株式会社三菱総合研究所

Business Acceleration ProgramApril 01, 2021INCF Business Acceleration Program 2020 最終審査会 イベントレポート

「INCF Business Acceleration Program 2020」の最終審査会が、12月11日にオンラインで開催され、7チームのファイナリスト(ウェルネス4、エネルギー・環境1、水・食料1、教育・人材育成1)から最優秀賞、三菱総研賞2賞(未来デザイン賞、未来パートナー賞)、オーディエンス賞を決定し、表彰しました。

今回でINCF Business Acceleration Program は6回目の開催となり、新型コロナウイルス感染症の影響があったにも関わらず、過去最多の150件のエントリーがありました。当日は、書類審査とプレゼン審査を通過し、2カ月のメンタリングを受けた7チームが登壇。冒頭挨拶で未来共創本部長の須崎彩斗が「年々社会的インパクトが大きく、ビジネスとして魅力的な提案が増えてきている」と述べたように、ファイナリスト7チームのプレゼンテーションは、いずれも困難な社会課題に取り組む上でのアプローチ方法として、示唆に富んだ内容となりました。

コロナ禍のためオンライン開催となりましたが、過去5回と比較し、遠方からの視聴者が増加するなど、多くのメリットもありました。また、オンラインのコミュニケーションツールを使って、ファイナリスト、参加者のネットワーキングにも取り組みました。

審査員

審査員は以下の通りです。

審査委員長
小宮山 宏
株式会社三菱総合研究所 理事長
リチャード・ダッシャー氏スタンフォード大学 米国・アジア技術マネジメントセンター 所長
鎌田 富久氏TomyK Ltd. 代表/株式会社ACCESS 共同創業者
椙山 泰生氏京都大学 経営管理大学院 教授
村上 清明株式会社三菱総合研究所 常務研究理事

最優秀賞

有機物とプラスチックが混ざったごみを分散型、低温でリサイクル
AC Biode株式会社 久保直嗣氏

AC Biodeが提供するのは、食べ残しなどの生ゴミと、プラスチックが混在したゴミを分けずにそのままリサイクルする技術です。ゼオライトによる炭化触媒やプラスチック解重合触媒で分散型・低温、低コストで炭化・ケミカルリサイクリングでき、生成されたカーボンはバイオプラスチックなどの原料になるほか、バイオ燃料、またモノマーの場合は、化学製品の原料として利用することができます。

従来の熱分解等と比較しても、コスト、環境負荷、労力の面で勝ります。また、分散型、つまり回収・集積が必要なく、その場で処理が可能であるという強みにより、船や島しょ部などオフグリットのフィールドでのニーズも高いでしょう。触媒は消耗品としてサブスクリプションで販売。BtoBまたはGでの販売を進めており、すでに複数の国内外のリサイクル会社、食品会社等と有償実証実験や、基本合意の取り交わしなどが進行中です。

今回は、ゴミ処理や畜産、農業、汚泥処理、食品、不動産関連企業等との商談や実証実験、化学会社、触媒会社との共同研究や資金調達等を希望しています。AC Biodeの技術でグローバルなごみ問題を解決していくため、サポートしたい企業、コストカットをしたい企業等、さまざまな企業の皆さんとの協業を進めたいと考えています。

三菱総研賞 未来デザイン賞

「有用タンパク質の超廉価化による医療・食品産業への貢献 ―タンパク質の『水道哲学』の実現に向けて―」
NUProtein株式会社 南賢尚氏

NUProteinが水道のように提供することを目指すのは、幹細胞の培養に必要な「タンパク質」です。幹細胞は再生医療製品や細胞医療に必須であり、食料問題解決のための培養肉製造の素にもなりますが、培養に必要なタンパク質の製造コストがグラム3000万円と極めて高コストなのが問題でした。

NUProteinは、小麦粉の副産物を利用することで、その製造コストをグラム当たり10万円まで低減させる技術の開発に成功しました。スケールアップも容易で、奈良先端科学技術大学院大学との共同研究では、2022年には製造コストをグラム2万円以下に実現したいと考えています。現在は、タンパク質合成用試薬を国内外の試薬メーカーに販売しており、培地添加用タンパク質を国内の複数企業に提供しています。段階的に規模を拡大し、ハードウェアの開発含め、大手プラントメーカーと協業も目指しています。

NUProteinは潜在顧客が求める、低価格、早さ、タンパク質の多様性、安全性、安定供給をすべて満たすことができるものです。適性製造規範の対応も含め、設備を充実し、スケールアップを図っていきたいと考えています。

三菱総研賞 未来パートナー賞

「不妊治療データのアクセシビリティ向上と分析サービスの提供」
vivola株式会社 角田夕香里氏

vivolaは女性の健康をAIで見守るサービスを手掛けており、現在は不妊治療に注力しています。少子化は国家の喫緊の課題にもなっていますが、一方で産みたくても産めない女性が50万人おり、体外受精を受ける人は世界でもっとも多いのです。不妊治療には「分からないことだらけの治療」、「仕事と治療の両立」「不妊治療の長期化」という3つの課題があると考えています。その課題解決のため、vivolaが提供するのがアプリ『cocoromi』と専門医によるオンライン診療サービスです。

cocoromiはパーソナルデータを登録し、治療ログを蓄積。これに基づき、3万件以上の治療データから、AIがユーザーに最適な情報を提供を目指していく。会員限定のSNSもあり、トークルームでユーザー同士のコミュニケーションも可能です。オンライン診療サービスは、首都圏に集中する専門医の診療をオンライン化し、地方の患者の通院負荷を軽減します。地域の産婦人科医と都市部の専門医をつなぎ、治療データを共有しつつ、オンライン診療と地域の産婦人科での通院を併用していきます。

また、蓄積したデータを元に、医療機関向けAI治療支援SaaSの開発、提供なども視野に入れています。

オーディエンス賞

「母親の育児不安を解決する「共育」プラットフォーム EGG」
株式会社モシーモ  竹村由賀子氏

現代の母親は、情報過多、ロールモデルの不在のために不安に苦しむことが多くなっています。モシーモは「共育」プラットフォーム『EGG』で、子育てする母親の不安を解消するための機能を実装します。

1点目は、母親たちが不安を共有できるオンラインコミュニティーの形成。2点目は子育てに関する悩み、不安を相談できる「EGG保育カウンセラー」。保育カウンセラーには、一旦子育て等で退職したような潜在的な保育士や栄養士、看護師、シニア人材などを研修のうえ採用する予定で、これは新たな雇用を創出することにもつながります。また、保育園側にもシステムを導入し、登園管理や、母親たちからの相談内容をフィードバックし、保育に役立ててもらうスキームも構築する予定です。母親のアプリ利用料は基本的には無料で、保育園側からの導入費用・毎月の利用料を主な収益源としたいと考えています。

2023年までに0~3歳の保育園に通う130万家庭、2025年までに0~6歳の保育園・幼稚園380万世帯への導入を進めます。いずれは日本式保育園の導入が進む東南アジアなど海外市場も視野に入れています。

ファイナリスト

「老年医学に基づいた動画解析とAI技術による高齢者のフレイル状態の検査と予防/治療用プログラム」
株式会社ハタプロ 伊澤諒太氏

AIを活用した行動変容の技術をもとに、自治体も交えた産官学・医療連携で「フレイル」を予防する技術・プログラムの開発、提供を進めています。生体情報とAIを活用した非接触の診断介入技術で、コンテンツに対する視線の動き、体動から、AIでフレイル認知症の度合いを測定します。医師向けには簡易化した管理画面を表示し、診断、介入を容易にするほか、プログラムの配信も自動で個別最適化し、予防・治療効果を最大化。
つまり、老年医学専門医の“目”を再現するAIであり、地域包括ケアの進展で増加する経験の浅い医師、専門外の医師の強い味方になると考えています。
現在、この技術を活用した保健支援プログラムを民間企業、自治体へ提供する事業を展開しています。
医療機器に実装するソフトウェアは現在開発中ですが、今後は、家電や車など、医療以外の生活関連機器、設備の業界との協業を進めたいと考えています。

「介護リスク可視化による介護プラットフォームの構築」
社会福祉法人保誠会 宮崎竜二氏

全国の介護施設では、10施設に1件、高齢者事故が発生しており、年間1500人の方が亡くなっています。しかし、リスク評価や、事故の原因究明が困難な場合がほとんどです。高齢者の事故は仕方がないという諦めの空気が蔓延し、職員のやる気低下や離職率上昇、さらなる事故増加という悪循環が現状の介護現場では生じています。

保誠会が提供するのは、介護施設の事故リスクを可視化し、高齢者事故を未然に防ぎ、上記の悪循環を好循環へと変えるソリューションです。

18年間の実績をもとに、インシデント、アクシデントの情報収集、分析、ハイリスク個所や利用者の特定、そして対応策の実施、評価という改善のサイクルを実行するアプリ、プラットフォームの開発を目指します。介護施設共通の「マンパワー・スキル不足」「合意形成が困難」「管理職と介護職員の間の信頼関係構築」といった課題にも対応していきます。

目標は「今後10年で介護事故を半減」、及び「平均寿命=幸福寿命にする介護プラットフォームの構築」。将来は高齢者の生き抜く力を 社会に還元する“介護エンタメ事業”や”モデル施設の全国的な運用”、日本式の高品質な『KAIGO』をグローバルスタンダードとすべく海外展開も視野に入れています。

「次世代野菜工場 “ArtGreenLab” ~アートソイルが世界で貢献する未来~」
株式会社ラテラ  荒磯慎也氏

人工土壌「アートソイル」は、ゼオライトと鉱物結晶により強固な団粒構造を人工的に再現したもので、土壌よりも17%高い保水力を持ち、雑菌や虫を発生させることのない高衛生性も持っています。解決する社会課題は、3段階で設定しています。1段階目は「BtoC」。アートソイルを消費者に販売し、農業を身近に感じ、人間と植物が共生する日常を取り戻します。

2段階目では、就農人口の増加を図ります。おもに植物工場を対象に、水耕栽培からアートソイルへの転用を促します。施設を流用できるうえ、水耕ではできなかった根菜類の栽培も可能です。ここに職人気質を持った農業者集団「Green Artist」を出現させることをゴールとしています。

3段階目は、グローバルミッションとして、世界で広がる土壌劣化、化石帯水層の枯渇問題にアートソイルで立ち向かいます。今後は、農業分野に参入する大手企業との協業や、グローバル展開する大手商社や国際機関との連携、提携を図っていきたいと考えています。

【ネットワーキング】

新たな試みとして、アバターとなるアイコンを操作し、話をしたい人と自由に話をすることができるツール「SpatialChat」を使って、ネットワーキングも開催しました。アイコンが近づくほど相手のアイコンサイズと音量が大きくなる仕組みで、オフラインネットワーキングに近い感覚でコミュニケーションができることもあり、ファイナリストと審査員をはじめ参加者同士の会話も弾みました。

【講評】

小宮山宏
株式会社三菱総合研究所 理事長

社会課題とは、解決が難しいから課題として残っているものであって、そこに果敢に挑んでいる人が、応募総数で150件にのぼっていることを非常に嬉しく思います。また、今回の審査が喧々諤々の大激論となったことも、ある意味大変嬉しいことでした。皆さんは社会課題をビジネスで解決するという大きな目標をお持ちです。ぜひ共にこの大きな目標に取り組んでいきましょう。本当にありがとうございました。

リチャード・ダッシャー氏
スタンフォード大学 
米国・アジア技術マネジメントセンター 所長

まず7人のファイナリストの皆さんに、感謝を申し上げたい。いずれも重要な社会課題を対象にしており、非常に可能性を感じるアイデアでした。特に感心したのが、デザイン思考の最初のステップである、ユーザーへの共感を上手く捉えていたことです。これは、皆さんがユーザーのこと、社会のことをよく考えた結果だと言えるでしょう。ただ、ビジネスの面で成功しなければ、ユーザーに影響を与えることはできません。皆さんはぜひスピード感を持ちながら、最高水準の、ビジネスでの成長を目指してください。

鎌田富久氏
TomyK Ltd. 代表/株式会社ACCESS 共同創業者

7チームいずれも大きな社会課題に挑戦しており、素晴らしいと感じました。今この時点での差が受賞を分けたに過ぎず、今後の皆さんの挑戦する姿勢が何よりも重要だと思います。まだ、ビジネス面での工夫の余地はまだあると感じています。これからも大きな絵を描いてビジネスを進めてください。

椙山泰生氏
京都大学 経営管理大学院 教授

素晴らしいプレゼンを聞かせていただき、本当にありがとうございました。社会課題を起点にしたビジネスの提案で、ご本人の問題として語られた方も多く、そのニーズの切迫性が非常によく感じ取れ、魅力的でした。社会課題の解決というと、具体的な解決手段と本当に解決しなければならない問題が必ずしも一致しないことが多いのですが、最優秀賞を受賞されたAC Biodeはその点で一歩前に出ていたことが評価されたと思います。逆に言えば、他の方々との違いは、その点に過ぎないということでもあります。今後もさまざまな社会課題解決に取り組み、ビジネスを成長させていって欲しいと思います。

村上清明
株式会社三菱総合研究所 常務研究理事

ファイナリストの皆さん、おめでとうございました。お疲れ様でした。どの発表を聞いてもワクワクさせられ、実現すれば今とはまったく違う社会が実現されるだろうとの期待を持ちました。皆さんには頑張っていただきたいと思いますが、既存産業を壊して、新しいビジネスモデルや市場を創出していく、点を面にしていくためには、新たな社会制度を作るといったことも必要になるだろうと思います。そういった面で、三菱総研を使い倒していただきたい。ぜひ一緒に未来を共創していきましょう。

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