株式会社With The World 代表取締役 五十嵐 駿太 氏
世界62か国の学校と日本の学校をオンライン上で繋ぎ、延べ10,000人の子どもたちに国際交流のプログラムを実施。事業を通じて、社会問題の解決の促進や、持続的な教育環境の普及を志す。どんな国の子どもたちも「明日が待ち遠しい」と思える世界を目指し、教育の分野でSDGs推進に貢献する、株式会社With The World代表の五十嵐駿太氏にお話を伺いました。
―起業から5年という期間で、すでに世界60か国以上をオンラインで繋ぎ、延べ10,000人以上の生徒・学生に国際交流の場を提供なさってきた五十嵐さんですが、まず、そのきっかけをお聞かせいただけますか。
もともとのきっかけは学生時代のバックパック旅行です。フィリピンやカンボジアの貧しい地域、スラム街などに出向いて、テニスを教えて回っていました。そんな中、教育を受けることができない子どもたちに出会うことが多く、そういう場所で現地調査をすることが、自分のミッションかもしれないと感じるようになりました。
―学生時代の旅行で出会った子どもたちがスタートだったと・・・。
はい。実は、彼らと交流するうちに、2つのことに気が付きました。1つは彼らのポテンシャルの高さ。学ぶ意欲が凄まじく、すぐ吸収してどんどん成長していく。テニスを教えると、2時間ぐらいで、もう試合ができるぐらいになるわけです。その姿を見て、彼らがきちんと教育を受けたらどんな大人になるのか、どこまで成長していくのかと思いました。
もう1つは、貧しい子供たちと、裕福な子どもたち、貧しい国と豊かな国、その格差が今の状態だときっと埋まらないだろうという危機感を持ったことです。
当時私は、フィリピンなどでテニスを無償でコーチしていました。SNSを通じて、各家庭に眠っていたテニスラケットを集め、現地で子どもたちに配ったりして。すると貧しい子供たちはもちろんですが、そうでない子たちも興味を持ってやってきます。
そんなとき裕福な子どもたちに、現地のスラム街の状況や、彼らの地域での問題点を尋ねると、案外何も答えられない。彼らは成長してから、国のリーダーになるような立場にあります。でも、思った以上に、自分の地域の課題について知らないのです。
―将来、その国のリーダーになるような裕福な子どもたちが、想像以上に自国や地域の貧しさや社会的課題に無関心だと気が付かれた。
そうです。それが今の日本と海外の学校をオンラインで繋いだ国際交流事業の原点です。日本人でも留学すると日本のことをもっと知りたくなったり、日本の文化が好きになったりしますよね。むしろ海外の人こそ、われわれの文化に興味を持ってくれますから。ですから日本を含め、いろいろな子どもたちに国際交流のきっかけを提供して、自発的に自分の国や地域のことを考える機会を持ってほしいと思いました。
―なるほど、将来のリーダーたちが、海外に多くの友人を持ち、かつ自国や地域の格差問題にも関心を持ってくれれば、いろいろなことが変わっていく気がします。
格差をなくすにはちょっと遠回りかもしれないですが、そんな気持ちを持って、With The Worldを立ち上げました。
―こうやってお話を伺っていると、五十嵐さんは海外経験が豊富で、幼少期から海外を飛び回っておられたのかと思っていたのですが、初めての海外体験は大学生の時だったんですよね。
はい、今お話しした大学時代の旅行が、初めての海外体験です。だから最初から海外の問題解決をしたいと考えていたわけではなく、大学時代は体育会系のテニス部で熱心に活動をしていました。
―そもそもなぜ海外へ、バックパック旅行に行かれたのですか。。結果的にはフィリピン訪問で、がらりと人生観が変わられたのですよね。
はい。よく海外で孤軍奮闘、活躍する日本人を取り上げて紹介するテレビ番組がありますよね。私はこの手の番組がとても好きで、自分の中で電気が走るような、「ああこの人すごいな」っていう方が登場する番組を録画貯めしていました。ちょうど就職活動のころ、この先自分がどうするか悩んだとき、撮りためた録画の中から見て感銘を受けたのがすべて教育関係だったという・・・。
―全て教育関係!?
それで、ああ自分は教育に関心があるのだなと。その中で、もっともお目にかかりたい方が活躍なさっていたのが、フィリピンでした。じゃあ、実際行ってみようと。
―なるほど・・・。テレビ番組をきっかけに、実際にフィリピンまで行ってしまうという行動力もすごいですが、会社を立ち上げてわずか5年で、延べ10,000人に交流の場を提供しているという成果にも驚きです。
おかげさまで、口コミやネットを通じて、たくさんの教育機関から、ご依頼をいただいています。でも卒業後すぐにこの会社を始めたわけではなく、実は最初にパソナグループという人材派遣の会社に就職しているのです。
―人材派遣?それはまたどういう理由だったのですか
当時パソナグループは、年に1度ビジネスコンテストがあって、そこで優勝すると1,000万円の資金と起業のチャンスがもらえました。そのコンテストを目指しながら、新規事業の立ち上げなど、独立に必要な知識を学びました。期間としては3年くらいですね。
―いきなり起業ではなく、実はきちんとノウハウを学んでから、With The Worldを立ち上げられた。
はい。現在日本の提携校114校と海外の各国をオンラインで結んで、それぞれ第二言語である英語で、交流してもらっています。生徒たちの約8割が英語に自信がないと言いますが、私たちのアシスタントスタッフが遠隔で入りサポートします。生徒4,5名に対して1人のアシスタントが付くので、密度の高い交流ができると好評です。
―具体的な成果も出ているそうですね。
例えば神戸大学との共同研究では、3回、4回とセッションを重ねるうち、生徒の自己肯定感が向上したり、発言語数が多くなってきたりという成果が確認されています。
アンケートでわかったのですが、「海外旅行に行きたい」回答した生徒たちの8割以上が、英語を学びたいだけでなく、異国の人たちと直に接してコミュニケーションをとりたいと思っています。
そこで私も旅行業の資格をとりました。彼らがオンラインで出会った人たちに、実際に会いに行けるツアーを企画するためです。こういうオンラインと実際の交流とのハイブリッドで、更なる相乗効果を期待しているところです。
―直に会いに行ける・・・それは生徒さんも、より興味が深まりますね。現在はさらに「世界の果てまで教育を届け続けたい」という五十嵐さんの本来の目的のため、新しいツアー形態も発信中と伺いました。
「オンラインスタディツアー」といいますが、スラム街に住んでいる子たちと、日本の生徒をオンラインで繋ぐのです。そこで話をしながら「彼らの幸せってなんだろう」とか、「今どんな環境で過ごしているのか」ということを、お互い意見交換しながら学んでいきます。
相手の国の子どもたちからも、斬新な質問がきたりして、なかなか盛り上がりますよ。
「日本の土の色は何色ですか」とか。
―土の色ですか。
ザンビアの子どもたちから、日本の高校生への質問なのですが、みんな驚いていましたよ。「え?色?」みたいな。そんなことを気にしたことがなかった彼らにしてみたら刺激的で、ザンビアの子どもたちの見ている世界や感じ方が、自分たちとまったく違うのだということが理解できた瞬間だったと思います。
―ちなみに、ザンビアの土の色は何色なのですか。
ザンビアの子どもたちは赤と答えていました。ちょっと赤土のような感じです。
このツアーで、日本側の参加校が支払う費用の約15%が、外国の子どもたちの教育の継続に役立つよう寄付されます。どんな状況の子どもたちも「明日が待ち遠しいと思える世界へ」という我々のビジョンに1歩でも近づけるようにという試みです。
―ただこれらのオンライン交流は、機材の手配や相手先とのマッチングを考えると、導入する学校側の時間的、経済的なご負担はかなり大きくなるのではありませんか。
先生方は激務なので、我々は海外校との時間調整をするところから始めて、先生方に極力ご負担がかからないようにしています。現在私立と公立学校の利用割合は半々くらいです。公立校での採用が多いのは、安倍政権時代のタブレット1人1台政策によって、導入の際の初期費用がほぼかからない状態でスタートできたことが大きいです。
―時代の追い風もあったということですが、各校から人気の高い理由は何だと思われますか。
現在日本での導入実績は114校に上ります。しかし全国一律のパッケージ的なものは使わず、先生の希望や各校の特徴に合わせたオーダーメイドのプログラムを創っています。従って、114校あれば114通りのプログラムを持っています。さらにプログラム終了後には、成績評価まで行っているということが、高い評価、支持をいただける理由かと思います。
―学校の特色としてアピールもできますから、オーダーメイドのプログラムは喜ばれるでしょうね。五十嵐さん、本日はお忙しい中ありがとうございました。最後に今後の展望を一言お聞かせください。
現在、参加国が62か国ありますがどんどん繋がれる国を増やして、子どもたちに多くの友達をもってほしいと思っています。
将来そんな彼らが政治のリーダーになることで、お互いの国を陥れたりしないで、信頼関係で国を繋いでいけるのではないでしょうか。世界各国に友達を作り続けることが、平和に繋がる1つの方法だと信じ、このプログラムをどんどん広げていきたいと思っています。
社名:株式会社With The World |
創立:2018年4月2日 |
従業員数:10名 |
主な事業内容:オンライン国際交流プログラム URL:https://withtheworld.co |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。