ユカイ工学株式会社 CEO 青木 俊介 氏
くちに指を入れるとハムハムと甘噛みしてくれるロボット、撫でるとしっぽを振るクッション型のセラピーロボット、脳波と連動して動く猫耳付きヘッドセット……。ユカイ工学株式会社では、生活の中に溶け込み、人生をより豊かでユカイにしてくれるコミュニケーションロボットを開発しています。ユカイな物づくりを目指す同社のCEO、青木俊介氏にお話を伺いました。
―一風変わったユニークなプロダクトを開発していらっしゃいますね。
弊社ではユカイにものづくりをすることを大事にしていて、社員が自由に発想したものをクラウドファンディングなどを通じて商品化してきました。設立は2007年、株式会社として事業を始めたのは2011年です。現在、35名ほどで事業を行っています。
―ユニークな社名ですが、由来は?
ソニー株式会社の設立趣意書内に、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」(「会社創立の目的」より)というものがありまして。私はそれがすごく好きで、自分たちも自由闊達で愉快な理想工場を作りたいなと思いました。
私たちのミッションはロボティクスで世界をユカイにすること。新しいライフスタイルを提案できる、家庭向けのさまざまなプロダクトを開発しています。
―どのような製品を開発されているのか、もう少し詳しく教えてください。
主力商品は「BOCCO emo(ボッコ エモ)」で、家族を繋ぐコミュニケーションロボットです。一人暮らしの高齢者や、共働き家庭でお子さんが留守番をしているようなシチュエーションでよく使っていただいています。
―どのような機能があるのでしょう?
薬を飲み忘れないようリマインドしたり、専用の「つみきセンサ」と連動して熱中症の警報を出してくれたりと、スマートスピーカーのような機能があります。Bluetooth を搭載した体重計や血圧計とも連携でき、「体重を測っていないよ」「ダイエット頑張っているね」など、ロボットに健康管理もしてもらえます。
ハードウェア本体だけでなく、クラウドのプラットフォームとしての機能もあり、ほかの家族のスマホとやりとりもできます。専用のスマホアプリから文字でメッセージを送るとロボットが読み上げてくれます。
―見守りツールとしてもコミュニケーションツールとしても使える、と。
はい、このプラットフォーム上でさまざまなサービスを展開していきたいと思っています。たとえば、プライベートジム事業で有名なRIZAPと組んで、健康寿命延伸プラットフォームの実証実験を三重県で行っています。BOCCO emoがパーソナルトレーナーの代わりに運動・食事についてヒアリング・声かけをしてくれます。
―コミュニケーション機会の少ない単身高齢者の健康管理に、非常に役立ちそうです。
警備サービス会社のセコムによる、サブスク型のコミュニケーションサービスもあります。BOCCO emoを通じて、家族やケアマネなどにかわってオペレーターが高齢者とやりとりをしてくれるのです。服薬やスケジュールを確認してくれたり、お買い物の注文を補助してくれたりします。個別のやりとりのため、生活状況がよくわかる利点があります。
―本人も周囲の関係者も安心できそうですね。
「見守りツール」というと、これまではセンサを使うなど、”監視”の状況を生み出しやすかったように思います。しかし、「監視されたい」「見守られたい」と思う高齢者はあまりいません。
―たしかに。
本当に重要な情報は対象者が「生きているか・死んでいるか」ではなく、「どのように暮らしているか・楽しく生きているか・元気か」ですよね。そういったことが、このサービスを通じて把握できるという点が評価されています。現在、東京都杉並区を中心に数百台の規模で展開しており、これからどんどん広げていきたいと思っています。
―ほかにはどのようなものが?
しっぽのついたクッション型癒やしロボット「Qoobo(クーボ)」シリーズは、2018年に発売しました。顔も手足もなく、ただしっぽだけが動くという変わったロボットですが、まもなく4万匹の出荷になります。
―徹底したシンプルさに対してそこまで需要があるのは驚きです。
昨年の7月に発売した「甘噛みハムハム」も、すでに3万匹を超える話題の商品です。指を甘噛みしてくれるという、ただそれだけのロボットなのですけどね。
ほかにも、3年前からスタートしたNHK小学生ロボコンの公式キットにも採用されている製品を含む教育シリーズ「kurikit(クリキット)」などもあります。また、クライアントワークとして企業のコンセプトづくりやプロトタイピング・量産のお手伝いもしています 。実績としては「popIn Aladdin(ポップインアラジン)」という、天井につけるタイプのスマートプロジェクターなどがあります。
―まさに「ユカイ」な製品をたくさん生み出されていますが、どのような着眼点から開発のアイデアが生まれるのでしょう?
「どこかの誰かの課題を解決」ではなく、「自分が絶対に欲しい」という、個人の妄想に近いものを形にしています 。自分、あるいは身の回りの人が絶対に喜ぶ、欲しいというものが多いですね 。自分の子どもが鍵っ子になっちゃうので遠隔でやりとりをしたいとか、睡眠をちゃんととりたいとか、安らぎが欲しいとか。
―個人のユカイが多くの人のユカイにつながっているのですね。ところで、青木さんはユカイ工学を創業される前は東京大学工学部在学中に設立したソフトウエア会社、チームラボの取締役CTOでいらっしゃったのですよね。
ロボットは中学生の頃から作りたいと思っていたのですよ。2005年の愛知万博でロボットを作るスタートアップのプロダクトを見たのが衝撃的で、実際にロボットを作る事業ができるかもしれないと思い始め、ユカイ工学を創業しました。
―青木さんにとってロボットはどのような存在ですか。
僕たちが作っているのは、人の生活に寄り添い、励ましてくれたり癒やしになってくれたりといった、人の心に訴える機械です。そういった役割を今後はロボットが担っていくのだろうなと思っています。従来の工業用のロボットは生産性や効率を上げるためのものですが、僕たちが定義するロボットは、人に優しいデジタルのインターフェースなのです。
―作り手の温かい人格みたいなものが感じられるのがユカイ工学さんのプロダクトの特徴ですね。最後に、今後の展開について教えてください。アメリカで行われる電子機器の見本市「CES 2023」にも出展していましたが、ユカイ工学さんのユニークな製品は海外でも受け入れられているのでしょうか?
「CES」には8年くらい出展していますが、「変わったロボットを作る会社がある」という認識が広まってきて、メディアへの波及効果が非常に大きいと感じています。
ただ、やはり日本市場と海外市場とでは受け取り方の違いが大きいと感じています 。甘噛みハムハムのような可愛いロボットが日本やアジア系で受け入れられるのは、ドラえもんの影響があるのかもしれません。
―とはいえ、海外展開も積極的に進めていきたい?
海外の販売割合は10%にも満たないので、もっと広げていきたいとは思います。海外でのクラウドファンディングも何度も経験があり、試行錯誤してはいます。ただ、現時点では社内リソースの問題もあり、国内プロジェクトに軸足を置いています。
また、海外展開において重要なのは、現地のパートナー企業が見つかるかどうかだと考えています。中国や香港、台湾などは比較的容易に見つかるのですが、アメリカはなかなか難しいのが現実です。北米の小売業界はAmazon とウォルマート以外は淘汰されているような状況ですので、Amazonを使って、自分たちでマーケティングを頑張るしかないですね。
―先日のCES 2023で新商品の呼吸するクッション 「fufuly(フフリー) 」がInnovation Awardsを受賞するなど、米国での注目も高まっているようです。今後の展開が期待されますね。今日はありがとうございました。
社名:ユカイ工学株式会社 |
創立:2017年12月(2011年10月 ユカイ工学株式会社へ組織変更) |
従業員数:35名 |
主な事業内容:ロボット/ハードウェア 開発・製造・販売 URL:https://www.ux-xu.com/business |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。