株式会社Public dots & Company 代表取締役 小田 理恵子 氏
社会が抱える問題は「地域」のみ、あるいは「企業」のみの力では解決が難しいものばかりです。民間企業のソリューションを活用したい自治体と、事業開発に自治体を巻き込みたい民間企業両者のニーズを受け、官民連携の機運が高まっています。「官」と「民」をつなぐ希少人材に着目した事業を展開する、株式会社Public dots & Companyの代表取締役・小田理恵子氏にお話を伺いました。
―株式会社Public dots & Companyはどのような事業をしているのですか?
「地域の社会課題と民間のソリューションを組み合わせたらうまくいくのではないか」ということで、”官民連携”が盛んに言われていますよね。自治体と民間の連携において発生するお困りごとを解決するのが当社です。
―具体的にはどのような取り組みをしているのでしょう?
地方議員を中心に、以前「官」の仕事をしていた人を集めたオンラインサロンを作っています。800名ほど在籍しており、一緒に勉強しつつ、スキルのある人はコンサルタントとしてプロジェクトに参画してもらっています。このような、民間企業と行政の両方の経験がある人材を当社では「パブリック人材」と呼んでいます。
―パブリック人材を集めた事業を行おうと考えた背景について教えてください。
民間の力を借りたい自治体と、新規事業開発の一環として自治体や地域の課題解決をヒントにしたい民間企業のニーズを組み合わせたものが、官民連携です。
内閣府も『地方創生SDGs官民連携プラットフォーム』(※1)をやっていますが、データベースに載せてぐるぐる回せばうまくいくかといえば、そうでもありません。やはり、そこへ丁寧に伴走する人はどうしても必要。総務省も『地域プロジェクトマネージャー』(※2)という制度を創設しており、官民連携においては『「人」がキーになる』ということが現在の共通認識です。
―国が求めるそのような人材を十分に確保することは可能なのでしょうか?
圧倒的な人材不足の状態です。官民連携に関する案件の相談は私のところへたくさんきますが、プロジェクトマネージャーとして適任な人材はなかなかいません。官民連携を手がける老舗のコンサルティング会社さんなどへ「協業しませんか」と相談もしましたが、どこへ行っても「人がいない」と言われます。新規事業を開発できて、官と民の両方を知っていて、地域と関係構築ができて、という人材は本当になかなかいないのです。
「事業開発はできる」「地域のことは知っている」など、部分的にできる人はもちろんいるんですよね。しかし、部分部分をつなぐ人がまた別で必要になってしまうので、やはりある程度一気通貫でわかっている人材はどうしても必要です。そこで、当社がプールしている人材が力になれるというわけです。
―そもそも、小田さんはどうしてこのような業界や内容に携わるようになったのでしょうか?
もともとは富士通でBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)やアウトソーシングの業務をしており、商社や電力会社などいろいろな業界のシステムや制度の面倒をみていたんです。
ところが、2010年の夏に自治体の行政改革の仕事に携わってみたら、民間と比べてめちゃくちゃ効率が悪く、にもかかわらず金銭的なコストはとても高くて。「これって税金だよね」「これは変えなければいけない」と思い立ち、勢いで立候補して川崎市議会議員になりました。現実は、行政よりも政治のほうが課題が多くまた驚いたのですが。
―議員をやめて起業した理由とは?
地方議員は自分の地域のことにしか手を出せません。社会課題は全国で共通していたり地域を超えて考えたりしないといけないこともあるので、2期(8年)で引退し、官民共創事を両面から推進する株式会社を作りました。「官民共創未来コンソーシアム」という一般社団法人の代表理事もしています。
―株式会社Public dots & Companyの携わった官民共創事例にはどのようなものがありますか?
例えば出光興産株式会社の事業開発支援をしています。同社は中期経営計画でガスステーションの業態転換と、オンデマンドで住民ニーズに応じた移動型モジュールを展開する「スマートよろずや構想」を発表しています。全国にあるガスステーションでどんなことができるか、自治体と組んだり地域の人たちの情報を集めたりしながら活動する支援を行っています。
2021年の6月には、全国初の移動式脳ドックの実証実験を三重県東員町で行いました。トレーラーにMRI(磁気共鳴診断装置)を積んで地元の人に受けてもらったのですが、大人気であっという間に予約が埋まりました。「予約がとれないのを何とかして」というクレームが市長の元へたくさん寄せられたと聞いています。
―株式会社Public dots & Companyの今後の展望について教えてください。
民間の経験も持っているのが前提ですが、民間の経験値や知識をインストールしながら両方知っているパブリック人材へと育て上げていくのが当社の肝です。地方議員だけだと拡張性がないので、元公務員や首長さんなども交え、プロジェクトに参画したりセミナー講師として参画いただいたりしているところです。
現状、公務員は兼業・副業ができないので「元」の人ばかりですが、おそらく近い将来には兼業・副業も解禁されるはず。そこを視野に入れて準備を進めています。
また、オーダーメイドのコンサルティングだけではなく希少なパブリック人材の知見のサービス化も開発中です。月額制でパブリック人材がいろいろな相談にのってくれるサービスで、PdC直接ではなく、別法人を建てて2022年内にローンチ予定です。
※1「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム』」…持続可能なまちづくりや地域活性化に向け、国内でのSDGsの実施促進のため、イベント情報の普及促進や会員とのマッチング、分科会の開催などを支援する場として内閣府が設置したプラットフォーム。
※2「地域プロジェクトマネージャー」…地域自治体の重要プロジェクトにおいて各方面の橋渡しをするための「ブリッジ人材」を任用するために、令和3年度に総務省が新設した制度。
社名:株式会社Public dots &Company |
創立:2019年5月 |
従業員数:5名 |
主な事業内容:コンサルティング事業、教育・スコアリング事業、共創事業 URL:https://www.publicdots.com |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。