開催概要
9月30日、CIC Tokyo Venture Caféにて、トークセッション「データがつなぐ未来社会 ~医療からビジネス、そして市民へ~」を開催しました。本イベントはICF会員のヘルスケアイノベーション協会との共催で、医療・ヘルスケア領域におけるデータ活用の最前線を紹介し、未来社会における新しい価値創出の可能性を探る場を創ることを目指しています。
当日は、医療データプラットフォームを構築するTXP Medical株式会社、ゲノム医療とAI解析を牽引する株式会社テンクー、社会インフラとビジネスを支える NTTドコモビジネス株式会社の3社に加え、一般社団法人ヘルスケアイノベーション協会、株式会社三菱総合研究所(以下、MRI) が登壇。「データをどう集め、どう活かすか」を多角的に議論しました。
オープニングにてMRIよりICFの取組や社会課題リストの紹介を行ったのち、ヘルスケアイノベーション協会によるイントロダクトリートークから始まりました。
①イントロダクトリートーク
テーマ:データ社会が拓く医療と産業の未来
イントロダクトリートークの冒頭では、近年のデータ量の急増が示され、2010年頃に2ゼタバイトだった全世界のデジタルデータ量が2023年には120ゼタバイトに到達し、2025年には181ゼタバイトに達すると予測されていることが紹介されました。データが爆発的に増加する中で、その活用が社会課題の解決に向けた重要な要素となっていることが強調されました。さらに、データは適切に分析・活用されることで資産となり、企業や組織に競争優位をもたらすことができると指摘。医療やヘルスケア産業においても、データの価値を最大限に引き出し、新たなサービスやイノベーションの創出に結びつけていく必要性が語られました。
②パネルディスカッション
テーマ:データをどう集め、どう使うか ― 医療から社会へ
登壇者が各社の取組を紹介した後、パネルディスカッションを行いました。

●各社の取り組み:
TXP Medical株式会社
TXP Medicalは、救急搬送や診療の現場で生じる紙や電話による非効率な情報伝達を解消し、命を救うシステムの構築を目指しています。独自に開発した「NEXT Stageシリーズ」では、患者ごとに約900項目のデータを構造化して蓄積し、全診療科で活用できる基盤を整備しました。現在、全国33都道府県の102施設に導入され、大学病院救命救急センターでは49%のシェアを獲得しています。医師や多職種のチームが開発に関与し、製薬・医療機器メーカーとも協働を広げながら、医療データの分断解消と意思決定の迅速化を実現しています。
株式会社テンクー(Xcoo, Inc.)
テンクーは、ゲノム解析とAIを活用して患者一人ひとりに最適な治療法を提示する、パーソナライズ医療の実現に取り組んでいます。がんや希少疾患は患者ごとに遺伝子の状態が異なるため、病名に対応した治療だけでは十分ではなく、個別化医療の実現が不可欠です。テンクーが開発した「Chrovis」はゲノム情報を解析し、医学・薬学データベースを統合的に活用して治療候補を提示。将来的には副作用の少ない選択肢や在宅療養支援など、患者に寄り添った医療を可能にします。発表では、データを活用した個別最適化が医療に新たな価値をもたらす未来像が示されました。
NTTドコモビジネス株式会社
NTTドコモビジネスは、「Smart Healthcare」を掲げ、データを基盤とした医療・ヘルスケアの課題解決に取り組んでいます。安全な収集・保管と同意管理を備えた「Smart Data Platform for Healthcare」、臨床研究を支援する「SmartPRO」、dポイント会員を活用した「eリクルートメント」などの仕組みを展開。匿名加工や秘密計算といったプライバシー強化技術を活用し、社会全体でのデータ利活用を推進しています。Society 5.0に向け、医療データから新たな価値を創出する姿を描いています。
株式会社三菱総合研究所
ヘルスケアに係る政策提言や、コンサルティング、新規事業の立ち上げに関わってきた三菱総合研究所は、薬事承認外や規制のグレーゾーンにおける支援事業にチャレンジしようとしています。スタートアップから大企業まで幅広い企業に対し、実証実験を通じた市場ニーズの検証(PoC支援)を行い、事業の実現可能性を検証するとともに、企業・自治体・学術機関がスムーズに連携できるエコシステムの形成を後押ししています。また、規制要件が大きく異なる海外市場への展開についても知見を活かし、クライアントのグローバル事業展開を支援する取り組みをおこなっています。
パネルディスカッションでは、データ収集のあり方と、それを支えるステークホルダー間の信頼関係について活発な議論が交わされました。特に、データを提供する側・活用する側の双方にとってのメリットをいかに担保するかが重要な論点として挙げられました。
また、データ収集を促進するためには、被験者が「自分の提供したデータがどのように医学研究や社会実装に役立っているのか」実感できるよう、成果の可視化やフィードバックを丁寧に行うことが欠かせないという意見も共有されました。
一方で、日本の皆保険制度のもとでは、病気になってから病院に行っても安く治療を受けられます。このため「個人が自らのデータ提供に同意すること」が「個人が自発的に予防医療に取り組むこと」には必ずしも結び付かないという指摘もありました。データ提供の意義をどのように社会全体で理解し合い、持続的な仕組みを築くか、その課題意識が、登壇者・参加者の間で共通のテーマとして浮かび上がりました。
まとめ・今後の展望
イントロダクトリートークから各社の発表、そしてパネルディスカッションを通じて、データを医療・ヘルスケアを起点に社会全体に広げる際の課題が具体的に示されました。会場では、データの持つ可能性と同時に、その活用に伴う責任についても共有され、貴重な議論が展開されました。
当日は、医療・ヘルスケアデータを中心に据えながらも、各ステークホルダーや異分野との連携が加速する中で「リアルなネットワークづくり」にも注力。プログラム後のネットワーキングでは、課題と将来展望をめぐり登壇者と参加者が熱を帯びたトークを繰り広げました。参加者からは「各登壇者の意見が印象的だった」「次回以降の開催を期待している」といった声も多く寄せられました。
さらなるビジネス展開を視野に入れ、新しい収益モデルの創出や多様なデータを活用した市場拡大戦略についても、引き続き議論を深めていく予定です。イベントを契機に、共創の場を継続的に育み、医療・産業・社会の未来につながる取り組みを進めていきます。
本イベントに関するお問い合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ推進オフィス 担当:八巻・池田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp





