株式会社三菱総合研究所

Business Acceleration ProgramJanuary 05, 2022ICF Business Acceleration Program 2021
最終審査会 イベントレポート

「ICF Business Acceleration Program 2021」最終審査会を、12月10日(金)に開催し、7社のファイナリストから最優秀賞、三菱総研賞2賞(未来デザイン賞、未来パートナー賞)、オーディエンス賞を決定し、表彰しました。

今回は「ニューノーマル」と「行動変容」をテーマに、社会課題解決に取り組むスタートアップを募集。126件のエントリーがあり、書類審査・プレゼンテーション審査を通過した7社が2カ月のメンタリングを受け、最終審査に臨みました。未来共創本部長の須崎彩斗は冒頭挨拶で、今年の応募企業の傾向として「事業性、社会インパクトの点で非常に高いレベル」にあったと指摘。また、「アフターコロナ、ウィズコロナが見え始めた時点での募集開始であったため、その意味でも新しい社会を見据えた提案が多かった」と述べました。

今年の審査会は、リアルとオンラインのハイブリッド開催となり、現地会場、オンラインともに多くのみなさまにご参加いただきました。

審査員

最終審査員は以下の通りです。

審査員長
小宮山 宏
株式会社三菱総合研究所 理事長
リチャード・ダッシャー氏スタンフォード大学 米国・アジア技術経営研究センター所長 ※
鎌田 富久氏TomyK Ltd. 代表、株式会社ACCESS 共同創業者
椙山 泰生氏京都大学名誉教授/椙山女学園大学 現代マネジメント学部教授
校條 浩氏NSV Wolf Capital マネージング・パートナー ※

※はオンライン参加

【最優秀賞】

「声によるメンタルヘルスの高頻度データとプラットフォーム構築」
リスク計測テクノロジーズ株式会社 代表取締役 岡崎 貫治氏
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私は、長年リスクマネジメントに携わってきましたが、近年「定量化できないリスクに対するニーズが高まっている」と感じるようになったことが、当社設立の契機になっています。うつ病に限ってもその経済的損失は日本全体で年間2兆円にも及び、その傾向はコロナ禍で加速しています。

当社が提供するのは、メンタルヘルスリスクを可視化するソリューション『Motivel』です。緊張していると声帯が固くなり声が出にくくなる、感情の起伏が大きいほど精神的には健康で、それが声に現れやすいといった声の特徴から、わずか5秒の「声」のデータでメンタルヘルスを計測します。なお、アプリ上ではモチベーションの形でアウトプットしています。

日々のリラクゼーションやパフォーマンス向上を求める個人、医療・介護、ドライバー、建設などのミッションクリティカルな業務に従事するスタッフを抱える業界の法人を主なユーザーに見込みます。競合サービスと比較し、非常に安価にサービスを提供できる点も強みです。

個人向けのサービスとしてアプリをローンチしたほか、法人向けの利用やAPIでの提供も行っています。今年11月からは病院やコワーキングスペースなどでの実証実験に着手しています。当社の声による計測実績は4万を超え、ユーザー1200名以上の実績を上げています。今後は、モチベーションを回復させるソリューションを持つ企業とのアライアンスを進めるほか、GRC(Governance, Risk, Compliance)プラットフォームの構築を目指します。

当社は、世の中のリスクへ包括的に対応するプラットフォーム構築を目指します。最終的には、企業組織のコーポレート部門で、リスク管理、コンプライアンス、ガバナンスなど内部統制に関わる皆様方の業務をサポートするプラットフォームに拡げていきたいと考えています。

【三菱総研賞 未来デザイン賞】

「マイクロ波による産業電化・カーボンニュートラルの加速」
マイクロ波化学株式会社 事業開発リーダー 亀田 孝裕氏
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当社は、決め手となる技術に欠け、脱炭素化が進まないとされている産業部門の電化に大きく貢献するベンチャーです。かつては実現不可能と言われた工業レベルでの大規模なマイクロ波利用を実現し注目を集め、現在では、化学メーカー、医薬品製造、ケミカルリサイクル、石油化学分野などさまざまな分野の企業で同社のソリューションの導入が進んでいます。これまでは、完全オーダーメイドでパートナー企業ごとにソリューションを開発してきましたが、今後は培った基盤技術をもとにセミオーダー型の開発を進め、事業のスケール化、産業の電化を加速させたい考えです。

さらに、温暖化ガス削減による環境価値を定量化し、クレジットとして流通させる新事業にも取り組みます。マイクロ波の導入は、事業者に経費節減という直接的な価値をもたらしますが、温暖化ガス削減という環境価値は事業者にとって明確なメリットにはなりにくいのが現状です。そこを定量化・クレジット化し、事業者に還元する仕組みです。

当社では還元されることで、事業者が温暖化ガス削減に向けて強いモチベーションを持つことが重要であると考えており、それがひいては、産業界全体のイノベーションを促進し、日本の産業界の強靭化につながると考えています。

【三菱総研賞 未来パートナー賞】

「リモート環境でのスキルアップアルバイト事業」
TRUNK株式会社 代表取締役社長 西元 涼氏
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当社は2017年の第3回BAPに続く2回目の出場となります。前回登場時は資金調達の段階でしたが、その後順調に事業を展開し、現在では大手企業との連携・協業を進めています。

当社の提供するプラットフォームサービス『Workschool』は、学生、企業双方に解決策を提供するソリューションです。学生には、アルバイトに必要なスキルを学ぶオンライン講習を無料で提供。学習ログによってスキルアップは可視化され、仕事に必要なレベルに達すると自動的にエントリーされる仕組みです。経済的に困窮している学生でも新しい学びを得ることができ、アルバイトとして稼ぎながら業界を体験することで、将来的なミスマッチを減らすことにもつながります。企業側に対しては、人事の手を煩わせずに必要な要件を取りまとめ、一定の応募数を確保することを可能にします。求人に必要なプロセスをWorkschool側が担うことで、人事の負担が大幅に減ることになります。

すでに数百にのぼる学習コンテンツ、1万人以上の学生ユーザーを有しており、大手企業との連携も進んでいます。今後、webバックエンドエンジニアやデータサイエンティストなど「人が足りていないが、未経験者は採用が難しい」IT業界を中心に市場を拡大していきたい考えです。また、経済・地域格差の解消、就職活動のミスマッチという課題に加え、今後は「人生100年時代のジョブチェンジ」も目標に掲げ、社会人の副業などに向けたサービス展開を検討していきます。

【オーディエンス賞】

「未来型救急情報サービスSmart119による救急搬送の効率化の提案」
株式会社Smart119 代表取締役 中田 孝明氏
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救急搬送を含む急性期医療には、救急件数の増加、病院到着時間の増加など多くの問題が生じており、効率化が喫緊の課題です。当社は2016年に採択されたAMED研究開発事業の成果を活用し、2018年に学内ベンチャーとして設立、サービスを立ち上げました。

「Smart119」は、救急医療現場の効率化・最適化を図るためのSaaS型サービスで、救急隊活動で利用されます。音声入力システム、リアルタイム情報共有により、現場での連絡や報告にかかる時間を大幅に短縮。また、「予測診断/AI救急支援」は、現場での診断精度を上げます。これは専門病院の問診、診断データをもとに構築されたアルゴリズムで、症状・バイタルサインなどの患者の情報、気温などの気象条件から、精度の高い診断を確率とともに提示するものです。さらに、現場で取得された情報は報告書作成にも転用され、現場の労力を大幅に削減します。

また、住民側のインターフェイスとして個人向けのアプリも開発中です。普段使いもできる汎用性の高いサービスであり、救急現場では既往歴、服薬状況、入院歴などが瞬時に共有され、リスク低減やタイムロスに役立ちます。

Smart119は、2019年の千葉市での試験導入を経て、同市で2020年7月から本運用が開始。現在では北海道、山梨県での実証実験が今後始まるなど、認知度も高まり、自治体への導入が進んでいます。

【ファイナリスト】

「更年期女性健康啓発+データ収集=ビジネス創出+労働生産性向上」
合同会社サンク・サンク 代表社員 手塚 美幸氏
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当社は、女性の更年期に伴う経済的・社会的損失の解決を目指すソリューション「カンテラ」を提供します。

カンテラは「更年期研修・保健師面談」「更年期特化型ヘルスケアアプリ・メディア」「閉経自己検査キット」を3本柱にしたワンストップサービス。「誰も本当のところは分からない」と言われ、症状があっても「一過性のものだから」と我慢してしまう更年期症状に対し、各種サービスを通して正確な情報提供を実施し、啓発を行います。更年期特化型ヘルスケアアプリ・メディアでは、更年期に深く関係する「食」「運動」「睡眠」「月経」の情報提供と個人の記録の取得、管理を行います。取得した情報は、よりパーソナライズされたサービスの提供に利用していきます。そして、誰もが正確な閉経時期を知らないという大きな問題に対して、「誰にも知られず」「使いやすく」「痛みのない」閉経自己検査キットを産学連携で開発する予定です。

まずは、『メノ活』(月経=menopause(英)にちなむ)という言葉で、更年期へのポジティブな活動を普及させ、特に女性比率が高く、女性管理職登用に積極的な企業、健康経営に意識の高い企業に向けてサービス導入を図っていきます。

「肉牛の画像解析とデータベース化と畜産プラットフォームの構築」
株式会社MIJ labo 代表取締役 鹿野 淳氏
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当社は、牛肉の質を定量的に測定するシステムを提供する帯広畜産大学発ベンチャーです。枝肉の切り込みからロース芯における霜降りの入り具合を示す「牛脂肪交雑基準(BMS)」を測定し、牛肉の格付を適切に行うシステムを提供。測定データ、格付情報はクラウドにアップされ、リアルタイムに共有が可能です。

牛肉の格付は、格付員による目視のためにばらつきもあり、豪州の格付では、本来同じ質の肉でも価格差では3倍の差になることもあります。MIJ laboのシステムを導入することでそのばらつきを抑え、適切な格付と値付きが可能になります。2021年5月にはオーストラリアの枝肉格付機関「AUS-MEAT」により、BMS 0~9+すべての範囲を格付できる機器としての認証を受けました。アメリカ農務省への申請も行っており、認可されれば、牛肉格付けにおける国際的なデファクトスタンダードになると考えられています。

市場規模は大きく、環太平洋だけで、全世界3億頭の過半数、年間1億7千万頭の屠畜頭数があり、現在までに70社を超える解析契約を結んでいますが、2026年までに販売代理店のある各国で、屠畜頭数の25%のシェアを取りたいと考えています。

また、牛肉格付技術の導入は、正確で安定した肉質評価によって生産者への還元を実現するばかりでなく、普及が進めば、流通のデジタル化、さらには牛肉加工・流通の地方分散を可能にします。

「体験から自発的に成長する最適制御AI『SMART MPC』による省エネ化」
株式会社Proxima Technology 代表取締役 深津 卓弥氏
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当社は機械制御の最適化により、主にエネルギー分野での社会課題解決を目指しています。

最適化が難しいPID制御が主流の機械制御で、機械学習を組み合わせた「MPC(Model Predictive Control。モデル予測制御)」を導入したものが「Smart MPC」です。「PID制御よりも賢く、強化学習よりも実用的」な制御を可能にしました。予測に基づいたフィードバックを行うために、短時間で学習が可能、学習データが少なくて済むといった特徴があります。

すでに実運用されている例では、塗装工場の空調設備で電気消費量を抑制し、安定性が増加。起動時間も大幅に短縮。電気料金は1台につき年間100万円の削減となったというケースもあります。また、「最適化」は省エネに限らずさまざまな領域の機械制御に活用ができるため、重工業メーカーのロボットダイナミクスの学習や、医療施設における意思決定支援システム、麻酔・点滴などの最適制御など、多様な業種業界への導入が進み、成果を出しています。

機械制御の最適化は、日本の製造業の電力使用量3%の省エネでも9600億円程度の削減効果があり、ライセンスフィー、保守運用によるマネタイズ、製品の横展開などさまざまな事業展開が期待できます。

【講評】

小宮山 宏(審査員長 株式会社三菱総合研究所 理事長)
多様な視点があって、大変難しい審査となりましたが、それが良かったと感じています。個人的には、畜産業界のDX化に大きく貢献するMIJ laboに期待しています。日本はやはり、農林水産業、一次産業に非常にチャンスがある。今まで工業国としてやってきたために、まだまだ未発達な領域が多いのが一次産業です。担い手不足、DX推進など、さまざまな課題はありますが、これからまだ解決できる余地がたくさんあるということだと思います。当社では、皆さんと一緒に社会課題解決を実現するフィールドを作っていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

リチャード・ダッシャー氏(スタンフォード大学 米国・アジア技術経営研究センター所長)
第1回から審査員として参加していますが、年々応募者の質が上がり、審査が難しくなっていると感じています。今年も7つの素晴らしいピッチを聞くことができ、最優秀賞をひとつしか選べないことが非常に残念でした。ファイナリストの皆さんには、あるシリコンバレーのベンチャーのエピソードを贈りたい。創業してしばらくどこからも出資を受けられなかったが、諦めずに続けてなんとか1年半後にベンチャーキャピタルから投資を受け、事業を拡大することができました。そのベンチャーとはGoogleです。ぜひ諦めずに挑戦を続けてください。

鎌田 富久氏(TomyK Ltd. 代表、株式会社ACCESS 共同創業者)
7社のファイナリストの皆さん、改めてお疲れさまでした。残念ながら賞に漏れた方、本当に僅差でしたので、今後、一層頑張っていただきたいと思います。皆さんすべてが、スタートラインに立ったところです。ぜひICFのパートナーの皆さんと一緒に、新しい共創を生み出して欲しいと思います。また、アクセラレーション期間中にファイナリストの皆さんのメンタリングを実施する機会がありましたが、その時と今回のピッチで、一番進化していたのが、Proxima Technologyでした。個人的にはビフォー・アフター賞をお贈りしたい。ぜひ皆さん、これをきっかけに大きく羽ばたいてください。

椙山 泰生氏(京都大学名誉教授/椙山女学園大学 現代マネジメント学部教授)
7社の皆さん、素晴らしいプレゼンテーションありがとうございました。今回は、どのような視点で評価するかによって、票が割れました。それは、賞の重複があっても良いのにも関わらず、結局全部バラバラになったことからもお分かりいただけるかと思います。社会問題への深堀りの度合い、現時点での事業の仕上がり度、将来の成長性……このような視点だけでも評価が分かれ、難しい議論となりました。

その中で個人的に背中を押したいのが、Smart119です。現在の日本社会の問題に、現場の視点からストレートに解決策を提案している。自治体が調達して終わりではなく、今後、事業としてさらなる進化を遂げることを期待しています。また、サンク・サンクも、未だ解決できていない問題に真摯に取り組む姿勢が非常に素晴らしいと思います。

校條 浩氏(NSV Wolf Capital マネージング・パートナー)
私も受賞された企業とは全然違う企業を推しまして、非常に票の割れた審査となりました。そのバラバラが非常に良かったと思います。個人的には7社全部に優勝を差し上げたい気持ちです。

やはりグローバルという視点が非常に重要だと考えています。インターナショナルという意味ではなく、普遍的という意味でのグローバルです。人類誰もが必要とするニーズというのがあります。一度立ち止まり、そこをしっかりお考えになっていただけると非常に嬉しい。その意味で、Proxima Technologyがグローバルであると感じましたし、マイクロ波化学ももっとグローバルでの成長性が見込めると思います。また、MIJ laboのDXが進まない畜産業界に切り込む点も、非常に素晴らしいと感じました。

本件に関するお問い合わせ

三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:加藤、水田、遠山
E-mail:icf-inq@ml.mri.co.jp

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