株式会社三菱総合研究所

September 09, 2024第6回プラチナキャリア・アワード 記念シンポジウム(パネルディスカッション)

パネルディスカッション:生成AI時代のプラチナキャリア
~企業価値を向上するための生成AIの活用とは~

パネルディスカッションより

最初にモデレーターの藤本より「生成AI活用を人材戦略へいかに取り込むか、検討の初期段階にある企業が多いように思い本テーマを設定した。生成AI活用によって企業経営はどのように変わっていくか、働き手のキャリア形成はどうあるべきかを皆様と一緒に考えていきたい」と呼びかけ、ディスカッションを進めました。

話題提供「生成AIで変わる働き方と求めるスキル」

三菱総合研究所 執行役員 兼 研究理事 生成AIラボセンター長 比屋根 一雄

生成AIによる変化
生成AIを、いかに道具からパートナーにしていくか。人のパートナーとしてのAIが極めて重要になる。ChatGPTといったAIチャットで個人が日常業務を効率化するところから始めて、社内ナレッジ活用、特定業務に特化した生成AIの活用で「組織知」へと幅を広げ、その先に、新サービスの創出、既存サービスの強化などビジネス変革が起こる。また、業務の効率化、生産性向上により少数精鋭のチームで仕事ができる、一人でマルチに仕事がこなせるなど仕事スタイルに変革が起きる。

生成AI時代のスキル
鍛えるべきは「質問力」「指示力」、そして「評価力」=アウトプットを見極める力。生成AI活用による教育への影響は、学習意欲・思考力の低下などが懸念されるが、前述の3つの力を高めることによって思索、創造力の醸成につなげる教育を重視すべき。リスキリングを含めて重要な点である。

生成AI時代の人間の役割
「従来のAI」は決められた問題解決だけは得意だった。「生成AI」時代は、課題発見と他人を巻き込む課題解決行動が人間の役割となる。

三菱総合研究所 執行役員 兼 研究理事
生成AIラボセンター長 比屋根 一雄

フリーディスカッション

「生成AIは、企業の経営手法にどのような変化をもたらすと思われますか?」「生成AI時代を楽しむためのキャリア形成に必要なことは?」などのテーマについて、プラチナキャリア・アワード審査委員の皆様の多様な観点からご意見、ご提案をいただきました。(以下は各審査委員のご発言要旨・氏名五十音順)

私の専門はダイバーシティ経営。生成AI時代にこそ、キャリア形成にも優秀な人材育成にも「ダイバーシティ(多様な視点)」がますます必要になると思っている。生成AIの「知」を活かして、よりよい物を生み出すには、例えばChatGPTなら、人間が豊かな経験から「良い質問を考える、良い問いを作る」ことが重要。また、AIは過去の偏見も含めて学習して表示するので、結果をバイアスなく対処できる判断力を持つ必要がある。それらに必要なスキルを身につけるには、自らの内側のダイバーシティ(多様な視点)を育むことである。多くの場所に行き、多くの人と会うなど「とにかく興味を持って、体験を増やしていくこと」を推奨する。

株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長
佐々木 かをり 氏

これは自律的なキャリア形成にも有意義だと確信している。ダイバーシティ経営の推進で、企業は自尊心を高めた「個」を活かし、働き手は会社に貢献する意識を強める。この相互の力が大事だと思う。(佐々木氏)
 

生産性向上などのメリットとともに、セキュリティやディープフェイク問題が同時に起きることは避けられない。EdTech(テクノロジーを用いて教育を支援する仕組み・サービス)の研究・実践を専門にする立場から、生成AI時代には、何が正しいかを判断するためにも、リベラルアーツ、さらには教養を超えた倫理観なども含め、様々な観点を磨く教育がますます必須になるのではないかと思っている。自ら問いを立てたり、何が正しくて、美しいのか、自ら「価値観を定義できる人」が必要になるため、企業にも、そういった人材育成を意識した経営が求められる。

デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐
佐藤 昌宏 氏

また、やるべきことの省力化を実現し、時間の余白が生まれ、衣食住が満たされた後は「遊(ゆう)」(エンターテインメント、遊びの要素があるもの)のニーズが増すといわれている。「遊」の創造にも、幅広い教育を基礎に持ち価値観を定義できる人が必要。現状では「遊」を創造できる人は少数ではないか。改めて、生成AI活用に際する人間の役割や人間が担うべき領域を考え直し、教育を基盤とした価値観を身に着け、個性を活かして「遊」の創造などにも取り組むことが可能になれば、生成AI時代をとても楽しめるのではないか。(佐藤氏)
 

生成AIの時代に新しい価値を生み出すには、共感力が重要になるのではないか。私の専門は生涯学習と社会教育。相手に対する共感から行動する相互的な関係の中で、新しいものが生まれていくプロセス全体を考えている。いつの時代も、互いに想像しあうことによって、共通善を実践し、信頼を作り出していくコミュニティが社会の基盤として必要。他者のためになろうと思う気持ちから個人の力が発揮される。そして、お互いの力が引き出され、これまでにない変化も生まれるものだと思う。今後さらに、相互的な関係の中で変化し続けることが目的になるような社会になっていくのではないか。

東京大学大学院 教育学研究科 教授
牧野 篤 氏

企業では、生成AIの導入によって、AIと対話的な関係を作りながら、価値のあり方や目標が変わり、新たな組織を作るといった、変化とともに新しい価値を見出すこともあるかもしれない。よい市民であることに喜びを感じる社会の在り方と一体に、新しい企業の在り方も実現できるのではないかと期待している。(牧野氏)
 

日頃から社会保険労務士の立場で多くの中小企業を見ているが、急激に開発が進んでいる生成AIについて、中小企業では認識しているものの、予算的にも気力的にも、本格的に導入・活用するところまでは至っていない。使ってみれば利便性が実感できるので、生産性を高めるためにも積極的に使ってみてほしいと思うのだが、人材不足もあり、まだまだ手を付けられない状況ではないか。ただ今後は大企業の活用例を参考にしながら、社員のスキル支援などの検討も含め始めてみて、何かしらの導入をしていかなければならない段階だと思われる。

オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表
諸星 裕美 氏

大企業の方には生成AIの活用について積極的に発信していただきたい。また、費用面で導入しやすいAIを開発していただけたら中小企業でも導入・活用が進み、キャリア形成支援など人材活用の取り組みにもつながっていくように思う。(諸星氏)
 

最後に、比屋根が「生成AIは『パートナー』として2つの重要な意味を持つ。一つ目は、自分が苦手なところをサポートしてくれる、二つ目はAIを介して人と人とが交わる外の世界へ出て刺激を受けるといった、仲介者の役割。本日、審査委員の皆様のご意見を聞いて、AIを使いつつ、人とつながる場を組織とは別に用意することが重要であり、課題に対する一つの解決策になるかもしれないと気づきを得た」と全体を締めくくり、ディスカッションを終了しました。

閉会挨拶

三菱総合研究所 代表取締役社長 籔田 健二

本日は長時間に渡り、会場ご参加、オンラインご視聴いただいた方々に御礼申し上げる。中空様の人的資本経営についての本質的なお話、審査委員の皆様による生成AIにまつわるディスカッションと大変盛り沢山の内容であったが、参加してくださった皆様の今後の人材育成、企業経営の在り方などに、少しでもお役に立てば幸いに思う。
表彰式では、受賞企業の方々が実施されている社員のキャリア形成に対する真摯な取組み、戦略的かつ実践的なキャリア形成支援策、そして何よりも、社員の方に向けられた目線の温かさや熱意をひしひしと感じることができ、大変良い機会となった。

今回で第6回を迎えたプラチナキャリア・アワードは、キャリア形成に前向きな企業の皆様と私共がともに作り上げていくものだと考えている。今後も永続的にこの取り組みを進化させてまいりたい。引き続き、皆様のご支援、ご参加、ご協力をお願い申し上げる。
最後に、皆様のご協力に感謝しご挨拶とさせていただく。本日は誠にありがとうございました。

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