第1回では、万博に展示されていた、デジタル空間から飛び出してリアル空間まで働きかける技術である、“リアル”テクノロジーを紹介しました。第2回となる本記事では、そのリアルテクノロジーを万博で展示する効果について考えます。
Story1 来場者と出展者、両者への効果
万博でリアルテクノロジーを展示することは、来場者と出展者の双方に大きな効果をもたらします。リアルテクノロジーはデジタル空間に閉じない技術であるため、来場者は技術の実物を目にすることができます。そして開発者の説明も合わさり、その技術がもたらす未来社会の姿を具体的にイメージできます。こうした体験を通じて技術への理解が深まり、新しい技術とその技術が実現する未来社会を受け入れやすくなるのです。一方出展者にとっては、万博という大舞台で展示することにより、自社技術の社会実装を加速させる効果があります。外部に示す場を得ることで、投資や人材確保のための社内合意が実現し、技術の実装に向けた動きが具体化していくのです。
Story2 未来社会をイメージする
リアルテクノロジーは、AIのようなデジタル空間に閉じた技術と比べ、日常で触れる機会が少ないものです。しかし万博では、実際に見たり体験したりして、その技術がどんな機能を持ち、どんな未来社会を形づくるのかを実感できます。
第1回で紹介したリアルテクノロジーの機能を、人間の能力に絡めて改めて考えます。人間の能力を①知覚→②思考→③運動と整理すると、AIのようなデジタル空間のテクノロジーは②思考を主に拡張してきましたが、リアルテクノロジーは②思考に加えて、①入力と③出力の能力を拡張します。例えば川崎重工の四足歩行ロボットは③運動を、NTTパビリオンの3D空間伝送は①知覚の能力を拡張しています。
この①~③のすべての能力が拡張されることで、人は「五感や身体を伴う生活」の恩恵を今以上に受けることができます。たとえば3D空間伝送とロボットを活用した遠隔医療では、3D空間伝送により患者の微細な音声や触感を、医師があたかも目の前にいるかのごとく感じることができます。さらにロボットの精密な操作技術を組み合わせることで、高度な手術を離れた場所から行うことが可能になります。これは単なるロボットによる自動化では生み出せない安心感になり、社会受容性が高まります。
万博の各展示では、来場者が未来社会を具体的に思い描けるような仕掛けが随所に見られました。特に未来の都市パビリオンのシアターでは、投票システムを使って未来社会を創り出す体験ができます。このような体験は来場者にとって、未来社会をより具体的にイメージするきっかけとなるでしょう。
Story3 進む実装、進む協業
では、出展者には、どのような万博の効果があるのでしょうか。1つ目の効果として、社内の合意形成がしやすくなる点があります。少し先の未来を創るためのテクノロジー開発・プロトタイプ作成などは、予算がつきにくいですが、万博向けということで、いつもより予算確保が容易になります。この流れで取り組んだ挑戦的研究テーマへの、来場者のフィードバックが好評であれば、万博後の継続検討も可能となります。
加えて、万博出展者同士の出会いにより、新しいプロジェクトが創出されるという効果もあります。ブースが隣の出展者同士で日々コミュニケーションしている中から、生まれたケースもあれば、経営トップ同士の会話から出てきているケースもあります。特に、万博には経営トップが視察に来ることも多く、展示からインスピレーションを得られる環境になっていることから、協業の話し合いを誘発しやすいことなども、万博ならではの効果といえるでしょう。
このように来場者と出展者、両者に効果があることで、受容性と実装力が高まり、未来社会像が実現しやすくなると考えます。ICFでも、サービスの担い手と受け手の両者の立場に立ち、テクノロジーの社会実装とその先の社会課題解決を目指します。
Box | 万博で時空を超える体験を! コモングラウンド・リビングラボの展示紹介 |
第1回でも述べたように、次世代通信技術IOWNによる通信速度の飛躍的向上や、3D空間情報の蓄積、量子コンピューター等による計算処理能力の向上により、20世紀には誰もがSFの世界だと考えていたことが現実味を帯びています。例えば、大阪・天満の中西金属工業敷地内にあるコモングラウンド・リビングラボ1にて、時空を超えるサービス開発が進められています。いわゆるオンライン会議のような平面的な映像と音声だけでなく、多人数の動きを3D空間情報としてリアルタイムに伝送・融合し、没入感のある体感ができます。さらに、人だけではなく自律移動可能なロボットも混在させられるプラットフォーム構築を目指しています。2 三菱総合研究所を含む数社は、大阪での万博開催が決定した翌年(2019年)より、建築家豊田啓介氏(現東京大学生産技術研究所特任教授)の構想を具体化すべく、大阪商工会議所等を中心に検討を重ねてきました。そして2021年7月、万博実装、その後の社会実装を目指し、人とロボットが共に暮らす未来社会の実験場としてコモングラウンド・リビングラボをグランドオープンしました。その後、3D都市モデル(PLATEAU3)と連携したロボット走行や骨格情報のセンサリング4などの実証を進めてきましたが、理想とする未来社会の実現には、まだまだ課題は多いです。 これらの社会実装に向けた取組のファーストステップとして、2025/10/1~6に、大阪・関西万博来場者向けに未来を垣間見られる体験を提供予定です。万博会場とコモングラウンド・リビングラボをつなぎ、簡単なゲームを通じて、離れた場所にいる人々があたかも目の前にいるかのような体験ができます。 ぜひ、大阪・関西万博フューチャーライフヴィレッジにご来場の上、遠隔地とのリアルタイム空間重畳を体験ください。(体験できる枠は限られていますので、受付終了の場合にはご容赦ください)5 6 |
著者紹介

山田 賢杜

水嶋 高正

藤本 敦也
1 COMMON GROUND LIVING LAB https://www.cgll.osaka/ 2025/9/2閲覧
2 Youtube コモングラウンド・リビングラボチャンネル「COMMON GROUND Concept Movie」
https://www.youtube.com/watch?v=SMwxCIO9RCo 2025/9/2閲覧
3 大阪商工会議所「屋内外のパーソナルモビリティ自律走行の実現に向けたデジタルツインの構築と実証について~ 国土交通省が主導する「Project PLATEAU」に参画 ~」
https://www.osaka.cci.or.jp/Chousa_Kenkyuu_Iken/press/20220805cgll.pdf 2025/9/3閲覧
4 内閣府 国家戦略特区「令和5年度 先端的サービスの開発・構築や先端的サービス実装のためのデータ連携等に関する調査事業 結果概要」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/pdf/4-R6-JIGYOUHOUKOKUGAIYOUBAN.pdf 2025/9/3閲覧
5 EXPO2025Visitors「【コモングラウンドによる遠隔空間重畳】時空を超えた未来のコミュニケーションを体験」
https://www.expovisitors.expo2025.or.jp/events/5000c1c0-b2d8-4022-9656-2800b9906d71 2025/9/2閲覧
6 大阪商工会議所「2025 年日本国際博覧会『未来社会ショーケース事業』 「フューチャーライフ万博・フューチャーライフエクスペリエンス※」 コモングラウンド*体験コンテンツ 体験者申し込みを本日、開始! ~10/1~10/6 万博会場で未来のコミュニケーションを体験しよう!~」
https://www.osaka.cci.or.jp/Chousa_Kenkyuu_Iken/press/20250804expo.pdf 2025/9/2閲覧
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三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ推進オフィス 担当:山田
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