株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーApril 01, 2021#2 あらゆる人が日常の移動に困らない社会を創りたい(BionicM株式会社)

BionicM株式会社 代表取締役 孫 小軍 氏

(注)旧INCF サイトにて2020年3月に発信した記事を再掲しています。

義足ユーザー最大の悩みである階段昇降の円滑化等を可能にするロボット義足事業を創業した孫 氏。他の有志を惹きつけ、新たな価値創出に挑戦している姿をご紹介します。

―起業のきっかけについて教えてください。

私は中国で生まれ育ち、9歳の時に病気で片足を切断する必要があり、それ以降15年間松葉杖での生活を送っていました。来日後、初めて義足を利用し、その良さを知りました。日本の大学を卒業後はSONYに入社し、電子製品に携わるエンジニアになったのですが、一方で義足に不便さも感じ、自身で良い義足を作り上げたいという想いを持つようになります。そこで、義足の研究をするべく、2015年に東京大学の博士課程へ入学しました。

当時、グローバル大手義肢メーカーでの夏季インターン募集に応募しましたが、残念ながら選考から落ちてしまいました。そこで「自身の夢を実現するためには、自分で会社を作るしかない!」との考えに至りました。その後は東大のアントレプレナー道場へ通い、科学技術振興機構の大学発新産業創出プログラムから義足の研究支援も受け、2018年12月に会社を立ち上げました。思い切った決断に思われるかもしれませんが、これまでの人生も「やるしかない」との考えで決断をしてきましたし、起業したい想いも持っていたので、私にとっては自然な流れでした。

BionicM株式会社
代表取締役 孫 小軍 氏

―夢の実現に向けた手応えはいかがでしょうか?

孫:当社は「Powering Mobility for All」を標語に掲げ、移動に困っている全ての人たちの生活レベルを向上させることを目指しています。現時点では、下肢切断者を対象に製品を開発していますが、いずれは筋力の衰えた高齢者や障害者も視野に入れ、事業を広げていきたいと考えています。

当社のロボット義足は2019年10月に神戸のISPO2019(国際義肢装具協会世界大会)で初めて実物を公開し、ユーザーの評価を受けました。NHKからも取材を受け、朝の番組で放送されました。それを見た滋賀県の義足ユーザーが、その足で神戸の会場へ駆け付けてくれましたが、我々の製品に大きな期待を寄せて下さっている方に実際会えたのは本当に嬉しかったです。現在は2020年の販売開始を目指し、提携先の開拓等、日々奮闘中です。

社名:BionicM株式会社
創立:2018年12月
従業員数:18名
主な事業内容:・ロボットと人間を融合するモビリティデバイスの研究および開発
・ロボティック義足の研究開発および事業化

―創業1年で多くの方が入社されていますね。何が皆様を惹きつけたと思いますか?

関口:私は孫とは東大エッジキャピタル(UTEC)が主催するスタートアップと学生・社会人のマッチングイベントで出会いました。孫の話に強力なキーワードがあったわけではないですが、「下肢切断者は、生活の根本である階段の昇降すらままならない」との話に、自身も当課題へ取組みたいと考えました。以前は消費材関連の業界にいましたが、市場が成熟・飽和する中で、細かい商品の質の向上では物足りなさを感じていました。

義足は消費材のように広告宣伝を増やせば売れるわけでもなく、事業としての難しさもあります。そこに挑戦する魅力を感じました。孫CEOは言葉でぐいぐい皆を引っ張るリーダーではないですが、事業に対する強い思いと、取り組む目標に心を動かされて、気づけば社員が巻き込まれているところがあります。

左:代表取締役 孫 氏 右:経営管理部部長 関口 氏

―新たな価値を提案する中で、従来の価値観との対立等、苦労される点はありませんか?

孫:目下、当社製品の販売先パートナーを探していて、苦労も多々あります。厳しい業界規制がある医療分野とは異なり、本来なら福祉は規制が少ない領域なのですが、日本には保守的で見えない壁があると感じます。製品の故障・怪我等の連絡が来るリスクを恐れ、従来の販売スタイルを変えたくない面もあると思います。訪問先では「製品が完全に完成してから考えます」とも良く言われますが、当社の製品の完成には実ユーザーによる試用・改善の繰り返しが必要で、このままでは悪循環です。

我々が現在できることとして、ロボット義足が相手に与える最初の印象に気を配っています。また、モノ作りの関心が高い会社の方が反応は良いので、優先して訪問しています。なお、中国の方が新しい製品の取り込みに積極的です。このため、先に中国市場でユーザーテストを繰り返して製品を完成させ、その後日本で販売する可能性も含めて検討しています。

―社会課題解決に向けた今後の期待・抱負を教えてください。

孫:製品を世に出す中で、スタートアップに対する「見えない壁」が存在していると感じます。日本でも海外のように、問題が起きたら対応をする、新しいやり方にポジティブにチャレンジする文化があると良いですよね。当社は「義足のテスラ」と呼ばれることを目指しており、我々の作るロボット義足が電気自動車のように新しい市場を作り、義足ユーザーの課題解決に貢献していきたいと考えています。

MRI’s EYE
モノづくり大国として発展してきた日本は製品へ完璧さを求める傾向があります。それが新しい価値の創出には保守的に働く面があるとの孫氏の指摘は、新たなイノベーションを起こそうとする人たちが超えるべき壁でもあり、新技術を受容する側の社会としてもあり方を考えるべき課題でしょう。

本稿は、INCF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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