株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーJuly 03, 2024#43 バーチャルがもたらす新たな体験を通じて、豊かな社会を追求する国内最大級のXR専門メディア(株式会社Mogura)

株式会社Mogura 代表取締役 久保田 瞬 氏

XR(クロスリアリティ)と呼ばれるVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)やVTuber、メタバース。こうした現実世界と仮想世界を融合させる技術を人々の豊かな体験に繋げ、より良い世の中を創り出そうする株式会社Mogura。代表取締役久保田 瞬氏に現在の取り組みと未来への展望をお伺いしました。

株式会社Mogura 代表取締役 久保田 瞬 氏

―久保田さんは新卒で環境省に入省、退職してからVR専門メディアを立ち上げ、その後株式会社Moguraを設立。そのご経歴は、私たちから見て少し特殊に感じられるのですが、ぜひMoguraを設立なさった経緯をお聞かせください。

一言でいうと「バーチャルの技術で社会を変えていく無限の可能性に魅了された」ということでしょうか。「法学部卒、官僚からバーチャルの世界へ」ですからなぜ?と思われる方もいらっしゃるでしょうが、実はMogura設立の発端は、私の無類のネットゲーム好きにありました。『リネージュ』ってご存じでしょうか。

―韓国の漫画を原作にした、オンラインゲームですね。インターネット上で数百人から時には数千人のプレイヤーが同時に参加できるという…。

そうです。それに高校から大学生時代夢中になりました。ゲームそれ自体もそうですが、オンラインの空間で人が繋がっていく感覚が非常に自然で。ある種の社会のようなものがネット上に形成されていくわけです。その感覚を肌で知っていたことが、のちのMoguraの起業の原点にありました。

―ネットゲームの感覚が原点…。久保田さんの中でVRと仕事が直接結びついたきっかけはなんでしたか。

当時のそういった感覚を持ちつつ、環境省を辞めて、XR/VTuber専門メディアMoguraVRを運営したりしていたのですが、そのころOculus Rift というバーチャルリアリティ用のヘッドセッドが密かに話題になってまして。それが決定打になりました。バーチャルリアリティは世の中を変えていく可能性があると確信したんです。

今から約10年前のOculus Rift=初期型のVRヘッドセットは今と比べればまだまだ稚拙なものですが、これが当時としては革新的で、もうSFの世界ですよ。世界の中に没入する体験ができる。これは今後の社会を大きく変革するものとなるんじゃないか。そう実感してこれまでのゲームからさらに発展して、VRの情報を集めたり、発信したりするようになったんです。
もともと環境省に入ったのも、「世の中をより良く変えていきたい」という思いがあったからです。Moguraを起業したのも同じ動機でした。アプローチは変わりましたが、軸はぶれていないつもりです。

―そうだったのですね。しかし世間体もよく安定した環境省での仕事を辞めるにあたっては、久保田さんにも葛藤がおありではなかったですか。

国家公務員ですから仕事上でも様々な縛りがあります。特に個人の成長を考えるうえでは環境を変えたい、という思いがありました。そして中に入ってみると分かったのが、世の中に作用するアプローチは役所以外にも色々あるということです。

―今や様ざまな分野で情報を発信なさっていますね。

次第に単なるVR(仮想現実)から、現実の世界に仮想世界を重ねてCGの中に風景を結ぶAR(拡張現実)の領域を扱うようになりました。YouTuberのバーチャル版でもあるVTuber、ごく最近ではメタバースなんかもそうです。日経BP社さんからは、現実と仮想世界が融合することで、いかにビジネスが変わっていくかを解き明かす『メタバース未来戦略』という本も出版させていただきました。

―この業界の第一人者として、久保田さんにとってバーチャル世界を仕事にする面白さとはなんでしょうか。

たとえば携帯電話を思い浮かべていただけますか。20年前にはショルダーフォンと言われた大きな箱型の扱いにくいものでしたが、どんどん使い勝手が良くなり、性能も格段に上がっていきましたよね。スマートフォンとなった今は、世の中との関わりは全く変わって、まさに世を変革するツールとなりました。

私たちにとってはバーチャル領域が、今まさにそういった進化をとげつつあるものなのです。
その変革の過程をずっと伴走し、さらには自分たちが流れを創っていける可能性がある。このあたりが、ずっとこの領域に関わるおもしろさですね。

―なるほど。それで今、会社としてはこのバーチャル領域の様々な技術を「広げる」ことに力を注いでおられるのですね。

「豊かな体験を世界中に。」が私たちのミッションです。VR、現実の物理空間と仮想現実を融合させるXR、アバターが社会に受容されたVTuber、3次元のインターネットであるメタバース。この4つを事業テーマとしています。こういったバーチャル領域の広がりは、世の中の進化に直結しています。人と企業を繋ぐ橋渡しの役目を担い、技術をあまねく広めていくことが私たちの仕事です。

―具体的にはどういったことに取り組んでおられるのでしょうか。

まず情報を集めて発信するメディアとしての働き、これは国内最大のVR/AR/MR/Vtube/メタバース専門メディア「MoguraVR」の運営、また各種Podcastでの耳で聞くトレンド「もぐラジオ」の発信、などがそれにあたります。

業界を加速させる場を創る意味では、月1回以上の頻度で行っている各種ウェビナーの開催もしています。年に一度開催のXR/メタバースの業界カンファレンス「XR Kaigi」はすでに5回目を迎え、展示100社以上、総動員数約3000名を集める大イベントに成長してきました。

また、Mogura Nextという看板でコンサルティング・開発としてリサーチから開発、サービス運営までワンストップでお引き受けしていますし、その一部分を切り出してご提供することもできます。活動範囲は大変広くいわゆる大企業様からスタートアップ企業様、また官民問わず、幅広いお立場の皆様からご依頼を承り、専門チームが全力でサポートにあたっています。

―XRとSDGsは相性がいいそうですね。いろいろ成功例をお持ちでいらっしゃると伺っています。

XRは、他のコミュニケーションと比較して、もっとも体験や空間を再現しやすいツールです。活用いただくことによって、格段に利用者の理解度が高くなり、情動に訴えかけることができると考えています。

SDGsは一般的に目的の全容が「見えない」ことが多く、それが行動変容のネックになっていると言われますが、そういった物事を可視化するのにXRが向いているのです。

たとえば、株式会社デンソー様とは「CO2のリサイクル技術」の先進的な設備を可視化するARシステムを開発いたしました。多くの見学者が訪れるなか、現場で、ARデバイスを使うと「ここにあるどの機器で、どのような化学反応が起こり、それがカーボンニュートラルに繋がるのか」ということが、その場で見てわかります。文章や動画ではわかりにくい循環プラントの具体的な仕組みやメリットが、一目瞭然になり大変好評でした。2020年の導入以来、継続して追加開発や派生システムの開発を承っています。

―現場で実証実験の内容が3Dで可視化でき、そのメリットが直感的に分かる。それはインパクトがありますね。

デンソー様からは「空飛ぶクルマ」のAR体験のご依頼もいただき、未来の技術の見える化にも取り組みました。開発中の通称「空飛ぶクルマ」を視覚的に体感できるARシステムを構築したところ、文章や動画では伝わりにくい電動化製品のメリットが、ダイレクトに伝わり評価いただいています。3Dの質感なども有名クリエーターの協力を仰いだ自信作です。

―字幕や音声ナレーションも日中英の三か国語対応、テストを重ねて細部にまでこだわった高品質のAR画像だそうですね。

他にもまた異なる意味での可視化のチャレンジとして、北海道利尻島で洋上風力発電開発の際、景観破壊を懸念する地域住民の皆さんとのディスカッションのため、景観合成VRを作成しました。開発によって景観が損なわれることを心配する住民のみなさんに、開発後予想される現地の360度写真をVRでご覧いただいたところ、より迅速で深い理解につなげていただけました。現場にいた皆さんには一斉に同じVR映像をご覧いただくシステムも合わせて構築し、説明も非常にスムーズに行うことができました。

―「百聞は一見にしかず」といいますが、確かにこうした技術が展開されれば、世の中を変える大きな原動力になりそうな気がします。最後に久保田さんからこれからの展望やご期待を伺えますか。

バーチャル領域の技術は、今後大きく発展して必ず世界を変えていくきっかけとなっていくと確信しています。この技術を通しての「世の中をより良く」が、変わらぬ願いです。常に発信を続けて、未来の新しい技術と人との出会いを創出していきたいと思っています。

社名:株式会社Mogura
創立:2016年8月
従業員数:7名
主な事業内容:主な事業内容 XR/メタバース/VTuberに関するメディア運営、イベント・展示等の企画・運営、リサーチ及びコンサルティング
URL:https://mogura.co

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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