株式会社ハタプロ 代表取締役 伊澤 諒太 氏
AIやIoT領域で製品化する際にぶつかるのが、量産の壁。しかし、ソフトウェア開発からハードウェア製造に至る過程で事業を分断することなく、試作から量産まで一気通貫で請け負っている企業があります。それが株式会社ハタプロです。大企業や自治体との多数の協業実績を持ちながらもベンチャーの機動性を失わないフレキシブルな事業のあり方について、株式会社ハタプロの代表取締役 伊澤 諒太氏にお話を伺いました。
―株式会社ハタプロについて教えてください。
株式会社ハタプロは2010年に創業し、人工知能研究開発を事業の中核としています。
グループ会社に、ロボットの製造会社と無線通信機器やIoTの開発をしている会社があります。
―得意とする事業分野はありますか?
当社は、AIの中でも医療ヘルスケア関連を得意としています。
東京大学や大阪大学医学部附属病院との協働による製品や技術を多数生み出しており、また、内閣府のAIホスピタルのプロジェクトや大阪万博へ向けた諸事業などにも採択されているため、ヘルスケア、AIロボットに強い企業として業界では認知されています。
研究開発に注力していますが、開発だけでなく、お互いの資本を出資し合って合弁会社を設立する、ジョイントベンチャーを作って拡大させていくという、グループ経営戦略にも数多く取り組んできました。ベンチャーの規模でありながら、大企業、あるいは地方自治体と対等に出資し合ってグループを形成する。この点が、非常にユニークだと評されることが多いです。
―どのような企業と事業をされているのでしょうか?
近年の実績としては、製品開発などで、NTTドコモや日本航空、リクルート、ベネッセなど、さまざまな業態のリーディングカンパニーと協業しています。
例えば子供の学習用の対話型AIロボットの裏側の技術に、当社が関わっています。
―具体的な取り組みなどを教えていただけますか?
最近の取り組みでは、NTTドコモと連携した口腔ケア事業があります。国民皆歯科検診を政府が発表して話題になりましたが、この領域に向けて、無人・非接触・自動で口腔機能トレーニングを行うAIロボットを共同開発しています。
―御社の強みは、どのような点でしょうか?
高速にハードウェアの企画開発ができるということです。
ベンチャー企業のスピードで、上場企業が量産品として出すレベルの高品質な製品を出す。そのためのノウハウを持っており、試作から量産までを一気通貫で受けることが可能です。
当社はファブレス会社なので、さまざまな案件に取り組むなかで、製造パートナーのネットワークを築いてきました。新しい領域に柔軟に対応できる、大規模なネットワークを持っています。
AIの開発だけでなく、ハードウェアも見据えた事業を高速で展開できる仕組みを持っているのです。
―速くできるというのは、どのぐらいのスピード感なのでしょうか?
試作品であれば、通常半年かかるものが1ヶ月でできる。量産品の場合、通常数年がかりでやるものを、1年で行う。このようなスピード感です。
工場を自由に選び、その案件に適したチーム体制を構築できるからこそ、このスピードが実現します。
最近では半導体不足の問題もありますが、当社の場合は工場が固定されているわけではないため、柔軟なスクラムを組んで時代の変化にも対応することができるのです。
―量産も高速に対応できるとのことですが、量産というのはどれくらいの規模のことを指していますか?
数十万台くらいの規模です。
―その規模となると、協力メーカーさんもかなりの信用がなければ協力してくれませんよね?
はい。そこは信用をいただいています。
量産レベルになると、上場企業の工場が製造を担当し、品質を担保しつつ、スピーディーな量産体制を築きます。
試作開発のゼロから関わり、繋がりをもっています。IoTの場合、何も作ったことのない企業が製造元になるケースもありますが、いきなり量産メーカーと話すのではなく、当社がゼロから関わっていることで、よりスムーズにやりとりが進むのです。
―IoTに関しては、どのような強みを持っているのですか?
通信会社と長く組んでいることもあり、通信の絡むIoTに強みを持っています。
IoT関連については、これまで通信が絡んでいないものしか作っていなかったメーカーも多いでしょう。IoTは、総合格闘技のような側面をもっており、ソフトウェアもハードウェアも通信もというところで、非常に広範な知識と、それに対応するノウハウやネットワークが必要になります。
当社は黎明期からそこに特化して対応してきたため、非常に重宝されています。
業界最大手と組んでいるというところも、大きな強みです。
―ジョイントベンチャーについて、自治体とも取り組まれているということでしたが、どのようなことをされているのでしょうか?
これは、「ユニークだね」と言われることが多いのですが、自治体も絡めた半官半民のベンチャーを、ベンチャーである我々が自ら作っています。
このような事例は他に聞いたことがありません。
通常、半官半民というと、大組織同士でじっくり取り組む、といったケースが多いです。しかし我々は、ここでもスピーディーに、大企業と地方自治体、地方銀行と当社とで組み、地域に雇用を生み出し、地域の人たちが自らの力で地域のデジタルトランスフォーメーションを実現する。これを、教育も含めて行っています。
―それはすごいですね。具体的には、どのような取り組みがあるのでしょうか?
直近の事例ですと、「NEO KYOTO NFT ARTs」というプロジェクトを行っています。
ワコール社とSMBC日興証券社、当社との共創によるWeb3.0教育プロジェクトです。老舗メーカーとベンチャーと財閥系のグループが官民共創しているという、非常に珍しい取り組みとなっています。
京都は人口に占める学生の割合が日本で一番多いのですが、学生にデジタルアートやアート思考など、さまざまな教育を提供し、学生が頭の中に描くものを仮想空間に描き出します。
その仮想空間に描き出されたアートを観光資源として、グローバルに向けて展示・販売する。そして、その販売収益の一部を京都市の教育へ、長期にわたり還元していく。
このように、地域の人や地域の資産が自ら新しい価値を生み出し、それを地域の教育へ還元する。そんな取り組みを、NFTという新しい技術を使って行っています。
民間企業だけでなく、京都市の自治体の教育関係部門や観光協会が関わっており、業界的にも非常にユニークなプロジェクトとなっています。
このような取り組みは、京都以外でも、さまざまなスキームで実現できると考えています。
社名:株式会社ハタプロ |
創立:2010年11月 |
主な事業内容:AIロボットの企画・開発、試作や製造に関するコンサルティング URL:https://hatapro.co.jp |
本稿は、ICF会員として、社会課題解決のために共に活動するベンチャー企業を紹介するシリーズ記事です。