2017年9月15日、グローバルビジネスハブ東京(東京都千代田区)にて「INCFビジネスアイデアコンテスト2017 最終審査会〜エネルギー・環境/水・食料」を開催しました。
今回は「エネルギー・環境」と「水・食料」をテーマに設定。それぞれの領域で4つのサブテーマ(※)を設定し、これらを解決する革新的な技術やビジネスモデルを活用したアイデアを幅広く募集しました。
※「エネルギー・環境」のサブテーマ:多様なエネルギー供給イノベーション/省エネイノベーション/熱エネルギー活用の効率化イノベーション/マテリアルのライフサイクルイノベーション
「水・食料」のサブテーマ:安全・安定的な食料の供給イノベーション/食料の効率的な生産・供給イノベーション/タンパク質の供給イノベーション/効率的な水利用手段開発のイノベーション
コンテスト当日は、応募数94件の中から選出されたファイナリスト(最終審査会進出者)7チーム(そのうち、エネルギー・環境が3チーム、水・食料が4チーム)が最終プレゼンテーションを実施。INCFの取り組みにご賛同いただいている国内外の有識者・専門家5名による厳正な審査の結果、敢闘賞、三菱総研賞、最優秀賞を決定しました。
なお、審査員は以下の通りです。
審査員
審査委員長 小宮山 宏 | 株式会社三菱総合研究所 理事長 |
リチャード・ダッシャー氏 | スタンフォード大学 米国・アジア技術マネジメントセンター 所長 |
稲蔭 正彦氏 | 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 委員長 兼 教授 |
鎌田 富久氏 | TomyK Ltd. 代表 (株式会社ACCESS 共同創業者) |
椙山 泰生氏 | 京都大学 経営管理大学院 教授 |
最優秀賞
『持続性の高い高収益農業を定着させるプロジェクト』(水・食料) 株式会社プラントライフシステムズ
農業の収益性は依然として低く、担い手の高齢化や人手不足が社会問題となっています。収益性を上げるために農薬の使用や遺伝子組み換えを行えば、農地の荒廃や消費者の安心・安全を損なう可能性があります。また、生産量が増え過ぎれば安く買い叩かれます。
持続性と収益性を両立させる農業の実現のため、自動車の制御技術を駆使し、農作物の栽培・流通支援を最適化するシステムを確立しました。具体的には、ADAS※1やAI、光学センサー、ICT等を駆使して農作物のデータを簡易に収集し、高品質な農作物を適量生産するための最適なサイクルを構築します。さらに、農作業者が次に行うべきタスクをシステムが自動で導き出すことで、従来の3倍の収穫量、糖度1.5倍のトマト生産が可能になります。このシステムを、国内および海外に展開します。
※1:Advanced Driver Assistance Systems/先進運転支援システム
三菱総研賞
『次世代育種法による畜産業イノベーション』(水・食料) 株式会社セツロテック
敢闘賞
世界的な食糧問題・タンパク質不足を解決するために、遺伝子情報を書き換える「ゲノム編集育種法※2」による、“早く育つマッチョな豚”をつくる取り組みを行っています。エレクトロポレーション法を用いた簡易な手法を2015年に開発し、多品種・大量生産、機械による自動化が可能な育種・生産方法を考案しています。
※2:CRISPR/Cas9によるゲノム編集を実施
※3:マイクロインジェクション法
この技術は、マッチョ豚以外にも、病気に強い豚、肉質や風味が独特の豚など様々な種類の生産が可能になります。畜産以外では創薬分野で活用され始めており、今後は繊維業界、水産養殖業界、ペット業界など、幅広い領域への展開も考えています。なお、我々の手法は遺伝子組換え食品のように外来遺伝子を用いるものではなく、従来の育種法に近いものです。緻密なマーケティングを行うことで、消費者からの理解も得たいと考えています。
『障害者によりタイルカーペットを再生し、長寿命化を図る事業』(エネルギー・環境) 一般社団法人日本カーペットタイルリセット協会
日本では年間10万トンのタイルカーペットが廃棄され、LCA換算で約18万tのCO2排出、約1200億円の廃棄コストが掛かっています。これらの負荷を抑制・軽減するために、廃カーペットを再生する独自の洗浄技術を開発しました。
従来の日本のカーペット洗浄は、床に設置された状態で大量の洗剤を使ってブラッシングし、すすぎ洗いで汚水を回収していますが、汚れは十分に取りきれていませんでした。そこで、カーペットを1枚ずつ剥がして丸洗いをする「リセット施工」という技術を開発しました。この手法は洗浄力が高く、新品同様に再生でき、長寿命化することができます。また、廃棄が減ればCO2排出量も減り、最大で800億円のコスト削減が可能になります。
また、リセット施工は中程度知的障害者の方も取り組める作業のため、約3万人の障害者の雇用を創出が可能になります。
ファイナリスト
『レイバードローンによる送電線の自動点検システム』(エネルギー・環境) 株式会社スペースエンターテインメントラボラトリー
国内には10万km以上の送電線が存在しており、保守点検には大きな危険と莫大なコストが掛かります。インフラの老朽化が進む中、保守点検業務にレイバードローンを活用し、安全性の向上と省力化を目指します。
我々の考案するレイバードローンは送電線を掴まえてぶら下がることで電力消費を抑え長時間の作業が可能になります。また機械学習を活用することで、送電線の劣化状況の詳細な検査を可能にします。点検に必要な人員と時間の削減、事故による死亡リスクをゼロにするとともに、年間440億円かかる保守点検コストの20%が削減可能になります。将来的にはドローン物流や災害現場での活動、ワイヤレス給電の実現など、様々な分野での適用を構想しています。
『産業廃棄物から有価金属と電力エネルギーの回収販売事業』(エネルギー・環境) ジグエンジニアリング株式会社
日本のゴミ処理場には金が6,800t、再利用が可能なプラスチックが東京ドーム4杯分埋められています。これらの選別は困難であり、廃棄もしくは中国に売却されています。
そこで、金属やプラスチックの選別回収を可能にする比重選別機を開発し、自然破壊をせずに安全かつ低コストで、埋蔵された有価資産の再活用が可能にしました。現在は、家電向けの小型機(300kg型)と、産業廃棄物向けの大型機(6t型)を販売予定です。今後は、埋蔵された金の1%を5年後に、3%を8年後に出荷することと、廃プラスチックから水素ステーション用のガスを作り出すことを目標に、低炭素社会の実現に貢献したいと考えています。
『植物の声を聴く、植物生体情報プラットフォーム PLANT DATA』(水・食料) PLANT DATA株式会社
食糧生産大国であるアメリカの土壌劣化や、バナナの生産が世界的な壊滅状態にあることなど、現行の食料生産体系は持続可能ではありません。こうした問題に対し、光合成の機能を評価するクロロフィル蛍光計測や、光合成蒸散速度のリアルタイム計測、作物の生育状態を見える化する生育スケルトンなどのソリューションを展開し、収量増加やより作業の効率化を実現するサービスを提供しています。将来的には農業だけではなく、藻類の光合成機能を評価や、医療用タンパク質の生産への進化も目指します。
『21世紀の品質管理ツール「スマートQC」で食品事故をなくす!』(水・食料) ユリシーズ株式会社
温度記録の管理は、食品製造現場における重要業務のひとつです。この作業は紙とペンで行われ、膨大な帳票は1年間の保管が必要です。また、日本語の読み書きができない外国人労働者が増え、2020年にはHACCPの義務化も始まります。食品製造現場の責任者に掛かる負担が一層重くなる中、食品製造の品質管理を劇的に楽にするクラウドサービス「スマートQC」を開発しました。
このサービスでは、センサーで計測した各種温度をスマホやタブレットで管理します。現時点では帳票管理と温度管理から始めており、将来的にはHACCPマネジメントや従業員管理、細菌検査などの機能も搭載し、食に関わるあらゆる事業者にソリューションを提供していきます。
審査員コメント
小宮山 宏
今回のコンテストは非常に激戦でしたが、最終的には全会一致で最優秀賞が決まりました。収量を増加させて世界の食糧問題の解決に貢献できることと、糖度を上げて美味しいトマトを作れる点が魅力的であり勝因となりました。自動運転に関する技術を十分に活用し、いいビジネスに育てていかれることを期待しています。
稲蔭 正彦氏
大学で社会課題の解決をテーマにお題を出すと、リアリティがないプレゼンに陥りがちです。本来の社会課題解決はリアルな出発点からスタートすることが大事だと思っています。その意味でユリシーズは、自身の経験から食品業界が持つニーズを的確に把握し、それを解決するためのサービスを提供したいということが伝わるプレゼンでした。今後はより多くの人の課題解決につなげるための視点を持つと、プロジェクトとしてさらなる成長が期待できると思います。
鎌田 富久氏
こうしたコンテストでは優勝しなかったチームが大化けすることが往々にしてあるので、結果自体は気にされる必要はないと思います。大事なのはスタートすることです。いきなり大きな社会課題を解決することは難しいと思いますが、スタートしなくては解決することはできません。スタートアップ企業にはそのことを意識して、これからも頑張っていただきたいと思います。
椙山 泰生氏
社会課題の解決を考える際、本当のニーズとは何か、ニーズに対してそのソリューションはどこまで真に迫ることができるかが重要だと考えています。今回のコンテストはややテクノロジーが先に来ているものが多かった印象です。テクノロジーが社会課題解決にどう寄与するのかという点が前に出てきた方が、ビジネスとして成立しやすいのではないかと感じています。
また社会課題を解決していく上で、制度や既存事業の壁をどう超えるかが鍵になります。INCF主催の三菱総合研究所に手伝ってもらいながら、壁を乗り越えて行っていただきたいと思います。
リチャード・ダッシャー氏
シリコンバレーでもこうしたコンテストは頻繁にありますが、今日のプレゼンテーションはみな高度で非常に好印象を受けました。
今いる分野から新しい分野にアイディアホッピングすることは非常に有益なことです。その意味で、都市鉱山という社会問題から新たなゴミ処理手法を考え出したジグエンジニアリングはとても印象的でした。
今日登壇したファイナリストの皆さんがこれからも頑張っていかれることを期待しています。