株式会社Qwi 代表取締役社長 小川 涼 氏
起業から1年半で12000ダウンロードを記録。2022年3月にはGoogle Play Store新着アプリランキング1位を獲得した個人認証システムアプリ“Qwi”。第三者に示されるスマホやタブレット上の個人情報を「利用者が選択的に提供」でき、自身のネット上の姿を「主体的に」保持できると学生を中心に人気上昇中。開発を手掛けた株式会社Qwi代表取締役小川涼氏に、話題のアプリ“Qwi”についてお話いただきました。
―個人認証をスマートに、安全に、確実に扱う画期的なアプリとして話題のQwiですが、開発のきっかけを教えていただけますか。
デジタル生活の中で、ある時、我々が無意識に提供している情報が膨大な量だと気づいたのが始まりでした。例えば映画館で、旅行先で、ネットやリアルでの買い物で。いろいろなところでアカウントを作り、個人情報を提供しています。それぞれの団体が個人情報の取り扱いに関しての承諾をあの「長い文章」で促してきますが、正直全文きっちり読み込んで同意するわけでもありません。
―確かに思い当たるところがあります。
結局無自覚のうちに生活の様々なところで、自分の個人情報をさらしているわけです。そういった多くのデジタルデータを「自分主体で保持したり公開したり」できる、第三者に対して自分のデジタルデバイス内の個人情報を選択的に提供することでデジタル・アイデンティティを保持する、そんなアプリケーションが必要だと思いました。
―なるほどそういうところから。小川さんは大学卒業後すぐQwiを起業されたのですよね。
はい。ちょうどコロナ禍に大学時代をアメリカで過ごし、日本に一時帰国中に抗ウイルスコーティングで起業、学生ボランティア800人と子どもの施設の無料室内クラスター対策プロジェクトを運用する経験をしました。その後ホームケア抗ウイルスコーティングキットをプロデュースして商品化などもしましたが、結局大学卒業とコロナ禍収束を機に、クリプト/DID※1が創り出す未来の実現を目的とした、株式会社Qwiを設立しました。
―小川さんのアメリカの大学での専攻はバイオとケミストリーとのこと。このアプリのテーマの「デジタル・アイデンティティ」とは一見結びつかないのですが、IT関係に進まれたきっかけはどういうことだったのでしょうか?
正直にいうとなんの繋がりもなく(笑)おっしゃるとおり確かにITではなく医療系、それもどちらかといえば研究者よりですよね。あえて言えば、やはりきっかけはコロナ禍かなと思います。留学先のアメリカで、誰とも会えない時間が長く続く中、自分の適性についてじっくり考える時間が持てました。それで日本で事業を展開していく中、自分にはIT関係の方に適正があるのではないかと気づきを得た感じです。いろいろ問題点が見えてきて自然な流れでした。
―そうして完成したアプリが今話題の“Qwi”。
そうです。Qwiをご利用いただくと、利用サービスのサーバー上に何も残さず、個人のスマホのローカルストレージに情報を保管しておくことが可能になります。さまざまな情報を個人のコントロール下に置くことができるわけです。これはVerifiable Credentialsという次世代型の証明技術を使い、自分の趣味嗜好をバッジのような形で「スイーツ好き」「スポーツ観戦好き」といった形でまとめておき、それを開示するかどうかは全て自分が決めることができる仕組みです。
―つまりユーザーは無料で個人情報を安全に保持し、なおかつ自分の希望した属性に最も適したサービスの受け取りができるということですね。
ユーザーが開示した情報をもとに最適な情報をお届けできます。ユーザーはこのアプリを無料でご利用いただけますし、スムーズな個人認証としてご活用いただけます。企業は不本意な情報漏洩などの心配が格段に減り、トラッキングなどにより顧客一人ひとりのニーズに合わせて行う個別対応のマーケティングに必要な情報を安全に入手できます。
―無料ということですが、誰でもこのアプリを使うことができるのでしょうか。
現在は中学生から大学院生の学生さん(1990年生まれ~)に限らせていただいています。彼らは生まれたときからデジタルに接している、いわゆるデジタルネイティブ。トレンドを拡散させていく力があります。属性が絞りやすく影響力の大きい彼らの価値観をまず把握しておこうと、若年層をターゲットにしました。
―Z世代を中心とする若年層の方々ですね。登録方法はどういう段取りになっていますか。
アプリに必要事項を記入後、学生証の表裏と「白い背景の前で撮影した顔写真」を一緒に送信します。送信後審査が完了したら、即アプリを使うことができます。審査はほんの1分程度です。
―手続きはとても手軽ですね。学生さんに大変人気が高いそうですが、その普及ぶりに顕著な特徴があるとうかがいました。
おかげさまで、すでに12,000人の方にダウンロードしていただいていますが、97%がオーガニック。自然な口コミで広がっているのがQwiの広がり方の特徴だと思います。
最初の口コミは私の作ったばかりのTwitterアカウントのツイートからでした。もちろんフォローワー0からのスタート。それが1日で200人に伸びました。ツイートのインプレッション(閲覧数)は万単位に。さらに次は舞台がTikTokに移り、そこでインフルエンサーさんに紹介されたとたん、その日のうちに3000ダウンロード。その予想外の影響力には正直驚きました。
―Qwiのコンセプトがターゲット層に響いたんですね。
彼らが「そういうの、必要だよね」とおぼろげに感じていたところにヒットした。それがとてもありがたかったと思います。興味を持ってもらえれば口コミベースでもこれだけ広がるんだということが実証できました。
―利用する学生さん、認証をする企業や団体、それを利用するお店や施設、それぞれに大きなメリットがあるわけですね。
Qwiが実現するアイデンディティ認証基盤は4つの柱があります。
- ソフトを繋いでアイデンティティ認証を簡単に。認証APIの提供。
- 独自の認証方式で利用者のアイデンティティを証明。学生証をアプリ化。
- お得情報や人気スポットを検索。お得な割引を配信。
- 企業と消費者をつなぐインフラとして教育機関や鉄道会社と連携。
このアプリでお客さまに生涯にわたって自社と関わっていただけるような、顧客一人ひとりのニーズの合わせて行うマーケティングが可能になります。
―すでに具体的なコラボが複数はじまっているそうですね。
そうですね、例えば株式会社USEN NETWORKSさんとは今春、新生活を迎える学生やオンライン授業で高速回線を探している学生に向けて、高速インターネットの学生割引料金をご提案しています。我々の強みである「学生」というアイデンティティマーケティングを活用し、USEN NETWORKSさんの高速インターネット回線を新生活の学生にあまねく届けたいという思いで実現したコラボレーションです。
―コロナ禍でオンライン授業が一般的になりましたが、そんな世相を反映したコラボレーション。学生さんにも「お得」がいっぱいですから、興味を持つ方が多いことでしょう。
他にも同じく2023年から開始したJR東日本スタートアップ株式会社とのコラボもあります。開業60周年の駅ビル「ペリエ千葉」で学生認証技術を活用した新しい情報発信を開始。Z世代の価値観を把握し接点を持つことは、駅を中心とした地域活性化において重要なテーマだと各所から評価をいただいています。
―なるほど。2021年12月に起業なさってからわずか1年半。目を見張るほどの展開です。今後アイデア次第で、アプリそのものも事業も大きな広がりを見せそうですね。本日最後に小川さんから今後の抱負やメッセージがございましたらお願いいたします。
現在は対象を若年層に限っていますが、今後は各年代に広げていきたいですし、そのために認証の過程もさらにシンプルにしたいと思っています。いずれリクルーティング現場での認証や、観光協会と協力して修学旅行生への普及等、思いはいろいろとあります。ぜひ現場目線でのご意見やアイデアをお聞かせください。お力添えいただければ、本当にありがたいなと思っています。
※1 分散型アイデンティティ
社名:株式会社Qwi |
創立:2021年12月 |
従業員数:3人 |
主な事業内容:デジタル個人認証システム「Qwi」の開発と運用 URL:https://qwi-did.io |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。