株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーJanuary 11, 2023#25 「砂浜がなくなっても困らない」は誤解。元ライフセービング日本代表選手による、気候変動から海の豊かさを守るシビックテックアプリ『Be-conn(ビーコン)』

株式会社ビーコン 代表取締役 廣田 諒 氏

「2100年には日本の砂浜の9割が消失することも」との予測がありながら、砂浜の現状に関するデータの不足により、国や自治体の対策は後手に回りがちです。海辺の様子をスマートフォンで撮影し投稿することで海の豊かさを守るアプリ『Be-conn(ビーコン)』をリリースした、株式会社ビーコンの代表取締役・廣田諒氏にお話を伺いました。

―海面上昇がもたらす海岸侵食は世界的な問題として注目されています。スマートフォンで砂浜を撮影すると海の豊かさを守ることができるとは?

株式会社ビーコン 代表取締役
廣田 諒 氏

海岸沿いにスマホ用の定点スタンドを設置するのです。そこから地域住民や周囲で事業を営まれている方々に弊社のアプリ『Be-conn(ビーコン)』を使って海を撮影してもらう。そうすると、蓄積されたデータによってその砂浜の状態が定量化され、健康状態を把握できます。

砂浜の消失と沿岸災害を防ぐには、まずは海岸線の状態を正しく把握することが急務です。オーストラリアに『CoastSnap』(※)というアプリがあり、その日本版をイメージしています。

―砂浜はそんなに悪い状況に陥っているのですか?

気候変動によって、2100年には世界の砂浜の約半数が消失すると予測されています。先日参加した「海岸シンポジウム」(一般社団法人全国海岸協会)では、その頃には日本の砂浜 の9割がなくなっていてもおかしくないという提言もありました。

―砂浜が消失すると何が起きるのでしょう。

沿岸災害につながります。鎌倉の134号線沿いでは、2019年に飲食店やホテルなどがすぐ目の前にある場所で道が崩れてしまいました。2022年に入ってようやく復旧工事が終わりました。

一度このようなことが起きてしまうと元に戻すのには時間もお金も非常にかかってしまうのです。

―付近の住民や事業者には大きな痛手です。

海岸沿いには飲食店やアクティビティ事業者などの中小企業も多く、沿線の鉄道会社にとっても大きな損失です。自治体に対策を求めようにも根拠となるデータがなく説得性に欠けます。つまり、付近の人たちや事業者は「海岸侵食による災害」という漠然とした不安を抱え続けているのです。

―その解決に寄与するのが『Be-conn』なのですね。

砂浜の脆弱性を把握するための高頻度のモニタリングができていない、というのが課題としてあります。SDGsの目標14に「海の豊かさを守ろう」があります。海にかかわる企業の取り組みを支援するサービスを提供していきたいと思っています。

―今年4月に株式会社ビーコンを立ち上げ『Be-conn』のベータ版をリリースした廣田さんですが、元ライフセービング日本代表選手と伺っています。海にかかわるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

小児喘息を患っていたもので、海風がよいと聞いた母親の意向で、幼少期に都内から神奈川県藤沢市の海岸沿いに引っ越したのです。本屋さんで見つけたイルカの本に影響を受けて「将来はイルカと泳ぎたい」と思い、水泳も始めました。大学生の頃には泳力を活かしてライフセービングも始めるなど、ずっと身近に海を感じてきました。

―株式会社ビーコンを創業する前はどのような仕事を?

前職は『All About(オールアバウト)』という総合情報サイトで記事広告を売る営業をしていました。しかし、自分の時間をフルに使って海とかかわりたい思いが強く、1年で退職。以前から「海と人の間の課題を解決したい」との思いもありました。

その後、株式会社エイチ・アイ・エスの創業者の澤田秀雄氏が主催する「澤田経営道場」にて、経営学を2年間学びました。松下政経塾さんとのコラボや、エイチ・アイ・エス系列の子会社等で新規事業を開発・従事したりして、現在に至ります。

―『Be-conn』のビジネスモデルについて教えてください。

海岸線の写真を投稿すると海の気象情報として反映されたり、動画も含め他の人の投稿も見られたりするなど、 SNS として楽しめるui/uxがあるというのがこのアプリのポイントです。ですので、アプリ内でユーザーを付近の事業者さんのサイトへ誘導することによる、月額あるいは年額の「サイト誘導費」をいただこうと考えています。

出所:株式会社ビーコン(画像をクリックすると拡大します)
  

―ユーザーではなく海岸線付近の事業者からお金をもらう、と。

また、ゆくゆくは水中アクティビティや宿泊や食事といった海に関する情報をこのアプリで一元化したいと思っています。というのも、僕自身がこの事業のターゲット層と重なるのでよくわかるのですが、そういった調べものにはかなり時間がかかり、非常に面倒くさいのです。

海岸を保全するだけでなく、海岸を領域に事業をしているヒト・企業の事業支援(売上向上)に繋げていきたいと思っております。

―海に特化した情報メディアを目指すということでしょうか。

そのようなアプリがあれば海好きの人は間違いなく利用すると思うし、アクセス数が増えていけば広告掲載費でもマネタイズしていきたいです。いわゆる予約サイトとしての機能も考えています。いろいろな予約サイトがある中で「海といえば『Be-conn』だよね」と言われる状況を作りたいなと。

―定点のスマホスタンドから撮影された海岸線の情報はどうするのでしょう?

国や自治体に無償で提供し、海岸侵食の問題や防災・減災に活用してもらいたいです。かわりに、撮影用の定点スタンドの設置協力をしてもらうという形です。

―データを集めるにはユーザーの協力が不可欠です。投稿のモチベーションを高めるようなインセンティブのようなものは?

モデルにした『CoastSnap』もそうなのですが、特にわかりやすいインセンティブのようなものは実はないのです。しかし、普段海岸を散歩されている方や海によく行かれる方は「海を何とかしたい」という思いが強く、ボランティア要素で撮影してくれているところが非常に大きいです。

―意外ですね。そういうものなのでしょうか。

「投稿する人なんていないだろう」と言われがちですが、実際には結構います。Twitterユーザーに「なぜツイートをするのか」と質問するのと同じ領域のようにも思います。

ただ、やはりボランティア要素だけでは弱いので、通信のキャリア会社と提携し、何らかのポイント付与を考えています。また、ゲーミフィケーション性を取り入れた投稿ラリー等の機能も考えております。

―なるほど。アプリをリリースしての手応えはいかがでしたか。

さまざまな機関から評価をいただけるようになってきて、現在は湘南の海がメインですが今後はさらに全国の海へ広げ、最終的には世界へ広げていきたいですね。経済産業省の「始動 Next Innovator2022」にも採択されています。

―今後の展望をお聞かせください。

撮影データには非常にたくさんのミクロの情報が含まれています。そのデータと衛星からのモニタリングした画像を突合させながら精度を上げていきたいです。

海岸線の防災・減災だけでなく、サンゴ礁の維持管理や海洋ごみ、砂浜の地物や植生林も含む生物多様性の保全みたいなところまで広げていきたいです。

―ユーザーの撮影データを活用してそこまで広げられたら素晴らしいですね。

プロダクトとしても、現在は信頼性を担保するために写真フォルダからの投稿ができないのですが、ユーザーからの要望が多いので改善していくつもりです。リアルタイムに加工していない動画を投稿する現在の機能のほかに、写真フォルダから過去の動画や画像を投稿できる機能や海沿いの定点カメラが視聴できる環境を作りたいと考えています。

※ 世界の海岸線の情報を集積するアプリ。ユーザーが同じ場所から撮影した海岸の写真を沿岸データに変換し、今後海岸線がどのように変化するかを沿岸科学者が予測するために使用する。

社名:株式会社ビーコン
創立:2022年4月7日
主な事業内容:スマートフォンアプリ及びWebサービスの企画・開発・運営
URL:https://be-conn.com

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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