2025年6月26日~7月4日にかけて、「社会課題リスト2025」の解説とそれを踏まえた社会課題ディスカッションを開催しました。
ICFが提示する7領域(エネルギー・環境、食農、モビリティ、レジリエンス、ウェルネス、教育・人材育成、DE&I)のうち、教育・人材領域については当該領域で活躍するスタートアップである株式会社アカリク、ハタプロ株式会社にご登壇いただき、同社が取り組む博士人材の民間活躍促進と産学官連携の起業家教育についてお話しいただきました。
それ以外の領域については、当該領域の社会課題の概説とテーマを説明し、領域によっては当社の研究員からテーマに係る最新動向を共有したのち、当該領域でどのような課題解決策、ビジネスアイデアが考えられるかを検討しました。
今回は対面でのディスカッションを開催(教育・人材育成領域のみオンライン共有を実施)。7セッションにわたり、延べ98名の方々にリアルでご参加いただきました。各開催日の17時からはネットワーキングを実施。参加者同士でディスカッション内で語りきれなかった課題の掘り下げやビジネスアイデア等について話し合うなど、大いに盛り上がりました。


領域 | 日程 |
DE&I | 6/26 (13時半~) |
教育・人材育成 | 6/26 (15時半~) |
エネルギー・環境 | 6/27 (13時半~) |
モビリティ | 6/27 (15時半~) |
食農 | 7/3 (13時半~) |
レジリエンス | 7/3 (15時半~) |
ウェルネス | 7/4 (15時半~) |
各領域でビジネスアイデアの導出に向けてディスカッションを行いましたが、例えばDE&I領域のようにビジネス化の前段の議論として、さらなる課題の深掘りが必要なことが明らかとなった領域がある一方、ウェルネス領域のように課題の掘り下げは必要であるものの、何らかのビジネスアイデアが生まれた領域もみられました。
今後は、今回ディスカッションで出た意見を踏まえ、さらなる社会課題の掘り下げを行う勉強会・セミナーの開催と、具体的なビジネスアイデアの解像度の向上を目指します。例えば、レジリエンス領域における自然災害対応(防災教育、ボランティア活用等)や、食農領域における生物多様性の評価などに関する勉強会・セミナー、博士人材活用と環境ビジネスのマッチング事業の検討など、次に続くアクションを検討していく予定です。
参考:各領域における主な意見など(開催日時順)
【DE&I】
- 本社機能の地方への移転は、自治体の人口増加にもつながるとともに、多文化がまじりあうことで地域共生が進んだ事例も。
- 多様な人材が、どの程度活躍しているのか定量化・評価されていないことが多い。評価の透明化が必要ではないか。
【教育・人材】
- アカリク社、ハタプロ社ともに、教育・人材育成という狭い文脈ではなく、それぞれ「知恵の流通の最適化」「まちづくり」という広い観点から教育人材事業を実施していることがわかった。
- 博士人材の活用×環境ビジネスの人材マッチング事業が可能なのではないか。
【エネルギー・環境】
- カーボンクレジットをビジネスにつなげていくことが必要。受け身ではなく、自国の産業を伸ばすために、国際的なルールメイキングに向かっていくことが重要。
- 日本の技術力が高いと考えられる揚水発電も再検討してはどうか。揚水発電は蓄電池と競合するが、レジリエンス観点では重視すべき。
- エネルギー・環境領域は大企業内や大学内に技術シーズがあるが、マーケットサイズの大きさが見込めないと起業や実証に進めない。そこで、組織・企業の垣根を越えて、小規模実証を可能とするフィールドをつくることが重要。
【モビリティ】
- 地方都市などで発生している問題の中で、社会課題リストで取り上げられていないものがある。例えば、駅ホームの転落問題、高速道路逆走問題など。外国人ドライバーが増えていることによる問題もある。
- 現在の自動運転(車)は利便性重視の傾向あり。本来は安全性の担保に重点が置かれるべき。また自動運転ありきのルールを検討する必要がある。
- 逆走問題などに対しては、ジオフェンシング(特定のエリアに入ったら電子制御)などを有効に活用する方法や、飲酒運転防止策として呼気チェックや瞳孔チェックとエンジン始動との連動、飲食店との連携などは考えられる。
- 大都市周辺では大規模輸送(人/モノとも)は実現できるが、地方部では(サービス利用者が少なく、サービス提供におカネを払っても良いと考える人が少ないから)ビジネスが成り立ちにくい。
- 地方の高齢者の移動を担保する必要あり。シニアカーや免許不要のモビリティを活用することも重要。同時に保安基準も改定していく必要がある(衝突安全基準等)。
- 車の役割が変わっていく可能性あり。例えば、燃料電池としての車とか、生活空間としての車など。単に移動のためとしての車であれば、カーシェアで良い。
【食農】
- 生態共生型の農業は、現状生物多様性の価値が定量化できていないため、訴求が難しく、マネタイズが課題。昆虫の種類と数などの多様性を定量化したり、製品のクオリティを担保するような生物多様性のインデックスが必要ではないか。
- フードロス解消として、消費者側の教育も重要。例えば、食料・生活の知識があれば、保存方法や期間がわかり、食品ロス削減にもつながる。
- 太陽光発電による電力確保と軽トラック・小型農機のEV化で、ガソリンスタンドが少ない山間部で車両を活用しやすくなり、エネルギーを含めた自給自足ができるのではないか。小型充電器(MPP)を持っている企業と、プラットフォーマーと組むことで実現可能ではないか。
【レジリエンス】
- 災害になる前(災害予報を受けた時点)/災害初期の段階/復興期などの場面に応じて、まず何をすべきかを防災教育としてインプットしておくことが重要。平時日常の中で、無意識に防災対応の知識を植え付けることが重要。危機感の普及にVRを使う方法もある。防災教育が楽しいモノであれば、浸透が進むかもしれない。
- 気象予測情報を使ったダッシュボード提供だけではビジネスになりにくい。付加価値をセットにする等のことが重要。例えば、気象予測情報と、この気象の時の過去の災害情報をセットにすると、ビジネスになりやすい。
- 近年の異常気象を踏まえると、自然災害へのアダプテーションが重要になる。量子コンピュータを使った気象(災害)予測や災害ルート予測等は有効と考えられる。
- インフラ管理の領域では、新しいサービス・ビジネスが生み出されにくいが、地中化されている等のインフラの検査などについては相応の技術が必要。地中化されているインフラは、使用者による管理となっている。地中化しているインフラの改修等をする場合には、掘削工事が伴うため、一元管理とした工事とする必要がある。
- デジタルツインの活用により、地中化インフラを管理している方法もある。地中化しているインフラであっても、リアルタイムで状況を把握し、必要に応じてトリアージできるシステムの導入を検討する必要がある。
- パンデミック対応として、経口ワクチンはコールドチェーンである必要がない。カイコの繭を用いた常温保存可能なワクチンの開発も進められている。
- 平時においては、サイエンスコミュニケーションを活用し、パンデミック発生時の影響等について、教育しておくことが必要。
【ウェルネス】
- こどもの健康問題に関して。ゲームやSNS等について、親子間でのルールをどう作るかが各家庭にゆだねられている状態。24時間常にSNSに触れられる状況があると、安らげる環境がなく被害を受けやすくなってしまうのではないか。子ども自身のレジリエンス能力を上げ、かつSNS等の誹謗中傷を強制的に排除していくことが必要。
- 子育て家庭(父、母ともに)を家庭単位で支えられるようなサポートを、作業療法士によるプログラムなども活用しながら構築してはどうか。
- 生活習慣病対策として、簡単に・知らないうちに行動変容を起こさせる必要がある(バイタルチェックなど)。また、楽しくできるものでないと継続が難しい。元気でGOプロジェクトのように、歩行が改善する運動を促進する取組も。
- クリエイティブな業務はAIの方が得意なことも多い。AI恋愛相談なども一般化していくのではないか。自己肯定感をつけるためのAIエージェントも出現するのではないか。バーチャル友人・家族等も受け入れられるかもしれない。
- 介護食の売り方を変える。例えば個人の体質に合わせた栄養食として市場に出すことで、新たな視点で見てもらえるようになるのではないか。
本イベントに関するお問い合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:八巻、藪本、渡邊、亀井
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp