株式会社エイシング 代表取締役CEO 出澤 純一 氏
生産性向上やコスト削減のために、できることは全てやった。そんな企業に対しても、桁違いの成果を提供しているのが、株式会社エイシングです。世界をリードするエッジAI技術(※)を導入することで、どのようなベネフィットを得ることができるのか、株式会社エイシングの代表取締役CEO出澤純一氏にお話を伺いました。
―株式会社エイシングについて教えてください。
株式会社エイシングの出澤と申します。
弊社では、エッジAIのライセンス提供やAI導入コンサルティングを行っています。マイコンのようなハードウェアの制約が大きい部分に搭載されるAIを強みとして、開発しております。
私はもともと機械工学科出身で、熱力学や制御工学、金属組成学といった基礎を身につけています。その後、ロボット工学の研究室に入り、人工知能についての研究を始めました。このような経歴から、情報工学つまりAI側と、機械工学との複合領域を得意にしています。
この得意領域は、そのまま弊社に当てはまります。このような分野において、18年ほど研究を続けております。
―起業のきっかけについて教えてください。
前身となる株式会社ひらめきでも、AIの研究を行っていました。当時、大口の融資を受けていた某大手銀行の支店担当者が、日本総合研究所主催のアクセレータープログラム『未来2017』への参加を後押ししてくれました。これが、起業のきっかけとなりました。
―現在は、どのようなことに取り組んでいますか?
オープンにできるところとしては、オムロン様とロイヤリティライセンス契約を締結しています。
他のAIベンダーに先駆け、AIアルゴリズムにおけるライセンス契約の、おそらく国内初の事例になったのではないかと思っております。
また、生産設備向けとしての売り切りも行っています。
弊社のエッジAIは、世間で言われているエッジAIとは、一風変わったところがあります。
通常、クラウドAIと呼ばれるものは、クラウド側で学習や予測の機能が全て付与され、通信を通して処理を行います。しかし、それでは通信コストがかかってしまうため、デバイス側で予測し、クラウド側で学習するといったように、機能を分離します。これが、一般的なエッジAIです。
弊社のエッジAIは、エンドポイントAIというものです。これは、学習も予測も、デバイス側で、インターネットから隔離された状態で行うものです。しかも、高額なハードウェアではなく、安価なデバイスで、学習も予測も行っています。
このエンドポイントAIを得意とする企業は、世界的に見てもほとんどありません。
―他社との違いは、どのようなところから生まれているのでしょうか?
AIだけではないという点でしょうね。
先ほども述べましたが、機械への知見があること。あと重要なのが、組み込み技術です。半導体などへ実装する組み込みの技術力は、弊社の大きな強みの一つです。独自AIの開発力、機械への知見、組み込み技術。この3つの複合領域を、弊社は得意としています。
これから特に注目されそうなソリューションの形としては、機械制御におけるAIの導入、異常検知、ソフトセンサーなどがあります。あと、「職人の勘」みたいなものを機器のパラメータ設定に落とし込む技術も注目を集めています。機器の個体差を補正するなどして、職人技をシステムとして具現化するのです。
機械制御、異常検知、ソフトセンサー、パラメータ最適化の4つが、強く求められていると実感しています。
―具体的には、どのようなことができるのでしょうか?
オムロン様の事例なのですが、リチウムイオンバッテリーのセパレーターフィルムの製造装置で、弊社のAIを制御AIとして使っていただきました。
上下二つのフィルムがあり、それを圧着して巻き取っていく工程があります。この巻き取り速度が結構速くて、秒速2mで巻き取っているのです。このとき、巻き取りを開始した直後はフィルムが横方向に振動するため、このまま貼り合わせると不良品ができてしまいます。
従来の制御では、この振動を抑えるのに10秒かかっていました。秒速2mで10秒なので、毎回スイッチを入れるたびに20mずつ廃棄しなければならなかったのです。
そこで、弊社のAIを、従来の制御ブロックに後付けしました。すると、1秒で振動を抑えることができたのです。これで、廃棄を10分の1にすることができ、1工場だけで年間5,000~6,000万円のコストカットに繋がりました。
―従来のラインに後付けできるというのは、とても便利ですね。
はい。弊社のAIは、後付けできることに加えて、追加で学習することも可能です。
例えば、その場でカメラとセンサーで認識して、微細なズレがあると、そのズレをフィードバックする。その瞬間、学習して補正をかける。これを連続して行うことができるのです。
腕のよい職人がいれば、その動きを真似して、どんどんラインを賢くすることも可能です。また、自動化後も、さらに精度を上げていくことができます。
この技術について、弊社では、国際出願も含めて特許を何十件も出しています。そして、特許が通らなかったことは、一度もありません。
この分野は現在、弊社にしかできない技術領域なのです。
―コスト削減や生産性向上といっても、自社の状態を適切に把握していなければ、そもそも問題意識を持つことがないように思います。お客様側が前向きに御社の技術を導入しようと思うのは、どのようなケースなのでしょうか?
まず、「リテラシーが高い」ということが言えますね。明確な問題意識を持っているお客様がほとんどです。
「AIをやりたい」「生産性を上げたい」といった漠然とした思いだけでは、予算感が合わないことが多いです。つまり、弊社の技術優位性を理解していただけていないのです。
「この技術は弊社しか持っていません」とご説明しても、「相見積もりを取ります」と言われてしまうこともあります。
一方、オムロン様のように、できることは既にやりきっている企業は、すごく決断が速いです。「既存のAIではここまでしかできない」と理解しているので、「こういう技術を待っていたのです」と即決。導入後も、どんどん横展開していきます。
―単価の高い業種のほうが向いているのでしょうか?
たしかに、我々の工数がかかってしまうと、数百万円から5,000万円ぐらいの年間予算をいただく形にはなってしまいます。
しかし、単価の低い製品でも、工場のラインがたくさんあれば、採算は取れます。
また、費用に関しても、例えば、コストの年間削減額を見て2~3年で回収できるようであれば、年間削減額×2年分×ライン数を一括で初年度にいただく……といった、成果報酬のような対応も可能です。
この形であれば、お客様の持ち出しは開発工数の部分だけ、ということになります。
単価の高くない製品を扱っている会社様でも、規模によっては充分ご検討いただけるのではないかと思います。
※ 「エッジAI技術」…端末(エッジ)自体にAIを搭載する技術。クラウドにデータを送ることなく、端末においてその場で処理を行う。
社名:株式会社エイシング |
創立:2016年12月 |
主な事業内容:エッジAIを活用したアルゴリズム開発、大手企業との共同開発、エッジAIライセンス提供、AI導入コンサルティング URL:https://aising.jp |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。