくためには、人材こそが重要であるというメッセージに他ならない。プラチナキャリアの実現は、人材育成の方向性の一つを示していると考えている」と挨拶を行いました。

▼後援者挨拶

厚生労働省 キャリア形成支援室 室長 國分 一行 氏
株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員 小沼 泰之 氏

厚生労働省の國分一行氏は「コロナ禍の影響が落ち着きを見せ、本格的な成長過程を取り戻しつつあるなかで、自律的・主体的・継続的な学びや学び直しを促進し、個々人の専門能力を向上させ、ブレないキャリアの軸を作る必要がある。厚労省では現在、職場労使向けの学び・学び直しのガイドライン策定に取り組んでいる。プラチナキャリアの考え方は、厚労省の取り組みと共通する。引き続き、人材開発に関する皆様のご理解、ご協力をお願いしたい」と呼びかけました。
東京証券取引所の小沼泰之氏は「日本人の働く期間の長期化にともない、働く機会を有効に活用する企業の取り組みがますます重要になっている。コーポレートガバナンス・コードでは、中長期的、継続的な企業の価値向上の観点から、人的資本への投資についても情報開示を求めるようになった。今回、受賞された企業には、先進的な取り組みで今後の日本社会を牽引する役割を担っていただくよう期待したい」と述べられました。

厚生労働省 キャリア形成支援室 室長
國分 一行 氏
株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員
小沼 泰之 氏

▼基調講演:日本をプラチナ社会に
審査委員長 株式会社三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏

小宮山審査委員長は、まず、人類史の転換期である現代は「①地球は有限(20世紀までは「無限」ととらえるのが主流だった)」、「②人類の長寿化」、「③知識の爆発的増加(オープンイノベーションのメリット)」この3つがキーワードである。そのなかで必要となるビジョンが「プラチナ社会」=「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする社会」であると定義。少子・高齢化、脱炭素社会・循環型社会の実現、地域の衰退など、日本が抱える多くの課題に対し、スピード感をもってビジネスを作ることにより解決を図り、社会・産業構造の移行を加速する必要があると指摘しました。
また、森林バイオマスに注目した脱炭素の取り組みを例に挙げ、個々が別々に取り組むのではなく、同じ課題を持つ地域・企業の連携が重要だと説きました。そして、新ビジネス創生に取り組む「主体である人財」養成の必要性について、「教育は2050年には最大の産業になっていることだろう。子供からシニアまで一緒に学び合い、共に成長する社会(コンセプトは「誰が生徒か先生か」を実践する“めだかの学校”)を作ろう」と呼びかけました。最後に「“Mutual Growth by Lifelong Active Learning”(生まれてから死ぬまで、アクティブラーニングによる相互成長)この言葉こそ、プラチナキャリアのキーワードではないか。これを実践しようとする社員への支援を、企業の社会的責任の一つに加えてほしい」と提言しました。

審査委員長 株式会社三菱総合研究所 理事長
小宮山 宏

▼最優秀賞受賞企業講演:『2030年「事業と人材を創造し続ける総合商社」』を目指す双日の人づくりについて
双日株式会社 人事部 部長 岡田 勝紀 氏

双日株式会社は、2004年にニチメン、日商岩井が統合して発足。ルーツをたどると150年以上にわたり、多くの国と地域の発展をサポートしてきました。岡田氏より「双日の人づくり」と具体的な取り組み、これからの目指す姿についてお話しいただきました。
まず「双日の人づくり」について。2030年の目指す姿を「事業や人材を創造し続ける総合商社」としており、マーケットニーズや社会課題に応えて事業をつくる主体である「人材」の育成に力を入れている。具体的には、「事業経営できる力」「発想・起業できる力」「巻込み・やり切る力」を持った人材の輩出を実現するため、1. 多様性を「活かす」(例:女性社員に多様な経験機会を提案)、2. 挑戦を「促す」(例:新規事業創出プロジェクト「Hassojitz」、ジョブ型雇用の新会社「双日プロフェッショナルシェア」設立)、3. 成長を「実感できる」(例:ジョブ・ローテーション制度)、の3つの仕組みを人材施策の柱にし「多様性と自律性を備える『個』の集団を作り上げていく」と説明されました。
また、「双日らしさ」であり、双日の風土・文化である「多様性」「挑戦」「起業家精神」を大切にし、双日の魅力にしていきたいと考えているとお話がありました。
これからの目指す姿については「多様な価値観やキャリア志向を持つすべての双日パーソンが、挑戦・成長を積み重ねることで、高いモチベーションを維持しながら自律的に働き続けられる環境を整えていく」と説明され、副業・兼業を可能とするジョブ型雇用の新会社「双日プロフェッショナル」を設立したこと、独立・起業支援制度、双日出身のOB・OGとのつながりによって形成されるビジネスネットワークを基盤とした「双日アルムナイ」の設立などを例に挙げ、「“緩やかな双日グループ”のなかで新しい事業と人をつくり、価値を創造していきたい」と締めくくりました。

双日株式会社 人事部 部長
岡田 勝紀 氏

▼記念講演:これからのキャリア形成
東京大学大学院経済学研究科 教授  柳川 範之 氏

今の世の中の動きを踏まえ、これからのキャリア形成を考えるにあたり、主に企業側が留意すべきポイントをお話しいただきました。
まず、世の中の動きとして「オンライン活用により、時間と場所にとらわれない自由度の高い働き方が可能になったと多くの人が実感した」こと、およびオンライン活用による「働き方の構造変化(細切れの時間を有効に使うことや一度に複数の仕事が可能になった、など)」を挙げ、「この変化をどういう形で企業の活力に結びつけていくかが重要であり、人々がしっかり働きつつ、充実した生活をいかにして実現するか、ウェルビーイングの改善につなげるかが本質的な課題である」と示されました。続いて「“企業の”生産性をあげるために多様な働き方や人材投資が必要なのではなく、一人ひとりの充実した生活の実現が第一。その一助として、生産性向上がある」と指摘し、「“個人の”付加価値生産性を上げる、よりよい生活実現にために人的資本について考える、といった『企業の枠を超えた発想』が重要だ」と説きました。また、なぜ、企業は個人について考えねばならないのかといえば、「人手不足の現代、優れた人材の確保が企業にとって深刻な課題になる」ためだとし、「人をひきつけるために必要なことは、『この会社で働きたい』と思わせる環境であり、自分が必要とされている実感や充実感のある職場環境、能力開発、教育を企業が積極的に提供する重要性」を強調されました。
最後に、価値創造人材の創出について「できるだけ多様な経験を積ませること」、「比較的長く休む機会を与えることもウェルビーイングを高めるために有効」などの重要ポイントを挙げられました。また、「現代のイノベーションは、多様な知恵や情報を持った人々の集まりから生まれることからすると、『企業の枠を超えた広い意味でのキャリア形成、ネットワークづくりも価値創造人材を生み出すことにつながる』という視点を企業が持つことが大事。若い世代もシニア世代も新しい価値観(単にお金のためではなく、社会に役立つ仕事がしたい、など)を持つ人が増えてきている。こうした流れを会社のなかで形にして、社会課題解決をビジネスに結びつける意識の高い人材を育てていくことを重要な視点としてお考えいただきたい」と期待を寄せられました。

東京大学大学院 経済学研究科 教授
柳川 範之 氏

▼関連取り組み報告:プラチナキャリア・インデックスのご紹介
三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部インデックス戦略運用室 小西 健史 氏

三菱 UFJ 信託銀行は、幅広い資産運用ニーズに応えるために各種商品開発を行っています。
今般開発された「iSTOXX MUTB Japan プラチナキャリア 150 インデックス」(以下、本インデックス)について、ご紹介いただきました。
「本インデックスは、プラチナキャリアの理念を満たす従業員のキャリア構築に積極的に取り組む企業(150社)で構成されている。本インデックスへの投資を通じて、プラチナキャリアの理念浸透を促し、また、将来の日本が抱える課題解決を目指す『SDGsインデックス』として、SDGsへの貢献をめざす取り組みでもある」と解説され、「本インデックスに採用された企業の皆様は、対外的なアピールに利用していただきたい。投資家の皆様は、本インデックスに投資することを対外公表し、社会課題の重要性を浸透させていただきたい」と呼びかけました。

三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部インデックス戦略運用室
小西 健史 氏

▼パネルディスカッション:人への投資をどう行うか

〈パネリスト〉株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 佐々木 かをり 氏
デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐 佐藤 昌宏 氏
オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表
社会保険労務士・キャリアコンサルタント 諸星 裕美 氏
三菱UFJ信託銀行株式会社 経営企画部 星 治 氏
〈モデレータ〉プラチナキャリア・アワード事務局 
三菱総合研究所 未来共創本部 主席研究員 高橋 寿夫

○人への投資の必要性について
パネルディスカッションに先立ち、モデレータから「第4回審査の振り返りとともに、政府の新しい資本主義、骨太方針でいわれている『人への投資』の必要性について、企業と個人は何をすべきなのか議論していきたい」と問題提起しました。
まず、本アワード企画に携わる星治氏より、第4回審査委員会における評価ポイントは大きく分けて4点「1. 企業トップが人材についてリーダーシップをとって育成を実践しているか、2. データサイエンスやAIなどDX人材育成を進めているか、3. スキルに応じて、適材が適所で活躍できるのか、4. 自律的な働き方を実践できるのか、に着目した」と報告がありました。
デジタルテクノロジーを活用した教育イノベーショ研究・実践に取り組んでいる佐藤昌宏氏は「不確実性ある世の中でも止まることのない中長期の技術進化、働き方の変化を人材育成ビジョンに含めているかを重視し審査を行った。DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)の導入などテクノロジーが組織に与える影響を考えると、大企業は自社が持つ古いインセンティブに固執せず、コミュニティ重視の企業であってほしい。社員一人ひとりに合ったマネジメントとして『信頼』をキーワードに実践していただきたい」と述べられました。
続いて、諸星裕美氏は「社会保険労務士として現場を歩き雇用環境の変化を感じているなか、今回の審査では、企業が『時代の変化に柔軟に対応できているか』に重点を置いた。社内制度などを変えようとする時、大企業には稟議など難しいステップがあり時間がかかるなかで、今回の受賞企業はきっちり対応できている、柔軟さがある点が高評価につながった」と振り返りました。
日本における女性活躍、ダイバーシティ推進の第一人者である佐々木かをり氏は「人的資本について、どの企業も真剣に、また独自性豊かに取り組んでいる。各社のどの取り組みに魅力を感じるか、審査ポイントを絞ることが大変難しかった。そのなかで、上辺だけでなく『本質的』に一人ひとりにとって役立つ施策が実践できているかを最重視した。『人への投資』については、個が力を出し、その多様な知恵を生かしたマネジメントができる企業になっていくことが重要だと考えている。多様な価値観の中で考え、学ぶ『ダイバーシティ経営』が大切なキーワード」と説明されました。星氏からは「これからの時代、会社が社員に『学び(主に座学)を与える』だけではなく、副業・兼業などの『体験から得られる学び』もあると認識し、何を学ぶかの選択は社員に任せることが必要ではないか」と意見が出されました。
以上の議論を受けて、モデレータが「企業側は柔軟性を持ち、多様な個人を尊重してほしい。その姿勢・観点を持つ企業が個人をひきつける、魅力のある企業だという思いが皆さん共通の主旨だと理解した。では、働き手としては、どんなことを考えていけばよいか」と問いかけました。

○働き手として何を考える必要があるか
この問いかけに対して、「日本では40~50代の労働人口が多く、その世代が自律的に学び、活躍することが重要。その活躍が企業価値向上に直結し、日本社会全体の付加価値創造の推進力になると思われる。働く期間が65歳、70歳までと伸びるなかで、中堅世代に対する施策を率先して実施すれば、企業の社会的評価を高めることにもつながるのでは」(星氏)、「世の中のデジタル化がますます普及していくと、自立した個人、プロフェッショナルの集まりが活躍し、成果を発揮する社会になると予測している。先に説明したように企業には『信頼』が求められ、個人はその信頼に応える『自律』が求められる。自律した個人になるための学びをどう進めていくか考えるべき」(佐藤氏)、「年功序列で安泰だった時代と比べて、個人にとって厳しい時代だと思っている。一人ひとりが組織・社会に貢献する意識を持って、役に立つ人であり続けようという意識が必要になる。一方、女性の労働に目を向けると、日本では多くの女性が非正規で働いているが、非正規で働いている女性の貢献度が正しく評価されていない問題点がある。自由な働き方を推奨し、実践していくならば、働くすべて人の評価が正しくできているのかを会社は再度点検し考えねばならない。女性に対するイクイティ(公平)の視点を加えて、働く人たちを公平に評価する企業にはイノベーションがおこると思う」(佐々木氏)、「中小企業では社員教育に資金を投じる余裕がないケースも多い。しかし、時代の変化を感じ取って、大企業のみならず中小企業も人への投資の必要性を再認識して実行してほしい」(諸星氏)といった意見が出されました。

○最後に
最後に、各パネリストの今後の展望として、「ダイバーシティ経営は、企業を成長させる。その柱は『プラチナキャリアへの取り組みのなかで培われる一人ひとりの貢献』によるものだと考えている」(佐々木氏)、「企業側は苦労してさまざまな施策をつくっている。所属する社員は感謝の心を持ってほしい。また、中小企業は大企業のノウハウを必要としていることを念頭に置き、大企業はさまざまな取り組みを今後も進めてほしい」(諸星氏)、「技術の変化が早いだけに、その変化に制度が追いついていないケースが見られる。中長期の視点をどこに合わせているかがギャップをつくらないポイントだと思う。企業は変化に対応できるよう『遠くを見る目』を大事にしてほしい」(佐藤氏)、「人的投資の情報開示を広げようという動きがあるが、開示すること自体が目的ではなく、一人ひとりがいかに学び、活躍するかがポイント。今後も皆様と『人への投資』の効果などについて意見交換をしていきたい」(星氏)と多くの期待が出されました。
最後にモデレータが「変化が激しい世の中で、働き手の一人ひとりがどう考え、実行するか。企業はそれをどうサポートしていくのか。この相互作用が企業の魅力を高めることにつながるのではないか」と締めくくり、本シンポジウムの終了となりました。

パネルディスカッションの様子

表彰企業

≪最優秀賞≫ 双日株式会社
<優秀賞> カゴメ株式会社、サッポロホールディングス株式会社、シスメックス株式会社、株式会社ベネッセホールディングス、ユニ・チャーム株式会社、株式会社LIXIL(企業名五十音順)

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