記念講演:やりたかったことを見つける -アートシンキング~ビジネス
東京藝術大学 理事・副学長(研究担当) 美術学部デザイン科 第5研究室(Design Place) 教授
清水 泰博 氏
「アートシンキング」が、なぜ今、求められているか
アートシンキングは、「アーティストの『オリジナル』はどのように生まれるのか」のプロセスをベースとした考え方。物事を論理的に考えれば同じような結果に行き着きがちになるため、論理的思考では辿り着けないオリジナルなものを求める期待感から、オリジナルが生まれるプロセスに関心が集まっているのではないか。
ビジネスでアートシンキングを実践
アートシンキングの実践にあたっては、「感覚的、感性的に考えること」「自分の直感を重視すること」が重要だ。ビジネスにおいて否定されがちな「勘」を、私はその人の総合判断であると捉えている。アーティストによくある「論理的には説明できないが、何となくこの作品(結論)になった。作品を見ればすべてわかる」という主張は、その人とっては正しいと解釈できるため、私は否定しない。一方、ビジネスでは「私の勘です」だけでは説得出来ない。そこで学生には、作品完成後に自分の作ったものの価値を探すプロセスを課すことがある。これは「デザイン・リフレクション」と呼ばれる方法である。ビジネスにおけるアートシンキングとは「自分の表現(アート)活動を通して、皆さんが自分達の仕事の変革を試みること」だと考えている。
アートシンキングと「子供の頃に好きだった遊び」
藝大の授業で行っている創作活動によるアートシンキングは、創作のプロセスである「対象を徹底的に観察して描いてみる」「対比する」「何かを組み合わせる」「手を動かしながら考えてみる(頭での考えは後からついてくる)」「何かに見立てる」「作文を書いて朗読し、対話してみる」といった方法で「自分の表現したい何かを探し、妄想すること」を重要としている。頭で考えるだけでなく、創作者から湧き出てくる感覚的なものをすべてすくい取りたい。このような「感覚的・感性的に考えることを、ビジネスにおいてどう実践するか?」と問われると、ひとつの方法として、自分が「子供の頃に好きだった遊び」を振り返ってみるとよいと推奨している。遊びは大事だと思っており、「遊びから文化が生まれた」という考え方もある。ビジネスシーンで行ったことの一例をあげると、建築は専門外の人が、業務の一環で自社の研修施設の設計を考えてみようという時に「どんな遊び場(研修所)を造ったら、楽しいだろうか」と発想を変えてみるワークショップを行った。子供の時に好きだった遊び場を思い出せば、子供の時の発想のままで建築を考えられるのではないか。子供の頃の遊びは、自分が好きなことをしていたはず。それを思い出し、何を好きだと感じていたか(裸足で感じるひんやり感が好きだった、狭い空間にいると安心したなど)を思い出し、積み木遊びをするように表現してみると、忘れてしまっている自分の個性や、実は得意なことが見つかり、さらに、自分はこれがやりたいという思いがクリアになるかもしれない。
アートシンキングとビジネスをつなげるために
アートシンキングとビジネスをつなげるためには、職種によって内容は異なるが、自分を取り巻く様々な「業務を利用する」のがいいと思う。専門家にお任せしたいケースであっても、アートシンキングで「自分ごと」としてアイデアを出すなど、様々な業務を利用してアートシンキングを実践してみてほしい。自分達が望むものを創る機会があれば、専門外だからと諦めずに「自分ごと」として取り組むことで、それが良い研修・学びになる。アートシンキングの実践によって、自分は何がしたいのか、何をほしいと思っているのか見つかるはずである。