株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーJanuary 25, 2024#40 独自開発のスマホアプリによって、世界中の生物分布のデータを収集。多様な生物の保存・保全を加速させるため独自のプラットフォーム構築を目指す株式会社バイオーム

株式会社バイオーム 代表取締役 藤木 庄五郎 氏

学生時代に環境破壊が進むボルネオ島のジャングルで研究生活を送り、「経済活動と両立させない限り、環境保全の問題は解決できない」と確信した株式会社バイオーム代表取締役の藤木庄五郎さん。全世界に40億台以上普及しているスマートフォンに目を付け、生物の多様性をモニタリングする「いきものコレクションアプリ Biome(バイオーム)」を開発、話題を呼びました。本日は藤木さんに開発の原点となった体験や今後の展望など、気になるお話を伺いました。

株式会社バイオーム 代表取締役
藤木 庄五郎 氏

―藤木さんは大学院修了直後の2017年に株式会社バイオームを立ち上げていらっしゃいます。どういった経緯で起業を決意なさったのでしょうか。

私はもともと京都大学で森林生態学研究者として「生態学と生物の多様性について」をテーマに研究を続けていました。そこで向き合うことになったさまざまな体験から、生物の多様性を守ることをビジネスとして成り立たせる必要性を痛感し、博士号を取得したタイミングで京都大学発のベンチャーとして会社を発足させたのです。

―「生物の多様性を守ることをビジネスとして成り立たせる必要がある」と確信されたご体験とは?

学生時代に約2年間、生物多様性の宝庫と言われるボルネオ島で、野宿しながら研究生活を送りました。ボルネオ島はインドネシア、マレーシア、ブルネイの3国の領土で、島内には60メートル以上の、つまりビルの20階くらいの高さの大木がいたるところに生えている広大で素晴らしいジャングル(熱帯雨林地帯)があります。

ところが、同じボルネオ島のジャングルだったはずの場所でも、地平線まで見晴らすことができ、草しか生えていないようなところもあるのです。本来あったはずの樹木がすべて無くなっている。

―人間の手で伐採されてしまったということですね。

そうです。そういうところがある、というより既にほとんどが伐採された土地になっていました。それに気が付いたとき「とんでもないことが起こっている」と感じました。今後10年で最も被害が深刻になるリスクは生物多様性の喪失だといわれています。これを阻止するためには、私たちは経済的な「儲けたい」というエネルギーと闘わなくてはだめだと思いました。

―儲けたいエネルギーと闘う?

みんな儲けようとして大木を切って、売ればお金になるゴムの木を植えたりするわけです。人はお金が欲しい。であるならば研究とかボランティアみたいなアプローチでは解決が難しい。自分たちが「環境を守ったらお金が儲かる」という仕組みを作って「儲けたいエネルギー」が環境保全に向くようにしなければいけないと考えたのです。

―それで大学院を終えられてすぐに、株式会社として事業を起こされたのですね。

私たちが成功して、みんなが「環境を守ることは、きちんと儲かるんだ」と思ってくれるモデルケースになろうと思いました。

―大学での研究、ボルネオ島での体験が会社設立のきっかけとなったということですが、そもそも大学で研究しようというほど、生物の多様性に興味を持たれたきっかけはなんだったのでしょう。

実は外来魚のブルーギルがきっかけです。小学生のころ釣りがとても好きで、釣りのできる近所の池や川でフナ釣りをよくしていましたが、あるときから同じ場所なのにブルーギルばかりが釣れるようになってしまって。子どもながら「どうしてこんなことになってしまったのだろう」と不安な気持ちになりました。それが環境に興味を持った原点かと思います。

―フナ釣りのフナがいつのまにかブルーギルに変わったことに疑問を持った少年が、ボルネオでの強烈な経験を経て、環境保全を目的とした起業を決意された。大変興味深いです。その事業の内容を具体的に教えていただけますか。

環境保全分野は排ガス規制や二酸化炭素排出権などとは違い、とにかく数字にするのが難しいことが問題でした。場所ごとに生物の状況は全然違いますから、それを汲み取らないと数値として意味をなしません。そのために、あらゆる場所の生物の情報を全部集めつくすような泥臭いプラットフォームが必要だということになりました。

―そこでスマホのアプリを活用された。

スマホは現在、全世界で40億台以上普及している優れた端末です。これを使わない手はないと。そこで誕生したのが「いきものコレクションアプリBiome(バイオーム)」です。生き物の写真を撮ると名前が分かるAIが搭載されていて、いろいろな生き物を見つけたら「パシャッ」と写真を撮ってもらい、その生き物の種名と一緒にアプリに投稿してコレクションしようというアプリです。イメージでいうとポケモンGOのリアルバージョンといったところでしょうか。

出所:株式会社バイオーム

―個人が楽しめるアプリを目指されたのですね。

はい。現在の利用者は89万人、データは毎日およそ5,000~14,000件くらい、続々と生き物の写真が集まっています。毎日日本中から情報が集まってくるわけですから、リアルタイムのデータに関してはもはや国よりうちのデータの方が断然多いです。

―膨大なデータの蓄積ですね。

現在は生物調査専用アプリ「BiomeSurvey」も加わり、より詳細な生き物のデータが日々積み上げられています。それによって、これまで数字であらわすことができなかった生物の多様性を可視化できるマップも作れるようになりました。

―そういったデータで私たちはどういうことができるようになるのでしょうか。

例えばある生き物のリアルタイム生息マップをまるで天気予報のような感覚で作ることができます。いろいろな場所ごとの生物リストも詳細に推定でき、保全すべき地域がわかったり、そのための計画を立てたり、といったことが効率よく簡単にできるようになりました。

生物の多様性についてようやく数値化、可視化ができるようになったので、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、これは金融機関や企業に対して自然資本及び生物多様性の観点から事業の機会やリスクの情報開示を求める国際的な枠組みですが、そこに対応するためのサポートを私たちのデータを駆使して企業様にご提供できるようにもなっています。

―すでにデータ解析が実用化されている事例が、数多くあるそうですね。

そうですね、たとえば生物の分布を把握して外来種がやってきたらすぐアラートを発令して駆除したり、獣害対象種の分布予測などもできますね。また、生物の名前判定AIを使って、希少種の密輸防止のための空港でのスクリーニングをサポートすることも可能です。

儲けることができなければ、モチベーションは続かないということが起業の原点でもありましたから、このデータベースと解析技術をうまく使い、環境を守りながら、経済が回っていくようビジネスとして展開していきたいと思っています。

―すでに注目度も高く、大手企業、官公庁、大学などとの連携もされています。これまで300件以上の保全プロジェクトが行われたとか。

生物多様性の保全に資する取り組みについて、産官学民を問わず連携しています。たとえば昨年には三菱地所様主催の生物調査イベントの企画・運営をお手伝いさせていただいたり、その他これまでにイオン、東急不動産、JR3社、大手通信会社など、複数の企業様とタッグを組んできました。また、環境省や国立環境研究所、東京都や神戸市、足立区、高知市など公的な団体や、京都大学、京都産業大学、新潟大学などの教育機関とも連携し、データ提供やモニタリング(調査)をしています。

こうした取り組みを行うなかで、私たちが構築したビックデータが、環境保全を目的としたイベントやエコツーリズム、団体のブランディング、都市計画などと結びつくことで、経済活動としての在り方が見えてきました。

―ゲームのように個人が楽しめるスマホアプリのデータから、地球の未来を預かるプラットフォームの構築へ、大きな流れができているのですね。藤木さん、最後にこれからの展望をお願いいたします。

私たちは、「自然再興を目指し、生物多様性の損失を止め回復軌道に乗せる」というネイチャーポジティブの観点から、生物多様性市場を今こそ大きく「加速」させていきたいと思っています。それには皆が真似をしたくなるような魅力的な事例を積み上げていくことが肝要です。こうしたテーマに関してご関心やお考え、悩みをもたれている企業様がいらっしゃいましたら、ぜひお声かけください。

社名:株式会社バイオーム
創立:2017年5月
従業員数:45名(アルバイト含む)
主な事業内容:生物情報プラットフォーム運営、生物アプリ開発運営
URL:https://biome.co.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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