株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーApril 01, 2021#5 海の豊かさと地域・飲食業の新たな再生に向けて(株式会社ゲイト)

株式会社ゲイト 代表取締役 五月女 圭一 氏

(注)旧INCF サイトにて2020年6月に発信した記事を再掲しています。

海の豊かさを守り・活かすために居酒屋から漁業参入し、新型コロナ禍の中でも新たなイノベーションを目指す株式会社ゲイト 代表取締役 五月女 圭一 氏にお話を伺いました。

―漁業参入のきっかけについて教えてください。

五月女:居酒屋を営みながら、様々な違和感を感じていました。例えば、看板に関する苦情や保健所からの指示。また周りからは問屋を買い叩くことや店舗拡大して仕入れ交渉を優位に進めるべきといったアドバイスばかりでした。

そもそも問屋の扱う商品というのは大量仕入れで大量に捌くものが多く、産地がどこかもわからないものが多いです。また東日本大震災をきっかけに、急激な仕入れ価格の上昇と食材の質低下が起こり、これは根底から構造を見直さなければならないと意を強くしました。これをきっかけに漁業の現場を視察し、人口減少・高齢化が極端に進む限界集落や、自然は豊かだけど獲った魚に値段つかず生産者が苦しんでいるという姿を目の当たりにして衝撃を受け、居酒屋を出口とした新たな事業モデルを作ろうと決意しました。

株式会社ゲイト
代表取締役 五月女 圭一 氏

―どのような事業モデルを構築されたのでしょうか?

五月女:三重県尾鷲市の須賀利地区と熊野市で定置網漁をしています。熊野では女性3人のチームで漁と加工まで行っています。通常の漁業では獲れた魚は「未利用魚」として廃棄してしまうものも多いのですが、我々はすべて活用・調理して東京の居酒屋で提供しています。また、魚は自分たちで運搬しています。こうした取り組みによって単に魚を取って市場に卸すという従来型ではなく、一気通貫の垂直統合事業としています。

最近ではKDDI総合研究所と連携して海中モニタリングを始めています。これまで漁業は漁師の勘に頼って行われることが多く、海の中は未知の世界でしたが、7月からはモニタリングを漁業高予測につなげていく予定です。これによって海の資源管理にもつなげられます。

社名:株式会社ゲイト
創立:1999年
従業員数:40名
主な事業内容:居酒屋事業、水産事業(2017年~)等

―目指しているゴールと現在の手ごたえはいかがでしょうか?

五月女:海のバランスシート(海洋資源のストック状況)が可視化されていて、魚に寄り添いながら、日ごとに海が豊かになるというのが理想です。また消費者が現地に行くようになると嬉しいです。よく築地(豊洲)の鮮度が最高と言われますが、海が最高なのであり現地が一番です。なお、漁村については、企業の力も借りながら長い時間をかけて新しく再生していくことが必要と思います。地域の人口を増やすためには教育も必要になります。

課題は山積していますが、最初から大きな問題を解決しようとしてもうまくいきません。例えば、海中モニタリングであれば実証実験の場としての価値などを訴求しながら、時間をかけてその取り組みに関連する主体を巻き込んでいくことが必要です。

海中モニタリング実証実験の様子

―コロナ禍における状況変化にどのように対応していますか?

五月女:元々飲食業界の既存の構造から外れようとしていたこともあり、5年前から店舗を縮小していました。新型コロナによる自粛は、元々4~8年先に想定していた世界が先に来た感じがしています。

居酒屋については、企業の宴会需要がコロナ禍で消滅しました。東京都の昼間人口が一気に減ったのは太平洋戦争中の空襲以来でしょう。急激なマーケットシフトが起きたのであれば、こちらも動かなければなりません。出口としていた居酒屋がダメージを受けたため、改めて一次産業側から三次産業側を作り直すことを考えています。新しいマーケットは、東京ではなくて地方・郊外オフィス街ではなく住宅地に転換することが想定され、待つだけなくこちらが出向くことも必要と思います。またスマートフォンを通じて遠隔操作で魚を取ることができるようなエンターテイメント性もあるような仕掛けも構想中です。

国による助成金は活用していますが、受けたダメージの方がはるかに大きいです。企業規模が大きいほどそうでしょう。生き残ることを覚悟するならば、まずは出血を止めること、資金繰りが重要です。その上で、今はモデルチェンジの試行を始めています。

会話風景:五月女 圭一 氏

―従来の価値観との対立等、苦労される点はありませんか?

五月女:ステイクホルダーは海だと思っています。人間の方が生かしてもらっているということです。仮に経済が重要としても、取りすぎが良くないという判断が必要です。バランスシートを海に報告するつもりで、例えば漁協などがIRするような意識ができてくるとよいと思いますが、このような発想に既存の考え方等が噛み合わないこともありますね。

―今後の期待・抱負を教えてください。

五月女:色々影響は受けていますが、今回のコロナ禍の件は、仕事を見直して変化するチャンスとなると思います。飲食業を夢のある産業にしていきたいです。単に居酒屋をやっていたらもうここで止めていたかもしれません。漁業を含めた取り組みに社会的意義を感じており、だからこそ踏ん張ることができています。

ただ、もともとビジネスの出口であった居酒屋のマーケットが見込みにくいため、新たな収益モデルが必要です。そのために企業間連携に積極的にチャレンジしていきたいと考えています。コロナ禍は一過性のものではなく、10年スパンで事業継続計画を考えるべきです。そのためには何が最低限必要で本質なのかという見極めをしていくことが大切になるでしょう。

MRI’s EYE
緊急事態宣言は解除されましたが、コロナ禍による飲食業へのダメージは深刻です。従来の構造に捉われずに事業を再構築してきた五月女氏は、単に過去に戻ることではなく次なるマーケットへのイノベーションに目を向けており、その挑戦に期待が高まります。

本稿は、INCF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

  • Twitter
  • Facebook