株式会社三菱総合研究所

総会・セミナーJune 12, 2025孤独・孤立対策イベント「望まない孤独のない社会の実現に向けて」開催報告

社会全体の問題として認識される「孤独・孤立」に関する理解の浸透と対策を推進するため、政府は5月を「孤独・孤立対策強化月間」に設定しています。これにあわせ、5月28日にNPO法人あなたのいばしょ(ICF賛助会員)との共催、横浜市立大学COI-NEXT拠点の協力のもと、孤独・孤立対策イベントを開催しました。

今回のイベントでは、特に若者に焦点をあて、産官学民の有識者による孤立・孤独の現状、課題解決に向けた取組みの紹介、パネルディスカッションが行われ、孤立・孤独問題の包括的、持続可能な解決策を考えるきっかけとなりました。

イベントの冒頭には、三原じゅん子 内閣府 特命担当大臣(孤独・孤立対策担当)よりご挨拶をいただきました。また、あべ俊子 文部科学大臣も会場に駆けつけてくださり、時間の許す限り聴講くださいました。

内閣府 特命担当大臣(孤独・孤立対策担当)三原 じゅん子 氏

<内閣府 孤独・孤立対策推進室から>
「政府のこれまでの孤独・孤立対策について」

内閣府 孤独・孤立対策推進室 参与 大西 連 氏

政府では2021年から孤独・孤立の実態把握に関する全国調査「人々のつながりに関する基礎調査」を実施しており、直近2024年の調査では、「孤独であると感じることがある」と答えた人は「約4割」という結果が出ている。孤独・孤立は誰にでも起こり得ることから、政策による孤独・孤立対策はすべての国民が対象となる。一方で、一般的に孤独・孤立状態といっても多様な在りようがある。一人でいること自体が問題ではなく、「望まない孤独・孤立」を抱える人々が、悩みや困りごとを抱えた時に深刻化してしまうことが問題である。

政府が取組む孤独・孤立対策推進においては、当初から、国や自治体が特定の給付やサービスなどを構築するのではなく、民間企業やNPOなどが各々の得意分野で、孤独・孤立対策の担い手として活動を推進してくことが重要と考え、当該組織・団体との対話や連携を主軸に様々な施策を展開している。
このため、全国的な連携基盤として孤独・孤立対策官民連携プラットフォームを設立し、課題などテーマごとに分科会を設けている。また、地方においても関係者の連携・協働を促進する場として地方版官民連携プラットフォームの設置を推進している。

望まない孤独・孤立状態にならないためには、日常的な人と人との「つながり」がキーワードになる。そのため、孤独・孤立の問題について知識を身につけ、まわりの人に関心をもち、できる範囲で困っている人をサポートする「つながりサポーター」を養成する講座を開設している。
三原大臣によるつながりサポーターに関するメッセージ動画(long版)

また、人と人との「つながり」を生むための施策の「相乗効果を高める、分野横断的な連携」の促進を重要視している。官民連携や分野横断的なリソースのコラボレーションで、より大きな成果が創出されると考える。一例として、NPO、民間団体を始めとする地域の様々な主体が目標を共有しながら「ゆるやかなつながりを築ける居場所づくり」をテーマとして、地域の多様な人々が気軽に集い、交流できる場を整備することで地域社会の活性化、福祉の向上を目指す事例などがある。

「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」「相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会」に向けて、企業やNPOなど関係者との連携・協力といった官民連携の活動と、国民のみなさんの理解と協力を得るための本イベントのような場が「つながり」づくりの一助になればと思う。


<孤独・孤立対策の在り方に関する有識者会議構成員から>
「孤独・孤立問題に関する最新情報と日本の孤独・孤立の実態」
大阪公立大学大学院 看護学研究科 ヘルスプロモーションケア科学領域 教授 横山 美江 氏

「人と人とのつながり」は希薄化の一途をたどり、この傾向は今後も続くと考えられる。そして「人と人とのつながり」の希薄化により、孤独を強く感じる人が増加することで、「社会的な孤立」状態から「望まない孤独」に陥ると、様々な問題発生リスクが高まると考えられている。
日本における児童虐待相談対応件数、配偶者暴力相談支援センターへの相談件数、不登校児童生徒の割合、小中高生の自殺者数の各調査結果を見ると、年次推移はいずれも上昇している。これらは、少子化、核家族化が進んだことや、地域社会との関係減少など、前述の「人と人とのつながり」の希薄化が要因のひとつになっていると推察される。
また、各種の国際的な研究報告から「望まない孤独は心身両面に深刻な影響があり、自殺をも誘発するリスクがある」ことが判明している。孤独感や孤立感は「相談相手がいない場合に強く感じる人が多い」と示されていることからも、「相談」は重要であり、望まない孤独の予防になり得るといえる。「人とつながることで信頼感が形成されると、孤独感、孤立感の低減にも資する」という研究・調査報告もある。

地域社会を支える地縁・血縁といった「人と人とのつながり」が希薄化している現代においては、包括的支援体制の構築が急務であり、かつ長期的な取組みが必要とされる。これらを実現するために、社会全体、私たち一人ひとりが孤独・孤立の問題と向き合う必要がある。

●テーマ
若年層の「望まない孤独」の解消のためにできること〜産官学民の連携による孤独・孤立対策の推進〜

<モデレーター> NPO法人あなたのいばしょ 理事長 根岸 督和 氏
<パネリスト>
公立大学法人横浜市立大学 国際商学部・国際マネジメント研究科 准教授 原 広司 氏
NPO法人OVA 代表理事 伊藤 次郎 氏
株式会社三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 主任研究員 濱田 美来

本ディスカッションでは、孤独・孤立対策に関する研究・実践、支援活動などに取組んでいる各パネリストより、若年層の「望まない孤独」を解消するため、産官学民としてどのような取り組みができるのかについて議論が交わされました。

●議論のポイント

  • あなたのいばしょは、ひとりで悩んでいる人のために24時間365日体制で相談窓口を運営。1日に1,000件以上の相談が寄せられる。相談者の約6割が10~20代で、多くの若者が「望まない孤独」に悩んでいる。日々寄せられる相談内容はすべてテキスト化(見える化)した上で状況分析し、分析データにもとづく政策提言や、企業などと連携して社会課題解決に向けた舵取りをしている。相談者一人ひとりの声を適切に社会に反映させることが必要
  • OVAは、デジタル分野のテクノロジーやマーケティング手法を用いて自殺予防や孤独対策に取組む。ネット検索連動広告を活用し、自殺などに関連するキーワードを検索した人に相談窓口を案内し、当事者に必要な情報と支援を届けている。コミュニケーションや人間関係の悪化によるストレスから孤独感や居場所のなさに悩んでいる若者が多い。また、孤独・孤立状態に陥る原因となり得るスティグマ(偏見など)への不安の声も聞かれ、その解消は社会全体の課題である
  • 横浜市立大学COI-NEXT拠点は、生きづらさを感じる若者の声を集め、ケアにつなげる「こころに秘めた想いを昇華させるメタバース空間」の構築や、新生活を始めたばかりの学生をフォローすることの重要性から、学生が気軽に立ち寄れる「居場所」、サードプレイスとして学内に期間限定カフェを設置するなどの試みを実施している
  • 企業が若年層社員の孤独に対してアプローチできる範囲は、原因が比較的シンプルなケースに限定される。社員への支援策としては、エルダー(メンター)制度、親睦会(部活動など)、社外活動(社会人大学院、語学研修など)への補助などがあげられる。孤独対策として設定した制度ではなくても、こうした「人と人との信頼関係を築く場」の提供が、社員のメンタルヘルスを支えるという共通認識が持てるとよい
  • SNSと若者のメンタルヘルスの関係を調査したデータから、SNS上での負の経験は、メンタル不調と関係するという結果が出ており、SNSが若者の孤独感を増幅させる側面もあるといえる。若者のSNS上の負の経験で特徴的なのは「他人同士の中傷のし合いを見た」という回答がとても多かったこと。また、メンタルが不調な時にネットでの検索・コミュニケーションを続けることによる、負のエコーチェンバー現象には注意が必要
  • SNSやデジタル技術を活用しつつも監視レベルにならないよう、孤立・孤独ハイリスク者をどう見つけて、アプローチしていくか、様々な手法について検討を重ねることが重要
  • 相談件数が、窓口対応可能なキャパシティを超えている現状に対して、早期介入の必要性判断にAIを活用するのなど効率化策はあるものの、その有用性、安全性については実証が必要
  • 産官学民連携といっても、そのなかで活躍するのは「個人」。様々なスキルや熱量を持った「個人が活躍しやすい環境」を整えることで、コレクティブインパクトの種も生まれやすいと考える
  • 自分にあった場を誰もが選択できるような「コミュニティづくり」や「ゆるやかな、つながりづくり」を実践していくこと、また、それらの活動を支援する体制・仕組が求められる
  • 誰もが当事者になり得る孤独・孤立は「社会全体の問題」として取り組み、担い手を増やしていく必要がある
ご登壇者一同(左から:ICF推進オフィス 藤本、内閣府孤独・孤立対策推進室 大西氏、
OVA 伊藤氏、あなたのいばしょ 根岸氏、横浜市立大学 原氏、大阪公立大学大学院 横山氏、MRI 濱田)

プログラム終了後には、会場にて交流会を開催し、登壇者をはじめ参加者同士の活発なネットワーキングが行われました。

ICF会員限定で当日のアーカイブ動画をご案内しております。こちらからご覧ください。

本イベントに関するお問い合わせ

三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:笠田・濱田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp

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