株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーApril 01, 2021#6 ビジネスを通じてアートの新たな楽しみ方を創造する(株式会社アートローグ)

株式会社アートローグ 代表取締役 鈴木 大輔 氏

(注)旧INCF サイトにて2020年8月に発信した記事を再掲しています。

私たちの生活を豊かにすると共に、社会の課題を浮き彫りにする側面も持つアート。ビジネス化や情報発信など、アート業界の活性化に向けて多面的に活動する鈴木 氏にお話を伺いました。

―起業のきっかけや問題意識について教えてください。

鈴木:もともとデザイナー、クリエイターの仕事をしていましたが、その中でアートへの関心が強まり、アート関係の仕事が増えていきました。大阪市立大学で社会包摂とアートの研究会へ参加し、アートには社会課題を浮き彫りにし、課題を人々に気づかせる力があることに気が付きました。また、地方におけるアートへのアクセスの悪さを実感したため、大学のプロジェクトとして美術館で行われているギャラリートーク(作品解説)をビデオでWEB配信するCURATORS TVプロジェクトを立ち上げました。しかし、この過程で研究費での活動は予算が脆弱で持続性が十分でないことに気づき、むしろビジネスとして取り組むべく、一般社団法人化を経て、アートベンチャーである当社を起業しました。

多くの現代アーティストが作品在庫を多く抱え、生活に苦労する状態は大きな課題だと考えています。日本のアートの市場は約2500億円、世界市場で3-4%のシェアと、経済規模と比べて小規模であり、業界で養える人の数が少ないです。実は、日本でも美術館には、プロ野球観戦者の倍以上である年間5500万人の方が入場しているのですが、印象派等の評価の定まっている展覧会に極端に人が集まってしまい、現代のアートへの関心が薄いことも要因の一つです。

株式会社アートローグ
代表取締役 鈴木 大輔 氏

―主にどのような事業を行っていますか?

鈴木:当社はアートのレンタル・販売事業、アートを活かした新規事業のプロデュース、美術館VR事業、アートに関わる情報発信メディア「ARTLOGUE」の運営、政策への働きかけ等、幅広い事業を行っていますが、現在最も力を入れているのがアートのレンタル事業です。当サービスでは、現代を生きるアーティストの作品が1点1日227円からレンタル出来ます。企業はアート作品を買うのが難しい一方、レンタルなら契約しやすくなります。作品を定期的に変えることで新しいインスピレーションも得られる点や、作品に感化された際に現役のアーティストとコミュニケーションが取れる点がメリットです。

政策への働きかけも行っています。例えば、2019年夏の参院選では立候補者の文化芸術政策をマニフェストとして問うプロジェクトManiA(マニア・Manifest for Arts)を手掛けました。文化芸術の振興は、政治の場で取り上げないと動かないところもあるためです。

社名:株式会社アートローグ
創立:2017年7月
従業員数:6名
主な事業内容:アートのレンタル事業、VR美術館事業、アート関連情報発信

―夢の実現に向けた手応えはいかがでしょうか?

鈴木:多くの企業とアート関連で前向きな話があり、2020年4月から絵のレンタルサービスも立上げましたが、新型コロナの影響により、絵を置く先であるオフィスに人がいない、商談相手にも会えないなど状況が一変してしまいました。逆風は続いていますが、7月末に、株式会社中北製作所様へアートのレンタルの初納品ができました。また、京都大学の先生と共同開発しているアートシンキング・ワークショップをヤマハ発動機株式会社様で開催、飛騨高山ではパートナーも務めるオーベルジュ玄珠がオープンし、高山市とも連携してのアートプロジェクトの立上げも進めており、手応えを感じつつあります。

―コロナ禍に対して、新しい取組を行われていますか?

鈴木:コロナを受けた新たなアートの楽しみ方としてはVRが有力ではないかと考えています。アートの歴史とは、人類によるクリエイションとアーカイブ技術の歴史でもあります。絵から始まってビデオまで徐々に技術は高度化してきました。次はVRであり、近年技術・コスト両面の進化があります。例えば森美術館や東京国立近代美術館を始め、いくつかの美術館、主催者からVR美術館の仕事をいただいています。海外のMatterportと呼ばれる、簡単にVR化ができるシステムを用い、オンラインでも美術館を体感できることが売りです。本格的な事業化に必要な課金システムも開発中で、クライアントが現れれば立上げの目処も立ちました。これは新たな美術館のモデルに出来ると考えています。

VR美術館の様子(森美術館・未来と芸術展)

―従来の価値観との対立等、苦労される点はありませんか?

アートレンタルの様子

鈴木:美術館業界は保守的な面があり、VR美術館等の新しい取組へは抵抗感が大きいと感じています。例えばオンラインで美術館に展示している作品情報を流すと美術館へ人が来なくなるのではないかとの心配の声が寄せられます。しかし、モナ・リザを画面で見れば十分とは思わないのと一緒で、現物を見る価値は失われないはずです。少しでも賛同いただけるように、社会のオピニオンリーダーの方々に取組を理解・応援をいただきながら普及活動を進めています。

―今後の期待・抱負を教えてください。

鈴木:まずは当社の上場を目指したいです。アートは現時点ではまだビジネス化が十分ではありませんが、当社の上場によってアート業界に着目が集まり、市場や新サービスが生まれるようにしたいです。例えば、スポーツのようにチップスやゲームのサービスが出来ると良いと思います。アートローグが一つの象徴になり、日本のアート産業が1兆円産業になることを目指したいです。当社は社会的企業でもあり、アートに関する政策面、意識改革の働きかけも含め、実行してまいります。

MRI’s EYE
With/afterコロナでの新しいアートの楽しみ方として、VR美術館には大きなポテンシャルを感じました。仮想空間で完結させるのではなく、現実世界での鑑賞やインスピレーション獲得、新たなアクションの触発にも繋がっていくことが期待されます。

本稿は、INCF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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