株式会社三菱総合研究所

Business Acceleration ProgramMarch 31, 2021INCF Business Acceleration Program 2019 最終審査会 イベントレポート

2019年9月6日に、大手町のGlobal Business Hub Tokyoにて「INCF ビジネス・アクセラレーション・プログラム 2019」の最終審査会を開催しました。

「ビジネス・アクセラレーション・プログラム 2019」では、INCFが注力する社会課題6領域「ウェルネス」「水・食料」「エネルギー・環境」「モビリティ」「防災」「教育・人財育成」を中心に、革新的技術を活用したビジネス案を幅広く募集しました。

当日のコンテストでは、応募総数124件のなかから、書類審査とプレゼンテーション審査を経て選出された7チームのファイナリスト(ウェルネス4、水・食料1、エネルギー・環境1、複合課題1)がプレゼンテーションを行いました。当日は白熱したピッチが行われ、国内外の有識者・専門家5名(INCFアドバイザリーボードメンバー)による厳正な審査の結果、最優秀賞、三菱総研賞、特別賞を決定しました。また、ファイナリストとは別に、技術やビジネスモデルに優れたサービスを提案した2チームを「奨励賞」として選出し、事務局より表彰を行いました。

ファイナリスト・奨励賞受賞者および審査員は以下の通りです。

審査員

審査委員長
小宮山 宏
株式会社三菱総合研究所 理事長
リチャード・ダッシャー氏スタンフォード大学 米国・アジア技術マネジメントセンター 所長
鎌田 富久氏TomyK Ltd. 代表/株式会社ACCESS 共同創業者
椙山 泰生氏京都大学 経営管理大学院 教授
宮城 治男氏NPO法人 ETIC. 代表理事

<最優秀賞>

「カラダが不自由な人が諦めなくて良い社会を作る」
株式会社アクティベートラボ

カラダが不自由な人が諦めなくて良い社会を目指し、障がい者支援マーケットを創出していく。まずは、障がい者雇用事業に力をいれる。

提案者自身が10年前に脳出血で倒れ、4年半のリハビリの末、障がい者雇用を行う企業に採用された。そこで、障がい者雇用の現状を目の当たりにしたことがサービス起案のもととなる。障がい者雇用は法定雇用率を満たすだけのものが多く、未達成率も非常に高い。

しかし、障がい者の適性を会社が理解し、その人の適性にあった仕事を与えることで、義務的な障がい者雇用から「戦力」としての障がい者雇用を実現することができる。会社の生産性が劇的に向上する可能性も秘めている。

現状、障がい者向けの職業マッチングサイトや合同説明会、エージェントにおいてもミスマッチなマッチングが多いため、採用企業にその人の障がいを理解してもらうことを可能にするAIエンジン開発に着手した。企業には、障害の部位や原因、程度によって異なる障害情報、ジョブディスクリプションを掛け合わせた相関性マッチングアルゴリズム「ブイくん」(特許取得)を活用して、障がい者が本当に「できること」を分析し、マッチングサイトを通して提案できるようにする。障がい者の対象は、身体、精神、発達、知的障がい者すべてとしている。

さらに今後の事業展開として、障害の部位や原因、程度によって異なる様々な悩みを解決すべく、相関性マッチングアルゴリズム「ブイくん」と既にサービス提供を始めている障害者が集うことのできるSNS「Open Gate」を中心に、便利ツール、住まい、学び、遊びなど、雇用以外にも障害者支援マーケットを拡大していく。

<三菱総研賞>

「義足ユーザーのモビリティを一変させるロボティック義足」
BionicM株式会社

昨今、糖尿病の増加等により下肢切断者・義足利用者が増え続けている。しかし、日本・アジアに義足の有力メーカーは存在せず、欧米のトップ3社が世界で約70%シェアを持つ寡占市場であるため、価格・機能的な競争が進みにくい。また、現在、市場に流通している99%の義足は動力を持たず、「階段を交互に上がれない」などの不満を感じているユーザーが多い。さらに、下肢切断者の7割は高齢者であり、筋力の低下により義足を付けることさえできない方が車いすや寝たきり生活を強いられることも多い。そのため、健康寿命の短縮や介護保険の負担も大きい。

これらを背景に、BionicMは、アジア発ロボットメーカーとして、下肢切断者のQOLおよびモビリティの向上を目指して、義足ユーザーの動作をサポートするパワーアシスト付きロボット義足を開発した。様々なセンサーやモーターを義足に搭載し、独自の機構・制御アルゴリズムによって足の動きを忠実に再現することで、自然で美しく歩くことを可能にした。

また、個々人に合わせた特徴を機械学習させることで、使えば使うほどその人にあった義足になるよう、開発を進めている。さらに、これまで義肢装具士の経験に頼っていた定性的な義足調整が、今後はセンサーから得られた定量的データに基づく効率的な義足調整が可能となる。これら義足の制作は、各人のモビリティ向上だけではなく、雇用機会の確保や医療費・国の財政負担削減などにも貢献できる。今後は、海外での展開を見据え、まずは、中国からはじめ、欧米での展開を目指している。

<特別賞>

「あの川の未来を創る遊漁券オンラインシステム「フィッシュパス」」 
株式会社フィッシュパス

日本の河川は全国830の漁業協同組合によって維持・管理されているが、経営不振が続くことにより美しく豊かな河川の喪失という課題に直面している。経営不振の理由の一つに「遊漁券」の未購入問題がある。釣り人の半数以下しか遊漁券を購入しておらず、全国で年間25~30億円の損失が発生している。しかし、だれもが無許可で釣りを楽しもうと目論んでいるわけではなく、購入場所や時間帯に制限があるため、遊漁券が入手困難な状況がある。

そこでフィッシュパスでは遊漁券オンライン販売システムを搭載したアプリ「FISH PASS」を開発した。このアプリを提供したことにより、遊漁券購入は、県外からが89%を占めること、また17時~翌朝8時という地元販売店が営業していない時間帯の購入が85%を占めることがわかった。アプリ経由の購入であっても、販売者はあくまで地元販売店であり、既存の販売店の売上となる。このアプリ導入により全体の遊漁券売上げが1年で148.8%増加した。

さらに、GPSを使って漁業協同組合の管理業務の効率化を進め、地域情報の発信や、安全防災システムも導入。安全面では、損保ジャパン日本興亜と提携し、釣り人向け保険である「フィッシュパス保険」も提供している。
川を舞台にICTによるイノベーションを起こし、人が集まる場を創ることで、地域経済にも貢献していく。

<ファイナリスト>

「農業フランチャイズモデル「LEAP」」
seak株式会社

seakが提供する「LEAP」は、農業未経験者や企業が初期費用をかけずに先端施設園芸にすぐに参画できる農業モデルである。農業経営に必要な農地開拓、資金確保、施設構築、栽培、販売を一括パッケージとして提供し、初期投資不要、農業経営における最低限の所得保証を目指す。

日本の農業は、一部の高収入農家とそれ以外とで、極端なロングテールを描く実情がある。そのテール部分は平均時給450円以下と極めて生産性が低い(seak調べ)。この課題を解決するため、生産性の高い農業に着目することで、農業全体の生産性向上を目指す。

具体的には、農業就業希望者に「ハウス」「マテリアル」「システム」を提供する。独自仕様であるビニールハウス、潅水設備、センサー群、インフラをセットにしたハウス一式と自社で生産・調達している苗と土の袋、肥料を提供。これらにより、栽培を始める初期条件を一律にしてスタートすることが出来る。

そして、「システム」として、ハウスや農業従事者から得られる4つのカテゴリのデータを統合・分析し、栽培へのアドバイスをする。これらにより、トップティアの栽培技術を構築し、日本の先端栽培実証研究と比較して1株当たりの収穫量150%を達成した。

さらに優良品廉価主義として「①良い品質」「②早く」「③お求めやすい」を謳い、収穫後その日のうちに取引先に届けるなどの努力により、スーパーマーケットなどでの取り扱い実績を伸ばしている。

今後は市場の大きなアジアなどにエリアを広げ、ASEAN諸国との提携等により、農村開発のインフラ投資の観点から、本技術の輸出を目指すとともに、扱う品目の拡大、取得データの拡張により、いずれは食全体のデータバリューチェーン構築を目指していく。

「DualPore技術による低濃度残留金属の高速リサイクル事業」
株式会社ディーピーエス

「都市鉱山」に含まれる回収困難な低濃度残留貴金属・重金属を効率的に回収することを可能にする技術が弊社独自開発の「DualPore」である。DualPoreには“貫通孔+細孔”のデュアル構造で、粒子のすみずみまで速やかに灌流し、吸脱着などの性能を高度化することと、DualPore構造により、従来粒子に比べ粒子径が3倍以上大きくても高性能を発揮することの2つの特徴がある。また、DualPore吸着剤をつかえば、これまで濾過精製が困難だった有機化合物などの高粘度試料も、簡単に高純度化できる。

DualPoreは、貴金属や、レアメタルを高速回収しリサイクルする分野、環境に有毒な物質の対応、あるいはゼロエミッションへの取り組みにも有効である。

また、高純度化ニーズとして、安全な医薬品の製造や、高純度化が高性能化に直結する半導体や有機EL、あるいは高性能電池などの材料分野が考えられる。提案するビジネスモデルは、ターゲット顧客の既存金属回収技術を活用しながら、回収しきれなかった部分をDualPoreで回収するモデルであり、従来技術と競合関係にならないことがポイントである。

DualPoreは、構造的にはユニークであるが、シリカというシンプルなマテリアルを用いる。このマテリアルを活用し、資源リサイクルを進めることで、鉱物資源の少ない日本を資源循環型の資源大国にしていく。

「継続的に複数バイタルデータ取得実現によるイノベーション」
株式会社クォンタムオペレーション

代表の加藤氏は、出身地である夕張における医療現場の現状を目にしたことで、遠隔での治療や未病対策が必要だと思い立ち、心電、血圧、睡眠、ストレス等のデータを取得できるウェアラブルウォッチ型バイタルデータ取得センサーを開発・製造し、医療機器認定取得を進めている。さらに、健康や治療に非常に重要な血糖値を測定可能な次世代バイタルバンドの開発を行っている。通常、血糖値計測には、針を刺したり、時間管理をしたりせねばならないなどの困難が伴い、患者の負担が非常に大きい。そこで、非侵襲でかつ、意識しなくても常時計測可能な血糖値取得センサーを実現するのが、クォンタムオペレーションのイノベーションの一つである。

通常、針無しでの計測には、光を通すためのレーザーが使用されるが、小型化が難しい。同社は独自の回路設計ノウハウにてレーザーを使わずに強い光を発光する回路を構築し、省電力・小型化を実現した。また、中国・深圳の海外企業を束ね、深圳サプライチェーンをコントロールすることで、高品質で通常より安価、小ロットでのスピード生産を可能にした。そして、大学や病院との連携によって学術的な知見の取り入れと臨床により、データ精度を担保し開発を進めている。

今後はデータプール事業者等とのアライアンスや業務提携を行いつつ、生活習慣病患者やその予備軍を救うとともに、オンライン医療の推進=生活者に向けたパーソナルな健康管理の仕組みの構築と浸透の実現を目指す。

「カイコによる医薬品タンパク質の開発」
KAICO株式会社

KAICOでは、4500年前から家畜化され、繭から糸を取ることを目的とされていたカイコを、医薬品・ワクチン製造に役立てる。人と物の移動がグローバルになっている現在の世界では、パンデミックや未知の疾病の感染への恐れも高くなっている。しかし、現在のバイオ医薬品・ワクチンの製造技術では多くの人々へ供給するために、試験管レベルの研究から大量生産まで、通常1年以上かかるのが現状である。一方で、カイコを活用することで、1つのカイコがバイオリアクターの役割を果たし、カイコの数を増やすだけで、短期間で大量生産を可能とする。条件が整えば3か月で薬を届けることも出来る。

コア技術は、目的タンパク質の遺伝子を挿入したバキュロウイルス(特許取得)をカイコ体内に入れ、そこでタンパク質を発現させ、カイコから体液を採取し精製して目的タンパク質を取得する技術である。活用するカイコは、九州大学で代々飼育されているもので、ウイルス感受性が高い系統が残存していたため、事業化に適していた。

カイコに馴染みがないのがこれまでの医薬品・ワクチン市場であるが、カイコに特化したCDMO(医薬品製剤開発・製造支援事業)を行い、「試薬」「ワクチン」「診断薬」などの受託発現サービスから市場探索をしていきたいと考えている。現在は、研究用試薬の販売を進めており、今後は、「動物用ワクチン」「ヒト用ワクチン」などの開発、商品化を進めていく。
マラリアやHIV以外にもWHOの指定した18種の感染症疾患「顧みられない熱帯病」の患者数は1年に15億人超に上っているため、こうした人々を救うためにも、カイコを通じた新薬の開発をより加速させていきたい。

<奨励賞>

日本産農産物の生産、海外輸出、販売にかかる業務
日本農業株式会社

日本産農作物の輸出を生産から販売までトータルコーディネート。海外市場と農家の間に立ち、輸出向け農作物の生産指導・認可取得支援等を実施。併せて独自の農地を保有・運営し、自社の日本産りんごブランド「ESSENCE」を海外にて展開している。

がんゲノム医療のAIソリューションChrovis
株式会社テンクー

がんゲノム医療のAI製品CHROVIS(クロビス)を、実際の臨床現場にて展開し事業を行う。最先端の情報技術を用い、患者のがん組織を次世代シークエンサで読み取ったデータを自動的に解析し、品質評価とともに遺伝子変異を検出。知識データベースを用いて遺伝子異変に臨床的意義づけをし、薬剤や治験の情報と結び付け、医師向け、患者向けのレポート作成を行う。

審査員コメント


小宮山 宏

ビジネスアイディアコンテストの時から数えて5回目となり、全体的に随分レベルが上がっていると感じました。非常に激戦でした。社会課題の解決は、ひとつのビジネスで達成できるものではない。たくさんのビジネスが生まれ、既存のビジネスに影響を与えることで、ようやく最後に社会全体として課題解決していくのだと思う。今後もINCFのなかから、多くの素晴らしいビジネスが生まれることを期待します。

リチャード・ダッシャー氏

すべてのファイナリストに賞を差し上げたいほど、皆さん素晴らしい提案でした。いずれも社会問題をよく把握しており、熱心に解決しようとする姿が魅力的でした。今後、皆さんのさらなる成功を期待しています。

鎌田 富久氏

7組のファイナリストが提案するビジネスはいずれも素晴らしいものでした。審査員の立場では、売上げの増大や大きな市場への参入などに言及してしまいがちですが、実際のビジネスの成否を決めるのはユーザです。まず、目の前の一人を笑顔にすることが大切です。それが出来てこそ、さらなる事業のスケールアップが見えてくるものだと思います。ぜひ、目の前の一人、身近な人々を笑顔にすることを目指してがんばっていただきたい。

椙山 泰生氏

非常に素晴らしいプレゼンばかりでした。その中で、社会課題とスタートアップのビジネスの関係は、ニーズとソリューションの距離が近いと、より具体的な社会課題解決につながっているという印象を持ちました。その距離を埋めるものは、スタートアップの経営者が、社会課題を自分事としてとらえ、且つ、本当に解決すべき課題として特定化されたものであるかだと感じています。この最終審査会での評価だけがすべてではありませんので、今後、各社、強みを一層伸ばしていってほしいと思います。

宮城 治男氏

皆さん、それぞれ素晴らしい事業を紹介してくださいました。受賞に至らなかった方々も大きな可能性を持っていると思います。もし受賞を逃し、悔しい思いがあるとしたら、それを糧に是非今後も頑張ってください。これまで25年以上もの間、スタートアップに携わる仕事をしていますが、人やお金の流れが変わってきている気がしています。成功の有無にかかわらず、一緒に解決したい、実現したいと思わせるビジネスに資源が集まる時代になってきました。今後も勇気をもってチャレンジしてください。

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