株式会社三菱総合研究所

社会実装研究July 25, 2025パブリックアフェアーズセミナー ~「骨太方針2025」を読み解く~ 開催レポート

ICFでは企業が社会課題解決に資する事業を実装し、新しい市場を創っていくための経営戦略、事業戦略の打ち手として、パブリックアフェアーズ(PA)に注目し、関連セミナー(2024年8月・9月)、ワークショップ(2024年12月~2025年3月、全4回)を開催しました。
この度、上記活動の成果として「PAガイダンス(基礎編)」を取りまとめました。本PAセミナーでは、ガイダンス発行のご案内とともに、6月に政府から発表された「骨太方針2025 ※1」を題材に、政府の基本方針や重要課題など注目すべきポイントを読み解きました。
「PAと紐付けた『骨太方針』の読み解き」は前年度にも開催、好評でしたが、今回も多くの方にご参加いただき、皆さまの関心の高さがうかがえました。
国や自治体の政策動向の把握は、“PAを進めるうえでの基本動作”と本ガイダンスのなかでも紹介しており、特に来年度の予算編成をはじめとした国の政策方向性を示す「骨太方針」を読み解くことは、主要なPA活動のひとつと位置付けています。

※1 内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~
首相官邸 石破内閣主要政策(骨太の方針2025)

本セミナーのアーカイブ動画はICF会員限定で配信しております。こちらをご覧ください。

PAガイダンス(基礎編)
・PA型思考を用いて新たに事業を企画立案、検討、推進する際の手順やポイントを解説
・PAについての理解を促進し、実際のアクションにつなげることをねらいとした構成

社会課題の複雑化、価値観の多様化、テクノロジーの進化などにあわせて、政策もシフトしていきます。
政策を起点とする・味方につけるPA活動のポイントなども本ガイダンスで紹介しています。

PAガイダンス(基礎編)はICFサイトの会員ページから【会員限定】でダウンロードいただけます。
ぜひご活用ください。
https://icf.mri.co.jp/limited/research/research-23836

【総合】「政策とのタッチポイント ~骨太の方針と成長戦略~」
株式会社Next Relation 代表取締役CEO 小野寺 浩太 氏

企業にとって政策は事業成長のための資源といえるが、「政策は遠い存在。事業にどう活かせばよいのかわからない」という声を聞くことが多い。政策と事業のタッチポイントを見つける入口として「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」と、その実現に向けた具体的な施策「成長戦略(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画)」をセットで読み解き、1~2年後の政策の方向性、市場環境の変化を予見することからおすすめしている。

骨太の方針2025では、「賃上げを起点とした成長型経済の実現」に重点が置かれている。昨年までも同様に「賃上げ」が掲げられていたが、今年は「日本経済全体で年1%程度の実質賃金上昇」と具体的な数値目標が明示された。企業がおこなう賃上げに対して政府が後押しできることとして、適切な価格転嫁対策の強化など各種施策を掲げ(下図中「政府が刺激できること」参照)毎年数兆円単位で予算を投じていくとしている。
「賃上げこそが成長戦略の要」との考え方に立って、賃上げの原資を持続的に生み出すための環境整備には、
■ 成長産業への投資(インフレの中で毎年税収は大幅に増大しており、これを成長産業やスタートアップ、人材育成などにいかに投資していくか)
■ 投資立国・資産運用立国の推進(人口減少を前提とした戦略で、国内投資の拡大、家計・企業・経済の成長循環を加速)
■ 地方への投資(これらの波を、伸び代のある地方にこそ行き渡らせる、地方創生2.0の推進)
などがあげられている。経済全体を大きくして、持続的な実質賃金上昇を定着させ、成長型経済の実現を図るということだ。

セミナー当日の小野寺氏の投影資料より

【地方創生】「地方創生2.0における注目政策 ~『CCRC2.0』と『関係人口』~」
株式会社三菱総合研究所 主席研究員 チーフ・プロデューサー 松田 智生

6月に閣議決定された「骨太の方針2025」と「地方創生2.0基本構想」に「CCRC2.0」が明記された。地方創生2.0の主な施策のひとつとして「全世代・全員活躍型『生涯活躍のまち』(日本版CCRC)2.0 の展開。【当面の目標:3年後に全国で100か所小規模・地域共生ホーム型CCRCの展開】」と明記されている。

当社は2010年から「日本版CCRC」の実現に取組んできた。CCRCとは、Continuing Care Retirement Community (継続的なケアが提供される高齢者コミュニティ)の略称。CCRCは米国に普及しているコミュニティで、高齢者が安心して生活できる住まいと、医療・介護サービスを一体的に提供する。全米で約2千か所、居住者約70万人、市場規模は約7兆円にものぼり、「カラダ×オカネ×ココロ」の3つの安心があり、個人・産業・地域の「三方よし」のモデルであり、その有望性と日本に適したモデルを研究してきた。
日本では2015年に日本版CCRC構想有識者会議が発足された。当時の日本版CCRC構想(CCRC1.0)は政府が取組む地方創生の主要施策となり、「高齢者の地方移住、高齢者だけのコミュニティ」といったイメージがクローズアップされると、様々な課題が指摘された。しかし、CCRCの本質は地方移住ありきではなく、QOLの向上である。そこで国のメンバーに私も委員で加わり2019年から大幅な方針転換がなされた。米国の模倣ではなく、従来型のCCRC(CCRC1.0)でもない「地元住民起点で、多世代を対象にしたコミュニティ」が近年では動き出している。それが「CCRC2.0」であり、従来のRetirement(退職)に代わり、Relation(つながり) を重視した「継続的な共助とつながりのある多世代コミュニティ」、すなわちContinuing Care “Relation“ Communityである。

CCRC2.0を構成する担い手として「関係人口」が期待されている。移住した定住人口や、観光に来た交流人口ではない、地域と多様に関わる人々を指すもので、地方創生2.0の基本姿勢・視点には「関係人口を活かし、都市と地方の間で人・モノ・技術の交流・循環・新たな結び付き、分野を越えた連携・協働の流れをつくる」と書かれている。これは、当社が提唱している「逆参勤交代」(大都市圏の企業社員による、地方での期間限定型リモートワーク)=「都市・地方の補完関係の強化と人材循環の促進」のエッセンスが反映されたといえよう

CCRC2.0および逆参勤交代ともに、政策×制度設計×産官学連携が不可欠だ。ICFのような自治体と企業をつなぐプラットフォームでの社会実験の成果の共有と、課題の集約が今後の実装化に必要だ。また、より前向きな取組みにするためには、主語が大切だ。その意味は、地方・地域がなにをすべきかではなく、私がこれからどんな暮らしをしたいかという「私(自分)主語」であり、その起点は「ワクワク感」という前向きな動機である。ゆえに、私主語のワクワク感のあるストーリー性が重要な視点である。
高齢社会と人口減少社会は、人材の争奪でなく共有が求められる。この積み重ねが都市と地方との継続的な支え合いを生む。CCRCに関する様々な規制や先入観といった「課題解決を阻む壁」を超えれば、個人・産業・地域の「三方よし」が実現できる。大切なのは「一歩踏み出す勇気」である。

■関連レポート
「CCRC1.0からCCRC2.0へ ~高齢者の地方移住から地元基点の多世代共助コミュニティへ~」
(ICFサイト掲載)https://icf.mri.co.jp/information/information-23599
CCRCの本質と政策変遷、CCRC2.0とはなにか、全国の好事例を示し、実現に向けたアイディアを6つ提示しています。(1)組合せ型政策、(2)シ高住(しごと付き住宅)、(3)ポイント制度、(4)認証規格、(5)関係人口活用、(6)私主語のストーリー性

私主語のCCRC2.0で実現する多世代の幸せ~石破茂総理インタビュ~
(一般社団法人生涯活躍のまち推進協議会)


【人材】「教育・人材領域 ~「人口減少」を覚悟した政策パッケージへ~」
株式会社三菱総合研究所 未来共創グループ 主任研究員 薮本 沙織

昨年のPAセミナーでは、2013年と2024年の骨太における教育・人材関連キーワードの出現数比較をご紹介し、教育・人材分野の重要性の高まりが読み取れるとお伝えした。2025年の骨太でもその傾向は続いており、特に「人材(財)」「最低賃金、賃上げ」「外国人」の増加傾向が目立つ。また、第1章目次と出現用語の変化(2013→2024→2025)を見ると、政府が日本社会の重要課題であると示している状況は「高齢化」から「人口減少」へ変化していると実感する。
政府は、新たな技術・ビジネスモデルを活用した政策や制度を積極的に導入し「ゼロイチ」を創り出す役割を担っている。それゆえに、国の政策には「旬」がある。政策の旬の変化が顕著に現れているキーワードのひとつに「リスキリング(リ・スキリング)」があげられる(2024→2025)。骨太2024では「三位一体の労働市場改革」のひとつにリスキリングが掲げられ、大きな焦点となり具体的な数値目標がいくつか明記されていた。一方、骨太2025では本文の小見出しが「三位一体の労働市場改革及び中堅・中小企業による賃上げの後押し」という形で、大企業と中小企業の格差が依然として目立つ「賃上げ」支援がクローズアップされ、三位一体の労働市場改革でのリスキリングに関する数値目標の記載は一か所のみに減少した。こうしたところから、政策の「旬」の移り変わりが読み取れる。

では、骨太2025の教育・人材領域において、旬に位置する政策はなにか。「高度人材」「専門人材」ともに確保、強化といった期待を表明する記載が各分野で増加していることから、「人材」への期待の高まりが伝わってくる。確かに、人口減少社会において人材は貴重だ。しかし、変化の激しい社会のなかで求められる専門性は短い周期で移り変わる。そのため、「専門人材をどう育成するかの大方針」が今後必要なのだが、骨太2025からは、そうした大方針は十分に読み取れなかった。
こういった場合は、昨年のPAセミナーで提案した「わたしたちと骨太~ピボットとアシスト~」(①自社事業・専門領域に完全にマッチするものに限らず「近隣」を骨太から見出し、事業拡張のチャンスに向けピボットしてみる。②骨太方針の具体化に資する自社が持つエビデンスを提供するなどの活動で省庁をアシストする)に「プレイ」を加えて、「ピボットとアシストそしてプレイ」をテーマとした活動をおすすめする

「プレイ」にあたる活動とは、前述したような「骨太を読んで浮かんだ疑問やアイディア」を各省庁へ相談・提出し、新しい事業アイディアを実装すること。政策を「観客」として見ていた立場から、骨太に親しみ「プレイヤー」として参加することで、場合によっては補助金や委託事業などの獲得、調査や実証も視野に入るであろう。「プレイ」の際には、本日リリースした「PAガイダンス(基礎編)」も活用いただければ幸いに思う。

— 骨太の方針2025に「CCRC2.0の全面展開」が明記された。また、地方創生2.0基本構想には、「逆参勤交代」のエッセンスが記載された。(特定の地域に継続的に多様な形で関わる関係人口への期待、政策パッケージのひとつに「関係人口の量的拡大・質的向上」の明記など)PAの観点から、どんな活動が今回の結果に結びついたと思うか。

(松田)一般的には、政策提言を行って1、2年で成果が出ないと取組みをやめてしまうケースが多いように思う。本格的に取組むには「続ける、深める、広げる」が重要。当社は、産官学のCCRCを10年、15年と一貫して支援し続けてきた。粘り強く、継続して取組んできたことが今回の結果に結びついたと思っている。

PAを進めていくうえで、企業側から政・官への働きかけや連携も必要となってくる場面もあると思われるが、公平性、透明性の点を踏まえて、どのような点に留意して動くのが望ましいと考えるか。

(薮本)まず、エビデンスに基づいて政策に関わっていくことが、令和時代の新しいPAだと思う。現場の声として、事例を知ってもらうために、データ(エビデンス)を見てほしいという姿勢で働きかけると提案が届きやすいのではないか。事例も、ひとつだけよりも複数集めたほうが、官側とのコミュニケーションに効果的。さらに個社からの提案よりも、ICFや経済団体など開かれた場からの声として発信すると、先方が安心して受け取りやすい。

(小野寺氏)2点ある。1つ目は、自社事業のためだけではなく「社会課題解決に向けて、仲間として一緒に活動していきましょう」という姿勢でコミュニケーションをとるとよいと思う。政府が重要課題ととらえているテーマは骨太に書かれているので、ぜひ骨太を読んで活用していただきたい。2つ目は、業界構造を理解している側ならではの新市場開拓の視点を提案として持ち込むこと。骨太2025にも書かれている「日本の本格的な人口減少を見据えて」政府は新たな市場創出を目指そうとしているが、官側や政治家はすべての業界構造を詳細に理解しているわけではない。業界側が、どこに目詰まり(新たなビジネスが生まれにくい要因)があるのか、その目詰まりの解消のためには規制緩和が必要なのか、一時的な補助金が必要かなどを特定して提案として持ち込むと、ともに政策に取組む仲間として、よりよい官民連携が構築できるのではないか。

― 骨太2025のなかで、日本は「人材希少社会に入っている」という表現もあるが、特に若者の大都市圏への流出が続く地方での人手不足は深刻。都市と地方、消費側と供給側といった二項対立のままでは立ち行かなくなる。こうした点も踏まえて「逆参勤交代」などの展開については、どのように考えるか。

(松田)大企業が兼業・副業を後押しすることが大事と考える。逆参勤交代に参加した方が、総務省の副業型の地域活性化起業人制度を活用して新潟県妙高市で活躍するなどの好事例も出てきている。PAは補助金を獲得するための考え方ではないはず。公的資金頼みではなく、企業が理念や哲学を持って、民間主導で進めていくことが、持続可能性のポイント。政策・制度を賢く活用することと、それとは一線を画して、各社のビジョンや課題に基づき取組みを進める「仕分け」が肝要だと考える。

骨太の方針2025を受けて、企業はどうアクションにつなげるべきか。

(小野寺氏)政策をパッケージでとらえていく視点が必要。政策パッケージは特定の課題解決のために、法律、予算、税制、広報など様々なツールで形成されている。そのなかで、このツールは自社事業に関連する、ビジネスチャンスがありそうだと予見性を持って文脈を追っていくことをおすすめする。また、(骨太本文の注釈部分などを参照し)接続する政府の重要文書(審議会資料、白書など)を読むと、より詳しいエビデンスにたどりつける。ぜひ、骨太本文で語られている方針の根拠となっているエビデンスもしっかりつかみ、自社事業に資するアクションにつなげていただきたい。

(薮本)今年の骨太は非常に具体的でアイディアに満ちていると感じている。書かれている政策方針を分析する視点とは別の視点で、新聞を読むように骨太を読んでみると、PAの最初の一歩になると思う。加えて、昨年と今年の骨太を比較すると変化がよくわかる。特定のキーワード出現数や文章の文字数を数えて、昨年と今年の方針の変化を比較してみるといった「楽しみながら読んでみる」ことをおすすめしたい。

(松田)骨太に書かれている政策、制度設計、認証・規格化にビジネスチャンスがあるといえるが、特に申し上げたいことは、「骨太が、国が」を主語にするのではなく、「わが社」を主語にしたうえで何がしたいのかが重要だということ。そのために骨太をどう活用し得るのか、各々が理念を持って取組むべきと考える。

本セミナーに関するお問い合わせ

三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ 担当:笠田
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp

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