株式会社三菱総合研究所

インパクト起業家ストーリーOctober 12, 2022#23 「なぜこうなってしまったのか?」をときほぐし、解決への道しるべを。社会課題の構造を可視化し事業化をサポートする水先案内人(株式会社Ridilover)

株式会社Ridilover/一般社団法人リディラバ 社長室長 井上 朝雄 氏
株式会社Ridilover/一般社団法人リディラバ
社長室長 井上 朝雄 氏

「社会課題なんて自分には関係ない」と思っている人は多いかもしれません。しかし、その背景を知ると自分や自分の身近な人と関係ないと言い切れないことも少なくありません。あらゆる社会課題をテーマに事業を展開する株式会社Ridilover/一般社団法人リディラバの社長室長・井上朝雄氏に、社会課題を事業化することについて聞きました。

社会課題の事業化」とは?

たとえば、プラスチックゴミや食品ロス、万引き依存症、犬猫の殺処分、女性のひきこもり、産後うつといった社会課題はよく知られています。しかし、その背景は複雑化しており解決の糸口を見つけるのは容易ではありません。

弊社では「社会課題をみんなものに」をスローガンに、「構造化」という観点を大切にしながら「問題の発見→社会化→資源投入」の各ステップでさまざまな事業を行っています。

たとえば「社会化」のステップでは中高生向けのスタディツアーを提供しています。2022年度で8千名くらいが参加してくれました。

出所:株式会社Ridilover
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―社会人を対象としたものも?

企業向けの事業として、越境学習のような形でリーダー人材の育成も行っています。社会課題の現場に飛び込み、複雑で正解のわからないものへのゴール設定の怖さを体感してもらいます。このような場では「合理」だけでなく心理的な機微をふまえることも必要。普段のオペレーショナルな業務だけでは身につきづらい、価値創造のためのスキルやマインドを学んでもらいます。

―実際に解決までコミットする事業もあるのでしょうか?

あります。内閣府や経産省、厚労省、文科省といった中央官庁、あるいはトヨタや三菱地所、NECソリューションイノベータ、関西電力、セイノーさんといった大企業を対象に、社会課題を起点にした新規事業創出やCSV(共通価値の創造)のお手伝いをしています。ちなみにこれらはCSR(企業の社会的責任)としてのお付き合いではなく、すべて事業としての扱いです。

「社会課題」と一口に言っても肌感のない企業は多いです。また、企業としてある程度の注力領域があるなかで「社会課題」への取っ掛かりを見つけるのに苦労することもある。そこで僕らが水先案内人の立場で具体的な措置を一緒に考えるというわけです。

―具体的にはどのようなケースが?

一つの例としては、認知症共生社会に向けた実証プロジェクトがあります。もともと経産省のサービス実証事業のようなものへNECソリューションイノベータ株式会社が協働する形で、認知症患者向けVRオンライン旅行サービスを事業化しようというものです。

認知症の高齢者が行きたい場所へ行けるような世界を作れたら、当事者とケアをする人双方のウェルビーイングが向上するのではないかと。かつそれでマネタイズできるような仕組みを立ち上げ、将来的な社会実装を目指しています。

―社会課題でお金を生み出すのは難しいと考えられていますが、実際は?

課題を可視化することで産業が生まれると考えています。先ほどの認知症患者向けオンライン旅行サービスでいうと、たとえば2時間のオンラインツアーを1回5千円としましょう 。そのツアーを月に1回の楽しみにしている人がいれば12ヶ月で6万円です 。認知症患者が1千万人まで増えるのは統計的に見えているので、かなりの市場規模があると考えられます。

―業界のイノベーターになるのですね。

事業性があるものは事業によって可視化され、それを周囲が見つけて市場に参入すると産業が生まれます。コンビニ業界のように、企業間の健全な競争は社会全体に良い影響があります。よって、他者の参入もウェルカムなことだと考えています。

その一方で、体験設計における差異は容易には模倣しづらい。先行者利益は効きますし、それがネットワークされていくことで障壁となり、機会事業から障壁事業へのアップデートはなされていくはずです。

―社会解決型事業を生み出すコツやポイントは何でしょう?

一番大事なのは「本当に価値創造できているのか?」ということです。当事者の負や取り巻く人の負を解消し、社会課題解決に寄与できるか。そこに明確な価値が生まれるならば、あとは誰がコストシェアするかという話だと思うんです。

コストシェアのあり方にもいろいろあります。受益者だけが負担する形もあれば、日本の医療サービスや介護保険サービスのようにいわゆる保険という形もあります。あるいは生活保護のように行政の負担が10割の形もありますね。

また、行政でもコストシェアのスキームのバリエーションをどんどん増やしています。「企業版ふるさと納税」みたいな形や、「ソーシャル・インパクト・ボンド」(※1)しかり、広い概念でのペイフォーサクセス(成果連動型民間委託契約方式)しかり。今までの委託事業より自由度が高い共同事業のような形で、価値創造の支援がしやすい事業を許容していく方向へ進んでいます。

―ところで、社会問題をテーマとしたサブスクリプション型のウェブメディア『リディラバジャーナル』も運営していらっしゃいますね。

弊社の社員それぞれが「この社会問題を構造化したい」と思った内容や「多くの人が大事なテーマだと思っていてよく見聞きするが構造的に把握できていないもの」という観点でテーマを選んでいます。

たとえば、安倍元総理の銃撃事件の影響で「宗教2世」が注目されていますが、その構造や解決の手段がわからない人も多い。そういった社会課題を構造化して見せることが大事だと考えています。

―ちなみに、可視化する段階で国や自治体の予算まわりやビジネスとしての構想を、ある程度は意識するのですか?

課題解決に使える資源として政策的アプローチも加味してはいきます。ただ、リディラバジャーナルはやや特殊性のあるメディアなので、設定したテーマに対して調査研究する気持ちで取り組んでいます。

ある程度の見通しを持ってスタートはしますが、「この制度はワークしないんだな」「そこじゃなくてここだったか」と、一次情報を持ち帰る度に仮説を1つひとつ検証したり変更したりしながらブラッシュアップし、結論を固めていく感じです。

たとえば、貧困家庭って実は親が子どもに経済的に依存しているケースもあるんです。そうした場合に子どもへの支援と同時に親側の子離れやセルフケアのサポートも提供していくことで、より課題解決が実効性あるものになったり、と。

―とはいえ、対企業でのアプローチでは、よりビジネスの観点を意識してテーマを選定するのですよね?

企業は法律を制定したり国家予算を自由に采配したりはできないので、国全体として取り組むよりフォーカスが絞られるのは事実です。たとえば、国は人権教育や啓蒙にも取り組めますが、一企業がビジネスとして成り立たせられるかというとけっこう厳しい。ですので、企業が持っている DNA レベルで潜んでいるような強みとの相性がよく、かつ社会的にインパクトの大きい価値創造は何か、といった観点で掘っていくことが多いですね。

―最後に読者へのメッセージをお願いします。

本人のせいとは言い切れない環境要因や社会情勢が積み重なり、自助努力だけでやりきれない人がいる状況を変えていきたいと思っています。興味がある方は、僕たちが圧倒的な気合いだけで続けているリディラバジャーナルをぜひ読んでいただけたらなと思います。また、丸1日かけて社会課題のテーマをフェス形式で楽しく学んでいくイベント『リディフェス2022』を 11月に新宿で開催するので、ご参加いただけると嬉しいです!

日本最大級の社会課題カンファレンス
https://ridifes.com/

※1 行政、民間事業者、資金提供者などが連携して公共性の高い事業へ取り組む、社会課題解決のための投資スキーム

社名:株式会社Ridilover/一般社団法人リディラバ
創立:2013年3月/2012年6月
従業員数:35名
主な事業内容:社会問題を扱うウェブメディア・コミュニティ事業、社会問題に関する教育・研修の事業、カンファレンス事業、教育事業、企業・官公庁との協働事業/スタディツアー事業、修学旅行事業、ウェブメディアの企画・運営
URL:https://ridilover.jp

本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。

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