株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーJuly 10, 2023#32 「教育格差⇆経済格差」の負のループを断ち切る教育ファイナンススタートアップ(株式会社EduCare)

株式会社EduCare CEO 村上 健太 氏

大学の学費が払えないーー学生時代のこのようなピンチが教育ファイナンス事業を志すきっかけになったという、株式会社EduCareのCEO、村上健太氏。経済的理由によらず全ての人が質の高い教育を受けて充実したキャリアを実現するための支援を行う「出世払い型」の奨学金事業を中心とした教育ファイナンス事業についてお話を伺いました。

―「出世払い型」の奨学金とは?

株式会社EduCare CEO 村上 健太 氏

学費を支援するかわりに、就職して一定以上の収入となった際に月給の10%など所定の割合を支払ってもらう仕組みです。「ISA(Income Share Agreement)」という学費支援制度で、アメリカやイギリスなど、海外の看護学校やメディカルスクールで徐々に普及し始めています。返済が「定額」でなく「定率」という点や、連帯保証人がいらない点などが一般的な奨学金との主な違いです。

現在、許認可手続きを進めておりますが、当初は一般的な定額返済のローンを提供予定であり、当局との対話などしかるべきステップを踏んでからISAを「商品ラインナップの一つ」として提供をしたいと考えています。大前提として、ISAに拘っているわけでもなく、それ以外の通常のローンなども提供して教育ファイナンス事業をしていくつもりです。

―一定以上の収入にならなかった場合は払わなくてもよいのですか?

はい、少なくともISAに関しては、所定の年収に達しないと支払い義務は生じません。また、病気や妊娠・出産に伴う一時休暇中も一時的に支払いが免除されます。「利息」という概念はなく、返済金額上限も定められているため、支払いが青天井になることもありません。「未来志向のファイナンス」であり、私たちはISA以外も含めたローンなども提供する教育ファイナンスカンパニーになって、「教育格差」にアプローチをし、学費で困る人を一人でも減らす世の中を作ろうと考えています。

出所:株式会社EduCare

―既に事業はローンチしているのですか?

金融系のベンチャーのため、金融業の許認可が必要で、現在、手続き中です。 上記の通り、当初は一般的な定額返済のローンを提供予定であります。ISAについては検討すべき法的・会計的論点などが残されており、当局との会話などを丁寧にしていく必要があるため、じっくりと検討や協議を重ねてから開始をしたいと考えています。フィンテック協会にも所属し、ベンチャーキャピタルなどの出資も二回重ねており、金融のバックグラウンドが長い人材がメンバーとして集まってくれております。

―どのように事業を形にしていく予定でしょうか。

まずは看護業界の学生(それも、看護大学院に通いたい社会人看護師)に絞って支援を始めていくつもりです。この業界は他と比べて奨学金の利用割合が極めて高いからです。医学部もそうですが、看護学校の学費は高く、国が提供している「日本学生支援機構(JASSO)」では足りないことも少なくありません。

卒業後に特定の病院で働くことを条件に学費を支援する「病院奨学金」もありますが、辞めたくても辞められない、辞めたらその時点で一括返済しなければならないなど、学生が負担に思っている面もあります。私たちが看護師・看護学生にインタビューした際、「自分が学生のときにISAという選択肢があったら使いたかった」と話す方はけっこういらっしゃいました。

―ニーズは多そうだ、と。

奨学金の利用割合自体、10〜20年前は10人に1人程度だったのが現在は2人に1人程度と、学習支援のニーズは高まっています。その一方で、現在の日本における教育ファイナンスはJASSOがほぼ独占している状況です。日本においても、海外のように教育ファイナンスを提供するプレイヤーがもっと現れてもいいのではないかと考えています。

―この事業を始めようと考えたのは、ご自身の原体験によるということですが?

自分自身が大学4年生のときに学費が払えなくなってしまったのです。それまでの恵まれた環境から一転し、初めてお金の苦労が身に染みました。結局自分で稼いでなんとか学費を払えたのですが、あのような絶望感をもう誰にも味わってほしくありません。

―その経験が起業のアイデアにつながったのですね。

はい。もともと両親が自営業だったので自分も起業をしたかったのですが、それをきっかけに「学費」「教育に関する資金援助」に関する事業が何かできないかとぼんやりと思うようになりました。すぐに解決策が思い浮かばなかったため、卒業後はGE日本法人の金融事業部やKPMGジャパンにてM&Aアドバイザリー業務に携わっていました。起業のネタを探そうとリサーチをしていた時に、2年前に ISAのことを知り、このような「未来志向のファイナンス」であれば「教育格差」の負のループを断ち切れるのではと思い、昨年起業しました。

―支援するための原資はどう工面する予定でしょうか。

色々な形で検討中であり、現在水面下で様々なパートナーと対話を行っています。特に、財団や基金、CSR の予算が豊富な金融機関といったソーシャルセクターといったところからは非常に関心を頂いております。まずはそういったところからのお金を元手に、JACCSさんやオリコさんのように入学金や授業料といった学費を看護学校に対して立替え払いする形を想定しています。

―採算についてはどうお考えですか?

ローンは基本的に借りたお金プラス利息を返す形ですが、ISA はどちらかというとエクイティ(※)に近く、「看護師の将来に対する投資」という側面が強いです。一人の学生に対して200万円を支援して300万円が返ってきたとしたら、リターン部分の100万円を次の学生の支援に回し……というように、原資が円環するエコシステムです。苦労人の中からヒーローが生まれ、そのヒーローがもたらしたリターンを次の世代へつなぐ「Pay It Forward」「相互扶助」型の事業にしたいと考えております。

―リターンを得られない可能性もありそうですが?

ISAのシミュレーションでは、所定の年収に達しなかったり病気が長引いたりといった理由で返済が元本割れしてしまう可能性も想定しています。また、返済を避けるために収入を過小申告する人も一定数いると思うので、それを防ぐためのペナルティのような内容を盛り込んだ条項を、弁護士と共に検討しています。

―収益を得る方法は別で考えているということでしょうか?

収益ポイントとしては、学校からの加盟店手数料などを考えています。また、ISAを含めた教育ファイナンスで支援している学生について、人材事業のような形でマネタイズすることを考えており、そこの部分の収益が大きなものとなると考えています。教育ファイナンス事業は、普通にやると営利的にあまり儲からないビジネスだと思うので、そこは工夫が必要だと考えています。

―実現すれば「社会性」と「営利性」を両立できそうですね。

はい、私はこのEduCareの事業を単なる「金貸し屋さん」にはしたくありません。学費支援をすることで、受けた人が結果的にキャリアアップや年収アップにつながるような付加価値をつけたいです。EduCareの人材プラットフォーム内の金融教育や職業訓練を受けることにより、卒業後、他の人と比べて年収がアップしたりイキイキと働けたりするといいなと。

―現在の日本の奨学金は、返済が滞らなければ基本的には関与しないことが一般的です。

アメリカでは「教育ファイナンス」と「キャリア支援」をセットで行うことがよくあります。返済を要求するのであれば、学生の卒業後のキャリアにもしっかりと責任を持つべきだと思います。そのほうが資金提供者にとっては返済の蓋然性も高まるうえ、学生本人にもメリットがあり、お互いのインセンティブが一致して「社会的」にも「事業的」にも意義が大きくなる。将来的には、看護業界・ISA 問わず、営利性と社会性を両立する「教育ファイナンスカンパニー」を創っていき、教育格差という問題にアプローチをしていきたいです。そのために、当局や金融機関・学校・学生をはじめとした様々なパートナーとの対話を大事にしていきたいと考えています。

―最後に、EduCareが目指す「Make EduCation Affordable構想」とは何でしょうか

一般的にお金を貸すことを生業とする企業は社会人に対してしか貸出を行いませんので、銀行や消費者金融から学費も含めた資金融通がしにくい現実があります。

一方で、2人に1人が奨学金を使っているように市場規模も大きくかつニーズも高まっており、かつ、看護師をはじめ卒業さえすればしっかりと返済することがほぼ約束されている学生もいるのに資金融通がなされない。私はここに、ある種の矛盾というか、「歪み」のようなものを感じています。

例えば、これを初任給や昇給伸び率など将来の教育の投資対効果(”教育ROI”)が高いであろう学校や、将来需要が高くなる職業訓練を教えている高等専門教育機関を特定の上、パートナーシップ化し、そういったところに進学する学生に対してファイナンスをすればリスクは最小化でき、学生に対してもファイナンスができるだろう、と考えます。

そして、その支援した学生に対して、更にキャリア支援や金融教育を施し、キャリアアップや年収向上になるよう支援すれば、学生にとっても我々にとっても良いことになり、そこに対して接触したい金融機関や病院、人材企業なども出てくる。そういうエコシステムが作られます。

そして、学生の貸出実績数が増えれば増えるほど、データに基づいたファイナンスができ、本当に学びたいけど学費に困っている学生に、より多く貸し出すことができる。そういう世界観(”Make EduCation Affordable”)を、構想しています。

新しいことなのでなかなか認められなかったり、許認可手続きもあったりで、腰を据えて取り組む必要がある事業であり、非常に大きなエネルギーが要りますが、何とかこれを形にするまでは諦めきれないと思っています。

※「エクイティ」…借入れでなく、株式を発行して資金調達を行うこと

社名:株式会社EduCare
創立:2022年6月
従業員数:6名(業務委託含む)
主な事業内容:看護学生を中心とした教育ファイナンス事業
URL:https://www.edu-care.co.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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