株式会社三菱総合研究所

未来共創プロジェクトAugust 17, 2021第3回プラチナキャリア・アワード 記念シンポジウム 報告

人生100年時代、働く期間が長くなる中で、年齢によらず自律的な学び・経験を通じてスキルを磨き、得られたスキルを存分に活かして所属する企業や社会に貢献していく生涯のイメージを”プラチナキャリア”と呼んでいます。今回で3回目となったプラチナキャリア・アワードは、こうしたキャリア構築を支援する企業を選定・表彰するものです(企画:ICF、三菱UFJ信託銀行 協力:東洋経済新報社)。
今回は最優秀賞1社を含む7社を選出し表彰するとともに、これを記念してシンポジウムを開催し、これからの人生100年時代、ポストコロナ時代を皆様とともに考えました。
本稿では、記念シンポジウムの概要をご報告いたします。
なお、プラチナキャリア・アワードの詳細は下記をご参照ください。
https://platinumcareer.mri.co.jp/

第3回アワード報告レポート

1.開催概要

▼日程
2021年6月8日(火)15時00分~17時15分

プログラム

15:00開会挨拶
三菱総合研究所 未来共創本部長 須崎 彩斗
15:05後援者挨拶
厚生労働省キャリア形成支援室室長 山本 浩司 氏
株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員 小沼 泰之 氏
15:10基調講演:「プラチナ社会の実現を目指して~コロナを奇貨として未来を創ろう~」
プラチナキャリア・アワード審査員長・三菱総研理事長 小宮山 宏
15:30アワード結果発表
プラチナキャリア・」アワード事務局
報告:「第3回プラチナキャリアアワード調査データから見えてきたこと」
三菱総合研究所 キャリアイノベーション本部 奥村 隆一
15:45最優秀賞受賞企業講演:「一人ひとりの働きがい・キャリアを応援する取り組みについて」
株式会社アイシン 人事部BRダイバーシティ推進室長 神谷 祐加 氏
16:00休憩
16:10記念講演:「自分から動く~変化と距離で築くプラチナキャリア」
大阪大学大学院経済学研究科准教授 安田 洋祐 氏
16:30パネルディスカッション:「企業は社員のキャリア形成をどう進めていくべきか」
〈パネリスト〉
・株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 佐々木 かをり 氏
・東京大学大学院教育学研究科 教授 牧野 篤 氏
・オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表 諸星 裕美 氏
(社会保険労務士・キャリアコンサルタント) 
・三菱UFJ信託銀行株式会社 経営企画部エグゼクティブアドバイザー 星 治 氏
17:15閉会

2.シンポジウムの内容

▼主催者挨拶

開会に先立ち、主催者を代表して三菱総合研究所未来共創イニシアティブ(ICF)事務局長須崎彩斗より、「コロナ禍により働き方が大きく変化していくなか、今後の人材育成の進め方に大いにヒントにしていただきたい」と挨拶を行いました。

▼後援者挨拶

厚生労働省 キャリア形成支援室 室長 山本 浩司 氏

株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員 小沼 泰之 氏

厚生労働省の山本浩司氏は、「DXの急速的な進展を背景に、求められる職業能力が多様化していますが、人材育成の大半が企業で行われる日本においては、企業の労使が協力してこれに取り組むことが求められます。アワードの受賞企業は、そのトップランナーとして社会を牽引して欲しい」と期待を述べられました。東京証券取引所の小沼泰之氏は、6月に改定されたコーポレートガバナンス・コードにおいても、人材戦略、人材の多様性の重要性が明記され、企業が取り組む必要性はますます高まっていることを述べ、各企業でプラチナキャリア形成に取り組んでほしいと呼びかけました。

厚生労働省 キャリア形成支援室室長
山本 浩司氏
株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員
小沼 泰之氏

▼基調講演 「プラチナ社会の実現を目指して ~コロナを奇貨として未来を創ろう~」
審査委員長 株式会社三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏

小宮山審査委員長からは、まず、長らく自身で取り組んできたプラチナ社会について説明がありました。「地球が持続」、「豊かさを維持・拡大」、「自己実現を可能にする」社会を「プラチナ社会」と定義し、その実現に向けた有力な産業分野として、健康・自立、一次産業、教育等を提案。日本はこうした分野に様々な課題を抱えた「課題先進国」であり、チャンスはあるにもかかわらず、動かなかったのが現実であった一方、新型コロナ感染の拡大を奇貨として、急速に変化が加速しているが、コロナ禍の一時的な対応にしてはいけないと指摘しました。テレワークの実施状況も踏まえながら「人生100年時代のプラチナキャリア実現を目指して、長期的な視点、自律的に学ぶ、社会課題の解決に動くことが必要であり、こうしたキャリアの実現が日本を変えて、プラチナ社会実現に繋がるのではないかと考え、プラチナキャリア・アワードを更に盛り上げていきたい」と話しました。

審査委員長 株式会社三菱総合研究所 理事長
小宮山 宏

▼報告 第3回プラチナキャリア・アワード調査データから見えてきたこと
三菱総合研究所 キャリア・イノベーション本部 主席研究員 奥村 隆一

三菱総合研究所、奥村隆一からは、プラチナキャリア・アワード一次審査に利用したアンケート調査を用いて、アワードの特徴である長期的視点、自律的学び、社会課題解決の3点における企業の取り組み状況について報告がありました。あわせて同アンケートを統計的に処理・分析した結果、プラチナキャリアへの取り組みが進んでいる企業は「働きやすく、概ね市場評価も高い」傾向が見られること、そしてこれらの企業は「企業の枠を超えた」及び「仕事の変化に対応した」能力開発の仕組みが充実していることを指摘、「プラチナキャリア企業に光を当てることで、引き続き働き手や市場の評価を高めていく必要がある」と話し、締めくくりました

三菱総合研究所 キャリア・イノベーション本部 主席研究員
奥村 隆一

▼最優秀賞受賞企業講演「一人ひとりの働きがい・キャリアを応援する取り組みについて」
株式会社アイシン
人事部BRダイバーシティ推進室 室長 神谷 祐加 氏

アイシンは1965年創業、従業員は3万7000人、連結対象会社207社も含めると約12万人を擁する大企業であり、神谷氏からは主に「キャリアを応援する取り組み」、「一人ひとりの働きがいの向上に向けた取り組み」の2つについてお話を頂きました。
キャリアを応援する取り組みでは、自律的なキャリア構築を促進する教育体系として、従来の全社一律の教育から、一人ひとりが自律的・主体的に成長する機会を提供するため、自ら選択できるメニューを用意したほか、キャリア形成にチャレンジできる異動・配置の仕組みを充実させていることを説明されました。また、キャリア支援施策として「知る」「描く」「磨く」をポイントとして年代別に様々な支援施策を実施、特徴的な取り組みとして、部下のキャリアと人生を応援しながら、自らも仕事と私生活を楽しみ、組織業績を出すことができる上司(イクボス)を増やす取り組みをご紹介頂きました。
一人ひとりの働きがいの向上に向けた取り組みでは、コミュニケーションをベースに、職場の心理的安全性を高め、信頼関係を通じ、生産性と働きがいを向上させるチームビルディングの取り組みである「ATBA活動(Aisin Active Team Building Activity:アイシン流活力溢れる職場づくり)」についてご説明を頂きました。チームでありたい未来像を考え、そこに向けて職場一体となって課題解決を進めるもので、社内全体で850チームが推進している大規模な活動です。ATBA活動のような職場主体で進める活動に加え、自己成長と働きがいを後押しする人事制度や環境整備を推し進めることで「新たな価値創造」を実現する人材マメジメントを推進していきたいと神谷氏は締めくくりました。                     

株式会社アイシン神谷氏説明資料より

▼記念講演「自分から動く~変化と距離で築くプラチナキャリア~」
大阪大学大学院経済学研究科准教授
安田 洋祐 氏

安田氏は、プラチナキャリアを築く、育んでいくために2つの観点をあげられました。「罠(トラップ)を避けよう」「仲間を増やそう」ということです。具体的には「なぜトランスフォームできなかったのか」「キズナを作るために必要なものは?」という2つの問題点から話をひもとかれました。安田氏は、まず、トランスフォームできなかった理由として、動けない個人と変われない組織をあげました。「個人」は「スイッチングコスト(乗り換え費用)」を高くしてしまうこと、「Exit & Voice(離脱と不満申立)」が機能しないことが問題と指摘しています。また、組織に対しては「情報の非対称性」「現状維持バイアス」「ブラック均衡」の3つ、特に「ブラック均衡(皆が良い選択をして均衡すれば良いのにそれができなくなって、誰も何もしないという、悪いほうで均衡してしまう)」が課題である指摘されました。こうした弊害から抜け出すには、空気を読まない人材の採用(多様性のひとつ)、経営陣/上司の強いコミットメントの重要性を示されました。コロナショックは今までの慣習を変え、ブラック均衡から脱却する可能性があることを指摘されました。
次に、キズナを作るために必要なものとして、「2つの物差し」を挙げられました。ひとつは「Scale(大きさ、各人の組織への貢献度を見える化)、もうひとつが「Distance(距離、人と人の心理的距離)」で、SとDのバランスの良い組織が良い引力=Gravityを産むので安田氏は「ScaleとDistanceの掛け合わせで引力=Gravityが生まれることを、「SDG仮説」と呼んでいます。」とご説明されました。そして最後に、コロナ禍でも、新しい機能を実装することでキズナを生み出すよう呼びかけて、講演を締めくくりました。

大阪大学大学院経済学研究科准教授
安田洋祐氏

▼パネルディスカッション

〈パネリスト〉株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 佐々木 かをり 氏
東京大学大学院教育学研究科 教授 牧野 篤 氏
オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表 諸星 裕美 氏
(社会保険労務士・キャリアコンサルタント)
三菱UFJ信託銀行株式会社 経営企画部エグゼクティブアドバイザー 星 治 氏
〈モデレータ〉プラチナキャリア・アワード事務局 
三菱総合研究所 未来共創本部 主席研究員 高橋 寿夫

パネルディスカッションでは、まず自律、経験値、ミスマッチ等をキーワードとして議論が進みました。生涯学習が専門の牧野篤氏からは、「自律、自己実現を強調することで、個人を重視するあまり、個人が単なる消費者になってしまう傾向が強い。個人をめぐる議論が、人を消費者に落とし込む方向に進みがちな点を危惧している」との問題提起いただきました。これを受けて社労士として中小企業と関わる諸星裕美氏からは「消費者になってしまうというのは、大企業、中小企業関係ない。ただ、中小企業では日々の仕事に追われ、キャリア教育を行っているところもまだ少ないし、自律性を意識しているところはあまりない」とのご意見を頂き、ダイバーシティに詳しい佐々木かをり氏から「多様性があることは、ダイバーシティ経営の最初のステップに過ぎない。その先にインクルージョンがあり、力を合わせて良い結果を生み出すという共通目的がある。『多様な社会だから私は好きにしていい』というわけではない。3人寄れば文殊の知恵、という精神が重要」というご意見を頂きました。
続いて、「経験値」の獲得が論点となりました。これについて星治氏から「兼業・副業」の可能性ついて提案がありました。「副業・兼業は広く社会の風を受けるうえ、緊張感もあり、能動的・自律的に動くきっかけになるのでは。企業では、社員を“外に出す”ことには意欲的だが、逆に副業兼業人材を受け入れる、社外取締役ならぬ社外従業員がいると、外から見られているという刺激にもなるのではないか。」
これを受けて牧野氏から「問い返し」の重要性について指摘がありました。「副業をはじめとして、他流試合をやることで、何に引っかかっているかを深く内省できるようになってくる。それを社会に置き直すことで、社会が求めているアイデアが出てくるのではないか。」
次の論点として「人材のミスマッチ」があげられましたが、諸星氏、佐々木氏がそれぞれの立場から次のような発言がありました。
「中小企業では副業・兼業は、売上を補填するという観点であり、経験値まではいっていない。一方で、大企業のノウハウを必要とする中小企業は多く、副業・兼業で大手人材が来ることは前向き。大手企業の従業員にとっても人生100年時代で、新たな働き方を探すことができることはメリットになると思う。」(諸星氏)
「日本企業も、もう少し、人を受け入れる体制を整備したほうが良いし、社内でもオープンポジションなどを導入して、有能な人材が自ら活躍の場を掴める仕組みを実施するなどが大切だと思う。また個人的には、究極の考え方としては全員が1-3年ごとの契約にして選び直せれば、互いに緊張感を持ってのぞみ、ミスマッチの問題も解消されるのではと思う。」(佐々木氏)
最後にモデレータの高橋が「これからもプラチナキャリア情報を発信していきたい」と締めくくりました。

パネルディスカッションの様子

表彰企業

最優秀賞 
株式会社アイシン様

優秀賞 
サントリーホールディングス株式会社様

優秀賞
株式会社T&Dホールディングス様

優秀賞
日本電気株式会社様

特別賞
エーザイ株式会社様

特別賞
株式会社エスプール様

東洋経済賞
アズビル株式会社様

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