開催概要
2021年6月11日(金)15:00-16:30(Zoom開催) 参加者63名
プログラム
- イントロダクション:開催趣旨、社会課題リストとは
- 社会課題リスト2020年版の解説<ウェルネス分野>
株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 研究員 玉川絵里 - 社会課題リスト2020年版の解説<防災・インフラ分野>
株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 主任研究員 片岡敏彦 - 社会課題リスト2021年版で扱う予定の課題
- 質疑応答、感想の共有
- アフタートーク
議事概要
1.イントロダクション:開催趣旨、社会課題リストとは
冒頭、今回のセミナーの趣旨、社会課題リストとは何かについて説明があった。
・2017年度より三菱総合研究所が運営する未来共創イニシアティブ(ICF)が編纂・発行している『イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧』(以下、社会課題リスト)は、ICF会員を始め多くの企業や個人から好評をいただいているが、その一方で年々の社会課題の追加に伴ってボリュームも増加し、「どこから読むべきなのか」「使い方を教えてほしい」といった声もいただいてきた。
・そこで、2020年度版の社会課題リストの内容を解説するセミナーを開催し、ICF会員企業に社会問題を理解していただくとともに、様々な知見を持った会員からの意見を募ることにより、現在企画中の『2021年度版社会課題リスト』を作成する上でのヒントも得ていきたい。
・社会課題リストは、特にイノベーションによる解決が期待される6分野を抽出して一冊にまとめたものである。リストでは多くの人が困っている「問題(Problems)」をまずピックアップし、その問題を解決するためのチャレンジ(Things to Do)を「課題」として捉え、「課題」にはどのような技術的・制度的アプローチが考えられるか、という3ステップで社会課題の基本的構造を整理している。
・社会課題リストはこれまで年1回の発行だったが、2021年度版では年3回『社会課題レポート』を公開し、その後年度末にレポートを取りまとめた『2021年度版社会課題リスト』を出版する予定である。
2.社会課題リスト2020年版の解説<ウェルネス分野>
2020年度版のウェルネス分野の6つの社会問題のうち、「4. 自立維持が困難な高齢者の増加」「5. メンタルヘルスを損なう人の増大」を紹介した。
①「自立維持が困難な高齢者の増加」について
・65歳以上人口の割合が21%を超える「超高齢社会」が2007年時点で到来し、それに伴う社会保障費の増大、認知症患者数の増加が特に問題になっている。さらに、現在は2025年に団塊の世代全員が75歳以上となる「2025年問題」を間近に控えている。社会課題先進国とも呼ばれる日本が本問題にどう対応・解決するのか、世界中から注視されている。
・国際的な専門家によって構成されるランセット委員会によると、認知症の3分の1は若年期の教育や中年期と老年期の心身の健康への早期対処で予防可能と言われている。こうした予防へのアプローチや、介護者の負担軽減にビジネスチャンスが眠っている。
・例えば、京都府では認知症初期集中支援チームと連携しながら認知症の人やその家族の不安に寄り添い必要なサポートを行う「認知症リンクワーカー」を設置し、患者本人やその家族と地域をつなげて高齢者の自立支援を促そうとしている。
②「メンタルヘルスを損なう人の増大」について
・日本においては精神・行動障害を有する患者数が350万人、生産低下などの間接費を含む社会的コストは8.3兆円にまで上ると見られている。さらに全世界では7億9200万人もの人がなんらかの精神疾患を抱えているとされている。
・一度精神疾患を患ってしまうと回復するのは困難で、再発の可能性も高いため、予防と予兆の把握が重要である。そこで健常時からメンタルヘルスのモニタリングをしたり、スマートフォンのセンサーなどを活用して定期的に日々のメンタルの記録をしたりすることで、適切に医療の介入ができる環境を作るサービスの需要が高まると見られている。
・関連事例として、iPhoneを活用したメンタルのセンシングや分析、レコメンドを提供するサービス等がある。
3.社会課題リスト2020年版の解説<防災・インフラ分野>
2020年度版の防災・インフラ分野の4つの社会問題のうち、「1. 自然災害に対する備え、対応が不十分」「4. 社会インフラの活用・維持が非効率」を紹介した。
①「自然災害に対する備え、対応が不十分」について
・近年、大型台風による災害が数年に一度のペースで発生し、2019年には2兆円を超える経済損失が出ているが、自然災害への備えは、依然として地域的・受動的な対応にとどまっている。災害発生後の対策も不十分で、災害後の最低限の生活環境も確保されていない。
・「国土強靭化」が課題である。具体的には、1)情報の一元化とオープン化により、被災状況を迅速に把握できる体制を準備すること、2)災害発生時に住民の自助・共助による避難行動ができるよう平常時から教育・訓練することがあげられる。また、「フェーズフリー」と呼ばれる平常時にも非常時にも活用できる商品の開発・普及も求められる。
②「社会インフラの活用・維持が非効率」について
・道路や水道、ガス、電気などの社会インフラは人々の生活の基盤だが、収益性が低く、維持管理・更新費用の増加により多くの自治体の財政が圧迫されるという問題がある。
・この領域で取り組むべきは多角的視点で社会インフラの高度化を図ることである。1)官民パートナーシップなど民間活用により事業領域拡大や新しいビジネスモデル構築を行う、2)ビッグデータやAIの発展で実施しやすくなったダイナミックプライシングで需給バランスを調整する、3)既存のインフラに手を加えたり改修することでイノベーションの土壌にしたり、地域の賑わい創出の場にするという試みなどが生まれている。
4.社会課題リスト2021年版で扱う予定の課題
2021年版リストで扱う予定の新規課題として、ウェルネス分野では「現役世代の女性の健康リスクが増大」と「孤独・孤立」、防災・インフラ分野では「インフラへのサイバー攻撃の増加・深刻化」を扱う予定であることが紹介された。
5.質疑応答、感想の共有
解説終了後の代表的な質問とその回答を幾つか紹介する。
Q. 今回紹介した社会問題にはコロナ禍で前提が変わったものも多いと思うが、今後社会課題リストにはどのように掲載するか?
A. 指摘通りコロナ禍で多くの社会問題の状況は変化しているという認識を持っている。例えば認知症患者や生活習慣病患者は増えているという見方があり、各分野ともコロナで生じた変化を書き加える予定である。また、2021年度版社会課題リストに新規追加する社会課題もコロナ禍の変化を踏まえている。
Q. 「自然災害に対する備え、対応が不十分」で触れた自助力・共助力を高めるにはどのような方法が有効と考えるか?
A. まずは個人の意識変容が考えられる。避難対策というと公的機関が行うべきものという意識を持つ人が多いと思われるが、一人一人の個人が対応すべきものだとの認識を持つ必要がある。そのためにもフェーズフリー商品の開発や、パーソナル防災の動きを強めることが重視されている。本内容は、2021年度版で詳しく取り上げる予定。
〇感想(要旨)
・社会問題は深刻さに目が行きがちになるが、それがビジネスにつながるかどうかは『深刻さ×数』で決まる。深刻でも対象者が少ないとビジネスになりにくいことは理解しておくべき。高齢者に関する問題は誰もが関係するが、現状は手間が掛かる割には儲かりにくい領域でもあり、テクノロジーを活用して魅力を上げていく必要がある。防災に関しても、『たまにしか起こらない』ため、ビジネスにしづらい側面がある。そこで、フェーズフリーの商品・サービスには大きなビジネスチャンスが眠っているし、そのシステムを展開するためのデータやAI活用にも商機があるのではないかと感じた。
・「防災・インフラ」分野に関しては国としての重要課題ということもあり、可及的速やかな対応を求める声もある。
・日本の防災は『起きてから対応する』ものが多い。本来は被害を少なくすることが防災であり、そのためにも多くの人や企業が知恵を合わせるべきだが、防災は縦割傾向が強く、自治体なら自治体だけ、企業なら企業だけが単独で動いている印象。また、防災関係をビジネスにしている企業は今もいるが、ボランティアに近い状況である。そのため、例えばモデル都市を作ってその中で先進的な取り組みを行うことも必要だ。自助・共助の動きに関しても同様で、平時から取り組むことで意識を高める必要がある。このような考えは今出現したわけではなく、何十年も同じことを繰り返しており、今こそ本腰を入れていくべきである。
事務局メッセージ |
質疑応答やアフタートークを通じ、事務局としても、会員の皆様の関心領域や考慮すべきポイントについて多くの示唆を得た。その内容は、2021年版の社会課題レポートに反映するとともに、レポート発行後にはあらためて会員の皆様と意見交換の場を設け、さらに取り組むべき課題解決の切り口等を磨いていきたいと考えている。 社会課題リストの解説セミナーは今後、環境・エネルギー、水・食料、モビリティ、教育・人材育成分野においても実施していく予定であり、引き続きご参加いただけると幸いである。 |