株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーApril 01, 2021#1 誰もが諦めなくてよい社会を創りたい(株式会社アクティベートラボ)

株式会社アクティベートラボ 代表取締役 増本 裕司 氏

(注)旧INCF サイトにて2020年2月に発信した記事を再掲しています。

障害者マーケットの健全化を図り、より多くの障害者が諦めなくてもよい社会の実現を目指す株式会社アクティベートラボ 代表取締役 増本 裕司 氏にお話しを伺いました。

―ある日突然、健常者から障害者になるという大きな変化を経験されていますが、起業のきっかけについて教えてください。

増本:私は、2009年秋まで健常者として営業マンをしていました。脳出血で倒れ、4年間リハビリに専念したものの、右半身マヒ、吃音、失語、高次機能障害が残り、現在は身体障害者2級です。障害者としての就業、起業に至るまで、私が体験した障害者を取り巻く環境は想像を絶するものでした。

まず、第一に感じたことは、「健常者は障害者のことが分からない」ということです。就業出来るまで回復しやる気に満ち溢れて再就職した会社では「ただ座っているだけでいい。」と指示を受けました。本来の能力を認識してもらえなかった私は、自発的に動き、4,000万円を売り上げました。

株式会社アクティベートラボ
代表取締役 増本 裕司 氏

また、障害者自身も、社会参画のハードルの高さに落胆し、やる気を喪失している人が多いことも問題として認識しています。「仕事では頑張っても仕方ない、ただ時間を過ぎるのを待つだけです。」私が通勤中に出会った、私と同じ障害をお持ちの方の発言です。衝撃でしたね。さらに、障害者マーケットは、発展途上で、本質的に障害者のためになっているサービスが少ないと感じています。

障害者のためにという善意を振りかざし、補助金目当てで障害者を雇用する。NPOなどのサービスの中にも、継続性がなく、予算に連動し単年度で終了する事例も多いです。障害者の障害は、年度ごとに変動するものではありません。

私自身、マーケティングや営業などのキャリアがあり、こういった通常の経済活動が行われていないマーケットに強烈な問題意識を持ち、自分自身の力で少しでも良い状況にもっていこうと思ったのが、起業のきっかけです。

社名:株式会社アクティベートラボ
創立:2015年7月
従業員数:6名
主な事業内容:身体障害部位と疾患でマッチングする「ブイくん」をベースとしたサービス提供およびSNS「OpenGate」の開発、提供
※アクティベートラボ社は、2019年INCFビジネス アクセラレーション プログラム(BAP)の最優秀賞を受賞

―問題を解決するためにどのようなサービスを提供されていますか。

増本:障害者雇用については、個人の障害部位と疾患、原因、程度によって、対応できる仕事の種類や幅が違うことを、採用担当者に理解してもらえるような障害者採用システムを開発しています。現状の日本では、障害者の障害を判断する際に、上半身、下半身を基準に障害の有無を判断します。しかし、実態は、私も右半身マヒなので、左半身は上下問わず普通の人以上に器用に動かすことができます。プレゼンだって普通にできます。このような実態を採用担当者や職場の仲間が認識し、障害者の能力を本質的に理解することで、戦力として採用していく社会を創りたいですね。

また、同境遇の方とつながることが出来る身体障害者に特化したSNS「OpenGate」の運営も行っています。私たちは、日常の彼らのやりとりを通して、障害者の方々の悩みやニーズを把握しサービス展開に活かしています。

メンバー写真 左:那須 氏、中央:増本 氏、右:中尾 氏

―どのように賛同者を増やし、事業を拡大されてきていますか。

増本:私は、障害者を取り巻く環境での問題意識を、友人たちに共有し続けました。彼らが驚きながらも賛同してくれたことで、ビジネスの可能性を感じることができました。このプロセスはとても大切だったと感じています。賛同者の一人とは、約1年間、週数回のペースで語り合い、ビジネスモデルをブラッシュアップしていきました。このブレスト期間が、現在のサービスの根幹です。2019年からは、事業・資本戦略に長けている那須を取締役に招聘し、事業性の強化に取り組んでいます。他にも、システム開発、人事戦略など各分野に強いメンバーと事業を推進しています。

那須:私自身、企業経営の経験があり、海外を含めた障害者マーケットの成長性を感じるとともに、根深い障害者マーケットの課題解決にはニーズがあると感じました。今後、障害者雇用以外にも、障害者マーケットのあらゆる課題を解決するには、SNS「OpenGate」で障害者の母集団を抱えていることは、強みになるとも感じています。

―従来の障害者マーケットを変えていくための工夫はありますか。

増本:従来の障害者マーケットは、アンタッチャブルなもので、障害者をターゲットにビジネスをすることにマイナスなイメージがあります。しかし、それが、健全なマーケット創出を損なうことになっています。当社は、私自身の実体験に基づき起業した会社です。ペルソナ自体が私自身であるのが最大の強みです。障害者視点で障害者に寄り添うサービスを提供していきます。

―今後に向けた抱負をお願いします。

那須:2019年6月から資金調達、協業先獲得に力を入れています。現在は、健康経営に力を入れ、ダイバーシティ推進や働きがい変革にも取り組むフジクラ、組織変革および人事戦略に対する知見を保有するNTTデータ経営研究所との協業が進んでいます。引き続き、賛同者を集めていきたいです。

―最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

増本:私は、誰もが諦めなくてよい社会を創りたいんです。だから、障害者の方々、是非待っていてくださいね。行きたい、見たい、応援したいなど、今まで諦めていた気持ちを実現できるように努力します。私たちのサービスが普及することで、障害の有無に関わらず活き活きと働ける社会を実現してみせます。

MRI’s EYE
誰もがあきらめなくてよい社会に向けて、新たな形でマーケットと雇用を生み出そうとする姿勢に共感します。増本氏自らペルソナとして顧客開発しており、人柄が明るいということも強みでしょう。障害者の新たな可能性拡大とともに、健常者の仕事や経営のあり方の見直しにも社会としてつなげていくことが重要と思います。

本稿は、INCF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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