株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーMay 23, 2022#11 失ってから気づく健康のありがたみ。”2つのアプローチ軸”で食の課題解決を図り、誰もが健康でいられる社会を作る(株式会社エスケア)

株式会社エスケア 代表取締役 根本 雅祥 氏

従来の健康サービスは「健康に関心のある人」向けのものがほとんどでした。しかし、世間の大多数は「健康無関心層」に属しているのが現実です。父親の腎臓病、そして自らの白血病をきっかけに、健康無関心層へもアプローチ可能なフードテック事業を開始した株式会社エスケアの代表取締役・根本雅祥(ねもと まさよし)氏にお話を伺いました。

―株式会社エスケアはどのような事業をしているのですか?

株式会社エスケア_根本様
株式会社エスケア
代表取締役 根本 雅祥 氏

食の課題を解決できるシステムやサービスを開発・提供しています。今までの健康サービスは、どうしても健康に関心の高い人に向けたものが中心になっていました。たとえば料理アプリは写真を撮る必要があるなど、健康に対してかなり関心が高くないと続けられません。そうではなく、健康意識の低い人たちも含め、誰もが健康でいられる社会を創ろうとしています。

―健康意識が低い人へ、どうアプローチするのでしょう?

アプローチ方法は二つあります。まず、「集団へのアプローチ」です。たとえば、社食のメニューを社員に気づかれないように変えてしまうなど、集団の食環境を変え、中にいる人たちを意識させずに一気に健康にしてしまうのです。今、世界中のいろいろな企業さんがこのようなアプローチを採用し始めています。

もう一つが、「個々人へのアプローチ」です。健康に関心のない層へ対し、”健康以外”の興味関心を訴求し、個人の行動変容を達成しようというものです。以上の二つのアプローチを常に念頭に置き、事業を展開しています。

―具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか?

一つは、『WELL-being JOURNEY』という栄養管理の完全自動化サービスです。スーパーなどでの購買履歴をもとに自動で栄養情報に変換し、足りない栄養素やおすすめの食品やレシピなどをレコメンドするものです。

―どのように使うのでしょう?

現時点では、「マルエツ」「カスミ」「マックスバリュ」などを運営するU.S.Mホールディングスが提供する買い物アプリ上で利用できます。これらのお店で個人が買い物をすると購買履歴が自動的に統合され、アプリ上に栄養バランスがグラフで可視化されます。

「ミネラルが不足しているのであなたに必要な食品はこれです」といった形で必要な栄養素やおすすめ商品がレコメンデーションされます。買ったものの写真を撮るなど、個人の能動的な管理は全くいりません。今後はCO2の排出量なども可視化していく予定です。

―個人の能動的なアクションが不要という点で、健康意識の低い人へもアプローチしやすそうです。他にはどのような事業があるのでしょうか?

株式会社エスケア

料理の手順をナビゲーション化するシステム『ツギナビ』があります。手順書・説明書・マニュアルといった類のものをナビゲーション化するサービスです。

たとえばミールキットなどを頼むと、レシピや手順書が紙で用意されますよね。しかし、紙に書かれているものを読みながら料理するのは時間がかかりますし、動画であったとしても料理中にスマホを操作すると画面が汚れてしまう。こういった問題を解決できます。

―料理の手順をナビゲーション化とは、具体的にどういう感じなのでしょうか?

カーナビと同じ原理で作られていて、ステップごとの動画と音声とで手順を読み上げてくれます。次の手順が聞きたいときは「次」と呼びかけ、もう一度聞きたいときは「リピート」と言えばOK。声だけで全ての操作を行えるため、あっというまに料理が終わります。

―料理をする人にとっては非常に便利なサービスですが、健康意識の高い人を対象にしているのでしょうか?

健康のためには自炊をすることが非常に重要なのはたしかです。しかし、実はこのサービスは健康無関心層へもアプローチできる機能も備えています。さまざまなキャラクター(ナビゲーター)が料理の手順を教えてくれるため、料理に関心がない方でもキャラクターをフックにして楽しく料理に取り組むことができます。

たとえば、ジャムおじさんと作るアンパンマンキットがあったらお子さんと一緒に作ってみたくなるパパ・ママはいないでしょうか? こういったエンタメを使い、健康無関心層の行動変容を促そうとしています。

―ちなみに、健康に関心の高い層へアプローチする事業もあるのでしょうか?

健康にやや関心のある層へ向けたものとしては、「栄養サービス」というくくりで栄養実態調査も行っています。食領域の研究者が使用する妥当性が高い分析ツールを使い、個人と集団の食の傾向や課題を特定します。たとえば会社単位で解析することで、その集団に応じた栄養状態の分析ができます。これをもとに社食のメニューを変えれば、一気に集団を健康にする取り組みが可能になります。

―食の課題を解決する「健康」のための事業を行っていらっしゃいますが、なぜこのような事業に取り組もうと思われたのでしょうか?

きっかけは二つあります。一つは、父親が腎臓病になり、透析をするようになったことです。父は今も大変な思いをして透析をしています。そして父親のほかにも、透析予備軍とされる腎臓病患者は日本に1330万人程度存在します。

この人たちにとって一番重要なのが「減塩」ですが、これが本当に難しく、続けられない。父親も病気をきっかけに健康関心層になりましたが、それでも減塩には苦労しています。この経験から、単に「健康が大事」を訴求するだけじゃなくて、本人が意識しなくても健康を管理できるような仕組みやサービスが必要なのではと思いました。

―もう一つのきっかけは何でしょうか?

実は、私自身も2017年に白血病になったのです。骨髄移植をしたり、治療の影響で両脚の太ももの付け根部分が壊死して人工関節になったりしました。最初は父親のサポートのつもりで起業しましたが、私自身がこういった難病を経験し、健康でいられることの大切さを心から痛感しています。だからこそ、健康に関心のある人だけでなく、関心の薄い人もみんなが健康でいられるような事業を行っていきたいと考えています。

社名:株式会社エスケア
創立:2015年9月
従業員数:3名
主な事業内容:FoodTech事業、EdTech事業、コンテンツ事業
URL:https://www.escare.co.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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