株式会社Helte 代表取締役 後藤 学 氏
株式会社Helteは、日本の労働人財の不足、高齢化問題に着目し、日本と世界の人々が日本語を使って交流できる「グローバルコミュニケーションサービス」を開発、当該事業をベースに、高齢社会の諸問題をワンストップで解決する新しいビジネスモデルを構築しました。さらに海外とのクロスオーバー人材の紹介やマッチング事業に取り組み、各方面から高い評価を受けています。本日は代表取締役の後藤学さまにこの事業に関してお話を伺いました。
―御社のグローバルコミュニケーションサービスに、多くの自治体などから注目が集まっているそうですが、事業の概要をご紹介いただけますか。
私たちが運営するのは「Sail」という会話コミュニティ・サービスです。オンライン上で世界のどこからでも、日本語で日本の人と交流できるサービスで、日本の65歳から75歳くらいの好奇心旺盛で活動的な「アクティブシニア」にご活躍いただいています。「Sail」はシニアのみなさんと、日本語を学んではいるけれども、なかなか日本の人と話すきっかけがない海外の人たちを結びつける「日本発のグローバルコミュニケーションサービス」。人と人が国境や世代、性別を超え、日本語で繋がって文化を理解し合うための、一対一の会話コミュニティです。
―「Sail」のオンライン上での交流とは具体的にはどういったものですか。
Sailに登録している、日本のシニアと日本に関心のある外国の方、双方をマッチングしてオンラインで繋ぎ、英語ではなく日本語で交流していただきます。時間は25分が基本です。
―利用される言語は日本語なのですね。
はい。日本語で交流が行われるため、英語が話せない日本のシニアの方も、海外の方と気軽に繋がることができます。異文化への理解も高まり、いきいきとご活躍いただいています。シニア層の社会貢献の基盤を創造することより、介護や・医療保険の増加を抑制にすることにもつなげていきたいです。
逆に日本語を学習していたり、日本に関心があるといった海外の方にとっては、リアルな日本語に触れ、文化を直接学ぶことができる貴重な機会となります。
―双方にWin・Winの場を創られたということですね。
豊富な知恵や経験を持ちながらも引退後になかなかそのスキルを活かす場が限られているシニア層を中心とした日本人と、日本に興味があるのに、リアルな交流や学びの場を見つけることができない外国の方々。そんな双方の持つリソースや課題の要素を掛け合わせ、プラスの要素を生み出していけることがこの事業のおもしろさだと思っています。
おかげさまでこのサービスは大変好評でご利用いただいている国も158か国まで広がっています。相互で行われた会話の回数は20万回に到達。数年前から、神奈川県をはじめとした複数の自治体とも連携が始まっています。
―現在その膨大な会話から得られたAIビッグデータを活用して、さらに新しい試みが始まっているとうかがいました。
Sailでの会話内容をビッグデータとして解析し「就職支援」と「ヘルスケア」に活用しています。
大手IT企業や製薬会社と連携して、会話情報からキーワードや感情の情報を取得し、マッチングの向上や、ヘルスケア事業展開へ応用します。
―就職支援とは具体的には、どういったことなのでしょうか。
現在Sailの海外ユーザーが2万2000人いますが、そのうちの6割以上が日本で就職したいと考えています。みなさん、人手というよりは人材として職に就くような立場の方です。そういう人たちを「海外展開しよう」とか「外国の方をどんどん受け入れよう」と考えている日本の企業さまと結びつける、というようなことですね。 例えば海外在住の外国人エンジニアと日本の企業をマッチングしたり、日本の製薬会社と、台湾の女性で現地の薬剤師の免許を持つ人をマッチングしたり、といったことが可能です。
Sailでの会話や、録画されている動画などをデータとして分析した結果と、日本のシニア、それも名のある企業のOBのような立場の方たちに推薦状を書いてもらえるような仕組み、そういったことを一連のサービスにして、企業さまに判断資料としてご提供しています。
―ヘルスケアについてもお願いします。
やはり動画のAI解析によって、たとえばこのユーザーに軽度認知症の傾向がある、といったことがわかるようになっています。シニアの方には社会参加しながら、健康状態を客観的にチェックすることができます。
また東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)様、奈良女子大学様と共同で海外の方との会話・交流が高齢者の心の健康にどう影響があるのを分析・研究しています。Sailを利用するシニア層の「人の役に立ちたい」といった積極的な気持ちが、使用以前は49.5%だったのが、利用後は66.7%に向上したということなどが示唆されています。楽しみながら健康状態が向上し、認知症の予防にもなるということで、近年は神奈川県はじめ10以上の自治体に導入いただいております。
将来的には、このような行政との連携を通じた地域モデルをしっかり構築し、全国に水平展開していきたいと考えています。
―なるほど、大変ユニークなシステムですが、そもそも後藤さんがSailのようなプラットフォームをご自身で創ろうとなさったきっかけはなんだったのでしょうか。
「分断のない、活力ある社会を創りたい」ということがずっと私の気持ちにありました。
実は、私は幼少のころ母の仕事の関係で、アメリカと日本を行き来した時期がありました。母の仕事はカメラマンです。アメリカのサーカス団と共に、彼らの写真を撮りながら全米を回っていくというような生活でした。私自身もあちこち一緒に行くような感じで、いろいろな世界をのぞきました。
そんな母のDNAなのか、自分も、大学2年生の時にアメリカのワシントン州で、3年生の時にはインドのゴアで暮らしました。アメリカでは人類の分類を学ぶ「人類学」や「公民権」に関して深く勉強しました。インドではカースト制度というものを肌で感じ、世界ではまだまだ人種や出自で人が分断されていることを体感しました。そこでなぜ人は差別するようになるのだろうという疑問が強く心に残ったのです。
大学4年時にはさらに30か国以上を放浪して、卒業後いったんは情報通信企業のITコンサルタントとして働きましたが、1年で辞めました。心のどこかで「なにか教育のような分野で、新興国の人たちに貢献できる仕事がしたい」と考えていました。
―30か国の放浪のあと就職、そして1年後その安定した生活を捨てての退職。これはもう、聞きたいことばかりですが、たとえば退職時にはすでに起業を考えてらしたのでしょうか。退職してからアルバイトなどしながらゆっくり、考えを深めていかれたのでしょうか。
起業は決めていましたが、具体的なビジネスモデルはまだありませんでした。「ただ新興国の人に貢献できることを」という思いはすでにありました。いろいろな人にアドバイスを受けながら、異文化、異教徒、異業種、異人、異性。そんないろいろな「異なるもの」が交わっておこす化学反応に着目するようになりました。いや、なかなか暴走というかなんというか、もし過去の自分に戻るなら、今すぐ止めたいです(笑)
―幼少期から今日に至るまで、まさに波乱万丈、グローバルで多様な体験が、「分断のない、活力のある世界を創る」ためのビジネスモデルを構築する原動力になったということなのですね。今や社会的にも大変注目されているスタートアップでいらっしゃいます。お忙しいところ本日はどうもありがとうございました。
社名:株式会社Helte |
創立:2016年3月 |
従業員数:17名 |
主な事業内容:日本語の会話コミュニティ・サービス「Sail」の運営業務、オウンドメディアの運営、海外人財と企業のマッチング URL:https://helte.jp/company |
Sail:https://sailjp.helte.jp Sail夢プロジェクト:https://yume-pro.helte.jp 世話カツ:https://sewa-katsu.helte.jp/ja |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。