株式会社三菱総合研究所

社会課題ディスカッションJuly 08, 2021働く女性の健康課題 報告

開催概要

2021年6月25日(金)15:30-17:30(Zoom開催) 参加者40名

プログラム

<所属><氏名>
(1)イントロダクション三菱総合研究所 大井修一(司会)
(2)プレゼンテーション株式会社はたらく幸せ研究所 代表濱田安岐子様
株式会社みらいワークス 広報 石井まゆみ様
株式会社タスカジ 戦略アライアンス室室長浅見陽平様
vivola株式会社 代表取締役CEO角田夕香里様
(3)パネルディスカッション三菱総合研究所加藤美季(進行)
(4)閉会後フリートーク

全体概要

ICFでは「女性の健康・活躍」を重点テーマの一つとして掲げ、2021年2月には社会課題ディスカッション「女性の健康・育児・キャリア」を開催した。後続企画である今回は「働く女性の健康課題」をテーマに、女性特有の健康課題(PMS/不妊治療/産後うつ/更年期障害など)が現役女性の活躍を制約している課題に着目し、課題の深掘りと解決策の糸口探りを目指した。
前半はICF事務局から話題提供の後、女性の健康・活躍に貢献するサービスを提供する企業4社より、各社が取り組むビジネスと、各社の感じている働く女性の健康課題への認識を共有。その後のパネルディスカッションでは「管理職への女性の健康に関する啓蒙が必要」「フリーランス女性の健康を支援する仕組みが必要」「女性活躍のための費用は『投資』と考えることが重要」といった活発な議論が行われた。

イントロダクション

冒頭、今回の社会課題ディスカッションの趣旨について事務局より説明があった。

  • もともと女性は現役時代に健康リスクを抱えやすく、その傾向は女性の社会進出拡大に伴い増加傾向にある。
  • こうした課題は(1)女性のQOL低下、(2)企業の生産性への影響、(3)さらなる社会進出へのネガティブな影響につながる。(1)については「女性特有の健康課題による困った経験ありの女性従業員」が52%(※1)に上り、(2)についても「女性の健康に由来する社会損失(医療費支出・生産性損失)が6.37兆円(※2)に達するというデータがある。

※1経済産業省・働く女性の健康推進に関する実態調査2018より
※2 平成28年1月 日本医療政策機構発表より

  • 女性の健康リスクの低減と、り患しても働きやすい社会作りに向けたヒントを得られるよう、今回の企画を設定した。

プレゼンテーション

各々が取り組むビジネスと、そこから見えて来た働く女性の健康課題に関する知見を共有いただいた。

1. 株式会社はたらく幸せ研究所 代表 濱田安岐子様

  • はたらく幸せ研究所は健康で幸せに働くためのキャリアコンサルティングや組織の働き方改革支援などを手掛ける看護職の集団である。
  • 働く女性の健康について看護業界を取り上げると、当業界では長時間労働の常態化やサービス残業、ハラスメントなどが問題視されて来たが、近年働き方改革が進められている。ただし元来女性中心の環境で、全員が健康に関するプロフェッショナルであることから、逆に女性特有の健康課題にスポットライトが当たりにくい側面がある。
  • 組織の働き方改革の観点では、社員の健康増進に取り組むと組織は成果や優秀な人材確保等のメリットが得られる一方、福利厚生費用の増加や、新しい価値観導入のための労力が必要といったデメリットもある。
  • コロナ禍で経済も安定せず、健康と企業利益の両立の難しさや、ジェンダーを含む多様性を活かす難しさもある。様々な課題を乗り越えて、誰もが自分らしく生きことができるように、自分と他者を大事にできる社会を実現するビジネスを創造したい。

2. 株式会社みらいワークス 広報 石井まゆみ様

  • みらいワークスはフリーランスや副業を実践するパラレルワーカーなどのプロフェッショナル人材と都市部や地方の企業を結びつけるプラットフォームを展開。
  • フリーランス女性が健康面で抱える悩みとしては、フリーランスの健康を取り巻く環境整備が追いついていない点である。例えば国民健康保険では傷病手当金や出産手当金、育児休暇の給付は基本的にはもらいにくく、健康診断も基本的に自己責任であるし、保育園の入園審査も会社員よりも通りにくいという実態がある。
  • フリーランスの方々がより活躍するためには、単に仕事を紹介するだけではなく、生活に関するサービス提供やサポートの必要性も感じている。

3. 株式会社タスカジ 戦略アライアンス室室長 浅見陽平様

  • タスカジは1時間1,500円から利用できる家事代行マッチングプラットフォームを提供。
  • 登録者は30〜50代の女性が中心でその多くがフリーランスであるため、働く女性やフリーランスの支援も強化。「タスカジSDGs宣言」をリリースし、サービスを通じて働く女性のQOL向上や、さらなる就業機会の提供を目指している。
  • コロナ禍において厚生労働省が発表したフリーランス支援策ではタスカジのようなシェアリングエコノミーで働く形が想定されていなかったことから、一般社団法人シェアリングエコノミー協会と共に陳情を行って一部運用の変更に成功。さらにサービス登録者に対する共済や成長支援、健康支援サポートなどを提供する業界初の「タスカジワークサポートプラン」もリリースした。
  • サービス登録者であるフリーランスの方々を支援し、働く意欲の向上、心身の健康の充実に取り組んでいくことで、登録者の能率向上につながっている。このような取組なくしては企業としての成長はないと考える。

4. vivola株式会社 代表取締役CEO 角田夕香里様

  • vivolaは不妊治療AI検索サービス「cocoromi」を展開。
  • 不妊治療は、世界的に患者は増える一方、医療的に未解明な部分が多く長期化しやすいこと、通院負荷が高く仕事との両立が難しいこと、周囲の理解が希薄なことなど、多くの課題がある。
  • 中でも通院負荷の高さが一番の課題。不妊治療患者は、個人差や周期差がある排卵日に合わせて月に4〜5回通院する必要があり、1回の通院の待ち時間も長い。仕事を諦める人も多く、仕事との両立にはサポートが求められている。
  • 治療のデータエビデンス提供による患者の理解促進、通院負荷を減らす診療システムにより、日本が抱える少子化という課題へアプローチしていきたい。

パネルディスカッション

各論点について、活発なディスカッションが行われた。

論点1. 働く女性のワークスタイルごとの健康面での良し悪し

フリーランス・中小企業における健康面の課題

  • フリーランスは健康状態に応じて働き方を変えやすいメリットもある一方で、自分がやらないと他にやる人がいない「替えのきかなさ」が難しい点。
  • 中小企業でも同様の事象は起こりやすい。

組織型従業員での健康面の課題と対応方法

  • 社内で育休産休制度や生理休暇制度があっても、生理休暇は普及していないことが多い。
  • 本点について「上司が男性だと生理休暇申請が躊躇われるので女性管理職の増加が重要」「男性上司の方が女性の健康に踏み込めない分、生理休暇などの申請が通りやすい。“頑張れてしまった”女性上司の方が女性部下に厳しいこともある」と見方が分かれた。
  • 男性管理職については女性社員の健康問題への躊躇いを解消するような啓蒙が必要であり、女性管理職については昭和的ではない多様性に富んだ管理職が増えることが必要であろう。

論点2. 企業で「女性の健康課題」へ取り組む難しさ、対応方法

  • 男性の当事者意識不足:「不妊治療=女性のもの」という固定観念が社会に広がっている。本来は男女で取り組むべきことであり、性別に限らずリテラシーを上げる必要。
  • 誰もが働きやすい環境作りが必要:性別だけではなく障がいの有無なども含め、一人ひとり異なる事情を抱えている。「女性の健康」に向けた取り組みも誰もが働きやすい環境を作るための取り組みだと社内に浸透させることが重要。
  • 健康経営は「投資」:企業の女性活躍に関する費用もリターンを得る「投資」と捉えれば企業の受け止め方も変わるはず。
  • 社内の中間層からの動きが不足:女性の健康課題を上層部から推進しようと言われても行動に繋がりづらい。当事者の女性でもない中間層が動く必要がある。

論点3.個々の女性に自身の健康を優先してもらうための行動変容を起こすには

  • 人事・組織評価項目の変更:健康改善に向けた行動が人事・組織評価項目に入ると個人も組織も自発的に動くようになり、検診受診率が上がる事例も出ている。
  • 自己効力感を高める:自身の健康に対する優先度が低い理由の一つは検診を受けることに対する恐怖感。周囲が寄り添い、「あなたを大切に持っている」と伝えることが重要。
事務局メッセージ
女性の健康を組織として推進していくうえで、「管理職への啓蒙」「男性従業員の当事者意識up」「人事・組織評価への組込み」「女性の健康への投資を収益に結び付ける」といった解決への糸口が多く得られた。また、組織によるサポートのないフリーランス女性の健康を支援する仕組みの必要性についても認識が共有された。会員の皆様の知見を借りながら、引き続きICF事務局では女性の活躍推進や健康支援を推進してまいりたい。
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