2025年6月に世界保健機構(WHO)が「From loneliness to social connection: charting a path to healthier societies」(孤独から社会的つながりへ:より健全な社会への道筋を描く)と題した報告書を発表し、「社会的健康・つながり」は肉体的・精神的健康と並ぶ「健康に欠かせない第3の柱」であると強調するなど、望まない孤独・孤立は、国内外に関わらず大きな社会問題となっています。
ICFでは、昨年に引き続き、「望まない孤独のない社会の実現に向けて」(※)と題したイベントをNPO法人あなたのいばしょ(ICF賛助会員)との共催で開催しました。今回(第2回)は、望まない孤独・孤立に取り組む自治体や企業・団体の活動をご紹介し、社会課題としての理解と認識を深めました。また、地域コミュニティ活性化や社会的つながりの構築が、孤独・孤立対策となっている事例の共有を通して、孤独・孤立対策に求められる多面的アプローチや視点について議論しました。
(※)2025年5月開催 孤独・孤立対策イベント「望まない孤独のない社会の実現に向けて」開催レポート
https://icf.mri.co.jp/activities/activities-23314/

挨 拶
株式会社三菱総合研究所 ICF推進オフィス ゼネラルマネージャー 藤本 敦也
未来共創イニシアティブ(ICF)は、社会課題をビジネスやテクノロジーで解決することを目指し、幅広い領域の課題を「社会課題リスト」として提示してきた。本日は、その中でも日本のみならず世界的な課題となっている「望まない孤独・孤立対策」を取り上げ、多面的に議論したい。若者の孤独・孤立状態の悪化にSNSが影響していると話題になるなど社会環境の変化もあり、この課題はますます深刻化している。当事者が自ら解決することが困難なのは当然ながら、周囲が支援に取り組むにしても単独セクターでの解決は難しく、民間を含むエコシステム形成が不可欠である。孤独・孤立対策に効果的なエコシステムとはどんなものか、どのような形でテクノロジーが活用できるのか、また、その実践を通して社会的な潮流をいかに形成していくか議論を深め、課題解決へ向けた歩みを進めていきたい。
講 演
■「AIを活用した孤独・孤立相談への適応可能性と今後の展開」
株式会社三菱総合研究所 公共DX本部 主任研究員 小峰 えりか
孤独・孤立対策におけるAI・デジタル活用の適応可能性として、「住民向け」と「自治体内部向け」の両面で効果が期待されている。住民向けは、相談の入口を増やすことや見守り、自治体内部向けは、職員の体制強化やスキルサポート、事務負担軽減のための利用などが考えられる。
例えば、住民向けでは、24時間相談可能なオンラインチャットや対話型AI、AI子育て相談、学校から全国の児童・生徒へ配布されるGIGA端末を使った子ども向け相談、スマートスピーカーによる高齢者の見守り、メタバースを活用した病気と向き合う子どもたちの交流支援など、相談の入口を広げたり、見守り・交流の場の提供を通して、悩みや困り事の早期把握に繋げる取り組みが増えている。
自治体内部向けでは、職員の負担軽減やスキル補完、情報共有の迅速化を目的としたシステムの活用などが推進されている。特に「AI相談パートナー」(※)は、相談内容をリアルタイムでテキスト化し、キーワードに応じた制度情報提示や相談記録の要約を行うことで、職員支援の有効な手段となっている。


導入事例として、長岡市では、記録作成の負担軽減が実現しただけでなく、電話での対応中にテキスト化された相談内容を他の職員がリアルタイムで確認・サポートできるようになった、相談が終わった後すぐに記録が作成できるため周りにも相談しやすくなったことなどから、助け合いの文化の醸成やアウトリーチ(支援者として出向く)時間の創出・増加に寄与。千葉市でも記録時間の削減や相談者支援の質向上に効果があったとの声をいただいている。
今後はNPO法人あなたのいばしょとも協働し、オンラインチャット窓口の設置とAI相談パートナーの連携により自治体の相談体制強化を図り、住民相談の入口から行政支援までの一体的な孤独・孤立対策を構築するなど、AIと人の力を組み合わせた新たな支援モデルの展開を引続き目指していく。
(※)本イベントのパネルディスカッション登壇の株式会社アイネス(ICF企業会員)、三菱総合研究所の共同事業にてサービス提供しているシステム
【参考】三菱総合研究所サイト:AI相談パートナー(AIを活用した自治体向け相談業務支援サービス)
https://www.mri.co.jp/service/ai-support-system-for-municipal-consultation-desks.html
■「信頼できる人に確実にアクセスできる、リアルとオンラインの連携」
NPO法人あなたのいばしょ 理事長 根岸 督和 氏
NPO法人あなたのいばしょは、誰でも無料・匿名で24時間365日利用できるチャット相談窓口を運営し、約40名の職員と1,000名超の世界中のボランティアが1日1,000件以上の相談に対応している。時差を活用して、在外邦人のボランティアが日本時間の夜中に相談対応していることや、これまでに累計170万件以上の相談を受け、相談者の6割が29歳以下という特徴を持つ。相談内容のテキストデータを蓄積・分析し政府や自治体への提言も行っている。
活動理念「望まない孤独のない社会の実現」は、ボランティアとも必ず共有する中心価値となっている。緊急事案への対応体制も整え、警察や児童相談所といった関係機関との迅速な連携が可能。こうした運営ノウハウを用いて、自治体や企業からの要望に応じる形で、全く別のシステム、メンバーによって構築した有償サービス「ウェルネスサポート」の提供を開始した。


ウェルネスサポートは、傾聴ベースで相談者に寄り添い「マイナスの気持ちをゼロに戻す」という我々の基本姿勢は厚生労働省の自殺防止対策事業として運営している全国版の相談窓口と同様だが、個別の専門相談体制を提供する仕組みとして、必要に応じて提携自治体の窓口などへ相談者を繋ぐことで「ゼロからプラスへ進む」サポートも行う。熊本市、宇城市、盛岡市、品川区などで導入され、盛岡市では子ども向け相談を24時間体制で、あなたのいばしょが受託している。また、ある自治体の例では、元ヤングケアラーの相談者が、あなたのいばしょの相談員との信頼関係構築を通じて、自治体の専門部門による支援に繋がった事例など、オンライン相談を入口に相談者の行動変容に繋がった事例も生まれている。
法人向けの事例では、ツルハホールディングスとオーバードーズ問題といった現代社会が抱える課題にも連携して向き合っている。
このように、ウェルネスサポートは連携先の自治体・企業専用の相談窓口として、リアルとオンラインを組み合わせながら、孤独・孤立対策を継続的に支える仕組みを展開している。我々が全国版で培ったノウハウをもとに、今後も各地の自治体や企業の専用窓口開設・運営をサポートし「望まない孤独のない社会の実現」というミッションを遂行していきたいと思っている。
パネルディスカッション
■ テーマ「多面的アプローチによる孤独・孤立対策」
望まない孤独・孤立は、年代や属性を問わず誰にでも起こり得る一方、福祉領域と認識されがちで、対応人材を始めとする支援体制のリソースが限られてしまうことも多いのが現状です。
今回のパネルディスカッションでは、AIの活用やDXによる効率化と人による支援の質をいかに両立させるか、また、孤独・孤立の背景や予兆に多面的にアプローチする重要性についても議論を深めました。
<モデレーター>
株式会社三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 主任研究員 濱田 美来
<パネリスト>
株式会社アイネス エバンジェリスト/総務省地域情報化アドバイザー 宮﨑 昌美 氏
横須賀市 福祉こども部地域福祉課 重層支援担当 課長補佐 栗原 養治 氏
株式会社日比谷花壇 地域創生事業統括部 副統括部長 藤部 拓己 氏
NPO法人あなたのいばしょ 理事長 根岸 督和 氏
■パネリスト紹介
株式会社アイネス エバンジェリスト/総務省地域情報化アドバイザー 宮﨑 昌美 氏

元自治体職員で現在はITベンダーに所属。全国の自治体・福祉団体のDX支援を年間20~30団体ほど実施している。活動テーマは「身近すぎて気づくことさえできないような不平等・不便などもデジタルで解消し、誰ひとり取り残されない社会を実現する」こと。総務省の地域情報化アドバイザーなどとして活動するなかで、近年、社会福祉協議会、障害者支援団体、地域包括支援センターといった福祉を支える団体からの依頼が急増している点に変化を感じている。福祉分野のDXがなかなか進まない背景には、業務の属人化や自己犠牲文化がある。2040年問題として認識されている超高齢社会到来による福祉の需要増と担い手減少への危機感を見据え、地域福祉へのデジタル投資を加速し、行政の情報DXや、福祉分野にありがちな「暗黙知」の形式知化にもAIなどの技術を活用して、支援者側の負担軽減と働きやすさの向上を図ることが重要だと考えている。スマート福祉行政の実現を後方から支えていく活動に引続き注力していく。
横須賀市 福祉こども部地域福祉課 重層支援担当課長補佐 栗原 養治 氏

介護保険、福祉総務の業務を経て地域福祉課に所属。現市長が掲げる「誰も一人にさせないまち」を理念に、孤独・孤立は誰にでも起こり得ることで、一人ひとりと周囲との日常的な関わりが孤独・孤立の予防に繋がるという認識を持って支援に取り組んでいる。そのなかで「支え手・受け手の役割を固定しない」視点を大切にしている。また、必要な場面においては行政が一歩踏み込んで繋がりを作っていくことも心がけている。横須賀市では、相談の心理的ハードルを下げることを目指す福祉の総合相談窓口「ほっとかん」の設置、地域内の支援者同士の顔が見える関係づくり、アウトリーチ支援(食料支援、通院同行など)にも取り組んでいる。ICT活用では、市公式LINEによる福祉相談、対話型AI相談の実証実験、業務支援システム「AI相談パートナー」の導入、役所以外の支援機関など地域資源の可視化にも着手。見えないところに課題が潜んでいるということにも留意しながら、支援の質と継続性の確保を目指していく。
株式会社日比谷花壇 地域創生事業統括部 副統括部長 藤部 拓己 氏

日比谷花壇が掲げている「はなとみどりを通じて真に豊かな社会づくりに貢献する」理念のもと、公共施設の指定管理を中心に地域創生事業に取り組んでいる。また、農業・観光を主軸とした共生社会の実装をベース・コアバリューとして教育やDXを掛け合わせた構想も進めている。地域密着の運営を特徴とし、地域交流センターや公園などを地域住民の「第三の居場所」として機能させ、管理者として、利用者との日常会話などや交流を通じて変化に気づくといった「支援の手前の関わり」を実践している。近年の行政公募では「誰一人取り残さない」「共生社会」などのキーワードが増えている傾向から、民間に地域ハブとしての役割が期待されていると実感している。民間企業として、孤独・孤立対策の関係者とのネットワークを強化し、地域住民が安心して過ごせる場所を支える体制の構築に尽力していきたいと思っている。
※NPO法人あなたのいばしょ 理事長 根岸 督和 氏のご紹介は上段の「講演」内容ご参照。
■議論のポイント
―相談チャネルとUX(ユーザー体験)
相談ルートの設計、チャット/リアルタイムテキスト、周知・デザイン
(テキストによる相談の課題と新技術への期待)
- チャットを活用した相談窓口の存在は重要。一方、現在の「入力した一連の文章がポンと」相手の画面に表示される形式は、電話や対面での会話に現れる「言い淀み」など心の動きまでは文章に反映されず、感情が伝わりにくいという課題があると思っている。それを解消する技術として、入力途中の心の動きが見えるような「リアルタイムのテキスト通話」に注目している。こうした新たな技術の導入など相談の質を高める様々な可能性を検討する必要がある(宮﨑)
(相談しづらさを軽減するAI活用)
- 内閣府による孤独・孤立実態調査によれば日本人の4割が孤独・孤立を感じたことがあるというほど身近な課題にも関わらず、役所の相談窓口を利用することに心理的負担(恥ずかしいなど)を感じている当事者が多い。相談窓口のハードルを下げる施策として、AIなどデジタルを活用した対応を取り入れることが有効だと思う(栗原)
(小さな兆候を把握する重要性とICT活用)
- 自治体が持っているデータから孤独・孤立を事前に特定するのは困難であり、本来は対面などで小さな兆候を継続的に把握することが必要。自治体に足が向かないような方が時間・場所に左右されず、気軽にアクセスしてもらえるよう公式LINEでの相談ルートを開設した(栗原)
(若者にも届く周知とは)
- 相談窓口を開設しても、その存在が知られていなければ意味がない。特に若年層は「いかにも役所的なもの」には反応を示さない傾向が強いと思われるため、町中に貼るステッカーや配布物は二次元コードの記載とともにデザイン性の高いものを用意するなど、広告としての工夫が必要。児童・生徒が持っているGIGA端末へのリンク掲載でアクセスが急増した例もあり、地道な広告活動が有効だと実感している(根岸)
―DX・AI活用と業務効率化
事務DX、AIの役割定義、効果検証・試行錯誤
(事務DXで省力化し時間を確保する重要性)
- 支援には情報、知識、ノウハウの共有が不可欠で、過去の類似ケースを参照するにもAI活用は有効。ただし、孤独・孤立状態の事前把握といった難しい領域では、データを参照するだけでは限界がある。最終的には周囲の人々が「人のセンサー」を働かせて、気づく社会が形成されるとよい。支援側の担当者が地域に出かける時間を増やすためにも、事業所内での定型業務など負担軽減を目指した事務DXが急務(宮﨑)
(AIと人間の役割分担)
- 「AIを活用して万全な支援策を構築する」ことを求める風潮に違和感がある。AIは複数の選択肢を提示し選べる環境を作る役割が適切で、最終判断は人間が行うもの。ケースごとに最善策へと導く「人間力」を高めることがデジタル活用と同じくらい重要ではないか(宮﨑)
(AI活用の試行錯誤)
- 「AI相談パートナー」システム活用による事務作業時間の削減効果を実感している。一方、対話型AI相談の実証実験を行ったが人の対応にはまだ遠く及ばない。孤独・孤立予防の観点も含めると、人力だけで行き届いた支援を実現する難しさがあるため、今後も新しい技術をいろいろな業務に試用・活用しながら、相談対応の質の向上や対応数・範囲を広げていく必要があると思っている(栗原)

―人間力・コミュニティ基盤
職員・運営側の「気づく力」、ボランティアの力、公共施設を核にした「つながりのインフラ」
(「人をつなぐインフラ」としての公共施設)
- 孤独・孤立の問題は当事者が自ら解決することは難しく外部の力を借りて解決に向かう必要があると思う。外部の力には日頃からの「つながりのインフラ」も含まれ、公共施設を利用することはそれを作る機会になり得る。中高年男性など施設の利用が少ない層に関心を持ってもらうイベント企画や、地域団体同士の接点づくりを提案するなど、運営側は人と人をつなぐ実効性ある施策・取り組みを検討・熟慮する必要がある(藤部)
(職員の「気づく力」を支える企業が持つ強み)
- 日比谷花壇は花屋として培ったヒアリング力・接客力が強み。それが、公共施設運営・管理の領域でもいかされているのではと思う。多くの方と関わる役割を担うなかで、日常的な会話を重ねてネットワークを広げるなどの取り組みが、利用者の様子の変化にも「気づく力」や観察力のようなものを高めることにつながっている。孤独・孤立の予兆のようなものをいかに感じるかというポイントを考える上での示唆にもなっていると思う(藤部)
(福祉とは人であり「人間力」向上が鍵)
- 孤独・孤立対策は新しい領域であり自治体も模索中。事務DXなどで職員の時間をつくり地域へ出かけて人間力を高めることが重要。また、福祉は住民生活全体に関わるため、行政側は様々な課題に接するなかで福祉の意識を持ち続ける必要がある(栗原)
(「想い」があるボランティア相談員の対応力)
- 孤独・孤立の問題で考えねばならないことは、いろいろあるが、我々が大切に思っていることのひとつにボランティアの存在がある。ボランティア相談員は「社会貢献したい」「過去に助けてもらった恩を、社会に返したい」という応募動機がある方が多い。こうした想いを持った方々が相談に対応することで、相談者の気持ちが少しでも好転するためのサポートができていると思っている(根岸)
―連携・エコシステム設計
自治体・企業・NPO間の役割分担、新モビリティなど周辺資源連携
(移動困難者支援など新技術への期待)
- 相談に対応し心理面を支援する視点だけでなく、例えば移動困難な高齢者などが「人に会いたい」と思った時に気軽に移動できるといった、物理的な面を支える視点も必要。超高齢社会や人手不足で、今後はさらに移動困難が深刻化する。自動運転などの新しい技術が実装されて新たなモビリティが登場するなど技術の進化は孤独・孤立状態の解消にも貢献すると思う(栗原)
(連携先ごとに異なる課題感・役割分担)
- 自治体・企業との連携では、専用窓口の開設と同時にそれぞれに異なる課題感に沿って、必要に応じて確実に支援に繋げる仕組みづくりが求められる。自治体窓口からあなたのいばしょが相談者を引き継ぎ、継続的に相談対応する(気軽に相談できる場としての)役割を担うケースなどもあり得る。連携を滞りなく推進するためには関係者間の役割分担が重要ポイント(根岸)
参加者からの声
イベント終了後に実施した参加者アンケートでは、本イベントについて、回答者の8割の方から「満足」の評価をいただきました。また、「これまで十分に知る機会がなかった孤独・孤立の実態や具体的施策について理解が深まった」、「多様な切り口からのアプローチが紹介され、大変参考になった」、「AI活用などデジタル化の可能性を具体的にイメージできた」といった前向きな声が多く寄せられました。
ICFでは今後も、「望まない孤独・孤立」をテーマとしたイベントや情報発信を通じて、課題への理解を広げていくとともに、多様な主体と連携しながら、AIなどの新しいテクノロジーも活用し、解決の糸口を探る取り組みを進めてまいります。

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本イベントに関するお問い合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:笠田・濱田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp





