株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーApril 01, 2021#8 離れている人同士が近く感じられる世の中を作る(株式会社チカク)

株式会社チカク 代表取締役 梶原 健司 氏

(注)旧INCF サイトにて2020年10月に発信した記事を再掲しています。

核家族化が進み、遠く離れた祖父母と孫が直接会って話せる機会が限られている家庭は少なくありません。物理的距離を超えて、近くにいて欲しい相手に少しでも近づける社会を目指す梶原氏にお話を伺いました。

―起業のきっかけや問題意識について教えてください。

梶原:私の実家は兵庫県淡路島にあり、子供の頃、祖父母も含めて三世代で生活をしていて、私はおじいちゃんっ子でした。現在私は東京に住み、子供も二人いますが、淡路島に帰省できる機会は多くありません。その中で子供たちが成長するにつれ、あと何回自分の親に孫を会わせられるか、と考えるようになりました。私と同様の家庭は多く存在すると思います。そこでかつて普通であった、実家の両親も隣に住んでいるかのように世代を超えたコミュニケーションを取れる状態を当たり前にしたい想いで、起業いたしました。

どのようにすれば実際に会うことと同じ感覚を作れるかをシニア・ファーストの観点から徹底的に考え、身近にあるテレビを活用することにしました。スマホは最大公約数的にどの世代でも使えることを目指していますが、シニア層だけで考えると十分ではないためです。

株式会社チカク
共同創業者兼代表取締役 梶原 健司 氏

―主にどのような事業を行っていますか?

梶原:スマホで撮った写真や動画をインターネット経由でテレビに接続した受信機に送り視聴できる「まごチャンネル」というサービスを提供しています。具体的には、孫の写真や動画をスマホのアプリからアップロードすると、実家のテレビで祖父母がテレビ番組のように簡単に視聴できるサービスです。IT機器の操作に不慣れな方でも受信機をテレビにケーブルで繋ぐだけで利用でき、操作も使い慣れたテレビリモコンでできます。またインターネットのない家庭でも利用できるよう、受信機に通信機能を内蔵しています。

これまでもスマホ等を使って親世代に孫の写真を共有することはできましたが、せっかく送った写真を見られたかどうか分からないことも多かったと思います。まごチャンネルでは実家が番組を見始めると、その通知が届くようになっていて、見守りになってありがたいという声や、番組をきっかけに電話がかかってくるなど、新たなコミュニケーションが生まれるという声も届いています。

社名:株式会社チカク
創立:2014年3月
従業員数:20名
主な事業内容:テレビで孫の成長の様子を見ることができる機器・サービスの開発・提供
URL:https://www.chikaku.co.jp

―目指しているゴール、またこれまでの手ごたえはいかがですか?

梶原:我々はインターネットという物理的な距離と時間を超えられるツールが存在する良い時代に生きているなと思います。ですが今でも離れて住む家族には十分に連絡を取ることが出来ない一方、隣に住む人は知らなかったりします。この状況に疑問を感じていて、家族をはじめ、大切な人同士を近くに感じられるサービスを目指しています。実際、利用者からは「まごチャンネルがない生活は考えられない」などとの反響も多く頂き、大きな手ごたえを感じています。

いまは新型コロナの影響により、物理的に人と人が密にかかわれない状況になりました。人と人がもっとコミュニケーションを取りたいというニーズはコロナ禍の前からありましたが、新型コロナによって加速した側面があります。GW前に政府がオンライン帰省を推奨したり、またお盆休みの帰省シーズン時には、小池都知事からのオンライン帰省の推奨ツールとしてまごチャンネルを紹介いただいたこともあり、直近数か月の出荷台数は前年比2~3倍となり、その後も好調を維持しています。

―ステークホルダーとどのように協働を進められていますか?

まごチャンネルの様子

梶原:当社のコアコンピタンスでないところについてはパートナーと協働を進めています。例えば、安全・安心を提供することが理念のセコム様とは、東京都のアクセラレーションプログラムで出会い、まごチャンネルで見守りを行うサービスを開発・提供しました。

また、自治体にも非対面で行政サービスを提供したいニーズが出てきており、まごチャンネルを使って福祉・防災等の地域・行政情報を各家庭に配信する実証実験も大阪府泉大津市で始めています。吉村大阪府知事に実証実験の経過報告をした際には、「『令和の回覧板』として活用できるのではないか」とそのポテンシャルに高い評価をいただきました。

―従来の価値観との対立等、苦労される点はありませんか?

梶原:以前から「うちの実家はスマホ使っているから不要」という話をされる方が一定数いらっしゃり、普及の大きな課題と感じています。投資家の方からも同様の意見をいただくこともあります。しかし実際には、まごチャンネルを利用しているシニアの方はスマホも併用している人は多く、併用者からは「テレビで見るのはスマホと全然違う。先に知っていたらもっと早く使ったのに」という声を頂いています。皆さまの持たれている従来の価値観を大きく塗り替える仕掛け作りを考えたいと思います。

インタビュー風景の様子

―今後の期待・抱負を教えてください。

梶原:国内には高齢者のみの世帯が1,300万以上あります。当社のみで想いを実現するには時間もお金もかかるため、我々と同じような想いを届けたい企業や自治体との連携を広げ、付加価値を高めていきたいと思っております。距離も時間も超えて、大切な人を近く(知覚)できる世界を創るエコシステムを組織の枠を超え広げていきたいと考えています。

MRI’s EYE
まごチャンネルは、シニア・ファーストで徹底的にシンプル化された製品であり、それが故にシニアにも抵抗感なく扱え、また大きな拡張可能性を有していると感じました。ウィズコロナ・ポストコロナ時代の新たなコミュニケーションツールとして発展していくことが期待されます。

本稿は、INCF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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