2025年7月30、31日に、ICFロボット研究会の第2回イベントとして「テクノロジーの先駆者が描く未来社会」をテーマにしたイベントを開催しました。こちらは、Day2(施設管理)をまとめたレポートとなります。
※本イベントのアーカイブ動画はICF会員限定で配信をしております。こちらをご覧ください。
イベント内容
ICFロボット研究会#2 Day2(施設管理)では、ICF推進オフィスからのオープニングののち、アイ・ロボティクス株式会社の安藤様と株式会社TriOrbの石田様にご登壇いただき、施設管理(清掃・点検)での、人手不足への解決策となるロボット等の可能性や、その具体的な活用方法についてご紹介いただきました。
1.オープニング ICF推進オフィス 山田
ICFでは、2025年4月に「ICFロボット研究会」を立ち上げました。
本研究会では、ロボットのような先端技術の飛躍的な進化を考慮し、その不確実な未来予測に適したSF思考を活用することで、ロボットの新市場創造を目指します。特に「農業」や「施設管理」における深刻な人手不足と、サービス品質や働き手の意欲・やりがいの向上に貢献したいと考えています。
詳細は#1の開催レポートをご覧ください。
2.株式会社アイ・ロボティクス 安藤様 取組紹介

アイ・ロボティクス株式会社は、社会課題解決を目的に2016年に設立されたロボティクス・スタートアップで、今年で創業9年目を迎えました。設立のきっかけは、福島の立ち入り困難区域における調査・除染支援です。そこで培った技術と現場知見を基に、機械化・遠隔化・自動化・DX化を軸に、インフラやプラントなどの点検や施設管理の分野で事業を拡大してきました。特にインフラやプラント事業者と連携し、現場に寄り添った伴走型の支援を展開しています。さらに、ドローンを用いたライブ・エンターテイメントの演出など、新たな分野への応用も進めています。
日本の建築物は老朽化が深刻化しており、2023年5月時点で築50年以上の建物が全体の50%以上を占めています。一方で、修繕や点検に必要な人材は減少傾向にあり、さらに安全上リスクの高い足場作業が増加しています。この課題に対し、屋内外の狭隘空間で活用可能なドローンや壁面走行ロボットを開発しました。自動航行によるリアルタイム3Dモデル化や、点群データを活用することで、建物の状態の変化を検知することが可能となり、鉄道、プラント、商業施設などでの点検・修繕業務の効率化を実現しています。実際に、大手鉄鋼メーカーや石油元売企業と協業し、ドローンを用いた高所補修を実運用化しました。
アイ・ロボティクス株式会社の取組は、業務フロー全体の最適化にも及びます。作業計画書の自動生成や、デジタルツインを活用した現場管理の高度化を進め、現場作業の効率性と安全性を同時に高めています。今後は、都市運営における統合プラットフォームの構築を視野に入れています。このように、持続可能な社会インフラの実現に貢献し、技術を単なる道具ではなく、社会課題に寄り添うソリューションとして提供し続けます。
3.株式会社TriOrb 石田様 取組紹介

株式会社TriOrbは、AIST Solutions認定/九州工業大学発のスタートアップとして2023年2月に設立されました。移動技術に注目して、施設管理や製造現場など多様な環境に対応できる「全方向移動機構」の開発に取り組んでいます。本社は九州に拠点を構えつつも、全国のユーザー企業などと連携し、ロボットの「足」に特化した独自の駆動技術をベースに、アームやセンサーなどのモジュールを組み合わせることで、点検・搬送・施工など幅広い用途に対応するソリューションを提供しています。
株式会社TriOrbの主力技術である全方向移動機構は、従来の車輪構造では困難だった360度の自由移動を可能にし、狭隘空間や段差の多い現場でも高精度かつ安定した自律移動を実現します。この技術を活用し、鉄道系企業と連携して駅構内の点字ブロックや障害物が多い環境での自律移動ロボット開発を進めています。さらに建設系企業との協業では、天井施工現場におけるボルト打ち込み作業をロボットで自動化し、ミリ単位での位置合わせを可能にすることで、作業効率と安全性を大幅に向上させました。複数台のロボットによる協調搬送技術も確立し、重量物を連携して運ぶ柔軟な生産・点検体制の構築にも成功しています。
株式会社TriOrbは、移動技術を単なる駆動手段ではなくロボティクスの中核技術として位置づけ、ハードウェアとソフトウェアの両面から現場課題に応じた提案を行っています。今後はリスクアセスメントや安全基準の整備を進めながら、より多くの業界への導入を目指し、移動の制約を解き放つ技術によって、社会課題解決と現場の革新に貢献していきます。
4.フリーディスカッション
【未来の技術と共存】
- ドローンやロボットは、あくまで私たちが使う道具の一つであり、過度に期待しすぎるべきではないです。通信技術や制御プラットフォームと組み合わせてこそ、安全で安心な社会の実現に本当の意味で貢献できます。
- 映画やアニメに描かれる未来を実現するには、個々の技術が単独で進化するだけでは不十分で、共通の目標を持ち、多様な技術が連携しながら発展していく必要があります。
- 日本ではロボットがすでに身近な存在となっており、私たちは人とロボットが役割を分担し、協力しながら社会をつくっていくことが健全だと考えています。
【技術導入と現場適応】
- 新しい技術を現場に導入する際には、まず安全性と期待する成果を明確にし、それを基準に最適化した形で取り入れることが重要だと話しました。
- 効率化を進めるためには、専門家と連携し、現場で地道な試行錯誤を重ねることが欠かせません。単純に作業をロボットに置き換えるのではなく、課題に合わせて柔軟に対応しながら改善を積み重ねることで、初めて技術が現場に根付き、真価を発揮できると考えています。
5.本イベントでの気づき
【技術を課題解決の手段として捉える姿勢】
- ご登壇いただいた両社は、社会課題に寄り添った技術開発を進めており、「何の課題を解決するのか」という視点を常に持ちながら、現場に合ったソリューションを模索しています。
- また、両社とも異なる技術同士の連携や協業にも意識を向けており、単独の技術に依存せず、複数の技術を組み合わせることで、より効果的な解決策を提供しようとしている点が印象的でした。
【次世代移動技術が拓く新たな現場の可能性】
- 株式会社アイ・ロボティクスによるドローンを使った壁面補修の実用化の事例や、株式会社TriOrbが開発する全方向移動機構は、従来の技術的制約を超える柔軟な移動性能を示しています。これにより、狭い空間や複雑な現場といった、従来は限られた人しか対応できなかった作業が、より多くの人にとって安全かつ効率的に行えるようになってきています。
- さらに、複数台のロボットによる協調搬送や、ミリ単位の精度で施工を支援する技術など、移動機構は単なる移動のための手段を超え、現場全体の生産性や安全性を高める重要な要素となっています。
- 今後はリスクアセスメントや安全基準の整備を進めつつ、こうした移動技術が幅広い業界に普及していくことが期待されます。
プログラム
12:00 – 12:05 | オープニング |
12:05 – 12:25 | 取組紹介 (株式会社アイ・ロボティクス 安藤 嘉康 氏) |
12:25 – 12:45 | 取組紹介 (株式会社TriOrb 石田 秀一 氏) |
12:45 – 12:55 | フリーディスカッション・質疑応答 |
12:55 – 13:00 | クロージング |
本イベントに関するお問い合わせ
三菱総合研究所 未来共創イニシアティブ推進オフィス 担当:山田・松田・水嶋
E-mail: icf-inq@ml.mri.co.jp