株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーMay 30, 2022#13 製造現場の情報を見える化し、データベースを構築。効率向上と技術伝承を同時に達成させる製造現場特化型システム『Proceedクラウド』(株式会社東京ファクトリー)

株式会社東京ファクトリー 代表取締役 池 実 氏

多くの部材を使い、多くの人が介在し、多くの工程を経る重工業などの製造工程においては、製造情報の共有や技術の伝承など、さまざまな課題を抱えています。それらの問題に着目し、サプライチェーンを通した製造情報の見える化や、製造情報データベースの構築に取り組んでいる株式会社東京ファクトリーの代表取締役 池 実氏にお話を伺いました。

―株式会社東京ファクトリーについて教えてください。

株式会社東京ファクトリー
代表取締役 池 実 氏

弊社は、2020年創業のアーリー期のスタートアップで、従業員は25名ほど。事業としては、製造現場に特化した『Proceedクラウド』というSaaSの提供を行っています。

―なぜ製造現場に特化したサービスを展開しようと思ったのでしょうか?

私は製造業に長く携わっており、重工業の生産現場のデジタル化がかなり遅れていることに課題を感じていました。

紙の図面、現場の黒板やホワイトボード。半世紀ほどオペレーションが変わっていないような現場が本当に多いのです。

また、生産現場の情報が分散していることも感じていました。工数集計のシステムや日報、現場の掲示板、メール、パソコンのローカルといったさまざまな場所に情報があるため、振り返りが難しくて改善に繋がりにくい。情報共有ができずにサプライチェーンの可視化が進まない。このような課題も抱えていました。

―具体的なプロダクトについて、教えてください。

弊社では、製造業向けのデジタルツール『Proceedクラウド』を提供しています。

『Proceedクラウド』では、写真を基点として製造情報のデータベースを構築し、サプライチェーンの可視化を実現します。

大型構造物の場合、納品時に多少の不具合が見つかることもよく起こります。その際、製造プロセスに問題がないことを証明しなければなりません。そのため、毎日数十枚も製造工程の写真を撮り、記録しています。

それらの写真をパソコンのローカルに保存しているので、撮影から保存までのタイムラグが発生し、その写真が何を撮ったものなのか分からなくなってしまう。あるいは、保存しているフォルダの構図が複雑になり、どこにどの写真があるのか分からなくなってしまう。このようなことが、日常的に発生していました。

『Proceedクラウド』では、写真を縦軸・横軸の2軸でマッピングし、保存することができます。例えば、2軸を「部材」「工程」に設定すると、どの部材のどの工程の写真が納められているのかがすぐに分かります。

このようにして、写真検索の手間を大幅に削減することが可能です。

―写真を撮ったら、『Proceedクラウド』に取り込めばよいのでしょうか?

デジタルカメラで撮影した写真に関しては、パソコン上でドラッグ&ドロップすることで、クラウドにアップロードされ、閲覧権限が新たに共有されます。

最近は、スマートフォンで写真を撮るケースも増えているため、モバイルアプリも提供しています。アプリ内に撮影ボタンがあり、そこからカメラを起動できます。

カメラ起動時に、二つのボタンが表示されるので、そこで、縦軸と横軸の項目を選択します。選択後に写真を撮ると、二つの軸によって定められたフォルダ内に自動でアップロードされます。

こうすることで、毎日生産現場に足を運ぶことが難しい方、例えば海外の外注品の管理をしている方や、製造部門のライン長、設計の方などが、生産現場で起きていることをリアルタイムに近い形で把握することができるようになります。

―写真管理の他に、『Proceedクラウド』で解決できる課題はありますか?

重工業の生産プロセスというのは、半年、1年、あるいはそれ以上の時間がかかるものも少なくありません。そのため、若手の教育に非常に時間がかかってしまうという問題がありました。

『Proceedクラウド』を使うことで、部材の受け入れから製品の出荷という一連のプロセスを写真でまとめることが可能になります。つまり、生産現場に行ってリアルタイムで確認しなくても、自社の製造プロセスがどのようになっているのかを、ある程度理解することができるのです。

―『Proceedクラウド』で保存された写真に、コメントなどの情報を付加することもできるのでしょうか?

はい。コメントやタグ付けが可能です。この機能を使うことで、よりデータベースの価値を高めることができます。

例えば、若手の方が撮った写真に対して、ベテランの方が「溶接線が汚いので削ってください」といったコメントを書いていただくなど。このようなコメントは、これまで現場において口頭で伝えられてきたことです。これらは、手順書や要領書などには書かれていない、細かいけれども重要な情報です。このような暗黙知となってしまった情報を蓄積できます。

タグ付けに関しては、「不具合」や「溶接割れ」といったワードでタグをつけることで、案件を越えて検索が可能になります。また、撮影者や日付、コメント内の情報についても絞り込み検索を行うことができます。

また、モバイルアプリからも書き込みやコメントができるようになっているため、現場で何か気づいたことがあったとき、すぐに書き込みをして、メッセージを送ることができます。

―『Proceedクラウド』を使うメリットとは何ですか?

メリットとしては、まず現場の業務が楽になるということです。

これまでは、デジタルカメラで撮影したものを、ある程度たまったら整理、保存していました。それらを共有できればよいのですが、パソコンのローカルやシェアサーバーを利用することが多いため、あまり他の人の写真を目にする機会はありません。

その点、『Proceedクラウド』では、撮影したその場で整理、共有が可能です。業務を大きく効率化した上で、新しい情報をすぐに共有できる。写真を基点としたコミュニケーションを実現できます。

また、中長期的なメリットもございます。

『Proceedクラウド』は、使えば使うほど生産情報のデータベースが構築されていきます。それに伴い、技術伝承も効率化することができるのです。

―導入実績について教えてください。

『Proceedクラウド』を本格的に展開したのは、2021年9月です。現在、海外も含め約30社、8か国の企業様に導入いただいております。

今後一層、多くの企業様に導入していただき、業務効率化と技術の伝承を進めていただきたいと思っています。

社名:株式会社東京ファクトリー
創立:2019年4月
従業員数:4名(業務委託含め25名)
主な事業内容:製造業向け SaaS の開発・販売・運用、業務改善コンサルティング
URL:https://tokyofactory.co.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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