株式会社三菱総合研究所

総会・セミナーOctober 26, 20232023年度 ICF中間報告会「ICF Midterm Gathering 2023」開催報告

「社会課題解決型ビジネスを社会実装へ」、ICF 3年目となる2023年度はこのキーメッセージを軸に共創活動を展開しています。ICF中間報告会「ICF Midterm Gathering 2023」を10月20日に開催し、会場とオンラインのハイブリッドで100名を超える多くの方にご参加いただきました。当日は、2023年度上半期活動実績報告・今後の活動予定ご案内、会員ピッチ、「社会課題解決事業におけるインパクト評価」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
各セクションの概要は下記のとおりです。

2023年度上半期の活動実績と今後の活動について

●「社会課題リスト2023」公開

「イノベーションによる解決が期待される社会課題リスト2023」(以下 社会課題リスト)の公開をご報告しました。

「社会課題リスト」では、特にイノベーションによる解決が期待される社会課題を6分野【1. ウェルネス、2. 水・食料、3. エネルギー・環境、4. モビリティ、5. 防災・インフラ、6. 教育・人材育成】から抽出し、解説しています。2017年の初版発刊以降、変化する社会問題を継続的に捉え、毎年アップデートを行っています。今年度の更新ポイント以下の3点です。

 

  1. 6分野を横断する視点:複数の分野をまたぎ影響しあう要素を「スペシャルコラム」で取り上げました。イノベーション、DX、水資源、パブリックアフェアーズの各々を主題にした4つのスペシャルコラムを掲載しています。
  2. ビジュアル・アブストラクト:合計31の社会問題について【社会問題→社会課題→解決の糸口】の3ステップを読み手にとってわかりやすく視覚化するために「ビジュアル・アブストラクト」(研究などの要点を1枚の図に要約したもの)の手法を採り入れました。
  3. I CF活動の成果を反映:ICFの未来共創プロジェクト(FCP)では、定期的なワークショップなどを通じて社会へのインパクト創出に向けた取り組みを行っています。直近に開催したFCPのテーマは「食生活イノベーション」「気候変動」「ウェルネス」があり、これらの活動成果の一部を反映しました。

また、表紙にはICF会員の株式会社ヘラルボニー 契約アーティスト高田 祐氏の作品タイトル「迷路」を起用しました。近年、次々と発生する世界的な「分断」に対して多くの人々が問題意識を持っていること踏まえ「社会課題リスト2023」は「分断と融合」をテーマに掲げています。このテーマが内包する問題・課題解決へ向けて行動するイメージと、高田氏が描いた「必ず出口がある迷路」がマッチしたことが表紙への作品起用の背景にあります。
高田 祐氏プロフィール (heralbony.jp)

「社会課題リスト2023」の詳細は2023年10月18日MRIニュースリリースをご参照ください。
ニュースリリース: https://www.mri.co.jp/news/press/20231018.html

●「ICF Business Acceleration Program2023」(BAP)開催

これまでの受賞者とその活動実績をご紹介するとともに、2023年度の応募状況、ファイナリスト7社、今回から設定した「特別賞」8社に選出されたスタートアップをご紹介。また、現在準備を進めている12月8日の最終審査会「ICF Startup Showcase」(@東京ミッドタウン日比谷BASE-Q)、最終審査会終了後、約3か月間に渡って実施する共創活動・ビジネスブラッシュアップなどの成果発表の場「MRI DEMODAY 2024」(2024年3月7日@大手町三井ホール)開催について説明、告知しました。

●株式会社New Ordinary(BAP2022ファイナリスト)との共創事例

「来街者ウェルビーイング向上」のためのツール開発において、BAP2022ファイナリストのNew Ordinary社と三菱総合研究所の両社が共創活動をスタートしたことをご報告しました。

2023年7~8月に実施した実証実験では、New Ordinary社が展開するAIレコメンド機能付き観光アプリ「NOSPOT」が推奨する台東区・墨田区(浅草~押上エリア)約800スポットをモニターが訪れました。得られた満足度を評価した結果、モニターのウェルビーイングスコアは平均で約10%上昇したというデータが得られたことなど、共創の成果をご紹介し、New Ordinary社 代表取締役CEO 作井 孝至氏より、今後の実装に向けた期待を語っていただきました。

引き続き、鉄道などエリア事業者のサービス改善や、来街者満足向上を目指します。

※詳細は以下ニュースリリースをご参照ください
2023年9月23日MRIニュースリリース: https://www.mri.co.jp/news/press/20230929.html
「三菱総合研究所とNew Ordinary、来街者のウェルビーイング向上を実証」

会員ピッチ(ショートプレゼンテーション)

続いて、会員の皆さまが取り組んでいらっしゃる社会課題解決に向けた具体的なアクション、共創活動についてご紹介いただきました。(以下ご登壇順)

ケアプロ株式会社(ベンチャー会員)代表取締役社長 川添 高志 氏

健康的な社会作りに貢献すべく、ワンコイン健診を始めとする革新的なヘルスケアサービスを展開。地域連携をベースに、交通弱者となっている高齢者の外出を支援する取り組み「ドコケア」(外出の困りごとを地域のサポーターが助ける公的制度外の自費サービス)など、生活の場におけるさまざまなヘルスケアサービスをご紹介いただきました。
 

Hyperloop Transportation Technologies(ベンチャー会員)日本代表 和泉沢 剛 氏

先進的な輸送・テクノロジー企業。減圧したチューブの中をカプセルと呼ばれる機体が時速1,000km超の高速で移動(磁気浮上・推進)し、旅客や貨物を安全で効率的かつサステナブルに移動させる(クリーンエネルギー使用)、イーロン・マスクが提唱した次世代交通システム「ハイパーループ」の実現に取り組んでいます。現在の欧米での進捗状況並びにハーバード大学MBAの教材でも取り上げられているユニークな組織形態(=全世界に約1,000名いるプロジェクトマネージャーは、金銭ではなく、貢献度に応じてストックオプションを付与される)についてもご紹介をいただきました。

株式会社アダコテック(ベンチャー会員)COO 村井 誠 氏

産総研特許技術をコアに、製品検査・検品の自動化ソフトウェアにおいて独自のAIを開発。ディープラーニングにはない説明性を担保し「人」が安心・信用して利用できる技術提供をミッションとしています。これまで「使いこなすのが難しい」とされてきた技術でも、生産現場にて汎用性のあるソフトとして提供できるようになった事例をご紹介いただきました。 “モノづくり”以外で強みを生かせる領域として、今後はインフラ検査での社会課題解決、市場開拓、プロダクト開発にも取り組んでいきたいとのお話をいただきました。

株式会社Next Relation(企業会員)代表取締役CEO 小野寺 浩太 氏

パブリックアフェアーズ事業で、新たな市場創出(新商品やサービスの普及・テクノロジーの社会実装)のための外部環境構築をサポート。同社独自のアドボカシー「G-SPECモデル」のご紹介とともに、「パブリックアフェアーズのオープンソース化」をミッションとした企業価値最大化への取り組み、定量評価の実現、複雑な定性情報の可視化など、更なる提供サービスの強化についてもご説明いただきました。
 

八王子市(自治体会員)産業振興部産業振興推進課 主任 野口 貴広 氏

八王子市は、公民共創によるイノベーション創出を通じた地域産業の活性化に取り組んでいます。
「産業イノベーションプラン」では、知識・技術・人材が集い、新たな産業・新たなビジネスチャンス・新たな生活様式を創出する「イノベーション都市・八王子」の実現を目指しています。また、八王子市を含む多摩地域の複数の企業・自治体が連携を図りながら「イノベーション創出」に取り組む「多摩共創プラットフォーム構築」が、八王子市産業イノベーションプランを支えていることもご紹介いただきました。

パネルディスカッション

<パネリスト>
トークンエクスプレス株式会社 代表取締役 紺野 貴嗣 氏
&PUBLIC株式会社 代表取締役 桑原 憂貴 氏
株式会社ninpath 代表取締役 神田 大輔 氏
・株式会社三菱総合研究所 海外事業本部 主任研究員 山添 真喜子

<モデレータ>ICF事務局長 水田 裕二

テーマ:「社会課題解決事業におけるインパクト評価」
モデレータの水田より「インパクト評価・インパクト投資など、ビジネスにおける『インパクト』について、昨今注目が集まっている。そもそもどういう考え方なのか、どう活用されているのか、企業の社会的価値の評価をビジネスにどう取り入れていけばよいのか、皆さまと考えていきたい」と呼びかけました。

話題提供:各パネリストの取り組み・実践事例紹介
今回のテーマに関するフリーディスカッションの前に、インパクト評価業務に取り組んでいる、あるいはインパクト評価の活用を実践しているICF会員3社のパネリストから話題提供いただきました。

●スタートアップ事業拡大とインパクト評価:ninpath社 & 三菱総合研究所・海外事業本部

【会社紹介】ninpath社は、不妊治療サポートサービス「ninpath(ニンパス)」を運営。アプリでの治療記録・管理機能の提供をはじめ、ユーザー自身の状況に近い第三者の治療データと比較することで治療に取り組む現状を客観的に捉える場と、最善の道を考えるきっかけを提供している。また、適切な医療へのアクセス支援、生殖心理の専門家による治療継続相談などメンタル支援にも取り組んでいる。

【話題提供】IMM(インパクト測定・マネジメント)トライアル
(IMM:Impact Measurement & Management)
最初に、今回のIMMトライアルに共同で取り組んでいる三菱総合研究所の山添より、IMMの定義、本IMMトライアル全体設計についてご説明しました。山添は「IMMにはいくつもの手法がある。今回はロジックモデルを策定する方法を用いて、それをベースに指標を設定した。事業の最上位目的であるスーパーゴールは『ファミリープランにおいて多様な選択肢が認められる社会』と設定している。ninpath社事業と、このスーパーゴールをいかにつなげるか議論を重ねた。現時点では、IMM全体スケジュールの半分を終えたところ」と報告しました。

IMMトライアルへの取り組みついてninpath社の神田氏は「不妊治療に取り組む人々の事情はさまざまであり、課題も目指すものも多種多様。そのなかで、迷いながら遠回りしてしまっている人々が遠回りせずに治療を続けることができるように、生殖心理の専門家への相談によって不安が解消され、治療継続できるように支援していくことが当社の価値だと思っている。IMMに取り組んでみて有用だと感じたことは、各ユーザーにとって課題となっている細やかな『点』の話にとらわれがちで、『面』で事象を整理できていない部分があったが、今回、ロジックモデル策定に取り組んで、課題を面でとらえてアウトプットできたこと。難しいと感じたことは、不妊治療という社会的に大きなテーマ、特にスーパーゴールに対する自社の貢献、価値をどう数値化するのか。今後も議論を継続していきたい」と述べました。

●行政基点の社会価値事業拡大とインパクト評価:& PUBLIC社

【会社紹介】&PUBLIC社は、「公共の力をともに革新しよう」をコンセプトに設立されたGov-tech(行政サービスの向上や行政課題の解決を図る)カンパニー。社会価値の可視化・最大化に関する研修、ワークショップ、コンサルティング事業を運営。企業・団体・行政などが携わる地域課題、社会課題解決に向けた取り組みのインパクトを測定、可視化するインパクトマネジメントツールを開発している。

【話題提供】実践的SIBをMIBから
地方自治体、行政領域のインパクト評価を語る時、よく出てくる言葉がSIB(ソーシャルインパクトボンド)。SIBとは、官民連携のための仕組みの一つで、地方自治体などが民間に社会課題解決型の事業を委託し実施、社会的コスト削減の因果関係を評価し、削減されたコスト分を成果報酬として支払う仕組み。この仕組みがなかなか普及しない理由として、& PUBLIC社の桑原氏は「事業構築コストや指標設定、事業評価の複雑さなどに壁がある」と分析。続けて「そこをなんとかしたいと思い『めざす成果・たどり着く道筋・打ち手を整理記録できるツール』の作成に取り組んでいる。このツールは、成果と打ち手の因果関係を意識しながら改善・振り返りができて、納得感がある指標設定が可能。行政と市民が、可視化された『社会価値』を共有し、インパクト評価の実践に活用していただきたい」と説明しました。さらに「今後は、⼩規模な事業規模での成果連動型⺠間委託契約、“マイクロインパクトボンド(MIB)”を世の中に打ち出していきたい。MIBは、企業や市民が資金を拠出し、スタートアップが実行、行政が成果購入するもの」と、課題解決先進国の共創に通じるMIBの社会実装への期待を語られました。

●大手企業におけるIMM(インパクト測定・マネジメント):トークンエクスプレス社

【会社紹介】トークンエクスプレス社は、「インパクトを、企業から」をビジョンに、インパクト測定・マネジメント(IMM)伴走支援事業など、インパクト思考を提供し企業がインパクトを創出する仕組み構築の支援を行っている。社会課題解決型ビジネスには2つの側面があると考えている。1つ目は「しっかりと収益を得る」、2つ目は「ポジティブな社会変化をもたらす、社会課題を解決する」、この2つ目において成果を出すために、インパクト創出を実現する事業計画支援、PDCAをまわすサポートを提供していく。

【話題提供】大手企業におけるIMMについて
トークンエクスプレス社の紺野氏は「インパクト」に対する基本認識として「インパクトは、短期、長期の事業活動などを通じて生じた社会的、環境的な変化や効果のことを指す。ただし、目指すべき姿が明確化されたうえで、それに向かう変化でないとインパクトではない」と解説。その上で、大手企業におけるIMMについて「注目されている理由のひとつとして、事業の社会的価値・環境面での価値の可視化によって、社会課題にマルチセクターで挑戦するためのコミュニケーション(説明責任など)ツールとなることが挙げられる。インパクト評価開示により当該活動の社会的価値を明確にしたり、関係者とのコミュニケーションを円滑にしたりするのに有用。社会課題解決事業を持続可能な成功に導くために必要な要素である」。さらに、大手企業からよく聞く課題として「IMM実践のベネフィットがわかりにくい、社内で理解されにくい」などの点を挙げられました。

フリートーク:各社の話題提供を踏まえて-インパクト評価の可能性と課題

  • 役割と期待:インパクト評価は何のため?
    (桑原氏)外部から評価を得るために利用している会社が多いのではと思うが、自社の社員や顧客にとっての「会社が存在する意義」を創出できる会社になるために、インパクト評価を用いたらよいと思う。自社の社会的位置を客観化するために使用していくとよいのではないか。
    (神田氏)インパクト投資や対投資家に価値を伝え期待感を上げたいという目的、「お金を集める」ためにもスタートアップにとって必要なものだと思っている。対ユーザーでは、自社の価値が伝わっているのかと迷ったりした時に、コミュニケーションツールとして使っていけたらよいと期待している。ninpath社は「少子化対策を目指しているわけではない」ということを伝えたい。「結果として少子化対策」と認識されるかもしれないとしても、あるべき姿・目標とそこに至る過程を見せていくツールとして使っていけたらと思う。
  • いま必要な軌道修正は?留意点は?
    (紺野氏)インパクト評価は「やらなくてはいけない」ものではないといえる。企業や事業者に目的や達成したいことがある時に「うまく使っていく視点」が重要。必ずしも必要なものではなく、目的感があってこそ有用である。
  • 社会課題解決事業推進におけるインパクト評価への期待
    (山添)神田氏のお話にあったように、社内だけでなく社外のステークホルダーに対しても「コミュニケーションツール」としての有用性が高いと思っている。事業のインパクト目線での予測、社会課題解決に寄与しているかの社内での訴求といった、いろいろな場面で有用だと期待している。

クロージング

最後にモデレータの水田が「ここまでのご説明で、インパクト評価はいろいろな分野に適用可能だとご理解いただけたと思う。ICFでもインパクト評価をどう活用していくか、今後も議論、検討を続けていく」と締め括りました。

プログラム終了後

会場参加者の交流会を行いました。登壇者をはじめ参加者同士の活発な意見交換、ネットワーキングが行われ、多くの皆さまにご出席いただいたことで盛況のうちに終了しました。

本イベントについて、参加者からは「インパクト評価の理解ができた」「社会インパクトの話が大変参考になった」などパネルディスカッションを高評価いただく声や、「ICFが目指しているものが、ウェブ記載の情報を超えて具体的に理解できました」などのコメントを頂戴しています。

社会課題解決に向けた具体的な共創活動支援、ビジネス構築から実装事例の創出支援に繋がるよう、引き続きICF事務局は活動を推進していく所存です。今後とも皆さまの積極的なご参加・ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ICF会員限定で当日のアーカイブ動画をご案内しております。こちらからご覧ください。

本イベントに関するお問合わせ

三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:八巻・笠田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp

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