株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーJuly 06, 2022#16 SDGsを「見える化」。ビッグデータとAIを駆使して「強く優しい」企業を照らし出す“TERRAST β” を開発した非財務データサイエンスの専門家集団(サステナブル・ラボ株式会社)

サステナブル・ラボ株式会社 代表取締役  平瀬 錬司 氏

これまでの「強さ」一辺倒の資本主義から一変、環境保全や社会性を併せ持った持続可能な取り組みが尊重されるSDGsの時代が到来しています。しかし企業の「優しさ」や「持続的な成長」は数値で表すことが難しく、経営者や現場の人々を悩ませてきました。そんな悩みに応えるべくビッグデータをAIで分析し、企業の新しい価値の「見える化」を実現したサステナブル・ラボ株式会社。本日は代表取締役の平瀬錬司氏さんにお話を伺いました。

サステナブル・ラボ株式会社
代表取締役 平瀬 錬司 氏

―現在サステナブル・ラボ株式会社では、企業価値の「見える化」に取り組まれているそうですが、わかりやすくご説明いただけますか。

SaaS型のSDGs/ESG分析プラットフォーム“TERRAST β”を開発・提供しています。非財務データバンクとも呼んだりしますね。各企業のSDGsの取り組みを誰もが納得して評価できるように、SDGs/ESGに関する膨大なデータを集め、AIによって解析し、数字で見える化しています。“TERRAST β”のメインターゲットは国内外の機関投資家ですが、事業会社向けの“TERRAST for Enterprise β”も開発、提供しています。

世の中のあらゆる投融資判断、経営判断がESG化していくなか、機関投資家をはじめ、事業会社はESGの取り組みをどう分析するか、あるいは可視化するのかに頭を悩ませています。当社はデータサイエンスの力で社会・環境貢献度を定量的に可視化することによって、この課題を解決しています。

―この“TERRAST”というネーミングに大切な意味があるそうですね。

サービス名の“TERRAST(テラスト)”は、照らす人(テラスヒト)が由来となっています。ビッグデータを駆使して、真に良い企業を明るく、照らしたいということです。良い社会の実現のために良い企業を照らす。照らすことで社会や環境に貢献する企業が報われ、企業の価値創造や社会参画がさらに進んでいく。“TERRAST β”を普及させることで、投資家がSDGs/ESGを投資の判断材料にしやすくなる。そうなれば、全ての上場企業が社会・環境貢献を経営に組み込みやすくなる。その流れは非上場の中堅・中小企業にも及びます。消費者も商品やサービスを選ぶ際に、SDGs/ESGを判断材料の1つにすることが当たり前になる。“TERRAST β”によって、社会の在り方、「良い企業とは何か」の判断の在り方そのものを新しいものにするパラダイムシフトを起こしたいと考えています。

―なるほど、“TERRAST”の名前は企業を“照らす人”からだと。ではその“TERRAST β”から、具体的にはどのような情報が得られ、何ができるのでしょうか。

出所:サステナブル・ラボ株式会社

いわゆる環境・社会貢献度のようなものをテーマ別に数字で見える化することができ、企業のサステナビリティ推進の現在地がわかります。SDGs/ESGの世界における「健康診断ツール」の役割を果たしているとお伝えすれば、わかりやすいでしょうか。

1社あたり700〜800項目程度の非財務データを集め、AIによって解析。解析結果をもとに、総合スコアをはじめ、気候変動、環境管理、ダイバーシティ、労働者の権利といった個別テーマに落とし込み、サステナビリティ貢献度を見える化。それらを構成する素データも閲覧でき、時系列で自社を俯瞰、同業他社との横比較も可能です。

“TERRAST β”によって、情報収集のスピードを圧倒的にあげることができ、効率化と時短化を可能にします。また、非財務情報の定量化による業界横比較や複数メソドロジーを搭載した個別カスタムによる顧客に応じた分析体験などを提供することで、分析の高度化も図ることができます。

―利用の際、専門知識や特別な環境が必要になりますか。

いいえ。インターネット環境さえあれば、どこからも簡単にアクセスできます。SaaS型のプラットフォーム、つまりWEB上の情報共有の場なので、複数のチームや人数での編集や管理が可能です。また顧客の立場に立った使い勝手の良いUX/UIデザインには定評があり、専門知識がなくても直感的な操作で快適に扱えるので、専門外の方でもスピーディにハイレベルな分析が可能です。

―他社のサービスと比べたとき、特筆すべき利点はなんでしょうか。

当社の“TERRAST β”では、理論体系はもちろん開発の方法論もすべて開示しています。また、個別カスタムも可能にしているため、それぞれのユーザーが、自社の哲学や時間軸にそった分析ができることが最大の特徴です。当社はこれを「サステナビリティ評価の民主化」と名付け、単なる格付けや評価会社とは一線を画していると考えております。

―ご利用になっている企業からの感想はいかがでしょう。

「詳細な素データと照合できるため、自社を客観的に把握できる」「環境(E)のデータだけでなく様々なデータを網羅している点が良い」「分析に使われているデータの根拠が明確で信頼度が高い」など多くの好評の声をいただいています。

―ところで、平瀬さんはこれまでにベンチャー企業を立ち上げ売却や譲渡、その利益や人脈を活かしてさらに企業を立ち上げ・・・といったシリアルアントレプレナー的なご活躍をなさっていますが、大学では物理学をご専攻とのこと。ちょっと意外な経歴に感じるのですが、当時から起業にご興味がおありだったのでしょうか。

実は起業する予定などはまったくなく、シンプルに物理学者としての道を目指していました。「機動戦士ガンダム」や、地球を救う物理学者が魅力的に描かれている映画「アルマゲドン」に憧れて、「ロボットを操縦できるかも」とか「宇宙飛行士になって人類の最先端に行けるかも」といったことで理学部の物理学科を専攻したのです。

ところが、実際大学に入学して理論物理学の世界の入り口に足を踏み入れてみると、そこは異能や天才が渦巻く、果てしなく広い世界だったのです。敗北感と挫折を味わい戸惑っていたとき、友人たちに誘われて東京の学生起業家たちと交流するようになり、次第にビジネスの世界にのめり込むようになりました。

―そういった体験が起業家としての原点だったと?

そうです。でも最初に物理を志した理由が「世界を救うような生き方をしたい」というところからでしたので、起業家としても、たとえ1ミリでも自分なりの力で、世界を変えてみたいと考えていました。

はじめの数年は「大人がやっていない、儲かりそうなこと」を事業領域に選んでいました。デジタル広告領域のデータ分析等です。「お金を儲けて強くなれば、優しくなれる(世界を救う活動ができる)」というようなことを考えていたのです。しばらくは多少うまく行くのですが、うまく行っていることは、ほぼ必ず「やがて大手が参入してきてすべてを持っていく」という経験を何度かしました。また、自分たちのアイデアと努力で売上や利益が上がると、もちろんうれしいんですけど、何か違うなと。売上や利益のために、こんなに疲弊する人生を歩みたかったのか?と。そんなことをグルグルと数年やっている内に、ふと思ったのです。「夢中になって、自分の人生をかけられることだけをやろう。そうすれば、自分の限界を大きく超えて成長できるだろうし、なにより、絶対に、後悔しない人生を生きられる」。

それで紆余曲折の結果としてたどり着いたのが、環境や農業、福祉の観点からこの世の中を持続可能にしていくという、「世界を救う」ためのサステナビリティ領域のベンチャービジネスでした。

―「ガンダム」や「アルマゲドン」の世界観に感銘を受けたころの志は、今も生きているというわけですね。現在は会社のこれからをどのようにお考えですか。

“データサイエンスの力で、サステナブルな世界を創る”をミッションに掲げ、企業の良いところを照らして良い投資や経営判断を導きながら、半歩先の良い未来を作っていきます。当社のソリューションで良い企業を「照らす」ことによって、強く優しい企業を増やし、社会全体のサステナビリティの底上げに貢献していきたいですね。グローバルの海にも乗り出し始めていますので、日本だけでなくグローバル全体で貢献していきたいと考えています。

また、当社は、サステナビリティ・金融工学・データサイエンス、3つの畑のプロが集まった専門家集団で、環境経済学、サステナビリティ学、統計学、計量経済学などあらゆる分野のプロフェッショナルがメンバーにいます。すでに7か国のメンバーが加わっており、多彩な価値観をもつ組織となりました。

日本発で非財務データサイエンス事業を行うスタートアップとしては、最高峰かつ最前線にいるという自負を持っていますので、ここから世界で戦えるチームを創っていく覚悟です。共に“照らす”仲間も随時募集していますので、興味をもたれた方はぜひご連絡いただきたいですね。

社名:サステナブル・ラボ株式会社
創立:2019年1月
従業員数:25人
主な事業内容:ESG/SDGに特化した企業の非財務ビックデータ情報プラットフォームの提供および非財務を含めた企業価値に係る研究開発
URL:https://suslab.net

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

  • Twitter
  • Facebook