株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーOctober 02, 2024#44 メルテック(Maletech)(※1)で男性の健康に貢献。心因性EDを治療できる新世代の医療用アプリを開発(ロゴスサイエンス株式会社)

ロゴスサイエンス株式会社 代表取締役社長 種村 秀輝 氏

性のカテゴリで語られがちな「ED」(勃起障害)。実は、その背景には糖尿病、脳血管障害、心血管疾患など、全身に関連する病気やリスクが潜んでいることがあります。心因性EDを治療する新世代の医療用アプリを開発しているロゴスサイエンス株式会社の代表取締役社長であり、2011年にイグノーベル賞(化学)を受賞したこともある種村秀輝氏にお話を伺いました。

ロゴスサイエンス株式会社 代表取締役社長 種村 秀輝 氏

―心因性EDを治療できる新世代の医療用アプリとは具体的にどのようなものですか?

「Dr.アプリED」と言って、アプリ上で臨床現場を再現し、各人に応じた最適なテーラーメイドの心理療法を提供するものです。当社で保有する認知行動療法を用いた新世代のメンタルヘルスケアシステムの特許(※2)を組み込んでいます。現時点ではベータ版を作って効果を検証し、その有用性を論文にしたところです。ゲーミフィケーションの要素を取り入れたり、デザインを変えたりと、ユーザーが手軽に・気楽に続けられるような形へと開発を進めている最中です。

―特許を取得しているという、「認知行動療法を用いた新世代のメンタルヘルスケアシステム」について教えてください。

前提として、うつ病や不安障害などのこころの病気はセルフケアが難しいことに課題を感じていました。また、その関係する医療従事者も非常に少ない状態です。心療内科の初診は数カ月待ちのことも多く、国内で35万人いるドクターのうち、心療内科の専門医はわずかに数百名のみです。心療内科では薬物療法のほかに認知行動療法という、ものの見方や現実の受け取り方などの認知に働きかける心理療法を行いますが、それは発症の背景が個人それぞれに異なるからです。そこで、当社では新世代のメンタルヘルスケアシステムとして、テーラーメイドの心理療法プログラムをアプリ上で提供できるシステム(「Dr.アプリ®」)を開発したのです。
 

―こころの病気による休職も増えていると言われていますね。

労働者のプレゼンティーズム(疾病就業)による生産性低下や経済損失などの問題が話題になっています。そのような人や、PMS(月経前症候群)に悩む人をサポートしたいというのが、このシステムを開発した背景です。なお、抑うつ状態に対する心理的支援を目的とした50弱の国内の既存アプリを調査したところ、エビデンスに基づいており、かつユーザーが期待するようなサービスを提供しているものはほとんどないことがわかっていました。

―貴社がそこに一石を投じ、本当に効果のあるアプリを開発したのですね。

現在、各人のタイプに応じたワークに取り組める労働者向けメンタルヘルスのセルフケア・アプリ「Wemental®」を開発中です。職場で5割以上の労働者が強いストレスを感じているという厚生労働省の調査(2021年)をふまえ、昨年末に同アプリの臨床テストを行ったところ、1カ月で疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴、イライラ感などが改善されたという結果が出ました。調査にかかわった先生方からも高い評価をいただき、論文化も進めているところです。また、女性に特有のPMSの症状に合わせて行動変容を促す介入システムも特許(※3)を成立させ、「WoMental™」として商品化を進めています。

―そのようなノウハウを活かして開発された今回の「Dr.アプリED」ですが、EDに着目された理由をお聞かせください。

実は、EDは単に性の問題だけでなく、脳梗塞や心血管疾患、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など、全身の健康問題と関係しているといわれています。2023年に日本性機能学会が25年ぶりの全国調査を行ったところ、1998年の前回調査と比べ、300万人増の1,400万人のED有病者が国内にいることがわかりました。なかでも20代と30代の増加率が顕著だったのですが、20〜30代に多い心因性のEDの治療において重要視されている心理療法を提供できる泌尿器科の先生は、ほとんどいないのが現状なのです。

―EDの悩みは性のカテゴリで語られやすいために、ひとりで抱え込んでいる人も多そうです。

人に話しにくいこの疾患をもっとオープンな形で共有できるように、メタバースの空間で相談できるクリニックも構想しています。器質性、心因性、混合型といった疾患の種類にかかわらず、すべてのEDの治療ができる世界初のED専門クリニック「MALTECH CITY(メルテックシティ)」です。匿名性を重視した形になっており、自分の分身であるアバターでバーチャル空間内を動き回り、自宅や職場にいながら他のアバターとコミュニケーションをとったり、治療を受けられたりするものです。実は、今年11月の国際男性デーに男性の全人的な健康に寄与するための「日本メルテック協会」を設立することになっており、協会の外国人特派員ともMALTECH CITYについて相談しているところです。

―女性に関しては「フェムテック(Femtech)」という言葉が社会に浸透してきていますが、その男性版ということでしょうか?

そうですね。先日もニュースで、某大手企業の男性の経営者や社員が女性の生理を体験することで女性の体の仕組みを知ろうとする取り組みが紹介されていました。同じように、男性に関する取り組みがあってもいいのではないでしょうか? そう考え、これまであまり取り組みが進んでいなかった「メルテック(Maletech)」の分野に着目しました。

―EDが全身の健康問題と関係しているのであれば、生活習慣病をはじめとする病気の予防による医療費削減にも効果がありそうです。ところで、種村さんは「人々を笑わせ考えさせた研究」に与えられるイグノーベル賞(化学)を2011年に受賞したご経験もおありですね。

当時は「におい」の研究をしておりまして、「テレビからにおいを出せないか」といった具合に、においのデジタル化を研究していました。それを活用して人の命に貢献できるものを開発したいと考え、においを活用して耳の不自由な人が火災報知器の警報をキャッチする仕組みを思いつきました。いろいろなにおいを試した結果、たどり着いたのは「わさび火災警報装置」でした。わさびのにおいは嗅覚ではなく痛覚を刺激するため、熟睡している人でも「痛い」と起き上がれるのです。

―今回の「Dr.アプリED」や、そのベースとなっているシステムも、健康面でダイレクトに人の命に貢献する事業ですね。最後に、今後の展開について教えてください。

「Dr.アプリED」を医療機器とヘルスケアの分野のどちらで展開するのかは悩ましいところです。また、大前提として、現状、多くの人がメルテックという分野に馴染みがありません。EDは性だけでなく全身の健康問題であることを啓発していく必要があり、気楽にEDのことを語れるメルテックカフェをつくることなども検討しているところです。現在、男性だけでなく、女性向けにMaletechの知識を提供していくにあたって、日本フェムテック協会とも連携し、情報交換をしているところです。

※1 Maletechは「メルテック」「メイルテック」双方の表記がありますが、本記事では「メルテック」と記載することとします
※2 特許第7038388号
※3 特許第7473261号、特許第7138839号、特許第7181540号、特許第7182765号

社名:ロゴスサイエンス株式会社
創立:2022年2月
従業員数:1名 ※2024年8月1日時点
主な事業内容:メンタルヘルスプラットフォームの開発、認知行動療法等を用いた治療用アプリの開発、認知行動療法等を用いた企業/個人向けアプリの開発、医療従事者向けメンタルヘルスメソッドプログラムの開発、医療機器の開発・販売、受託研究開発
URL:https://logossjp.com

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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