開催概要
【第1回】 2022年2月1日(火)15:00~17:00 (Zoom開催) 参加者19名
【第2回】 2022年3月1日(火)15:00~17:00 (Zoom開催) 参加者14名
全体概要
社会課題ディスカッション「心理的安全性を考える」は全2回開催。第1回、第2回共通の議論の観点は「あなたの職場に心理的安全性は必要か、何から始めればよいか、考えるヒントを掴む!」と設定した。
プログラム
【第1回】 |
(1) イントロダクション(10分) ・本ディスカッションを始めるにあたって 三菱総合研究所 未来共創本部 高橋 寿夫(司会) ・テーマ提案の趣旨 三菱UFJ信託銀行 経営企画部 星 治 様 |
(2) インプット(質疑を入れて30分) ・「ビジネスにおける心理的安全性」 三菱総合研究所 経営イノベーション本部 片山 進 |
(3) ディスカッション&共有化(80分) ・テーマ1(ディスカッション30分、共有10分) あなたの所属している組織(または今まで所属した組織、見たことのある組織)に 心理的安全性はあるか? ・テーマ2(ディスカッション30分、共有10分) 心理的安全性確保に向けた課題は何か? |
【第2回】 |
(1) 第1回の振り返りと本日の進め方について(15分) 三菱総合研究所 未来共創本部 高橋 寿夫(司会) |
(2) ディスカッション&共有化(100分) ・テーマ1 課題と必要な行動の整理 ・テーマ2 具現化するための「シカケ」を考える |
第1回:イントロダクション
第1回の冒頭、今回の社会課題ディスカッション開催趣旨について事務局より次のような説明を行った。
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」を意味する。Googleの研究成果やNASAで発生した事故の経緯などからも、その重要性が指摘されている。
コミュニケーションが不足するWithコロナ下でチーム形成が求められる今、改めて脚光を浴びている「心理的安全性」は、日本の職場に必要かという問題意識を持って議論を進めて行きたい。
続いて、三菱UFJ信託銀行 経営企画部 星 治 様より、「心理的安全性」をディスカッションテーマに提案した趣旨・背景についてご説明いただいた。
問題意識:
- 組織内のマイクロマネジメント増加による従業員の息苦しさ
- 日本の「従業員エンゲージメント」は世界で最低水準
- 心理的安全性」についてより深く知り、議論することの重要性
心理的安全性の提唱者エドモンドソン教授著の書籍タイトルは「恐れのない組織」である。「“恐れ”を気にせず、働くことに集中できる組織」は、前述の問題点のみならず、組織のなかの一人ひとりの心の豊かさ、穏やかさにもつながり、社会全体のプラスになるに違いない。心理的安全性の確保は、日本の社会にとってかなり根深い課題であり、いろいろな視点から見ることが重要だ。今回、さまざまなバックグラウンドをお持ちの方が集まっているこの場で意見交換を行うことで、新たな発見、新たな議論の展開につながるのではないかと期待している。
第1回:インプット
「ビジネスにおける心理的安全性」
三菱総合研究所 経営イノベーション本部 片山 進
はじめに:心理的安全性とよくある誤解
まず、心理的安全性について「“このチームの中では対人リスク(注:メンバーと意見の衝突がおこること)を取っても安全だ”というメンバー共通の信念」と定義。そのもとで、次の3つの誤解の解消をポイントとした話題提供を行った。
- 心理的安全性が高い組織」=「ぬるい組織」
- イノベーションを志向する組織にのみ必要な考え
- 心理的安全性を高めれば万事上手く行く
人は、他の人と違う意見を「口に出す」ことを本能的に恐れる
まわりの皆は①が正しいと言っているが、自分は②だと思った時、②が正しい、と主張できるだろうか。人間の持つ認知合理性には限界がある。思い込みや勘違いは必ず起こる。ゆえに、「チーム」で動くことが大事である。チームがあれば、ある一人が誤認をしても、他の誰かから指摘してもらえる可能性が高まる。しかし、人間は「社会的動物」であり、相手が何かについて誤認していることが明らかだとしても、他の人と違う意見を「口に出す」ことを本能的に恐れるため、言えないケースも多いのではないか。
建設的な議論を重ね、集合知を生み出す方向へ向かうには?
意見の衝突と人間関係がこじれることは密接に関わっている。「意見の衝突」と「人間関係」はトレードオフである。「集合知」(複数の知恵を受け入れてできた、素晴らしい考え)を生み出す過程で、意見の衝突は不可欠であるが、意見の衝突が増えると、それと比例するように人間関係も悪くなる。上司は、人間関係の悪化を恐れる度合が部下よりも低い。ならば、上司の行動を初めに変えていくべきである。その際、行動改善策のひとつとして、心理的安全性に対する理解が役立つ。「衝突があっても、何があっても人間関係の悪化にはつながらない」と、自分だけが理解しているのではなく、チームメンバー全員の共通認識にすることが最も重要なポイントである。心理的安全性の確保は「衝突があっても人間関係の悪化にはつながらない」ことを可能にするひとつのアイデアである。
「建設的な議論や意見」を引き出すための「仕掛け」が必要
改めて、心理的安全性で重要なポイントは3つ
- このチームの中では「対人関係のリスクを取っても安全だ」という認識を持つ
- この認識は、メンバー共通の「信念」であり、
- 一人の信念ではなく「メンバー共通の」信念にすること
ただし、心理的安全性の確保はゴールではない。ビジネスにおけるゴールは、あくまでも「建設的な議論を行い、集合知を出すこと」である。心理的安全性の確保だけでは十分ではない。
社会全体として同調することをよしとしがちな日本で、「建設的な議論や意見」を引き出すためには、何らかの「仕掛け」が必要。例えば、部下への期待設定や責任付与、評価制度見直しなど、それぞれの状況に合った工夫が求められる。
ディスカッション内容
出席者をグループに分け、複数のテーマでグループ内ごとに意見出しや議論を行った。テーマごとに、議論の結果をグループ間で共有し、その後各グループで、更に議論を深める形式で進行した。
【第1回】
前半のテーマ1では、現状における、心理的安全性に関する出席者のさまざまな思いやエピソード、問題点などが語られた。後半のテーマ2では、組織のあり方、同調圧力への対応、メンタルクラッシャーの存在、感情メカニズムの理解についてなど、広範囲に渡り活発な議論が行われた。
テーマ1:あなたの所属している組織(または今まで所属した組織、見たことのある組織)に心理的安全性はあるか?
〇心理的安全性がない
- 評価の場面では、本音が話せない
- 意見が熱くなってくると、相手が潰しにかかってきたり、頭ごなしでいわれたり、説得されたり、こうなると心理的安全性は保てない
- より高度な意見を言わねばならない、というプレッシャーがある。採用されない意見もある、という明確なコンセンサスがあればプレッシャーが和らぐかも
〇心理的安全性がある
- 周囲の思いを知り、不安をなくすように心がけたら、恐怖心が消え、自分はこのままでよいと思えるようになった
〇心理的安全性はあるほうだが、しかし・・・
- かなり上の人(役員など)と接する際には、心理的安全性は感じにくい。力関係になったら自分が負け、主張しても結果は見えているので言わないことが多い
〇心理的安全性の確保に取り組もうとしているが・・・
- 職場内メンバーのバックグラウンドが違うなかで、心理的安全性の基本事項をどう共有するかが悩みどころ
- 業務特性などにより、心理的安全性が優先ではない場合もある
テーマ2:心理的安全性確保に向けた課題は何か?
〇組織のあり方
- 意見を言った時に受け入れてもらえる組織の寛容性があれば、言えるようになる
- 上司だけでなく、チーム一体で取り組めるか。例えば、発言により損をしたと感じてトラウマを持ってしまった人のサポートや、発言しやすい雰囲気を作るのは上司の仕事だが、上司だけに責任を預けるのではなく、まわりが一緒に取り組むことがお互いのメリットになると思うが、それができるか
〇同調圧力への対応
- 自分が少数派の時は、同調圧力を感じ、結果として上司や周囲に忖度しすぎてしまう
〇リーダーの資質
- リーダーが傍若無人でチームを率いる資質がなくても、そのリーダーの上司に相当する人が好意的な評価をしていると、部下は絶望的
〇メンタル面に関する研修・学び
- 各人が感情のメカニズムを理解することによって、セルフコントロール、自分を観察する、マインドフルネス、といったスキルを用いて自らをコントロールしていくことができればよいが、それは組織内で研修として行うべきことなのか、個人の問題か
【第2回】
前半(テーマ1)では、第1回の議論で課題として認識した点の整理と、課題解決に向けて望まれる行動・方針の議論を行い、後半(テーマ2)では、心理的安全性の確保を具現化するための「シカケ」について、出席者から多くのアイデアが出された。
テーマ1:課題と必要な行動の整理
〇課題の整理
- 過去の経験により、上司に対するネガティブな思い込みがある(上司は自分の話を聞いてくれない、敵対する対象だといったもの)
- 激しい議論を目の当たりにすると、まわりの人はそこには入れず、結局、議論をしている人たちだけで決めるのでしょう、という雰囲気になる。誰でも議論に入れる仕組みを作れればよいが
- リーダーが、自分が率いる部署内に心理的安全性があるか否かについてわからない、不安を持っていることが問題。あるか、ないかを判断するポイントがわかれば良い
- 心理的安全性を確保している認識があっても、発言する時の本能的な不安はある。人脳科学的アプローチでは、リラックスが不安軽減に有効。リラックスするには環境設定が大事
- 発言したことで傷つきたくないと思う人を、精神的に圧迫しない会議にすべき
〇課題解決に向けて望まれる行動・方針
- 心理的安全性の確保がなぜ必要かをメンバー全員が共有していることが大前提。その説明を十分にする
- 「部下と一緒に考える姿勢」が上司に求められる。上司自身の過去の経験のみで相手の困り事を片づけるのはNG
- いろいろな意見が出た時、意見を「選ぶ」のではなく、いろいろな意見を統合して「作り上げる」方向性で進む。そのなかでは「自分の意見が採用されるか否か」を発言者が不安に思うことがない。場を進めるファシリテート力が要求される
- 部下が心理的安全性を得て自信を持つと主体性が出てくる。仕事を選べる機会は多くはないが、部下が「自分がやりたいと感じる仕事を、主体性を持って自分で選んだ」と本人に感じさせる環境づくりが必要
- 脳の仕組みから「意見の衝突は起こるもの」という基本を理解する。「どちらが正しいか」ではなく、このチーム内ではどうしたらよいのか、という方向に話を進める
- 一般的な会議でも、健全に進行しているかのお目付け役がいるとよい。牽制役を置くとよい
テーマ2:具現化するための「シカケ」を考える
- よい意見だと思ったら「それいいね」を必ず言う
メンバーに自信を持たせる、主体性を持ってもらうには加点主義であるべき。減点が怖い人もいる。「それいいね」と口に出すことで、加点部分がはっきりと相手に伝わる - 何らかの「思い」を表明したい時、短い文で文字化してみる
会話のなかでは伝わりにくい想いでも、文字で残すことにより、俯瞰したり、客観化したりできる。フセンに書くイメージの簡単なものをデジタルホワイトボードに貼ってメンバー全員がいつでも見られるようにするなど工夫する - 「ここは会社ではない」と思えるくらいの環境設定
脳のリラックス機能に働きかけるためには環境設定が重要。リラックスした雰囲気を作った後に会議を始めると会議がスムーズに進む (例:音楽、香り、雑談、おいしいもの、共通の趣味を思い出させるグッズの活用) - 会話のなかでのストレス度合やテンションをAIが自動測定
心理的安全性を得にくい苦手な人との打合せ時のストレス低減、建設的な議論がスムーズにできるツールがあれば理想的。会話のなかで、心理的安全性を損なうような発言があるとツールが反応し、休憩を促してくれる、相手/自分の発言を反省するきっかけになる、などがツールで実現できるとよい - 会議の進行ポリシーを壁に提示
メンバー全員が会議の進行ポリシーを共有することが必要。例として「反論がある場合は、“Yes, But”を使いましょう」(=反論する場合でも遮らない、一旦は相手の発言に理解をしめす) - 心理的安全性を阻害したメンバーの上司に罰則
意見が衝突したら、相手の人格を否定するなどマナーが悪い人を罰するだけでは効果がないことも。その人の上司も罰することにより効果が高まるのでは
事務局メッセージ |
今回は2回にわたり心理的安全性の必要性や導入に向けた課題、部署や組織によらない導入のための「仕掛け」について議論を行った。 具体的な仕掛けについては、さまざまな意見がでた。上の図でも示した通り、「心理的安全性を高めることを促進」方向と「心理的安全性を損ねることを抑制」する方向の2つが考えられる。そして、これらは、昨今のDX技術を利用することにより、スマートな形で実装できるものもあるのではないか、と感じた。 今後、また機会を改めて心理的安全性確保のための仕掛けについても議論できるとよいと考えている。 |