4月22日に2024年度ICF総会を開催し、会場とオンラインを合わせて約170名の方にご参加いただきました。誠にありがとうございました。
今年度、社会課題研究のなかで未来アジェンダを取り上げる予定であり、これに関連して、冒頭の基調講演では「SF(サイエンス・フィクション)から見た未来の社会課題」について話題提供いただきました。続いてICF事務局より、今年度の活動・全体方針「3つ(社会課題起点・事業共創活動・コミュニティ活動)のアップグレード」をご説明しました。会員ピッチでは、8つの企業・団体の会員の皆様から今年度の共創テーマに関連した事業のご紹介と、ICF活動への期待などをお話しいただきました。
基調講演
慶應義塾大学 サイエンスフィクション研究開発・実装センター所長(兼 理工学部管理工学科 准教授)の大澤博隆氏より「SF(サイエンス・フィクション)から見た未来の社会課題~AIと人との関係を中心に~」と題して基調講演をいただきました。
-イノベーションの源泉としてのSF
フィクション、特にSFは社会に大きな影響を与えている。宇宙開発、ロボット、メタバースなどはSFから影響を受けた代表的なもの。
-「SFプロトタイピング」とその効用
SFを通じて未来を描き(プロトタイプし)、そこからのバックキャスト(現在に向けてさかのぼる)で現在すべき事や戦略を思考する、イノベーションの突破口を開く手法が「SFプロトタイピング」。
効用として、遠い未来を仮定することで近い未来のビジョンを発想しやすくなる、価値観の変化を想定しやすくなる(SFではない未来予測は、人々の価値観が変わることを想定しづらい)、社会的圧力に強い(フィクションであるがゆえに言いたいことが言える、意見を集めやすい)ということがわかってきた。単純な未来予測というより、可能性をいろいろと検討する時に役に立つのがSFだと捉えている。
-社会実装としてのSFプロトタイピング実施
SFプロトタイピングと従来型のシナリオを用いたアイデア創発手法で未来ビジョンを作成し、2つを比較したワークショップ事例では「SF手法で得られたビジョンは、より挑発的で楽しいが、一方でリアリティには乏しい」という評価が出た。しかし、ビジネスには挑発性、楽しさ、新規性、直感性などが必要であり、挑発的で楽しいことはメリットといえる。また、SFプロトタイピングで作られた作品は、同じ作家が別の手法で作った作品と比較して、読者の未来社会に対する意識への促進効果が確認されている。
-SFから見た未来の社会課題(AIと人の関係)
SFに登場する「未来のAI」を大きく分けると人間型、バディ型、機械型、インフラ型に4分類できる。人間型や機械型エージェント(代理として働くもの)は物語のモチーフとして面白いが、ステレオタイプなAI像を、新たな社会像に単純に当てはめて良いかは注意が必要。「人間と協調するエージェント」のバディ型、インフラ型には、AIと共存する人間の知能拡張などの可能性があると考えている。これらを扱った既存SF作品のなかには、現在では未だ着目されていないもの、イノベーションのヒントになるものが存在するのではと思う。
一方、AIと人の関係におけるリスクについて、「破局的AIのリスクの分析」(AI(LLM)がSF小説に登場するAIを評価)では、「SFのAIは10段階中8レベル(最頻値)のリスク、危ない」という評価が出た。SF小説ではトラブルが起きたほうが面白いので、当然の結果といえる。「高リスクAI」は、国家主体が開発し使える資源が大きい、AIが人類と戦う、人類がAIに依存する、AIの自律性が高く暴走するケースなど。なお、「低リスクAI」は示唆に富んでいる。活動目的・場所が限定的である、汎用的でも社会的によい目標を目指しているケースはリスクが低いとされた。
-AIとの共生社会に備える
AIも物語を書くことはできるが、人間が人間のために物語を書く役割は人間社会で文化を創る点でも重要。人間がSFプロトタイピングを用いて「物、語る」ことは、創作の原初の形に近いと思っている。それを情報技術で手助け(AIが人間の想像力をサポート)するなど、どういう形で未来を描いていくか、SF的発想力をどう役立てて未来社会を創っていくか、考察を続け貢献していきたいと思っている。
2024年度活動方針・活動計画について
続いて、2023年度総括・ICF活動3年間の振り返りを踏まえて「2024年度活動方針概要」をICF事務局長より説明しました。
●2023年度活動内容:詳細は「ICF 2023年度活動報告書」をご参照ください。
● 3年間の活動振り返り:(「気付き」と「課題感」)
- 社会課題解決型ビジネスの特性として「時間がかかる」、「マーケットを創る」必要がある
- 共創活動の「重要性」と「型」が見えてきた ⇒ コレクティブインパクトのヒント
- 活動の「オープン」と「クローズ」の切り替え、使い分けが必要
● 2024年度活動方針概要
ICF基本理念、活動領域(社会課題解決の上流~中流・下流)は踏襲しつつ、3つの観点からアップグレードを目指す。
- 「社会課題起点(=ICF活動起点)」のアップグレード
- 世界の新潮流を掴む、社会的インパクトを鮮明に描く、未来志向のアジェンダ設定
- 注力ポイント『社会課題リスト』の大幅改訂
会員の皆様には、課題解決に資する共創テーマ設定などの対話セッションにご協力いただきたい。
- 「事業共創活動」のアップグレード
- 戦略的活動:インパクト・フレーム活用、テーマに沿ったプロジェクト体制
- 社会実装志向:マーケット(ルール)形成、パブリックアフェアーズ活用
- 注力ポイント「未来共創プロジェクト(FCP)」の作り方/動かし方を改める(社会的インパクト起点)
FCPとして、カーボンクレジット(脱炭素アクセラレーションLab活動)、地域課題解決プラットフォーム(麻布台商店街エリア×生成AI)などを企画中。会員の皆様には、ぜひ積極的にFCPにご参画いただきたい。
- 「コミュニティ活動」のアップグレード
- テーマ志向のコミュニティ、「動く(動ける)」コミュニティ
- 注力ポイント「社会実装研究の立上げ」
社会実装を促進するエコシステム形成 ⇒ 共創ガイドライン、オープンリソース化
共創を前提としたビジネスをどう考えるか(共創活動モデル)、インパクト戦略などについて、社内外の知見・実例を取り込み、検討会を実施。会員の皆様にも知見・実例のICFへの「投げかけ」「持ち込み」をお願いしたい。
会員ピッチ(ショートプレゼンテーション)
プログラムの後半では、8つの企業・団体の会員より、今年度のICF活動テーマに関連した各事業・取り組みのショートプレゼンテーションとICF活動への期待などをお話しいただきました。(以下ご登壇順)
株式会社電通総研(共創会員)ヒューマノロジー創発本部 Open Innovationラボ所長 坂井 邦治 氏
2024年1月に電通国際情報サービスから社名変更し「人とテクノロジーでその先をつくる」、をビジョンに、「社会進化実装」を事業コンセプトに掲げている。システムインテグレーション、コンサルティング、シンクタンクの3つの機能を連携し幅広くサービス提供することで、取引先の課題解決や社会全体の進化を総合的に支援。
ICF活動への期待:未来ビジョンの発信、社会課題解決からの事業共創(より良い解決策の提案、高い価値を生むテクノロジーの活用など)、社会変革へのスイッチを押す(例、新進気鋭イノベーターの応援)など、ICF会員の皆様と一緒に取り組みたい。
Morus株式会社(ベンチャー会員)代表取締役CEO 佐藤 亮 氏
日本の伝統産業であり、日本発で世界をリードする研究素材「カイコ」。低環境負荷な新時代のタンパク源と新たな食の選択肢を創出するバイオテクノロジースタートアップとして、食用カイコと、カイコを使ったバイオ原料供給・研究開発などに取り組む。
ICF活動への期待:原料・食製品をグローバル市場へ一緒に出していく事業パートナーの模索(共同研究・事業開発)、次回資金調達における投資家の模索、国家を巻き込み産業創出していくためのパブリックアフェアーズ活用など、ICF活動を通して実現したい。
株式会社Next Relation(企業会員)代表取締役CEO 小野寺 浩太 氏
新しい市場を作っていくためのルール作りをはじめ、イノベーションの社会的受容性を高める活動「パブリックアフェアーズ」の戦略立案・実行を支援。
ICF活動への期待:社会課題解決に通じるソリューションの社会実装というラストワンマイルを、パブリックアフェアーズを通じてICF会員の皆様と推進していきたい。
※小野寺様は事前収録(ビデオメッセージ)でご登壇いただきました。
特定非営利活動法人第3の家族(賛助会員)理事長 奥村 春香 氏
家庭環境に問題がありながらも既存制度では支援対象にならない、家庭環境問題のはざまにいる少年少女が自分の居場所を見つけられるようなプラットフォームの構築を目指して活動。目指すのは既存の支援のように深く介入しない「寄り添わない支援」(情報・掲示板サイトなどの運営)。
ICF活動への期待:ICF会員の皆様との共創を通じて、家庭環境問題についてのディスカッションやイベントスポンサーなどタイアップ企画で少年少女のマス層へのリーチ・支援をおこない、新たな価値・インパクト創出に取り組みたい。
一般財団法人ミダス財団(企業会員)事業統括 玉川 絵里 氏
「世界中から貧困の連鎖を断ち切り、2030年に100万人、2040年に1億人の人生にポジティブな影響を与える」をビジョンに掲げ活動。東南アジアの貧困地域での小学校の建て替えや教育支援のほか、日本では子ども食堂への寄付などを実施してきた。2024年4月より、財団としての社会課題解決への寄与度などの観点を踏まえ、新たに特別養子縁組事業への取り組みを開始。
ICF活動への期待:特別養子縁組事業は、財団の本格的な国内での取り組みの第一歩である。今後は社会に存在する様々な社会課題解決に向け、ICF会員の皆様と連携し活動していきたい。
株式会社NTTデータ(共創会員)ソーシャルデザイン推進室 主任 久保 友春 氏
官民連携・共創の視点から、社会・地域課題に取り組む。今回は「住まい」に関する取り組み事例をご紹介。「中古不動産物件の仲介において、課題である『情報の非対称性』(取引する当事者全員が同じ情報を持たず、一部に情報が偏在してしまう現象)の解消に取り組むことで、仲介件数の増加、生活者がライフステージに合わせた住み替えがしやすくなると考えている。VRでリフォームの状況がわかる、シミュレーションができるなど、空き家も含めて、情報の見える化を通じて住み替えをより良い体験にしていきたい」。
ICF活動への期待:経済的価値と社会的価値を両立し、ICF会員をはじめとする共創パートナーとともに解決すべき社会課題に取り組み、新たなマーケットを作っていきたい。
一般社団法人海洋連盟(企業会員)理事 内田 聡 氏
「海おこし、町おこしで日本を元気にする」ビジョンを掲げ、その実現のために様々な活動を行う。地元の海の魅力の再発見など「海おこし」に繋がる活動、海を守る意識醸成を目的としたプロジェクトなどを通じて地方創生サポート事業に取り組む。
ICF活動への期待:最初に勇気を持って行動を起こす「『2人め』を生み出せる『1人め』になろう。」をスローガンとする「うみぽす甲子園」(海の課題解決コンテスト)を今年も実施する。こちらの活動に協賛やサポートいただけると有難い。
和歌山市(自治体会員)市長公室 企画政策部 企画政策課 事務主任 増田 康次 氏
和歌山市は、未来を担う若者の流出が続き、高齢化率上昇など特に人口に関わる多くの課題を抱えている。将来の人口不均衡の改善、産業の持続的発展の実現、子育て支援など、将来に向かって活力ある和歌山市を維持する取り組みの一つとして「和歌山市スマートシティ推進プラットフォーム」を設立。また、民間主導のまちづくりへの関心が高まっていることを踏まえ、公と民がこれまで以上に協働し新たな魅力と活力を創出する総合窓口として公民共創室を設置。
ICF活動への期待:和歌山市が抱える各種課題について、委託事業に留まることなく、会員の皆様のビジネス活動を通じた解決策を考えていきたい。
プログラム終了後
閉会後は会場にて交流会を開催しました。ICF会員をはじめとする参加者同士による活発なネットワーキングが行われ、盛会のうちに終了しました
終了後のアンケートでは「異業種や他社の取組みを知ることができて、大変参考になった」「ICFの熱量を感じることができた」など、ICF活動へのご賛同・ご意見、ポジティブなコメントを多くいただきました。
事務局では、今期、未来起点で社会課題をアップデートするとともに、社会的インパクト評価やルールメイキングなどを通じて、新たな市場を創っていく取り組みを会員の皆様と進めていきたいと考えています。2024年度もICF活動への積極的なご参画・ご提案をいただければ幸甚です。
引き続き、ご支援・ご協力賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
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本イベントに関するお問合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:笠田・水嶋・宇都宮
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp