2016年12月6日、グローバルビジネスハブ東京(東京都千代田区)にて「INCFビジネスアイデアコンテスト2016 The Final」を行いました。
今回は、喫緊の社会課題の一つとして「ウェルネス」をテーマに設定し、「健康維持・増進」「予防」「診断」「治療」「機能回復」(ただし、診断、治療および創薬等医薬品に関する事柄は対象外)の領域において、「個人別予防・健康管理イノベーション」「シニア/障がい者向け機能代替・強化イノベーション」「医療介護需要キャップ解消イノベーション」の3つサブテーマを設定し、これらを解決する革新的な技術やビジネスモデルを活用したビジネスアイデアを広く募集しました。
コンテスト当日は、応募数94件の中からファイナリスト(決勝進出者)5チームを選出し、最終プレゼンテーションを行い、INCFの取り組みにご賛同いただいている国内外の有識者・専門家5名による厳正な審査の結果、三菱総合研究所賞と最優秀賞を決定しました。なお、審査員と協賛企業は以下になります。
審査員
リチャード・ダッシャー氏 | スタンフォード大学 米国・アジア技術マネジメントセンター 所長 |
鎌田 富久氏 | TomyK Ltd. 代表 株式会社ACCESS 共同創業者 |
宮城 治男氏 | NPO 法人 ETIC. 代表理事 |
稲蔭 正彦氏 | 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 委員長 兼 教授 |
小宮山 宏 | 株式会社三菱総合研究所 理事長 |
賛同企業(※順不同)
三菱電機株式会社 |
ネットワンシステムズ株式会社 |
MSD株式会社 |
株式会社リクルートホールディングス |
株式会社T&Dホールディングス |
優秀賞
『Chrono Wellness:世界初、体内時計を可視化して、睡眠を改善するサービス』 株式会社オー 代表 谷本潤哉氏
不眠症や睡眠障害など“眠り”で悩んでいる人は、日本では人口の約20%、世界でも約30%もおり、その経済損失は日本国内だけで年間約5兆円とも言われています。一方で睡眠市場は1兆円規模もあるにも関わらず、根本的治療に繋がるソリューションが少ないのが現状です。不眠の根本治療のひとつに「CBT(Cognitive Behavioral Therapy):認知行動療法」があります。しかし、日本ではCBTに対応できる医師が少なく、日々の睡眠データの計測・医師への提出、保険適応外のため治療に高額な費用がかかるなど患者側の負担も大きく、CBTを普及させるには多くの課題を抱えているのです。
本サービスは、健康と睡眠に密接に関わる体内時計に着目し、“CBT”を組み合わせた総合的な不眠治療サービスです。今回新たに開発した世界初の腕時計型デバイス(非侵襲型)で体内時計のズレを可視化し、CBTを搭載した不眠解決アプリで体内時計を調整することで睡眠の質を向上させていきます。このサービスの画期的なところは、CBT普及の課題であった体内時計の計測・蓄積と、専門的なカウンセリングを専用のデバイスとアプリで解決したところにあります。また、医学的なデータに則った日本人向けのCBTを提供することで、セルフケアでありながら不眠症の根本治療を目指すことができるようになります。
このサービスは、トラックやバス等の長距離ドライバーやタクシー運転手など、仕事と睡眠が大きく関わっている業種から展開を予定しています。また、睡眠が大きく関わるうつ病や生活習慣病の予防、労働パフォーマンスの向上など、BtoCへのサービス展開の可能性も模索していく予定です。
三菱総研賞
『健康維持のための快適環境整備』 ~プラズマ・静電気力による大気汚染・感染症対策~ 水野彰氏
大気汚染や感染症による健康被害は、世界レベルの問題として取り上げられています。世界103カ国、計3,000以上の都市のうち80%以上が大気汚染問題を抱えており、WHOによると全世界では年間約700万人が大気汚染で亡くなっているとの調査があります。一方、感染症の脅威も深刻で、インフルエンザやMARSなどのパンデミックは莫大な経済損失を引き起こすとされています。また感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染と多岐に渡るため、新薬・ワクチンの開発に加え、感染経路に応じた適切な予防が必要なのです。
このプロジェクトは、大気汚染・感染症の課題に対し、コア技術(プラズマ、静電気)を用いて微粒子・菌・ウイルスを“見える化”して感染経路を把握し、適切に“防御” “攻撃”を行う総合的な感染症対策です。具体的には、感染経路の“見える化”を実現したリアルタイムモニタリングの「菌・ウイルス迅速カウンター」、大気汚染対策や空気・飛沫感染を“防御”する空気清浄機一体型「マスク」、プラズマのラジカル反応や除電を用いて菌やウイルスを“攻撃”する「殺菌・脱臭フィルム」「除電リストバンド」などコア技術を活用した製品で3つの課題にアプローチしていきます。
このサービスは、装置販売、メンテナンス、コンサルテーションを柱に幅広いユーザへ展開していくことを想定しています。例えば、BtoCにはマスクなどの単品販売を、BtoB(公共交通機関、保育・学校、介護、医療現場など)には“見える化”“防御”“攻撃”を組み合わせた総合的ソリューションを提供することで、あらゆるシーンでの大気汚染・感染症対策が可能となります。まずは中国・日本をターゲットにマスクを製品化し、その結果を踏まえてインドやアフリカなどの地域にローカライズ展開していく予定です。最終的には、大気汚染・感染症対策だけでなく、女性の社会進出など課題の対象を拡大し、さらなる社会貢献を目指していきます。
ファイナリスト
『休眠医師と無呼吸センサーを活用した保育所における乳幼児死亡ゼロ化事業』 ~保育士の負担軽減を目指して~
国産無呼吸センサーによる乳幼児死亡ゼロ化事業チーム
保育所における乳幼児の死亡事故は、睡眠中に最も多く発生していると言われています。事故防止のため、保育士は乳幼児の睡眠中に5分おきの呼吸確認を国から推奨されていますが、現場は人手不足のため十分に行うことが難しいのが現状です。
本サービスは、睡眠時の乳幼児にモニタリング機器を装着し、遠隔地の医師が保育士に代わって乳幼児の状態を観察、事故発生時には適切な指導を行うものです。これにより、乳幼児の安全性の確保や保育士の負担軽減を実現します。またモニタリングを行う医師は休眠人材(資格を有しながらも結婚、出産などで現在は医療行為を行っていない医師)を活用、全国にいる約1万人の休眠医師に新たな活躍の場を提供していきます。
『聴覚障碍者が触覚情報で音を楽しむデバイス第三の耳「キキミミ」』 キキミミ
音楽を楽しみたいけど、耳に障がいがあるため手がかりがない。障がい者と健常者が一緒に楽しめる「共有玩具」があるのに「共有楽器」がないなど、聴覚を取り巻く問題は様々あります。
聴覚に障がいがある方、高齢で耳が聞こえにくくなってきた方々に音楽を肌で楽しんでもらうためのデバイス、それが「キキミミ」です。「キキミミ」は、圧電素子を用いて音楽を振動に変換し指先に伝え、音の音色、音の高低、音の強弱を繊細な振動で表現することを可能にしました。さらに、既存の技術では不可能であった小型・薄型・軽量化に成功。6歳児から高齢者まで幅広い年齢層に対してアプローチしていきます。「キキミミ」は、全国のシアター、ライブハウス、クラブ、カラオケから介護施設など、聞くことにハンデを持った方が健常者と一緒に、音を楽しめる世界の創出を目指していきます。
『家族×コンテンツ×科学で認知症予防』 株式会社ベスプラ
認知症患者数は年々増加しており、2025年には1,364万人になると言われています。また認知症が原因で、生活上での混乱や周囲とのトラブルなどの問題の増加も懸念されています。
このサービスは、高齢者を持つ家族のための認知症予防ワンストップサービスです。予防をはじめるきっかけ「家族」、続けられる仕組み「コンテンツ」、確実な効果が出る方法「科学」を機能化し、家族みんなが便利に楽しめ、かつ予防効果の高いサービスを提供。2025年までに認知症発症率30%削減を目指します。
審査員コメント
リチャード・ダッシャー教授
スタンフォード大学 米国・アジア技術マネジメントセンター 所長
今回のファイナリストはどれも優秀で、あまり点数の差はありませんでした。どのアイディアもさらなる工夫が必要ですが、最終的にはどれも成功するのではないかと思っています。今回のコンテストを通して、私は日本の将来が見えてきたと感じています。ファイナリストを始め、今回応募してくださった方々のアイディアはどれも社会に貢献することがたくさんあるからです。最優秀賞は一つしか選ばれませんでしたが、他の人たちも勇気を持ってアイディアの実現に向けて頑張って欲しいと思います。
鎌田 富久氏
TomyK Ltd. 代表 株式会社ACCESS 共同創業者
今回は、社会の問題を解決するイノベーションということで、大変面白いファイナリストが出揃ったと感じています。ファイナリスト達がどんな風に成長していくのかすごく楽しみですし、日本は社会課題の多い国なので、これから新しいスタートアップ企業が出てくることを期待しています。
宮城 治男氏
NPO 法人 ETIC. 代表理事
今回のコンテストを通じて、ファイナリストの皆さんが、未来共創イノベーションのトリガーになっていくと感じましたし、イノベーションのネットワークが、企業の方々に支えていただきながら広がっていくことにものすごく意味のあると感じました。今後、このコンテストを続けていく中で、大切な資産が蓄積され、さらなるネットワークも広がっていくと思います。今後の展開に期待したいです。
稲陰 正彦氏
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 委員長 兼 教授
このようなビジネスコンテストは世界中に山ほどあると思いますが、社会課題を解決するという大きなミッションを持ったコンテストはそれほど多くないと思います。第一回目にも関わらず、多数の応募があったことは、社会に対して問題意識を持っている起業家が多いことの表れだと思いました。また、ファイナリストのプレゼンはどれも社会課題を的確に捉えおり、その解決策に創意工夫が各々たくさんあったと思います。このような活動が今後も末長く続くことを願っています。
ファイナリストコメント
遠山 陽介氏 今回は1ヶ月間メンタリングをしていただいて、弊社のビジネスモデルもブラッシュアップでき、今後のビジネス展開の参考にもなりました。今日は僕が残念なプレゼンをしてしまいましたけど、いい経験になったなと思います。このような機会を与えてくださいましてありがとうございました。
藤田 聡子氏(代理人) 今日は参加させていただいてありがとうございました。いろんな方からご意見をいただき、特に我々ベンチャーだと知り合えない方や、各業界を代表される方々とお話しできたことは、非常に参考になりました。次に我々が何を取り組めばいいのか道筋が見えてきましたので、今後とも三菱総研さんにはお世話になりながら我々としても成功する企業経営をしていきたいと思います。
岩屋 雄介氏 今回は、ジャストアイディアを(金箱氏に)相談させていただいて、今日までやってきました。今まで自分の作ってきたものに対してこれだけ振り返る機会があまりなかったのですが、今回のコンペを通じて自分が作ってきたものが何だったのか、何が良かったのかを再認識するきっかけになったと思います。コンペの結果は残念でしたが、参加して良かったと思います。
金箱 淳一氏 ファイナリストに残れる共感を得られたというのはいい経験になりました。今後、「キキミミ」をもっと開発していこうという意欲が芽生えました。残念ながら優勝はできませんでしたが、今回ネットワーキングを通じて、多くの方から「コラボしませんか」とか、障がい者の方から「ぜひこれを商品化してほしい」という声をたくさんいただきました。いただいたご意見をどんどん取り入れて、いいデバイスとしてプロダクトアウトしていきたいと思います。
水野 彰氏 今日は思いもかけず大変な賞をいただきまして誠にありがとうございます。これも皆様のご指導のおかげだと思っております。三菱総合研究所の方より的確なアドレスをいただいて、考える中で今までおぼろげに見えていたものが、非常にクリアにすることができました。いただいたアドバイスをもとに、測定器を充実させるなど社会に対して本当に役立つものを作っていきたいと思います。本当に貴重なアドバイスをたくさんいただき、ありがとうございます。
谷本 潤哉氏 本日は私の誕生日でして、審査員の皆様、三菱総合研究所の皆様より最高のプレゼントをいただきました。ありがとうございました。
今回の「ビジネスアイデアコンテスト」は三菱総合研究所にとって初の試みでしたが、多くのスタートアップ企業の皆様に参加いただき、多種多様にわたる社会問題とそれに対するアイデアという資産が集まったと思います。INCFは、モビリティ、ウェルネス、教育、水・食料、防災、エネルギー・環境の6つの課題領域を社会課題として捉えています。今後もこれらの分野の社会的課題取り組むべく、「ビジネスアイデアコンテスト」を開催してまいります。第2回目の「ビジネスアイデアコンテスト」は、「環境・エネルギー」「水・食料」で広くアイデアを募集します。概要は2017年4月に発表する予定です。