「代替肉」とは何か、なぜ重要か
裕福な国で肉類が日常的に多く消費されるようになったのは、比較的最近のことである。これは主に、植物性食品に比べて動物性食品が資源集約的であることによる。特に工業型農業の出現以前は、肉類は高価であり、特別な日の食べ物、あるいは富裕層だけのものと考えられていた。このような理由と、宗教的信念や長年にわたる文化的慣習などの理由から、世界の伝統的な食生活は現代の食生活よりも植物性食品を多く取り入れる傾向にあり、特に高所得国の現在の食生活パターンと比較すると、その傾向は顕著である1。
「代替肉」とは、肉を食べたときの感覚をできるだけ再現することを目的とした、さまざまな食品の総称である。代替肉は、ベジタリアンやビーガンではなく、主に食肉消費者に直接販売されることが多い。主流の消費者層をターゲットにすることで、潜在市場がはるかに拡大するだけでなく、食肉消費量削減を支持する消費者の行動変化により、環境、社会、動物福祉の面でメリットがもたらされる可能性がある2。
代替肉は、ブラックビーンズバーガーなどが代表的だが、もはやそれだけではない。こうした食品は、植物原料で作られているか、本物の動物細胞で構成されているかによって、基本的に次の2つのカテゴリーに分類できる。
植物性肉とは何か
植物性肉とは、その名の通り、植物由来の原料を使用して作られた食肉である。植物性肉にはさまざまな種類があり、本物の肉の味、香り、食感、見た目を模倣するようなレシピでつくられている。植物性肉の中には、ホルモンやコレステロール、飽和脂肪酸といった健康に良くない要素を排除しながら、ビタミンやミネラルを強化し、肉の栄養成分に近づけているものもある。
ビヨンド・ミート社の人気代替肉製品など、多くの製品の原材料には、エンドウ豆タンパク質分離物や緑豆タンパク質が含まれている。どちらも本物の肉と同様のタンパク質含有量を実現するために役立つ3。結合剤と調味料には、ココナッツオイル、ココアバター、レモンジュース、ビートジュースエキスが含まれている。インポッシブル・バーガーは血の滴るような色で有名である。これは、動物性肉に本物の味と香りを与える鉄分「ヘム」の植物性バージョンを開発することで実現された4。
植物性肉のスタートアップ：Novameat
取り組んでいる課題
植物由来の代替肉は、動物肉の食品と同様に高脂肪・高塩分であるという批判が多くある。 さらに、植物性肉と本物の動物肉との味や食感の違いに関する批判も少なくない5。
ビジネスモデル
Novameatは、3Dプリンターを使って肉を製造している。このプリンターのマイクロエクストルージョン技術により、直径100～500ミクロンの繊維が作り出される。これにより、筋繊維と脂肪が絡み合った、本物の肉の複雑な構造を再現できる6。既存の押し出し技術では、他の植物性肉に使われているものよりはるかに大きな繊維が生成されるため、より優れた人工肉を作ることができる。さらに、この技術により、肉の栄養成分を構造レベルで強化できる。
現況
Novameatは、早くも2021年1月に、ミシュランの星付きレストランDisfrutarとのコラボレーションを開始し、スペイン政府から3500万円の投資を確保した。また、世界最大の細胞肉の試作品を作成したと主張している7。
●「3Dプリントで作られたヴィーガンミート～本物のようなおいしさ～」
培養肉とは何か
ここでいう「培養」とは、細胞法または無細胞法を用いて、あらゆる種類のバイオマスを培養することを指す。前者は通常、細胞をクローン化して培養する生体外組織工学に基づいた手法である8。後者は、タンパク質のような細胞内副産物を作り出すために、微生物を遺伝子操作で変化させる精密発酵を主に利用する手法である。精密発酵の産物であるチーズ製造用酵素レンネットは、1990年代からFDAの認可の下で広く利用されており、動物由来の先行品に取って代わった培養製品の代表格である9。
培養肉の始まりは、生きたドナー動物から採取した小さな検体である（通常、動物が痛みを感じないよう、麻酔をかける）。細胞群は、細胞の成長を促す培地に入れられる。そこには、グルコース、アミノ酸、ビタミン、タンパク質など、細胞が生存し増殖するために必要なすべてのものが供給されている。すると、細胞は複製を行い、ハンバーグやチキンナゲットのような塊になる。また、微細構造上に細胞を植えれば、ステーキ肉など、動物の筋肉を模した質感のある製品に成長させることができる10。
培養肉のスタートアップ：Mirai Foods
取り組んでいる課題
実験室で育てられた肉を不快に感じるといった共通の課題に加え、培養肉を受け入れるかどうかには文化的な違いもある。例えば、Mirai Foods（スイス企業）のCEOによれば、ヨーロッパ人は食物の品質、味、健康に対する基準が非常に高く、遺伝子組み換えのものは好んで食べない11。
ビジネスモデル
生身や食肉からサンプルを採取し、脂肪幹細胞や筋肉幹細胞を分離する。これらの幹細胞を、細胞増殖に最適な条件と栄養培地を提供するバイオリアクターに移す。これにより、2種類の細胞が絡み合った状態で採取できるようになり、より自由な培養肉づくりが可能になった11。
現況
現在までのところ、シンガポールは、規制当局が食品安全の観点から細胞培養肉製品を承認している世界で唯一の地域である。2021年3月、Mirai Foodsは2回目のシードラウンドで220万米ドルを調達したと発表し、2021年のシード資金調達額は合計450万米ドルに達した12。
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1 Meat consumption vs. GDP per capita, 2017 (ourworldindata.org), CC BY https://ourworldindata.org/grapher/meat-consumption-vs-gdp-per-capita
2 What Is Alternative Meat and Is It Better for the Environment? (straydoginstitute.org) https://straydoginstitute.org/alternative-meat/
3 Ingredients | What is Plant Based Meat? | Beyond Meat https://www.beyondmeat.com/en-US/about/our-ingredients/
4 Heme, Health, and the Plant-Based Diet | Impossible Foods https://impossiblefoods.com/blog/heme-health-the-essentials
5 Impossible CEO on criticism that plant-based ‘meat’ is unhealthy (cnbc.com) https://www.cnbc.com/2020/07/21/impossible-ceo-on-criticism-that-plant-based-meat-is-unhealthy.html
6 Plant-Based Meat | NOVAMEAT | Barcelona https://www.novameat.com/
7 NOVAMEAT – Crunchbase Company Profile & Funding https://www.crunchbase.com/organization/novameat
8 Overcoming Bias Will Unlock the Cultivated Economy – Stray Dog Institute https://straydoginstitute.org/overcoming-bias-will-unlock-the-cultivated-economy/#_edn2
9 What Is Cellular Agriculture? (new-harvest.org) https://new-harvest.org/what-is-cellular-agriculture/
10 The science of cultivated meat | GFI https://gfi.org/science/the-science-of-cultivated-meat/#:~:text=Cultivated%20meat%2C%20also%20known%20as,by%20cultivating%20animal%20cells%20directly.
11 MIRAI – Delicious meat cultivated from animal cells (miraifoods.com) https://www.miraifoods.com/
12 Swiss cultivated meat start-up raises $2.2m; aims for 2022 product launch (ingredientsnetwork.com) https://www.ingredientsnetwork.com/swiss-cultivated-meat-startup-raises-2-2m-aims-news111405.html
MIRAI FOODS – Crunchbase Company Profile & Funding https://www.crunchbase.com/organization/mirai-foods
