株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーAugust 22, 2023#36 3D CAD データの二次活用により組立工程の情報伝達を圧倒的に効率化するドキュメントツールを開発(Scene株式会社)

Scene株式会社 取締役COO 江澤 怜 氏

人の手による緻密な組み立て作業が必要なものづくりの現場では、手順書・指示書の作成と情報伝達の煩雑さが生産性低下の原因の一つになっています。Scene株式会社は「ITが苦手」「ハイスペックPCがない」という状況でも3次元CADデータを利用して簡単に製品の情報伝達を効率化できる3Dドキュメントツール「Scene」を開発。同社の取締役COOである江澤怜氏に、製造業のDXについてお話を伺いました。

Scene株式会社 取締役COO
江澤 怜 氏

―まず、製造業の現状について教えてください。

市場ニーズに合わせた「多品種少量化」「短納期化」が進んでおり、そのような製品は機械で大量生産できないため、技術者が手で組み立てる必要があります。他方、海外の製造品質や生産性が急激に向上してきており、これまで日本が人の力によって実現してきた強みが通用しなくなる可能性があります。このような状況に対応するために「商品企画・研究開発→製品設計→工程設計→製造」といった一連の業務プロセスである「エンジニアリングチェーン」の改革の必要性が叫ばれています。

―貴社のツールでエンジニアリングチェーンの改革が可能になるのでしょうか?

はい、当社では設計時の3D-CAD データを2次活用し、組み立て手順書をはじめとする資料作成や情報伝達などのデジタル化に取り組んでいます。デジタル技術を「誰でも使える道具」の形にし、技術者がより付加価値の高い仕事に専念して実力をフルに発揮するためのお手伝いをしています。

―どのようなツールを提供しているのですか?

3Dのアニメーション付きのプロセスを記載した組み立て手順書や指示書を、誰でも極めて簡単にわかりやすく作れるドキュメントツールです。設計の現場では3D-CAD データを利用した3次元の図面が普及してきていますが、後工程でそれをうまく活用しきれていない状況がありました。

たとえば当社の顧客であるヤマト科学様では、以前は設計者と組み立て作業者との情報伝達が図面上で行われており、実機の写真を撮ってエクセルに貼り付けたり、CAD データのスクリーンショットをパワーポイントに貼り付けたりしながら手順書などの資料を作成していました。実機の用意やデータの編集作業には膨大な手間と時間がかかるうえ、意図が伝わりにくいという問題が発生していましたが、「Scene」を導入いただき、この問題を解決しました。

―3D-CADデータをどのように活用するのか、もう少し詳しく教えてください。

設計時の3D-CADデータをドキュメントツール「Scene」に読み込ませ、ページをどんどん追加していきながらテキストボックスや矢印や四角などのオブジェクト、画像などを入れると、アニメーションが勝手に動いてくれるスライドができあがります。一般的なプレゼンテーションソフトに3Dが追加されたイメージです。

出所:Scene株式会社

―たしかに、非常にわかりやすい手順書が作れそうです。

しかも、ブラウザベースでも使えるので、関係者が部門を横断してツールを共有しながらディスカッションできます。海外のような離れたところにいる人ともコメント機能を使ってやりとりができるわけです。Googleスライドなど、ドキュメント上でコミュニケーションできるものはありますが、3Dデータを取り込めるものは、これまでありませんでした。

―実機を用意しなくてもデジタルで詳細を共有できるのは非常に効率的ですね。

はい、ものづくりをデジタル化し、効率的に働く仕組みづくりができます。最近、製造業では、初期工程にリソースを投じることで後工程で起こりうるトラブル等の対策を講じて品質を高める「フロントローディング」がキーワードになっています。後工程で設計変更が生じないよう、なるべく早い段階で精度の高い設計図を作ることが生産性の向上につながるのです。そのためには設計段階で各部門からの情報を吸い上げるコミュニケーションが重要です。

―「Scene」を使うことでフロントローディングへつなげられるということですね。ところで、3D-CADデータは機密情報に該当しそうですが、セキュリティの面は大丈夫なのでしょうか?

3Dのビジュアルデータは、元のCADデータとは異なりますので、そこからデータを引き出すことはできません。ただし、企業によってはポリシー上「クラウドもNG」というところもあり、その場合はオンプレミス(自社保有)で対応しています。

―製造業のデジタル化の進み具合は企業によってまちまちなのですね。「Scene」の反響はいかがですか?

最近は展示会にも出展しているのですが、分析装置やセンサー、重工系、産業機器の企業等、多品種少量・一品一様の製品を扱うところから多くの反響をいただいています。また、3Dドキュメントと作業チェックシートを一体化させることによる作業記録のペーパーレス化にも取り組んでおり、手順書作成の簡易化やコミュニケーションの効率化以外の面でも、DXの可能性が広がっていくツールだと考えています。既存のプラットフォームとの連携などはまだ進められていませんが、将来的には、何でも投げ込んで関係者みんなで共有できるようなツールに発展できればと考えています。

―展開は国内だけですか?

目下、マーケットとしては国内を中心に攻めているところではありますが、初期の段階でグローバルで広告を打ち出したこともあり、電動キャリアを作っているフランス企業で顧客になってくれているところもあります。 もう少し国内で売り上げが立って安定してきたら海外展開していきたいです。

実はSceneの事業で、グローバルで貧困問題や格差の解決に取り組んでいきたいという思いもあります。当社のドキュメントツールは技能継承や技術者の教育というところでも活用用途があるため、発展途上国の経済発展に貢献できる可能性があります。ある国際金融機関からは投資の話もいただいています。

―それは素晴らしいですね。ちなみに、江澤さんはなぜこのような事業を始められたのですか?

私は文系の人間なんですが、大学を卒業して日東電工という化学メーカーで 3年ほど営業として働いた後、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングというコンサルティング会社(現EYストラテジー・アンド・コンサルティング) で製造業向けの業務改革やサプライチェーンマネジメントなどのプロジェクトに携わりました。その後アクセンチュアに転職し、次第に「起業したい」という気持ちがわいてきまして、インフォステラという宇宙関連のスタートアップに移り経営企画の仕事をやってきました。小型衛星向けのアンテナネットワークを作る会社なのですが、そこで同僚だったビジャヤン・スワティナトとSceneを共同創業したのです。

―今後の展望について教えてください。

当社のドキュメントツールに取り込む3D-CADデータはお客様の製品情報のすべてであり、ものづくりのコアです。そのような製造工程表や部品表のデータをコアとして、その情報管理システム、いわゆる PLM(Product Lifecycle Managemen=製品ライフサイクル管理)のためのツールとして作り上げていくことを考えています。既存の PLMツールはカスタマイズ性や柔軟性に乏しく、システムを導入するまでに数年かかります。また、カスタマイズの保守も必要となり、コスト面でもハードルが高いという課題があります。なので、いわゆるヘッドレス(※)型でカスタマイズビリティの高いPLMツールとして作り上げていくことを長期的なビジョンとして描いています。

そのほか、サービスマニュアルやマーケティング資料用など、社内ではなく顧客向けの用途としても開拓はしており、今後、徐々に対応できればと考えています。

※「ヘッドレス」…フロントエンドとバックエンドを切り離し、ユーザーインターフェースの質と保守運用の効率を高めたシステム構築のこと

社名:Scene株式会社
創立:2019年12月
従業員数:4名
主な事業内容:3Dドキュメントツール「Scene」の企画、開発、運営、販売
URL:https://www.scene.space

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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