ICHI COMMONS株式会社 代表取締役 伏見 崇宏 氏
サステナビリティやSDGs、社会貢献への取り組みをしたいとは思っていても、何をしてよいのか分からない。そのような悩みを抱えているなら、NPOや社会事業への寄付を検討してみてはいかがでしょうか。企業とNPOや社会事業との連携を支援するプラットフォーム『ICHI.SOCIAL』を提供するICHI COMMONS株式会社の代表取締役 伏見崇宏氏にお話を伺いました。
―これまでのご経歴や起業のきっかけについて教えてください。
生まれはシンガポールで、小学校の6年間はアメリカ南部のアラバマで過ごしました。中学で日本に帰国します。そのとき、日本はすごく面白い国だと感じました。日本は世界に先んじて社会課題を経験しています。また、日本ならではの沈黙に意味を見出す力や、相手の立場に立って考える力を、どうすれば体系的に世界に発信できるだろう。そんなことばかり考えていました。
慶応大学在学中には、海外の大学生と一緒に高校生向けのサマースクールを企画。当時ローソンの社長だった新浪さんやユニクロの柳井さんなどにご登壇いただき、高校生の今後のキャリアプランや人生プランについて学べる機会を作りました。
その後、GEのファイナンシャル・マネジメント・プログラムというリーダーシッププログラムに入り、2年半で4つのビジネスを経験します。
プログラム卒業後は、一般社団で社会課題にお金が流れる「社会的インパクト投資」の仕組みを作りました。そこで資金調達をする際に、「日本にはまだ社会課題への取り組みでリターンを得られるような市場はないよ」と外資系の方々に言われたのです。私はこの言葉にすごく憤慨してしまって。「そんなことはない!市場はある!」と。ただ確かに、どこで誰が何をやっているのかが見えないのは事実で、お金をどのように流せば、あるいは人がどのような形で関われば社会課題が促進するかというところが体系的に見えない。これを解決するためにICHI COMMONSを立ち上げました。
―ICHI COMMONS株式会社の事業内容について教えてください。
企業とNPOやSPO(Social Purpose Organization, 社会的な価値を創造することを意図している組織)とのマッチングを行っています。
既にリリースしているのは、企業が従業員投票型の寄付を行えるようにしたサービス。例えば、企業がテーマを決めて、それに対してNPOが動画を上げる。これを従業員が見て投票する。最多得票を集めたところに企業寄付が届くというシステムです。
動画だけでなく、48の社会課題を準備しており、それぞれの課題の背景やデータが見えるようになっています。それぞれの団体がどのような取り組みをしているのかについても、オンラインプラットフォーム「ICHI.SOCIAL」で全て公開されています。
単発の寄付だけでなく、継続寄付にも対応しており、例えば事業所のある地域で活動するNPOや社会事業に継続的な寄付をしたいといったご要望にもお応えできます。
また、企業版ふるさと納税の仲介もしております。ただ寄付をするだけでなく、自治体の中で社会課題に取り組む組織と企業をマッチングして、企業版ふるさと納税をきっかけに連携していけるようなプラットフォームを準備しています。
社会課題と地域課題についても、都道府県ごとに、全国と比較して良い指標、悪い指標を提示しています。また、企業が工場や支店、本社などの事業拠点を置いている地域の抱える問題を見える化し、地域に対してアクションを実際に起こせるようなプラットフォームを運営しています。企業からは利用料を徴収する仕組みですが、昨年7月に「ICHI.SOCIAL」を立ち上げてから、ようやく企業側のニーズも見えてきたところ。今後積極的に営業をかけていきたいと考えています。
―近々リリースされるサービスなどはありますか?
企業からは「自社事業に関連する社会課題が分からない」という声を多くいただいており、これを解決できるような無料診断ツールを提供する予定です。
自社の産業と事業拠点の地域を選択することで、「SDGsの指標のうち、この3つがあなたのマテリアリティ(重要課題)です」といった診断ができます。
とはいえ、その診断結果だけではアクションを取ることができません。そこで、結果に紐づく社会課題についても見ることができるようになっています。それらの課題に関連する社会的な事業や取り組みについて、ご紹介することもできます。
また、例えば、脱炭素の取り組みや取得した認証など、サステナビリティ活動について発信できる無料の企業ページもご提供する予定です。
―企業からみると、NPOがどのくらい活動しているのか、どのような実績を出しているのか分かりづらいものです。その点については、どのようにフォローされているのでしょうか?
「ICHI.SOCIAL」では、昨年の 7 月から500万円ぐらい仲介しているのですが、全てについて、お金を何に使うのか、現在どのような状況なのかを、3~4 ヶ月後にインタビューをおこない、フォローアップしています。その際に社会課題ごとに、どの課題にいくら、何に使ったかを、アクティビティレポートとして提出してもらっています。これにより、企業サイドも、自分たちのお金が具体的に何にいくら使われているのか、自分たちが寄付したお金の使い道を知ることができるようになっています。
―クラウドファンディングとの違いはどのような点にあるのでしょうか?
基本的に、クラウドファンディングを提供するプラットフォームは、手数料が主な収益源となっています。しかし、我々は手数料をいただくビジネスモデルにはせず、企業からマッチングサービスの利用料をいただいています。そこが一番大きな違いです。
また、クラウドファンディングは資金を集めることのみを目的としていますが、弊社では、きめ細やかなマッチングを主軸にしています。カスタマーサクセスチームを立ち上げ、マッチングの成立後もしっかり伴走します。
企業によって重要視する点や関心のある領域は異なります。最適な方法が寄付なのか投資なのか、最適な支援先は企業版ふるさと納税なのか、NPOなのか、社会的事業なのか、そのような選択をフォローし、納得のいく支援ができるようにサポートしています。
―今後、社会事業や寄付の文化が醸成されるためには、何が必要でしょうか?
NPOや社会的事業自体の認知や、それらの生み出すインパクトを、これまでの10倍、50倍にしていかなければ、社会事業や寄付の文化を根付かせることはできないと感じています。
日本では政府主導ではなく、企業が変わらなければ変われないと思っています。企業が変わることで、個人もエンパワーされ、認識が変わる。そのためにも、企業に魅力を感じてもらうためのマッチングを意識しています。
寄付控除を受けられるNPOにフォーカスするのではなく、企業が支援を通してベネフィットを感じられる仕組みづくりに注力しています。
例えば自社の工場が40年稼働している地域に寄付をすることで、地域との連携が生まれます。どれだけ控除されるのかといったこと以上に、従業員の意識の変化や、将来的な採用にも影響が出てくるでしょう。さらに、地域の自治会や住人にも認識されるといった、ベネフィットが見込めます。
「License to Operate」という考え方があります。直訳すると、「操業のための許可」です。つまり、ステークホルダーに配慮して初めてビジネスができるということ。このステークホルダーから応援され、ロイヤリティを高める仕組みを、戦略的寄付によってつくることができます。
寄付は、連携の入り口です。そして、人の動き、さらには事業開発へと続きます。
NPOやSPOとの連携をなぜ企業がするのか、どのようなメリット・デメリットがあるのか、この理解を促すために、『ICHI.PRESS』というメディアを3月にリリースしました。担当者レベルでも経営者レベルでも分かるような内容になっています。
将来、企業がNPOや社会事業と連携することが一つのインフラとなることを願って、このような取り組みを一つひとつ行っています。
社名:ICHI COMMONS株式会社 |
創立:2020年1月 |
主な事業内容:連携支援プラットフォームの開発・運営、アプリ開発、ソーシャルインパクトに関する調査およびレポートの制作 URL:https://www.ichicommons.com |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。