第9回オンライン座談会では、ヘルスケアイノベーション協会代表理事の天野様、大角様をお迎えし、ヘルスケア分野における新規事業の参入動向や課題、可能性について議論しました。冒頭に、ICF推進オフィスの八巻からICFの概要と社会課題リストに関する説明を行ったのち、天野様・大角様によるヘルスケアイノベーション協会の取組紹介や、ICF推進オフィスの池田による三菱総合研究所(MRI)の新規事業の取組について共有。ヘルスケア市場の成長予測やその具体的な課題、事業化支援の取り組みについてディスカッションを行いました。
※本座談会のアーカイブ動画はICF会員限定で配信をしております。こちらをご覧ください。
プログラム
12:00~12:10 | オープニング:ヘルスケア分野の社会課題 三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 主席研究員 八巻 心太郎 |
12:10~12:30 | これからのヘルスケア事業参入:業界動向とその可能性 一般社団法人ヘルスケアイノベーション協会 代表理事 天野 達郎 氏・大角 知也 氏 |
12:30~12:45 | MRIが考えるヘルスケア事業化支援 三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 研究員 池田 優花 |
12:45~13:00 | 質疑応答・参加者ディスカッション |
座談会内容
◆ヘルスケアイノベーション協会とは?
ヘルスケアイノベーション協会は、イノベーションを通じてヘルスケア分野の課題解決に取組んでいます。これまでの活動として、医療DX推進や中小病院の変革に関わるプロジェクト、セミナー開催や学術誌への寄稿を通じて情報発信を行ってきました。ヘルスケア分野はステークホルダー(製薬企業、健保、医療従事者、患者など)が多岐にわたるため、彼らを横断的に結びつけ、新たなサービス開発やビジネスモデルの構築を支援しています。例えば、医療法人や研究機関が直接製薬企業とプロジェクトを進めにくい場合に、必要なネットワークを提供してチームを形成し、課題解決の支援を行っています。
◆ヘルスケア市場の拡大と影響
日本のヘルスケア市場は、2020年の24兆円から2050年には77兆円に拡大することが予測されており、少子高齢化と社会保障の財政難を背景に、注目が高まっています。この市場は、予防医療から治療、さらには高齢者ケアに至るまで幅広い機会を提供していますが、ビジネスを成功に導くためにはいくつかの課題を克服する必要があります。
主要な課題として、以下の3点が挙げられます。
- 複雑なステークホルダー構造
製薬企業、医療機関、患者、保険者の関心やニーズは多様であり、相互の調整が求められます。 - 規制とエビデンスの重要性
医療法や薬機法を理解し、それに基づく製品開発やサービス提供が求められ、強固なエビデンスが必要です。 - 収益性
公的医療制度が基盤となる日本では、薬機法対象となる製品は保険収載を目標にビジネスを構築しますが、ヘルスケア分野においては保険診療に依存しない収益モデルをいかに構築できるかが課題となります。
◆改革の兆しとビジネスチャンス
近年、ヘルスケア業界では新しい技術やサービスが次々と登場しています。たとえば、デジタル技術の進展により、アプリやプログラム医療機器(SaMD)といった製品が市場に投入されています。また、異業種の企業(通信、小売、住宅、食品など)が新規参入し、個々のライフスタイルと健康を融合するサービスを展開しています。具体的例として、自治体と連携して健康行動と経済的インセンティブを結びつける仕組みや、メンタルヘルス支援、認知症予防、介護予防などが挙げられます。これらは、社会課題の解決につながるだけでなく、大きなビジネス機会にもなっています。
◆障壁の乗り越え方
成功事例を参考にした新事業の展開には、以下の点が鍵となると考えられます。
- 継続的なデータ収集とエビデンス構築:サービスや製品の効果を証明するデータを収集する仕組み。
- 規制当局や医療関係者との連携:円滑なコミュニケーションと信頼構築。
- 収益以外の成果指標の導入:無形の価値(例:従業員エンゲージメント、医療費削減)の可視化。
◆三菱総合研究所(MRI)の事業化支援の取組
MRIは、これまで多くのヘルスケア事業のコンサルティングや新規事業創出に携わってきました。特に、薬事承認外の分野やグレーゾーンにおいて新規プロジェクトを進める企業に対し、専門的な助言や支援を提供しています。これには、以下の具体的な活動が含まれます:
- Poc(Proof of Concept)支援
スタートアップや大企業を対象に、実証実験を通じて市場ニーズの検証を実施。 - エコシステムの形成
民間企業、自治体、学術機関が連携しやすい仕組みを構築。 - 海外市場展開の支援
規制要件の異なる市場でのプロジェクト進行を助ける知識と支援を提供。
ヘルスケア分野における新規事業を成功に導く重要な要因として、単発的な支援ではなく、事業がスタートしてからも継続的にデータ収集やフィードバックを提供する長期的な「伴走型」の関与はやはり重要です。加えて、予防医療のためのプログラム開発や、地域医療機関との連携強化など、地元自治体と密接に連携し、地域特有の課題を解決するモデルを推進することも将来的な展望として挙げられました。
座談会を終えて
1時間という短い時間でしたが、密度の濃い座談会となりました。今回の議論を通じて浮かび上がったのは、ヘルスケア分野が持つ巨大な市場創出の可能性と、それを活かすための具体的な道筋、そして超えるべき障壁の存在です。今後、この分野で社会課題を解決しながら事業化を進めるには、規制やエビデンスに沿った慎重な設計、また関係者間の適切な連携が求められます。77兆円という大規模市場が予測されているヘルスケア業界。これから本業界への参入を検討している皆さんの参考となれば幸いです。
本イベントに関するお問い合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ推進オフィス 担当:八巻・池田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp