株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーAugust 24, 2023#37 目指す社会的成果とそこに至るまでの道筋を整理し社会的価値を可視化。社会的インパクトを最大化するための事業改善を独自のアプローチで支援する&PUBLIC(アンドパブリック)株式会社

&PUBLIC株式会社 代表取締役CEO 桑原 憂貴 氏

社会的事業は手掛ける側の情熱とはうらはらに、その社会的価値がなかなか人には伝わりにくいもの。&PUBLIC株式会社は独自のツールと指標を使って、事業の社会的価値の可視化に注力。事業が目指す社会的成果と達成までの道筋を整理し、そのインパクトを最大化するため人や組織に改善のためのサービスを提供する。本日は代表取締役の桑原憂貴さんにお話をうかがいました。

&PUBLIC株式会社 代表取締役CEO
桑原 憂貴 氏

―どんなに優れた事業もその価値が正しく他者に伝わらなければ、人を動かすことはできません。御社の取り組みには三菱総研のメンバーも強い関心を持っています。まずは代表取締役である桑原さまのプロフィールや、起業のきっかけからお聞かせいただけますか。

&PUBLIC株式会社は2023年2月にできた会社です。私自身はそれ以前の10年はまったく違う畑の仕事をしていました。そもそも大学で学んでいたのは国際関係論。大学時代はずっと、グラミン銀行のマイクロファイナンス事業を研究していました。

―貧困層の女性の方々にお金を貸して、彼女たちが貧困から脱却する手助けをするシステムですね。

そうです。でも卒業後は求人広告の営業会社に就職。そこで4年ほど営業を経験しその後、社会課題の解決を専門とするコンサルティング会社に転職しました。

ちょうどそのころ、2011年の東日本大震災が起こり、陸前高田市にできた復興まちづくり会社に出向で行ったことが&PUBLICを起業するに至る一つの転機だったと思います。当初は、同市の住民と共に、津波で被災した集会所を、杉の間伐材をブロック状に加工したキットで再建するワークショップからはじめました。結局この時代の気づきが現在の仕事に繋がっています。

―震災から2年後の2013年にご自身で最初の起業をなさった。

はい。2013年に陸前高田に最初の会社を立ち上げました。ここで気仙大工のみなさん、彼らは一般の住宅を作る大工でありながら、神社仏閣も手掛けることができる非常に高い技術を持つ職人なのですが、そういう地元の大工のみなさんに協力を得て家具や空間をともにつくる「KUMIKIPROJECT(クミキプロジェクト)」という株式会社をはじめました。

―当時のことは非常に強く印象に残っておられると伺いました。

人生初めて「つなぎ」を買って、70代の腕利きの棟梁たちにしごかれながら、建築のいろはを学びました。でもこのとき始めて「共に創る」ということが、これほど地域の中の人も外の人も繋げるのだということに感動したのです。以来この姿をもっと見たいと強く思って、この参加型のリノベーションワークショップを全国で展開してきました。

2019年には財団も立ち上げ、仕事の一環としてワークショップのインストラクター育成にのりだします。全国各地に「KILTA(キルタ)」というシェア工房を併設したショップを広げていきました。

―そして今年2023年に&PUBLICを創立。桑原さまはまさしくシリアルアントレプレナーでいらっしゃるわけですが、ここからは&PUBLICについてご説明いただけますか。

「公共の力をともに革新しよう」を合言葉に、私たちのやっていることは大きく分けて2つです。1つは「組織がどういう価値を生み出しているか」を言語化して、その価値がきちんと表出されるための手順を整理していこうという研修プログラムの提供。2つ目は複数のグラフや表が一度に見られるダッシュボードで、組織が生み出している社会的価値の増減を一見して分かるように可視化したり、それを通じて簡単にレポート制作したりできるSaaS型のツールの開発です。

―ずっと建築関係のプロジェクトに従事されていた桑原さまが、「企業価値の見える化」に取り組んでいく事業を立ち上げようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。

これまで私たちは人と人が繋がるきっかけを作ることを大切にし、その繋がりを豊かにすることに真剣に取り組んできました。ただ「人と人が繋がったら何がいいの?」「地域の木材使っていますっていうけど、それが何のためになるの?」と言われると、「街に活気が出て」とか「森が豊かになって」とかいろいろ言いたいことはあるのですが「人を納得させるだけの可視化」ができていなかったのです。この10年ずっとそんな感じでした。

―確かに可視化、言語化できないと価値が社会的に認知されにくくなります。

次第に「それでいいのか」という声が自分のなかで高まっていきました。そんな中で「ロジックモデル」という考え方や「社会インパクトマネジメント」、つまり「社会価値をちゃんと主体的にマネジメントしよう」という考え方にたどりつきました。ですから&PUBLICは、クミキプロジェクトの社会的価値を可視化するために始めた取り組みで、「会社を創ろう」と思ってできた結果ではありませんでした。

―そこからのスタートだったのですね。具体的には企業の価値はどのようにあらわすことができるのでしょうか。

私たちが開発しているインパクトマネジメントツール「パーパスボード」では、事業やプロジェクトが目指す成果、辿り着く筋道、打ち手を整理し記録します。まるで付箋を模造紙に貼るようにカードを動かしたり重ねたりすることができ、感覚的に使うことができるのが特徴です。社会価値を測るためのものさしの多くは非財務指標となりますが、自分たちにとって納得感ある指標を設計し、考察できる仕組みが重要と考え、実装しています。

プロジェクトの存在意義を一見してわかるようにして、「成果」と「打ち手」を整理し改善のためのサイクルを回せるようにしていきます。社会価値が最大化していくようその取り組みを支援していくのですが、それだけに終わらず、誰もがパッと見てわかるよう、イラストなどを使ってアート化するといったこともしています。

出所:&PUBLIC株式会社

―やるだけで満足せず、しっかり価値を見極め、それをアピールや、反省に役立てるわけですね。「指標」を決めるのは難しいと思いますが、具体的には指標はどのように決定なさっているのですか。

たとえばSDGsなどよく知られた指標だけではなく、日本中で同様の活動をしている方々にインタビューしながら、どういう風に指標を設定しているのかを子細に調査し、独自の指標データベースを作成しているところです。自分たちらしい指標を作成できるように工夫を重ねています。

―期待されている開発中の機能もあるとか。

事業がどういう社会価値を目指しているのか、それらを可視化するとどうなるのかという内容を表す「インパクトレポート」を、ドラッグ&ドロップだけで簡単に作ることが出来る機能で、今まさに着手中のものです。

―これらはもともとクミキプロジェクトの有効性を社会に知ってもらうために、桑原さまたちが考え出されたということですね。

もともとのスタート地点はそこですが、進めていくうちに「社会課題を解決したい」とおっしゃっている企業さんやNPOさんが多い割に、実際その成果をきちんと示せていないということが分かってきました。

例えば、ある自治体が地域課題解決のために何かしたとして、その政策が具体的にどんな風に効果を発揮できているのかは、市民には伝わりにくい現状も少なくありません。だからこそ私たちのツールを利用いただくことで、課題に対してどういう風にアプローチしていくかという手順が関係者にも住民にもわかるよう整理され、その効果もきちんと住民の皆さんに納得してもらえるよう表現できると考えています。

―手順が可視化されることによって、たとえば自治体などでは課題解決のための智慧が目に見える形で蓄積されてもいきますね。

そこは非常に期待している部分で、智慧が蓄積されれば職員さんの習熟度に関係なく社会的価値の高い施策を立案することが可能になる。日本の地方自治体の年間歳出額はおおよそ年間123兆円ですが、そういうお金がより効果的に使えるようになるわけです。

―「智慧の蓄積」が重要ということでしょうか。

私たちは「公共の智慧」と呼んでいるのですが、そういったものが蓄積され、実行から改善、また実行へとサイクルをどんどん回していくことでさらに発展していくことを期待しています。海外でも日本と同様に、少子高齢化をはじめとする多くの似たような課題が出てきています。こういう蓄積を「公共の智慧」として世界に届けるサポートができればと願って、ツール開発と社会活動の設計支援プログラムに携わっているのが私たち&PUBLICという会社です。

―桑原さん、ありがとうございます。&PUBLICという会社名の由来をお尋ねした時「全ての取り組みのスタートはまず自分の想い、利己的なことから始まる。でも真剣にやり続けていくと、それが最終的にはパブリック、公共性に繋がっていく」ということをおっしゃっていましたが、そのことが大変よくわかりました。本日はお忙しい中お時間いただき本当にありがとうございました。

社名:&PUBLIC株式会社
創立:2023年2月1日
従業員数:3名
主な事業内容:社会価値の可視化・最大化に関する、研修・ワークショップ・コンサルティング/インパクトマネジメントツールによるDX推進
URL:https://andpublic.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

  • Twitter
  • Facebook